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物語53-4-231923/02真善美愛辰 純潔王仁三郎参照文献検索
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第二三章 純潔〔一三八六〕

 治国別は先づ城内の総司令官たるハルナが敵の捕虜となり庭木に縛られて居るのを助けやり、ハルナに導かれ殿中深く王の居間に通された。此処には王を初め、左守、右守、タルマンが一生懸命に神前に祈願して居た。
ハルナ『刹帝利様、神様のお蔭によりまして、危機一髪の際、三五教の宣伝使治国別様一行に救はれました。この方が治国別様でございます』
と紹介する。王はまづまづ此方へと上座に治国別を請じた。治国別は此処で沢山でございますと辞退して上席には着かなかつた。王はまアまアと上座をすすめながら、
刹帝利『危急存亡の場合どうも誠に有難うございます、貴方はビクの国を救ふ生神でございます。この御恩は何時になつても決して忘れは致しませぬ。サアどうぞ御緩りと御休息下さいませ』
 治国別は叮嚀に首を下げ、
『初めて御目に懸ります。尊き御身をもつて吾々宣伝使に御叮嚀なる御挨拶痛み入りましてございます。決して吾々は貴方のお国を救ふやうな力はございませぬ。厳の霊瑞の霊の御神力によりまして悪魔の敵が脆くも敗走したのでございますから、どうぞ神様にお礼をおつしやつて下さいませ』
刹帝利『ハイ、何とも御礼の申しやうがございませぬ。厳の霊様、瑞の霊様、盤古神王様有難うございます』
と合掌し、嬉し涙を流して居る。
左守『拙者は王に仕ふる左守司キユービツトでございます。よくまアこの大難を神様と共にお助け下さいました。また危き伜の命までお拾ひ下さいまして実に感謝に堪えませぬ。ああ惟神霊幸倍坐世』
と涙にかき曇る。
治国別『私はテームス峠において、神様の修業を致して居ります所へ、神素盞嗚尊が現はれ給ひ、「汝は一時も早く道を転じてビクの都へ参り、刹帝利殿の危難を救へ」との御命令、取るものも取り敢ず、三人の弟子と共に駆けつけて見れば危急存亡の場合、結構な御用をさして頂きました』
左守『大神様の思召し、貴方方御一行の御親切、お礼は言葉に尽せませぬ』
と嬉し涙にまたもや掻き曇る。
右守『拙者は右守司を勤めて居りますヱクスと申すもの、お礼は言葉に尽せませぬ。どうぞ今後御見捨なく御懇情をお願ひ申します』
治国別『お互様に宜敷うお願ひ致しませう』
タルマン『拙者はウラル教の宣伝使でございまして、刹帝利様の御信任を忝なうし、内事の司を兼ねて居りますが、この危急の場合に際し、神徳足らざるためになす所もなく困り果てて居りました。よくまアお助け下さいました。どうか私を貴方様のお弟子にお加へ下さらば実に有難う存じます』
治国別『左様でございますか、貴方はウラル教の宣伝使、御苦労様でございます。就ては貴方ばかりではなく、刹帝利様も三五教の教をお聞き遊ばしては如何でござりませう。三五教の祠の森には、国治立大神様、盤古神王様、大自在天様がお祭り致してありますれば、教の名は変れども、神様には少しも変りはありませぬからなア』
タルマン『何分宜敷くお願ひ申します。もし刹帝利様、如何でございませう』
刹帝利『申すまでもなく治国別様にお世話にならうぢやないか、イヤ治国別様何分よろしくお願ひ申します。就ては左守、右守を初め、城内一同は揃うて貴教に帰順致しますから、何卒大神様にお取なしをお願ひ致します』
治国別『ハイ承知仕りました』
松彦『お師匠様、祝の歌をさし上げたら如何でございませうか』
治国別『如何にも』
と云ひながら、

