出口王仁三郎 文献検索

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物語53-4-211923/02真善美愛辰 軍議王仁三郎参照文献検索
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第二一章 軍議〔一三八四〕

 刹帝利を始め、タルマン、左守のキユービツトや新任の右守なるヱクスはハルナと共に、王の居間に首を鳩めてバラモン軍の退却に対し、いろいろ臆測談に耽つてゐる。
左守『エエ、タルマン殿に神勅を伺つて貰へば分るでせうが、あれだけ立派な陣営を建てビクトリア城を威圧致して居りました両将軍が全軍を率ゐて俄に退却致したのは、どうも合点の行かぬ事でございますが、貴方はどう御考へなさいますか』
タルマン『どうも私には神懸がございませぬので、詳しい事は存じませぬが、察する所、忠勇義烈のヒルナ姫様、カルナ姫様が、ビク国の絶対的安全を保たせむとして、両将軍をうまくチヨロまかし、立去らしめ玉うたものと推察致しまする』
刹帝利『大方さうかも知れない。彼れ両女は本当に国家の柱石だから、一身を犠牲にして国家を救うたかも知れないよ。ああ天晴れの女丈夫だ、偉い奴だなア』
左守『何ともハヤ、ヒルナ姫様の御誠忠には、左守も恥かしうございます。しかしながら刹帝利様はこれだけ老齢にお成り遊ばして、万機の政治を御覧し玉ふに、内助に仕ふべき后の君がなくては嘸御不便でございませう、ヒルナ姫様は左様な決心を持つておいでになつた以上は、ヨモヤお帰り遊ばすやうな事はございますまい。ついてはお后様を選定致さなくては、王様もさぞ御不便でございませう』
刹帝利『否々、この方は決して左様な事は思うて居ない。仮令少々不便でも、ヒルナ姫の貞節に対し、どうして後添が持たれうものか、彼の心もチツとは汲取つてやらねばなるまいからのう』
左守『御言葉御尤にございますが、何を云つても新に兵馬の権を取り戻され、一国の主権者として、御独身では到底完全なる国政を御覧す事は難しうございませう。何とか一つ御考へを願ひたいものでございます』
と左守は自分の息子ハルナにも嫁を持たせたい、それに就いては刹帝利様より先に后をきめておかねば、臣下の身として憚るといふ考へから頻りに勧めてゐるのである。されど刹帝利はヒルナ姫の心を察し、何と云つても承諾せなかつた。タルマンは左守司の心を推し量り、
タルマン『吾君は何と云つても御老齢、また数多の従臣もお仕へ致して居り、沢山の侍女も居りますれば、御聖慮に任し奉るも是非なき事ながら、ハルナ殿はまだ年の若き御方、カルナ姫は最早帰られないものと思はねばなりませぬ。さすれば適当の縁を選んでお娶りなさらなくては左守の家の胤が断れるぢやありませぬか。これは一つ吾君様にお願致して、何とかせなくてはなりますまい』
 左守はタルマンの親切な言葉を聞いて、秘に感涙に咽んでゐる。ハルナは進み出で、
ハルナ『タルマン殿、決して決して御心配下さいますな、刹帝利様でさへも、尊き御身を以て、独身生活をしようと仰せらるるのでございます。かくの如き御老齢の御身を以て独身で行かうと思召すのでございますから、拙者の如き若い者は、決して独身で居つても少しも苦しくはございませぬ。またカルナ姫の犠牲的活動を思へば、どうして第二の妻が持たれませう。拙者の恋愛は実に神聖でございます。この後カルナに会ふ事がなく共終世妻帯は致しませぬ』
タルマン『実に見上げたお志、感服致しました。ああしかしながら、左守家のために子孫を伝へねばなりますまい、独身では子を生む事も出来ますまい。これは枉げて承諾を願ひたいものでございます』
ハルナ『何と仰せられましても、この事ばかりはお許しを願ひます。刹帝利様も嗣子がないぢやありませぬか、況んや左守家に嗣子なしとて、それを憂ふるに及びますまい。何事も皆神様の御心のままよりなるものぢやありませぬ。左守家はハルナの子孫でなくてはならないといふ道理もありますまい、現にヱクス殿が新に右守になられた例もあるぢやありませぬか』
