出口王仁三郎 文献検索

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物語54-1-11923/02真善美愛巳 子宝王仁三郎参照文献検索
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第一章 子宝〔一三八七〕

 叛将ベルツに荒されし  見るかげもなきビクトリア
 王の住家は漸くに  治国別の宣伝使
 その一行に助けられ  九死の中に一生を
 得たる心地の初夏の空  塵も芥も根底より
 吹き払はれて太平の  再び御代となりにけり
 ヒルナの姫は復元の  位に居直り忠実に
 アーチヂュークに仕へつつ  神を斎りて城内は
 云ふも更なり国中も  いと安らけく平けく
 治まりしこそ芽出たけれ。  

 叛将のベルツ及シエールその外の一派は国法に従ひ、反逆罪として重刑に処すべき所なりしが、治国別、松彦、竜彦、万公の斡旋により、大赦を行ひ、両人は百箇日の閉門申付けられ、門口は四人の守衛をして厳重に守らしむる事となつた。
 刹帝利(太公)は追々老齢に及び、世が治まるにつけて、前途の事を思ひ出し、嗣子の一人も無きに胸を痛めて居た。ビクトリア王はアーチ・ダッチェス(太公妃)との間に五男一女があつた。アール、イース、ウエルス、エリナン、オークス、ダイヤ女といふ子供があつたが、王はある夜の夢に……五人の男の子が自分を放逐し、ビクの国を五分して各覇を利かし、国内を紊した……といふ恐ろしい夢を見たので、ビクトリア姫に向ひ、深夜ソツと五人の実子を殺さむ事を謀つた。そして……今度腹にある子が男であつたならば、それも殺してしまふ、もし女であつたならば助けよう……とまで言つた。ビクトリア姫はこれを聞いて大に驚きつつも、ワザと素知らぬ顔をして、……何程諫めても言ひ出したら後に引かぬ気象のビクトリア王は、到底五人の子を助けることはせまい、そしてまた自分の腹に出来た子が男であつたらどうしようか……と大変に心配をしてゐた。しかしながらワザと素知らぬ顔をして、胸に万斛の涙を湛へてゐた。それからソツと五人の男の子に父の決心を囁き、……一時も早く身を以て遁れよ……と命じたのである。五人の兄弟は大に驚いて、ビクトリア姫よりいろいろの物を与へられ、夜に乗じて、城内を抜け出でビクトル山の峰続き、照国ケ岳の山谷に穴を穿ち難を避け、猟師となつて生命を保つてゐたのである。ビクトリア姫は月盈ちて生み落した、慌て調べて見れば女の子であつた。ヤツと安心して、ダイヤといふ名を付けた。ダイヤ姫は七才になつた時、母に向つて、自分の兄弟のない事を歎いた。そこでビクトリア姫は五人の兄があつて照国ケ岳に猟師となり隠れて居ることをソツと物語つた。ダイヤ姫はこれを聞くより五人の兄に会ひたくて仕方がなく、十歳になりし折夜秘に城を脱け出し、繊弱き足に峰をつたつて、照国ケ岳の谷間に漸く辿り着いた。行つて見れば、かなり大きな土窟があつて、獣の皮等が干してあつた。兄の四人は猟夫に出て不在であつたが、五人目の兄オークスが一人番をしてゐた。発覚を恐れて、如何なる人間も此処へ来た者は、一人も、打殺して帰さない事に五人は定めてゐたのである。そこへダイヤがヘトヘトになつてやつて来たので、オークスは目をギヨロつかせながら、
オークス『お前は何処から来た者だ』
と尋ねた。ダイヤは涙を拭きながら、
ダイヤ『ハイ、私はビクトリア王の娘ダイヤと申します。お母さまに承はれば、……父上に秘密で、十年ばかり前から、この照国山に五人の兄さまが猟師をして隠れてゐられる。お父さまも年よりだから国替をしられたら帰つて来い……と云つて隠してあるとおつしやいましたので、私は兄さまに会ひたくて会ひたくて仕方がありませぬので、両親に隠れて尋ねて参りました』
