出口王仁三郎 文献検索

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物語54-5-221923/02真善美愛巳 凱旋王仁三郎参照文献検索
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第二二章 凱旋〔一四〇八〕

 頻りに門戸を叩く声にテームスの僕二人はまたバラモンの雑兵が、何か徴発に来よつたに違ひない、うつかり開けてはならぬと、目と目を見合せ、何程叩いてもウンともスンとも云はずに、閂のした大門を御叮嚀に中から支へて居る。治国別は止むを得ず邸内に聞ゆる大音声にて宣伝歌を歌ひ出した。

治国別『高天原に現れませる  皇大神は御心を
 千々に悩ませたまひつつ  天地を造りたまひしが
 天足の彦や胞場姫の  神の教に背きしゆ
 その罪咎は邪気となり  凝り固まりて鬼となり
 八岐大蛇や醜狐  百の魔物となり果てて
 地上に住める人々の  霊を曇らせ汚しつつ
 神の御子と生れたる  尊き人の体をば
 曲津の住処となしにけり  バラモン教の神柱
 大黒主の曲神の  頤使に従ひ産土の
 珍の聖地に攻め来る  バラモン教の大軍は
 河鹿峠の要害で  三五教の宣伝使
 治国別の言霊に  打ちやぶられて遁走し
 浮木の森やビクトルの  山の麓に陣をはり
 悪虐無道のありだけを  尽しゐたりし折もあれ
 神の使の宣伝使  治国別の一行が
 またもや此処に現はれて  醜の軍を追ひ散らし
 ビクの国家を救ひたり  鬼春別や久米彦は
 三千余騎を従へて  雲を霞と逃げ散りて
 猪倉山の岩窟に  住所を構へ遠近の
 人家を掠め人を取り  悪虐無道の振舞を
 なせしと聞くより吾々は  世人の害を除かむと
 木花姫の神勅もて  この家の娘両人や
 道晴別を救はむと  此処まで急ぎ来つれども
 間抜きつたる門番が  吾等を敵とあやまりて
 力限りに拒みつつ  開門せざるぞうたてけれ
 この家の主テームスよ  三五教の宣伝使
 治国別に相違ない  ただ一息も速かに
 この門開き給へかし  ああ惟神々々
 神に盟ひて偽りの  なき言霊を宣り伝ふ』