治国別『天地の神の恵の深くして
  百の禍逃げ失せにけり。

 ビクの国国王の永遠に守ります
  この神城は永久にあれ』

刹帝利『あら尊生ける誠の神に遇ひ
  涙こぼるる今日の嬉しさ。

 治国の別の司よビクの国
  守らせたまへ千代に八千代に』

タルマン『三五の神の教を目のあたり
  聞きて心も栄えけるかな。

 皇神の恵の露に霑ひて
  ビクトリア城は生きかへりける』

左守『類なき神の力を保ちます
  治国別の司尊し。

 言霊の幸はふ国と聞きつれど
  かほどまでとは思はざりけり』

右守『なやみはてし今日の軍を詳細に
  幸あらしめし君ぞ畏き。

 今よりは心改め三五の
  畏き道に仕へまつらむ』

ハルナ『大君と国と吾身を助けられ
  如何に報はむ吾の身をもて。

 さりながら人は神の子神の宮
  いつかは報いむ君の恵に』

万公『斎苑館吾師の君に従ひて
  功を立てし今日ぞ嬉しき。

 世のために霊と体を捧たる
  吾身の上の楽しきろかも』

松彦『君が代は千代に八千代に常磐木の
  松の緑と栄えますらむ。

 常磐木の松に巣ぐへる田鶴のごと
  いと清らけき刹帝利の君』

竜彦『立つ鳥も落すやうなるこの城を
  抜かむとしたる人の愚かさ。

 皇神のいや永久に守ります
  ビクの国王を狙ふ愚かさ』

刹帝利『皇神の厳の力に救けられ
  今は心も冴え渡りける。

 さりながらヒルナの姫は今いづこ
  さまよひ居るぞ尋ねまほしき。

 カルナ姫さぞ今頃は背の君を
  慕ひて泣かむ野辺に山辺に』

ハルナ『よし妻は屍を野辺に晒すとも
  厭はざるらむ君のためには。

 曲神のベルツの軍逃げ散りて
  いとも静けき城の中かな』

 かく歌を取り交はす所へ、表門に駒の蹄の音勇ましく帰り来つたのは、刹帝利、ハルナの束の間も忘るる事能はざる、ヒルナ姫、カルナ姫であつた。二人はベルツの体を門内に卸し、守兵をしてこれを守らせ置き、馬を飛びおり、王の居間にイソイソとして進み入つた。王は二人の姿を見て驚喜し、
刹帝利『ヤア其方はヒルナ姫、よくまア無事で帰つて来やつた。まアまア結構々々随分骨を折らしたなア、ヤア其方はカルナ姫、よくも今まで忍んで王家のため、国のため尽してくれた。何も云はぬこの通りだ』
と、両手を合して感謝の意を表したり。二人は嬉し涙をポロポロと流してその場に泣き伏した。左守司、ハルナは気も狂はむばかりに驚喜し、立つたり坐つたり、火鉢を提て室内を右左と駆け廻つて居る。喜びの極に達した時は、如何なる賢者と雖も度を失ひ狼狽へるものである。
タルマン『左守殿、ハルナ殿、落ち着きなされ』
と注意され、提げて居た火鉢をそつと卸し、
ハルナ『貴女はヒルナ姫様、其方はカルナであつたか、どうして帰つて来たか』
と嬉し涙に沈む。カルナは余りの嬉しさに涙をハラハラと流し俯向いて居る。
刹帝利『其方はどうして帰つて来た、定めし難儀を致したであらうのう』
ヒルナ姫『ハイ有難うございます。シメジ峠の麓まで参りました所、摩利支天様が現はれて、数百頭の獅子となり、バラモン軍を狼狽させ給うたために、都合よく逃げ帰る事が出来ました』
刹帝利『成程、神様のお助けだなア。ああ有難し有難し惟神霊幸倍坐世。カルナ其方もヒルナと共に随分苦労をしたであらうなア。お前等両人の心は、私もハルナもよく知つて居る。本当に貞女烈婦の亀鑑だ』
カルナ姫『ハイ有難う』
と僅かに云つたきり、これまた嬉し涙に袖を濡らしてゐる。
刹帝利『ヒルナ其女が骨を折つてくれたお蔭で、バラモン軍が退却してくれたと思へば、ベルツ、シエールの両人、数千の兵をもつて吾城を囲み、たつた今三五教の宣伝使治国別様一行のお蔭によつて退却致した所だ。どうか治国別様御一行にお礼を申してくれ』
 ヒルナは無言のまま首を傾け、次いで治国別の方に向ひ、恭しく両手を支へ、
ヒルナ姫『貴方様の御援助により、ビクトリア城も無事に保てました。有難く感謝を致します』
と云ふ声さへもはや涙になつて居る。
治国別『初めてお目にかかります。貴女はヒルナ姫様でございましたか、よく王家のため国家のためお骨折りなさいました。実に感服致します。しかし貴女途中において何か拾ひものを遊ばしたでせう』
ヒルナ姫『ハイお察しの通り敵の大将ベルツを生擒り、厳しく縛り連れ帰つて参りました』
治国別『さうでございませう、お手柄なさいましたねえ』
刹帝利『何、ベルツを生擒にしたと申すか、何と偉い功名を現はしてくれたものだなア、カルナ姫其女もこの手柄は半分は分つべきものだ。きつと其女には改めてお礼を申すぞや』
カルナ姫『勿体ない 臣が君のために働くのは当然でございます。どうぞお気遣ひ下さいますな、そのお言葉を承はりますれば十分でございます』
とまたもや嬉し涙を絞る。
 かかる所へカントは走り来り、
カント『申上げまする、敵の副将軍、シエールを生擒ましてございまする』
刹帝利『何!シエールを生擒つたとな、ヤ天晴々々、後ほど褒美を遣すから逃げないやうに大切に保護してくれ』
タルマン『吾君様、お目出たうございます。これにてビクトリア王家も無事安泰、ビクの国も泰平に治まりませう』
左守『かくなるも全く神様の御蔭でございまする。治国別様、よくまア来て下さいましたなア』