 タルマンは頻りに首を傾け、感じ入り、返す言葉もなかつた。
 世の中には最愛の妻に別れ、今後は決して妻は持たない、彼に対して済まないから、誰が何と云つても独身生活をすると頑張つてゐる男が沢山あるものだ。或は追悼の歌を作り、或は追懐の書籍を作り、これを知己友人に配布し、或は天下に公にして独身生活を表白した男が、その宣言をケロリと忘れて、遅いのが二月或は三月、早いのになると三日目位に、早くも第二の候補者をつかまへてゐる。これが人間としての赤裸々な心理状態である。しかるに刹帝利を始めハルナは有りふれた世間的の偽人ではない、真にその妻の心を憐み、一生帰つて来る望みのない女房のために、独身生活を続けたのである。
 かく話す所へ慌ただしくやつて来たのは牢番のエルであつた。エルは心配相な顔をして、畳に頭を摺つけ、
エル『申上げます、大切な咎人シエールが、何時の間にか牢屋を破り逃走致しました。誠に職務怠慢の罪、申し訳もございませぬ』
と泣いてゐる。右守のヱクスは、
『ナニ、シエールが脱獄致したか、ソリヤ大変だ、左守殿、如何致したらよろしからうかな』
左守『ハテ、困つた事を致したものだ。しかしながら今となつて悔んだ所で仕方がない、彼が脱獄致したのは恰も虎を野に放つが如きもの、キツとベルツと牒し合せ、また何事か謀反を企むに相違ござらぬ、就いては彼が行方を捜索致す必要がござらう』
刹帝利『速に人を遣はし、彼が所在を尋ね出し、召捕帰るべく取計らつてくれ、右守殿、万事抜目のなきやうに頼むぞよ』
 右守は『委細承知仕りました』とこの場を立出で、河守の長を勤めたカント及びエルに命じ、変装させて、ベルツの隠れてゐるといふキールの里へ入り込ましむる事とした。
 話替つて、ベルツは三方山に包まれ、一方に大河を控へたキールの山奥に立籠り譜代の家来を集め、武を練り、時を待つてゐた。そこへバラモン軍が一人も残らず退却したといふ報告を耳にし、願望成就の時こそ来れり、今を措いて何時の日か吾目的を達せむや……と無慮一千騎を引率し、道々農民を徴発し、同勢三千人を以て、ヂリリヂリリと攻め寄せ来る内報がカントより届いて来た。刹帝利始め左守の驚きは一方でない。例の如く秘密会議を開いて、反軍の攻撃に備ふべく凝議をこらした。されど何れも右守に代々仕へたる武士のみ僅に八百余名、兵営に国防の大機関として蓄へあるのみ、万一ベルツ押寄せ来ると聞かば、何時反旗を掲げ、王に逆襲するやも計られ難い、その心痛は一通りでなかつた。刹帝利は涙をハラハラと流し、
刹帝利『ああ一難去つて一難来る。どうしてこれだけ心配が絶えないのであらう』
と悲歎に沈む。タルマンも左守司も一向名案が浮んで来ない、何れも青息吐息の為体であつた。ハルナは儼然として立上り、
ハルナ『必ず必ず、御心配なさいますな、城内八百の兵は何れも誠忠無比の人物ばかりでございますれば、メツタに裏返る気遣ひはありませぬ。このハルナはまだ兵士に面を知られてゐないのを幸、種々雑多に身を窶し、兵営を乞食となつて、夜な夜なめぐり、彼等が話を考へて居りまするが、一人として王のために命を捨つる事を否む者はありませぬ。そしてベルツの悪業を非常に憎み居りますれば、何程譜代の家来なりとて、大義名分上、左様な不義な事は断じてないと信じます。拙者にこの軍隊をお任せ下さらば、みん事敵を打破り、再野心を起さぬやうに致してみせませう。そしてキツとベルツ、シエールの両兇を生捕に致し、お目にかけませう、これに就いては拙者に成案がございます』
左守『コレ伜、左様な事を申して、万一敗軍を致したら、どうして吾君様に言訳を致すのだ。其方は年が若いから、左様な楽観を致して居るが、あのベルツといふ奴は卑怯者なれど、シエールは軍略の達人、シエールあつて後ベルツの光が出るやうなものだ。汝の如きうら若き弱輩の知る所ではない。及ばずながら、年老たりと雖も、父キユービツトが君の御為、国のため、右守殿と全軍を指揮し矢面に立つて奮戦激闘してみようほどに、父は余命も幾何もなき老齢、捨ても惜うない命、其方は行先の長い未来のある男子、吾君のお側に仕へ、安全の地位に身をおいて、吾亡き後は君のため、国のため、十分の忠勤を励んで貰はねばならぬ。吾君様、何卒この防戦は、左守、右守にお任せを願ひます』