 この歌に二人の門番は顔を見合せ、半信半疑の雲に包まれながら、一人は門を守らせ置き、一人はテームスの居間をさして進み行く。
 テームス、ベリシナ夫婦は三五教の道晴別が、番頭のシーナと共に二人の娘を救ひ出さむと勢込んで行つてから今日で三日目になるのに、何の音沙汰もないので頻りに神を念じたり、神籤を引いたりして心配して居た。其処へ慌ただしく門番のビクが走り来り、
ビク『旦那様に申上ます。表門に当つて敵か味方か存じませぬが、三五教だとか治国別だとか、此処の娘を助けに来たとか云つて大きな声で歌つて居ますが、如何致しませうか。うつかり開けてまたもやバラモンの奴だと大変だと思ひ、拒むだけ拒むで見ましたが、私ではとんと善悪が分りませぬ。どうぞ旦那様、貴方御苦労様ながらお調べ下さいますまいか』
テームス『何、三五教の治国別様が見えたとおつしやるか、それは間違ひはあるまい。何はともあれ門口まで行つて考へて見よう』
とビクを先に立て、大刀を腰に挟み、すたすたと現はれ来り大音声にて、
テームス『唯今吾門前に佇み歌はせたまふ御仁はいづくの何人でございますか。御名を聞かせて下さらば、この門を開けるでござりませう』
 万公はこの声を聞きつけ大声にて、
万公『吾こそは三五教の宣伝使治国別の家来万公でござる。一時も早くこの門をお開けなされ』
治国『拙者は治国別と申す者、決して怪しき者ではござらぬ。木花姫様の御神勅により、拙者の徒弟道晴別が、当家の二人の娘御をバラモン軍に攫はれ給うたのを取り還さむため猪倉山に向ひし様子、拙者は一同の命を救はむため、取るものも取り敢ず此処まで参つたものでござる。一時も早くこの門をお開けなされ』
 テームスは門内より治国別の声を聞いて、どこともなしに威厳のある言葉、さうしてどうしても偽りとは思へないので、静に閂をはづし、門扉をパツと開き、怖々覗けば四人の宣伝使が立つてゐる。テームスは打ち喜び叮嚀に辞儀をしながら、
テームス『これはこれはお慕ひ申て居りました治国別様でございますか、誠に失礼を致しました。サアどうぞお入り下さいませ』
治国『ハイ有難う、しからば御免蒙りませう』
と一行四人は大門を潜り入る。
テームス『これビク、何時バラモンの奴が来るかも知れぬからこの門を確り閉ぢて置くのだ。さうしてお前はここを守つて居るのだ』
と言ひつけ一行の先に立ち奥に導き行く。治国別は夫婦の居間に請ぜられ、茶を薦められながら挨拶もそこそこにして、
治国『承はれば当家のお嬢様はお二人まで猪倉山のバラモンの巣窟に拐されてお出になつたさうですな』
テームス『ハイ有難うございます。実の所は三日前に治国別の徒弟だとおつしやつて、道晴別と云ふ立派な宣伝使がお出で下さつて、番頭のシーナと共に軍服姿に身を窶し、二人を取り返して来ると言つてお出なさつたきり、今に何の便りもございませぬので、夫婦の者が心配致して居ります。どうぞ貴方の御神力によつて助けて下さるわけには参りますまいかな』
治国『アアその事について急ぎ参つたのでございます。余り愚図々々致して居れば、何だか深い陥穽に放り込まれて居るさうですから、命が危うございませう。拙者はこれより時を移さず猪倉山に立ち向ひ、千騎一騎の言霊を発射し敵を帰順させ、四人を立派に救ひ出して帰る心算です。私に確信がございますれば必ず必ず御心配なされますな』
 テームス、ベリシナの両人は、
『ハイ有難うございます』
と両手を合せ涙に声も得あげず泣き伏して居る。
 これより治国別一行はテームスの門を出で足にまかせて、日の西山に舂き給ふ頃、足を速めて進み行く。
 谷を飛び越え岩間を伝ひ、漸くにして、昼猶ほ暗き森林を神の恵に守られて黒白も分ぬ闇の道、却てこれ幸と息を凝らしながら漸くにして岩窟の前に辿りついた。夜分の事とて、数多の兵士は何れも武装を解きテントの中や仮小屋の中に転がつて居た。馬は彼方此方の木に繋がれ盛に嘶いて居る。治国別一行は其処辺に脱ぎ捨てある軍服を手早く闇を幸ひ身につけ、素知らぬ顔をしながら、足音を忍ばせ、四辺に気をつけ、長き隧道を辿つて行く。不思議にもこの時ばかり神の御守りで暗夜の道がよく目についたのである。
 傍の岩窟の中に何だか人声がするので、岩壁に耳を当て考へて居ると、鬼春別が久米彦その外の幕僚を集めて、ひそびそ相談会を開いて居る。
鬼春『久米彦殿、折角の美人を無雑作にあのやうな所へ放り込むと云ふ事があるか、何とかして助けやうが無いものかなア』
久米『到底駄目でせう。今日で二日目ですから屹度死んでゐるでせう』
鬼春『貴殿にも似合ぬ残酷な事を致すぢやないか。貴殿は、カルナ姫に説き立てられ未来が怖ろしいと云うて、ビクトリア王までも救うて、置いた身でありながら、人の命を取るやうな、なぜ残酷の事を致さるるのか』
