出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語54-3-141923/02真善美愛巳 暗窟王仁三郎参照文献検索
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第一四章 暗窟〔一四〇〇〕

 鬼春別は双手を組み、失望落胆の色を浮べて何か思案に沈んでゐる。そこへ潔くやつて来たのは久米彦であつた。
久米『将軍殿将軍殿』
と呼ぶ声にハツと気がつき、
鬼春『ヤア久米彦殿、如何でござつたかな』
久米『いやもう、どうにも、かうにも仕方のない阿婆摺れ女で実に手古摺りました。止むを得ず最も深い暗窟へ放り込みました。定めて今頃は斃つて居るでせう』
鬼春『それは惜い事を致したものだ。そして姉のスミエルは如何なさつたか』
久米『彼奴も荒縄で括つて暗窟に一緒に放り込みました。扨も扨も心地のよい事でございましたワイ。アハハハハ』
鬼春『ヤア、それは惜い事を致したものだ。しかしここでは何だか気持が悪い。一度貴殿の御居間へ伺はうと思つてゐた所だ。これから何かの御相談があるから貴殿の室まで参りませう』
 久米彦は自分の室に二人の姉妹を隠して置きながら、暗き陥穽へ放り込んで殺してしまつたと詐つたのだから、鬼春別に来られては忽ち露顕の惧がある。はて困つた事が出来たワイ……と思うたが流石は曲物、故意と平気な顔をして、
久米『吾々の如き者の穢くるしい家へお越し下さるのは、実に恐れ入ります。どうか貴方の御居間で伺はして貰ふ訳には参りますまいかな』
鬼春『いや拙者の居間は男ばかりで、何かにつけて不都合でござる。貴殿の居間へ参れば女手が二人も揃うてゐるのだから、誠に以て都合が好いと存じ、それで貴殿の居間を拝借しようと申したのだ』
 久米彦はハツと顔を赤らめ、……鬼春別は何時の間にか自分の居間に二人が隠してあるのを悟つたのかな、こいつア大変だ……と胸を躍らせながら故意と空恍けて、
久米『ハハハハハ将軍殿は随分疑の深い方でござるな。吾々もバラモン軍の統率者、左様な卑怯な事は致しませぬ。どうぞ人格を見損はないやうにして頂きたいものですな』
鬼春『ハハハハハ今まで貴殿の人格を見損つてゐたのだ。今日愈人格の程度が分つたのでござる。さう仰せらるるなれば拙者の疑を晴らすために、一度貴殿の居間を明けて見せて貰ひませう』
久米『拙者の居間は拙者の権利の中でござる。如何に上官だつて捜索する訳には参りますまい。こればかりは平にお断り申します』
鬼春『いや、何と云はれても拙者の権利を以て室内捜索を致す』
と云ひながらスタスタと隧道を潜つて久米彦の居間に進み行く。
 久米彦は……今露顕れたが最後、一悶錯が起るか、但は自分は首にならねばなるまい。一層の事、鬼春別を後から一思ひにやつつけてしまはうか。いやいや将軍にも股肱の家来が沢山ある。うつかり手出しも出来まい、ぢやと云つて吾居間を覗かれたが最後、忽ち露顕するのだ。はて、どうしたらよからうか……と刻々に迫る胸の苦みを抑へて、見え隠れに跟いて行く。
 鬼春別は已に已にドアーの入口に着いた。そしてドアーに耳を寄せて中の様子を考へてゐる。スミエル、スガールの姉妹は、そんな事とは夢にも知らず、両親のことや、自分の身の不運を歎いて涙に袖を霑しながら、一生懸命に盤古大神救ひ玉へ、助け玉へと祈つてゐる。
 鬼春別は鍵を持つてゐないので、開けて這入る訳にも行かず、また部下に命じて開けさしては却て自分の人格や声望を落す虞れがあるので、恋の奴となつた彼は、一生懸命に首を傾けて室内の様子を聞いてゐる。されど何だかワンワンと響きがするばかりで少しも聞きとれなかつた。
 久米彦将軍は漸くここに現はれ、
久米『鬼春別様、拙者の室内には何か怪しきものが居る様子ですかな』
鬼春『確に怪しうござる。さア早く鍵を出してここをお開け召され。さすれば貴殿の疑も晴れ、両人の間の確執も解けて結構でござらう』
久米『なるほど、それは結構でございますが、生憎鍵を落しましたので、這入る訳にもゆきませぬ』
鬼春『鍵がなくても叩き破ればよいのだ。金鎚か何か持つて来なさい』
久米『これは怪しからぬ。拙者の居間を金鎚を以て叩き破るとは、決して武士の取るべき道ではござるまい。いざ戦場と云ふ場合はともかく、平常において他人の居室を叩き破るとは実に乱暴狼藉と申すもの、こればかりは如何に上官の命とても、久米彦承知する事は出来ませぬ』
鬼春『さうすると、ヤツパリ疑はしい物臭い事をしてゐられると見える。拙者の命令をお肯きなくば、只今より上官の職権を以て将軍職を免じますからその覚悟をなさい』
久米『拙者は決して貴殿の命令によつて将軍になつたのではござらぬ、大黒主様より命を受けて将軍に任ぜられたのだから、いかいお世話でござる。公務上の事はともかく、私行上にまで上官を振り廻す理由はありますまい。久米彦、断じてこの室内は開けさせませぬ』
