出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語54-2-71923/02真善美愛巳 婚談王仁三郎参照文献検索
キーワード: 人間平等観
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第七章 婚談〔一三九三〕

 刹帝利ビクトリア王はフェザーベッドの上に横たはり、ヒルナ姫に足を揉ませ休んでゐた。何分老年の上に嬉しい事や、恐ろしい事等が一度に出て来たので体がグツタリと弱り半病人の如き有様で、どこともなく体が痛むので休養してゐた。そして世継のアールがこの頃ソハソハとして城内に居らず、臣下の目を忍んで一人郊外に出で、日が暮れてから帰つて来てはシュナップスを呷り、酔うては大声を張り上げ近侍の役人共を手古摺らせる等の事が刹帝利の心を痛めた大原因となつてゐる。
 かかる処へ左守のキユービツトは衣紋を繕ひ拝謁を乞うた。刹帝利は左守の伺ひと聞いて直ちにこれを許した。左守はフェザーベッドの側近く進み寄り、両手をついて、
左守『申上げます』
刹帝『左守、何事だ。常に変つて其方の様子、何かまた変事が突発したのではないか』
左守『ハイ、王様に申上げたら、嘸お驚き遊ばすでござりませうが、アール様は人もあらうに卑しきサーフの娘ハンナとやら云ふ者をホーフスに引入れ、「どうしてもこの女でなければ結婚はしない。そして万一父がこれをお聞届けなくば、城内を脱出し山猟師となつて田園生活を送る」と駄々を捏られますので、この老人も大変に心配を致しました。如何取計らつたらよろしうござりませうかな』
 刹帝利は左守の意外の注進に驚いて、ベツドを下り火鉢の前に端座しながら、
刹帝『嗚呼、ビクトリア王家も最早終末だ。肝腎の長子がサーフの娘を女房に持ちたいと云ふやうになつては、最早貴族も末路だ。どうしたらよからうかなア』
と双手を組んで思案の態、ヒルナ姫は側より手をついて、
ヒルナ『刹帝利様、さうお驚きには及びますまい。如何にアール様が耕奴の娘をお娶りになつた所で、家庭が円満に治まり、国家が太平に治まればいいぢやござりませぬか。妾だつて腰元が抜摺され、尊き貴方の御見出しによつてアーチ・ダッチェスに抜摺されたぢやありませぬか。アールさまの結婚問題を御心配遊ばすならば、先づ刹帝利様から妾を放逐遊ばさねばなりますまい』
刹帝『うん、さうだな。親から手本を見せておいて吾子を責むる訳にも行くまい。いやどうなり行くも因縁だ。左守、アールの申す通りにしてやつてくれ。さうして一応、治国別の宣伝使に御相談をせなくてはなるまいぞや』
 左守は案に相違しヤツと胸を撫で下ろし、
左守『実の所は治国別様へお伺ひをして参りました所、治国別様のお言葉では、なるべくこの結婚は整へたがよい、との事でござります』
刹帝『宣伝使のお言葉とあれば大丈夫だらう。善は急げだ、一事も早く伜にこの由を伝へてくれ』
左守『実に有難き君の仰せ、嘸アール様も御満足に思召すでござりませう。これで郊外散歩もお止まりになるでせう。左様ならばこれからお使に行つて参ります。何分よろしう、吾君様、ヒルナ姫様、お願ひ申します』
と欣々としてこの場を下がり行く。
 アールの居間にはハンナと二人、いろいろの話が初まつてゐた。
ハンナ『もし、アール様、貴方は何とおつしやつて下さいましても御両親様を始め頑迷固陋な老臣共が沢山ゐられますれば、屹度この話は駄目でござりませう。どうぞそんな事をおつしやらずにお暇を下さいませ。そして貴方はビクトリア王の世継としてビク一国に君臨し相当の奥様を迎へて安楽に世をお送りなさるやうお願ひ致します』
アール『エー、最前も云ふ通り、私は永らくの間山住居をし、放縦な生活に慣れて来たのだから、斯様な窮屈な貴族生活は到底堪へきれない。万一其方と添ふ事が出来なければ私はここを脱け出して山林に入り簡易生活を送る考へだ。どうぞそんな心細い事云はずに俺の云ふ事を聞いてくれ。頼みだから……』