と云つて、ワツとばかりに泣き伏した。オークスはよくよくダイヤの顔を調べてみると、どこともなしに自分の兄に似た所がある、また母にも似てゐる。しかしながら四人の兄が帰つて来たら何と云ふであらうか、仮令親兄弟と雖も命を取ると定めた以上は、この可憐な妹を殺しはしようまいか……と大変に心配をし、声を曇らせながら、
オークス『お前は如何にも妹に間違ひはない、よう来てくれた。頑固一片の父王は夢を見たと云つて、吾々五人の兄弟を殺さうとなさつたのだ。それを母の情けによつて命だけを保つてゐるのだが、お父さまはまだ達者にしてゐられるかな』
と尋ねて見た。ダイヤは涙ながら、
ダイヤ『ハイ、お父さまは極めて御達者でございます。そしてお母さまは私の七つの年に兄さま達の事が苦になつて、それが元で病気にかかり、亡くなつてしまはれました。跡へヒルナ姫といふ小間使がお父さまの妃となつて、今年で一年になります。私はお母さまは亡くなる、兄さまはゐられないし、城内に居る気がしませぬので、お後を慕うて参りました。モウ城内へは帰りたくありませぬから、どうぞ此処に何時までもおいて下さいませ』
と両手を合せて、涙と共に頼み入る。
オークス『ああそれはよう尋ねて来てくれた。しかしながら兄が帰るまで、お前はこの葛籠の中へ隠れてゐてくれ、そして兄の腹を聞いた上、若も助けるというたら、公然と兄妹の名乗をさすなり、叩き殺すといつたら、気の毒ながらお前をこの葛籠に入れておいて、兄の行つた後で、どツ処へ送つてやるから……』
ダイヤ『何分よろしく頼みます、兄さまに会うて殺されても満足でございます』
と唏嘘泣く。
オークス『モウ兄貴の帰る時分だから、サ、これへ入つてくれ』
と葛籠の中へダイヤを入れて素知らぬ顔をしてゐた。そこへ兄のアール、イース、ウエルス、エリナンの四人が兎や狸を捕獲してイソイソと帰つて来た。オークスは出で迎へ、
オークス『兄さま、今日は大変早うございましたな』
アール『ウン、この通り兎と狸が都合好く取れたので、今日は何だか気が急いて、お前の身に異状が出来たやうな気がしてならないので、急いで帰つて来たのだ』
と云ひながら、足装束をしまひ、広い穴の中へ這入つて腰を下ろした。
アール『俺の不在中に変つた事はなかつたかなア、どうも気が急いて仕方がなかつたのだ』
オークス『ああさうでございましたか、実の処は妹が尋ねて来ました。けれ共吾々の規約に従つて叩き殺さうと思うたが、余り不愍なので、化者の真似をして追つ返してやりました』
と云つて、兄の意見を探つてみた。
アール『吾々に妹があるとは、ハテ合点が行かぬ、さうすると自分の出た後で、両親の間に出来た子であらうかな』
オークス『母が吾々が逃出す時に孕んで居つた、それが出産したのが女で、ダイヤと云ふ妹なんですよ』
アール『お前はなぜそんな者を追ひ返すのだ、俺も一遍会つてみたいのだが、ハテ困つた事をしたなア』
イース『モシ父にこんな所を悟られたら、沢山な軍勢を伴れて、また攻めに来るか知れない。帰なす位なら、なぜ可愛相でも殺さなかつたか』
アール『ヤ、殺すには及ばぬが、何故妹を止めておかぬのか、城内の様子も分るであらうに、何時までも父が長生する筈もなし、お母さまさへ達者であれば、吾々は後へ帰つて、ビクの国を治める事が出来るのだが、妹が帰つたとすれば、コレヤ大変な事が起つて来る、一時も早くここを逃げ去り、どつかへ身を隠さねばなるまいぞ』
と心配相に言ふ。
オークス『妹の言葉によれば、お母さまは三年以前に亡くなり、お父さまは極めて壮健で、ヒルナ姫といふ腰元をアーチ・ダッチェースとなし、大変な元気だといふ事だから、吾々兄弟の望みは到底達しますまい』
 四人の兄は慈愛深き母が亡くなつたと聞いて、一時に声を上げて号泣した。