久米『実の所は四人の体の周囲に鉄板を廻して放り込みましたから、怪我は致して居りますまい。さうしてその鉄板は桶のやうになつて居り、太い綱が通してあります。何程深い井戸の底でも綱さへ手操れば容易に救ひ上げる事が出来ます。幸ひ此処には岩より湧き出る起死回生の薬がありますから、これを含ますれば二日や三日息が絶へて居ても回復は大丈夫でせう』
鬼春『何と貴殿も腹が悪いぢやないか。よもや貴殿が左様な殺伐な事は致すまいと睨んで置いたのだ。サア一時も早く四人の者を救ひ出し此処へ連れてござれ』
久米『それに先だつて将軍に一つ相談がござります。外でもござらぬが、きつとスガールを拙者にお渡し下さるでせうなア』
鬼春『アハハハハまたしても左様な我慢な事を云ふものではありませぬぞ。久米彦殿はスミエルでしばらく御辛抱なされ、スガールは拙者が世話を致すでござらう。オイ、スパールその方は早く、男はともかくも女二人を救ひ出し、スミエルは久米彦殿の居間に送り置き、スガールの方を此方に連れて来い。鬼春別が手づから気付を遣はし呼び生けてやらう』
 スパールは、
『ハイ承知致しました』
とドアを押し飛び出さうとするのを久米彦はグツと襟を掴み、
久米『アハハハハ拙者が隠して置いたる以上は、これだけ沢山の陥穽貴殿が何程気張つた所で、見当ることはござらぬ。やつぱり拙者が放り込んだのだから拙者が行かねば駄目だ。まづ気を落付けなされ、そのかはり先づスガールは屹度拙者がお預り申す』
 鬼春別は気を焦ち、
鬼春『オイ、スパール、久米彦の言葉を聞くに及ばぬ。サア早く救ひ出して来い。久米彦殿スパールの襟を放しておやりなさい。上官の命令をお聞なさらぬか』
久米『しからば拙者が救ひ上げて参りませう。オイ、エミシ某に続け』
と云ひながら、ドアを押し開け飛び出した。隧道の所々には肥松を焚きながら明をとつてある。パツと写つた四人の顔、久米彦は声を尖らし、
久米『ヤアその方は番兵ではないか、最前から吾々の話を立ち聞き致して居つたのだな。不都合千万の奴だ。サア一時も早く彼方に立去れ』
治国『拙者は三五教の宣伝使治国別の一行でござる。拙者の徒弟道晴別を初めシーナ、及スミエル、スガールが大変なお世話になつたさうだ。一言お礼を申さなくてはならないと思ひ、態々お尋ね申しましたのだ。アハハハハハ』
久米『イヤ、これはこれは治国別様でございましたか。どうぞ言霊は一寸しばらくお見合せを願ひます。唯今直にお渡し申しますから、一寸此処に待つて居て下さいませ』
治国『イヤイヤ決して決して左様な御心配は入り申さぬ。拙者が自ら救ひ出さねばならぬ義務がござる。貴方方はマア悠りと御休息をなされませ。四人の所在はビクトル山から既に霊眼で見て置きました』
久米『イヤどうも治国別様の慧眼には恐れ入りました。今日限りバラモンの将軍職をやめますから、どうぞ命ばかりは御救助を願ひます』
万公『先生、こんな事云つてまた計略にかけるのですよ。四人放り込みやがつた穴へ鬼春別も久米彦も何奴も此奴も放り込んでやりませうか、アハハハハ、面白い面白い、エヘン。どんなものだ、鬼春別、久米彦両将軍、この万公が現はれた以上は到底駄目だぞ』
松彦『万公、何を云ふのだ。お前は篏口令を布かれて居るぢやないか』
万公『万公末代云はない心算だつたが、あまりむかづくのでつい口が辷りました。それよりも早く四人を救ひ出さうぢやありませぬか……これや久米彦、貴様が放り込んだのだから貴様が救ひ出して来い。万一一人でも命がなくなつて居たら、先生が何とおつしやつても、この万公が承知せぬぞ。ヘン馬鹿にして居やがる、将軍も何もあつたものか。先生の前に来たら猫に出会うた鼠のやうな塩梅式ぢやないか。醜態を見やがれ、イヒヒヒヒ』
松彦『万公さままた忘れたのか、エエ久米彦殿早く案内なされ』
万公『これや早く案内を致さぬか、何を愚図々々して居るのか、そして鬼春別はどこに居るのか』
と虎の威をかる糞喰ひの狐のやうに無暗矢鱈に噪いで居る。竜彦はこの間に天眼通により四人の所在を知り、手早く一人々々を穴の底から引き上げ、鎮魂を施し、漸く四人共息を吹きかへさせた。
 茲に鬼春別、久米彦両将軍は土下座をしながら、慄ひ慄ひ治国別に罪を謝した。治国別はいろいろと誠の教を説き諭し、かつ鬼春別、久米彦、スパール、エミシの高級武官に一人づつ態と背負はしめ、凱歌を奏しつつ一先づ玉木村のテームスの家をさして神恩を感謝しながら帰り行く。

(大正一二・二・二三 旧一・八 於竜宮館 加藤明子録)
(昭和一〇・六・一三 王仁校正)



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