治国別『皇神の経綸の糸に操られ
  知らず知らずに上り来ましぬ。

 惟神神に任せば何事も
  いと安々と治まりてゆく』

左守『いすくはし尊き神の御恵を
  目のあたり見る吾ぞ嬉しき。

 大君も嘸や嬉しみ給ふらむ
  今日の戦の治まりを見て』

刹帝利『有難し忝なしと云ふよりも
  外に言葉は無かりけるかな』

 ヒルナ姫は涙を押へ歌ひ出した。

ヒルナ姫『千早振る古き神代を造らしし  皇大神の現れまして
 八十の曲津の猛り狂ふ  ビクトリアの城を
 守らせたまひ  傾きかけし城の中を
 もとの如くに立て直し  救はせたまひし嬉しさよ
 妾は君に見出だされ  后の宮と任けられて
 御側に近く仕へしが  右守の司のベルツ司が
 心の中を計りかね  試めして見むと思ふ中
 醜の魔風に煽られて  情なや女として
 行くべからざる道を行き  深き罪をば重ねたる
 その償ひをなさむものと  バラモン軍の中に入り
 カルナの姫と諸共に  千々に心を砕きつつ
 素性卑しき荒男  鬼春別や久米彦の
 軍の司の心を奪ひ  縦横無尽にあやなして
 君の禍国の仇  遠く追ひそけ奉り
 尊き神の御使に  守られながら漸々に
 都路近く帰り見れば  俄に聞ゆる鬨の声
 唯事ならじと気を焦ち  駒に鞭打ちとうとうと
 カルナの姫と諸共に  馳せ帰り見れば道の辺に
 いとも無残に倒れたる  目に見覚えの荒男
 逃げ往く軍に目もくれず  直ちに駒より飛び下りて
 その面ざしを調ぶれば  思ひがけなきベルツの軍君
 何はともあれ駒に乗せ  帰らむものと心を定め
 帰りて見れば御館  激しき軍の痕跡は
 黄金の城や鉄の壁に  いとありありと現はれぬ
 唯事ならじと駒を下り  ベルツの魔神を地に捨てて
 衛兵共に守らせ置き  カルナと共にいそいそと
 帰りて見れば吾君は  いと健かに坐しぬ
 その外百の司等も  常に変らず健に
 君のめぐりを取り巻いて  左も嬉しげに坐しぬ
 ああ有難や有難や  神の恵と喜びて
 心に感謝の折もあれ  治国別の神司
 現はれまして吾君の  軍を救ひたまひしと
 聞きたる時の嬉しさよ  ああ惟神々々
 尊き神の御前に  罪に汚れしヒルナ姫が
 御前を畏み畏みて  大御恵の尊さを
 喜び感謝し奉る  ああ惟神々々
 神の御霊の幸倍ひて  これの館は永久に
 ビクの国王はいつまでも  寿長く栄えまし
 百の国人平けく  いと安らかに栄ゆべく
 守らせたまへ大御神  赤心籠めて願ぎまつる』

と歌ひ終りける。
 これより治国別初め、万公、松彦、竜彦は、刹帝利の懇情により、三五の教理や儀式を城内の重役その他に教導し、神殿や教殿を新に創立し、夏の中頃一同は鬼春別以下の跡を追かけエルサレムを指して進み行く。

(大正一二・二・一四 旧一一・一二・二九 於竜宮館 加藤明子録)
(昭和一〇・六・一二 王仁校正)



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