刹帝利『左守の言葉、実に吾肯綮に当つてゐる。しからば全軍の指揮を、左守、右守に一任する』
左守『ハイ、御懇命を辱なうし、有難う存じます、命を的にあくまでも奮戦致して、王家及国家を守護致しませう』
右守『及ばずながら、左守司の指揮に従ひ、命を鴻毛と軽んじて奮戦激闘仕りますれば、必ず御安心下さいませ』
タルマン『左守、右守殿、命を捨つるは匹夫のなす所、両将は身を安全地帯におき、全軍の指揮を終局までなさらねばなりませぬ。軽挙妄動を謹み、最後の一人までながらへるお覚悟でなくてはこの戦ひは駄目でございます』
左守『なるほど、タルマン殿の仰の通り、委細承知仕つてござる』
右守『タルマン殿の仰には決して反きませぬ、御安心下さいませ』
ハルナ『お父上が全軍の総指揮官となられた以上は、どうぞ私を参謀長としてお使ひ下さいますやうに、たつてお願ひ致します』
左守『イヤイヤ其方は最前も申した通り、決して危険な所へ行つてはならない。王様のお側に忠実に仕へ、御身辺を守るが其方の役目だ』
と親の情で吾子を戦場に向け討死させまいと頻りに心を悩ましてゐる。
ハルナ『父上の御指揮なれば、今度の戦ひは零敗でございます。これに就いては吾々に深遠なる計画がございますから、何卒、刹帝利様、拙者にお任し下さいませぬか、キツと手柄を現はしてお目にかけます』
刹帝利『ハテ心得ぬ汝が言葉、その計画とは如何なる事か、余が前に言つてみよ』
ハルナ『恐れながら、すべてのお人払を願います。拙者の申し上ぐる事がもし御不承知なれば御採用下されずとも、お恨みは致しませぬ』
刹帝利『若輩の言にもまた取るべき事があらう、しからば聞いて遣はす……ア、イヤ、一同の者、しばらく席を遠ざかつたがよからう』
と鶴の一声に、タルマン始め左守、右守は不性不精に席を遠ざかつた。ハルナは王の側近く進み、声を潜めて、
ハルナ『実の所は昨夜神王の森に参拝を致し、真心を籠て国家の安泰を祈る折しも、盤古神王と思ひきや、神素盞嗚尊現はれ玉ひ、仰せらるるやう、……その方は国家を思ふ忠良の臣だ、実にビクの国の柱だ。今やベルツは反旗を掲げ、一千騎の軍隊を引率れ、数多の農民共を従へて、無慮三千人、日ならず押寄せ来るであらう、あ、その時は決して手向ひを致すでない、城内を固く鎖し籠城を致せよ。さすれば八百の味方は一人も裏返る者はない。もしも城外へ出でて戦はむか、裏切りするものが現はれて、味方の不利益であるぞよ。ともかくも籠城の心持にて、四方の入口を固め居れば不思議な援軍が現はれて敵を追ひ散らすであらう。またヒルナ姫、カルナ姫は帰り来つて、敵の背後より、奇兵を放ち、叛軍をして、一人も残らず降伏せしむることが出来るであらう……とアリアリとお示しになりました。どうぞ、夢とは云へ、決して虚妄の言ではございませぬ。賢明な吾君は必ずや、吾進言を御嘉納下さる事と固く信じて居りまする』
刹帝利『いかにも、汝の言葉には一理ある。到底人間の力では及ぶものでない、素盞嗚尊様のお示しになつた戦略は、実に完全な戦法だ。しからば全部、汝に臨時兵馬の権を委任する』
 ハルナは嬉し涙をハラハラとながしながら、
ハルナ『若年者の言葉、御聞き届け下さいまして、有難うございます。キツと御神力によりて、国家の大難を救はして頂きませう。御安心下さいませ。ああ惟神霊幸倍坐世』
と合掌した。王はさも頼もしげに、ニコニコとして面色とみに輝き出したり。

(大正一二・二・一四 旧一一・一二・二九 於竜宮館 松村真澄録)



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