 かく両人が争ふ所へ、慌ただしく走つて来たのはカーネルのマルタであつた。
マルタ『将軍様、大変な事が出来致しました』
鬼春『大変とは何だ』
マルタ『ハイ、三千の兵士、一人も残らず真裸体となり、何だか訳の分らぬ事を申しまして事務所を叩き破り槍剣を捨て石を投げ乱暴狼藉に及んでゐます。愚図々々してゐればこの室内にも入るかも知れませぬから何卒両将軍様の御威勢によりまして御鎮圧を願ひます、到底吾々の力には及びませぬ。思ふに三五教の奴が魔法を使つて吾軍を悩ますものと考へます』
 この注進に鬼春別、久米彦両将軍は私行上の争論はケロリと忘れ、一目散に岩窟の入口に駆け出し、四辺を見れば三千の軍隊は八九分通り真裸体となり、訳の分らぬ事をガヤガヤ囀りながら、半永久的の建物を小口から、メリメリメリ バチバチバチと叩き潰してゐる。両将軍は大喝一声『コラツ』と云ひながら大勢の中に飛び込んだ。妖瞑酒に侵された一同は両将軍の姿を見るより吾先にと群がり来り、『ヨイシヨ ヨイシヨ』と云ひながら胴上げをしたり、地上に投げたり、あらむ限りの乱暴狼藉をなし、遂に両将軍は大勢の者に身体中を踏み蹂られ、殆んど息の根も絶えむばかりになつてゐた。
 そこへチュウニック姿のデク、シーナの両人は厳しく剣を吊りながら悠々として現はれ来り、遠慮会釈もなく岩窟内に忍び入り、スミエル、スガール両人の所在は何処ぞと探してゐる。岩窟内に潜んでゐた数多のバラモン軍は二人の服装を見て別に怪しみもせず、各軍務に従事してゐる。またもや真裸体の半狂乱軍はドヤドヤと岩窟内に入り来り、当るを幸ひ暴狂ふ。漸くにして妖瞑酒の酔ひも醒め、一同の軍人は正気に復し、捨てた剣を拾い上げたり、谷川に流した衣類の彼方此方にかかつてゐるのを拾ひあげ、日光に干し乾かし両将軍を助けて元の居間に送り届けた。一時妖瞑酒の勢で狂態を演じた数多の軍隊も愈目が覚めて一層軍規を厳重にする事となつた。道晴別のデク、及びシーナは漸くにしてスミエル、スガールの所在を探り、門扉を叩き割つて中に押し入り、両人を助けて室内を遁げ出さうとする時、前後左右の隧道より集まり来つたバラモン軍に脆くも縛られ、四人は別々に暗い岩窟の中に落し込まれてしまつた。
 鬼春別、久米彦を初めスパール、エミシ、シヤム、マルタの幹部連は、岩窟内の最広き将軍事務室に集つて、今度の変事に就き種々とその原因を調べてゐる。
鬼春『三千の軍隊が殆ど九分九里まで真裸体になり、かくの如き狂態を演じたのは決して普通の事ではあるまい。これには何かの原因があるだらう。汝等よく調査をして、再びかかる不始末がないやうに注意してくれたがよからうぞ』
スバール『左様でございます。何とも合点の行かぬ事ばかり、大方三五教の治国別一派が、妖術でも使つて吾軍営を攪乱させ、将軍を生捕にする計劃ではあるまいかと存じて居ります』
エミシ『初めの間は僅かの四五人の発狂者でありましたが、次第々々に伝染してあのやうになつたのです。三五教には妖術等はありませぬ。恐らくこの山に住む妖幻坊の一味がなせしものでござりませう。先づ第一にバラモン神を祀り一生懸命に祈願を凝らさねば、また斯様の事が出来ては危険ですからな』
久米『あの怪しき二人の軍人、牢獄に投じて置いた奴、もしや三五教の間諜ではござるまいか』
鬼春『ハハハハハ、これだけ沢山の軍隊を以て固めた所へ、一人や二人の間諜が這入つて来た所で何が出来るものか。この方が察する所によれば、玉木村の豪農テームスの家から攫つて来たと云ふスミエル、スガールの二人の女こそ怪しきものだと思ふ。その証拠には彼を牢獄へぶち込んだ最後、味方の兵士の狂態が恢復したではないか』
エミシ『成程、さう承はればさうに間違ひはござりませぬ。陣中に女を引入れる如きは神の許し給はざる所なれば、大自在天様が戒めのために、ああ云ふ手続きを採り吾々一同に気をつけて下さつたのかも知れませぬ。それについても、あの二人の兵士は吾軍の服装して居りますれど、あれも何だか怪しいものです。この山の主が化てゐるのかも分りますまい』
鬼春『決して彼等四人に相手になつてはならぬぞ。ああして押込めて置けば、再び悪戯は致しますまい。久米彦殿如何でござる。御意見を承はりたい』
久米『成程、どう考へても合点の行かぬ事でござる。将軍の仰せの如く彼等はいらはぬ事と致して、ともかく軍隊の緊粛を図り、如何なる敵が寄せ来るとも、天与の要害を扼しこれだけの味方があれば大丈夫ですから、軍隊一般に注意を与ふる事と致しませう』
 さていろいろと積んだり崩したり、ラートの結果互に相戒めて変つたものが来たら近づけない事に定めて一先づ会議を閉ぢた。それより互に相戒め軍規を厳粛にこの要害を上下一致の上死守する事となつた。

(大正一二・二・二二 旧一・七 於竜宮館 北村隆光録)



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