ハンナ『私のやうな耕奴の娘が一国の王様になるお方を堕落させたと云はれては申訳がござりませぬ。出来る事ならばお小間使になりとお使ひ下さいましてこの縁談だけは何処までもお許し下さいませ。しかしながら終身貴方のお側で御用をさして頂きますから……』
アール『私は刹帝利だの、浄行だの、毘舎、首陀等と、そんな区別をつける虚偽な社会が嫌になつたのだ。それで純朴のサーフの娘のお前とどうしても結婚をして見たいのだ。そして人間の作つた不自然な階級制度を打破し、上下一致、四民平等の政事をして見たいのだ。それが出来なければ私は現代に生存の希望はない』
ハンナ『そこまでおつしやつて下さるのならば私はお言葉に甘へて従ひませう。しかしながら御両親に背きなさつてまで決行なさる考へですか。さうすればもはやこの城内へ止まる事は出来ますまい。私のやうな者を貴方の妻にお許し下さる筈はありませぬ』
アール『そら、さうだ。私もその覚悟はしてゐる。さア、これからソツと裏門から脱け出し、山林に入つてお前と簡易生活を楽しまうぢやないか。照国山には私が長く住まつてゐた古巣がある。そこへ行けばどうなりかうなり生活が出来るから……』
ハンナ『そんなら仕方ござりませぬ。お伴を致しませう』
アール『ヤ、早速の承知、満足に思ふ。さア早く旅の用意をしよう』
と二人は一生懸命に城内を脱け出す用意に取りかかつてゐた。そこへ左守は現はれ来り、
左守『御免なさいませ。アール様、一寸貴方にお父さまのお言葉をお伝へ申したいと思ひ参りました。また足装束を遊ばして郊外散歩にでもお出ましになるのですか。郊外散歩にしては大変なお準備ぢやありませぬか』
アール『左守殿、実の所は私はここにゐると色々の女を勧められ気に合はぬ女房を持つのが辛いから、何処かへ脱け出す心算で居つたのだ。どうぞ頼みだから見逃してくれ』
左守『いや、それはなりませぬ。今結婚問題の持上つた最中、そして貴方はここを出られてはなりませぬぞ。国家のため、王家のため、何処までも刹帝利の後を継いで下さらねばならぬのです』
アール『さアその結婚問題が気に入らないので、脱け出さうと云ふのぢやないか。私がゐなくてもまだ四人の弟がある。その弟でいかなければ、国民の中から立派な人間を選り出して刹帝利の後を継がせばよいぢやないか。何も自分が後を継がねばならぬ神の命令でもあるまい。それよりも私はここに居るこの女と山林に入り簡易生活を楽しむつもりだ』
左守『若旦那様、御心配遊ばしますな。この左守が東奔西走の結果、治国別様やヒルナ姫のお骨折によつて到頭刹帝利様のお心を動かし、ハンナ様と御夫婦とおなり遊ばすやうにお話がきまりましたので御報告に参つたのです』
アール『うん、さうか、それは頑固な父に似ずよくまア開けたものだな。ヤツパリこれも時節の力だらう。しかしながらお前も一寸談判をして貰はねばならぬ事がある。それは外でもない、自由自在に夫婦が手に手をとつて城外の散歩をさして貰へるか、それもならぬと云ふのなら俺はこれから、此処を飛び出し田園生活を続ける覚悟だから』
左守『そんな事は御心配なさいますな。大丈夫でござります。屹度私が取もつて自由自在に御行動の出来るやうに致しませう』
アール『父の証言を得て置かなくては、また後からゴテゴテ干渉されると困るからな』
左守『決して決して左様な御心配は御無用です。さア、早く、お父上が待つて居られます。お二人共お居間へお越しを願ひます。治国別様の方へも使ひを立てておきましたから、直お越しになるでせう』
アール『アアそんならお目にかからうかな。これハンナ、お前は私について来るかな』
ハンナ『ハイ、如何なる処へもお伴致します。卑しき妾の身、畏れ多うござりますが、貴方に附属致した以上は、影法師の如く何処までも跟いて参りませう』
 左守司はヤツと安心したものの如く顔色を和げ、二人の先に立つて刹帝利の居間に誘ひ行く。

(大正一二・二・二一 旧一・六 於竜宮館 北村隆光録)



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