オークス『兄さま、モシ妹が此処へ尋ねて来たならば、貴方は大切にしてやりますか、但は殺す考へですか』
と四人の兄の顔を覗いた、四人は声を揃へて、
『妹に怨みもないのだから、かうなれば兄妹六人が何処までも一つになつて、仲よう暮らし、時節を待つて目的を成就させやうだないか』
 この言葉にオークスはヤツと安心し、
オークス『実はこの葛籠の中に妹を隠しておいたのです』
と言つたので、直ちにアールは葛籠を開き、妹を労り、外へ出して五人がよつてたかつて、頭を撫で、背を撫で、兄弟六人しがみ付いて嬉し涙にくれてゐた。そして兄妹は此処に淋しい山住居を続けてゐたのである。
 さて刹帝利の奥の間にはヒルナ姫、治国別、タルマン、キユービツト、エクスが小酒宴を開きながら、四方山の話に耽つてゐた。キユービツトは治国別に向ひ、
左守『三五の神様のお蔭、貴師方の御尽力によりまして、叛将ベルツも漸く降服を致し、あの通り閉門を申付けられ、あ、これで一安心致しましたが、刹帝利様は御老齢の事なり、御世継がないので大変に心配を致して居られます。何とかして子を授かる法はございますまいかなア』
と心配相に尋ねた。治国別は此処ぞと、膝を進め、
治国『刹帝利様には、アール、イース、ウエルス、エリナン、オークス、ダイヤ様といふ五男一女があるぢやありませぬか。その方を礼を厚くしてお連れ帰りになれば、立派に御世継が出来るでせう』
左守『ハイ、仰の如く六人のお子様がございましたが、今はそのお行衛が分りませぬので、実の所は刹帝利様もお年が老つて子が恋しうなり、心秘にお尋ねになつて居ります。しかしながら、どうしてもそのお子様は行衛は知れず、仮令行衛は知れても御帰り遊ばすことはございますまい』
治国『刹帝利殿、拙者が六人のお子様を貴方にお渡し申せば、貴方はどうなさいますか。昔のやうな考へを起して、皆殺してしまふ心算ですか』
 刹帝利は涙を拭ひながら、
『実の所は悪魔に魅入られ、悪い夢を一週間も続けてみましたので、敵が吾子となつて生れて来たものと信じ、五人の男子を一人も残らず打殺さうと、残酷な考へを起しましたが、それをどう悟つたものか、夜の間に城内を逃出してしまひ、どつかに潜んで計画をなし、何時自分を亡ぼしに来るか知れないと思うて、夜の目も碌に寝た事はございませぬ』
治国『それは貴方の御心得違ひといふもの、貴方のお子様は実に温良な方で、今はみじめな生活をしながらも、国を思ひ、王家を思ひ、少しも恨んではゐられませぬよ。貴方が今改心して、六人のお子様を城内へお招きになれば、キツと孝養を尽されるでせう』
刹帝『まだこの世に生きて居るでせうか。但は生きて何か悪い事を企んで居りは致しますまいか……と心配でなりませぬ』
治国『決して御心配なさいますな。私が引受けませう』
刹帝『治国別様のお言葉なれば、決して間違はありますまい。どうぞこの世に居ります者なれば、一度会はして頂きたいものでございます』
刹帝『よろしい、二三日私にお任せ下さい。キツとお会はせ致しませう』
 刹帝利は半喜び、半不安の態ながら、外ならぬ治国別の言葉を力とし、一切を任してしまつた。左守、右守を始めタルマン、ヒルナ姫も一同に頭を下げ、治国別に、
『何分よろしく頼みます』
と涙と共に頼み入る。治国別は自分の与へられた美しい館へ帰り、松彦、竜彦、万公と相談の上、六人の子女を迎へ帰る事を謀つた。
 茲に三人は治国別の命によつて、ビクトル山を越え、照国ケ岳の山谷を指して旅装を整へ、六人の子女を迎ふべく、草鞋脚絆に身を固め、奉迎といふ各手旗を翳しながら、誰にも知らさず秘に尋ね行く事となりぬ。

(大正一二・二・二一 旧一・六 於竜宮館 松村真澄録)



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