出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語53-3-181923/02真善美愛辰 八当狸王仁三郎参照文献検索
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第一八章 八当狸〔一三八一〕

 右守司のベルツは不機嫌な顔して、入口に並べてあつた箒やバケツを蹴り倒し、はね飛ばしながら玄関から上つて、そこにおとなしく留守番をしてゐた桐の火鉢を無残にも蹴り倒し、欄間の額を引おろし、バチバチバチと足にて踏み砕き、襖を押倒し、畳ざわりも荒々しく奥の間に入つて、
右守『コラーツ、何奴も此奴も一寸来い』
と呶鳴り立てた。上女中も下女中も下男も、この声に驚いて縮み上り、次の間に頭を下げ、
『旦那様、何ぞ御用でございますか』
と慄ひ慄ひ伺つてゐる。右守は気がモシヤクシヤしてたまらず、見る者さはる者八当りに当らねば胸が鎮まらなかつた。
右守『何奴も此奴も、此処へ来いツ』
 七八人の男女は恐る恐る側により、
 『旦那様、お気分が悪うございますか、お肩を揉まして頂きませう』
と優しい女が左右からかかるのを、
右守『エーエ、煩さい、そつちへ行けツ』
と叱り飛ばし、側にあつた火鉢をポンとぶつつけた。男女は驚いて逃げようとするのを見て、またベルツは、
右守『コリヤ、どこへ行く、主人の許しを受けずに勝手に動くといふ事があるかツ』
 『ハイハイ』『ヘイヘイ』と一同は跼んでゐる。右守はまたもや、
右守『何奴も此奴も一斉に面を上げい』
と呶鳴る。止むを得ず一同は顔を上げた。右守はツト立つて、塵払を取り、
右守『エエ刹帝利奴』
と言つて、下男の横面を擲りつける。擲られて悲鳴をあげ、そこに倒れるのを組付け、蹴り倒し、また次へまはつて、
右守『コレ、タルマン』
と云ひながら横面をポンと蹴りちらし、
右守『貴様は左守だ……ハルナだ。……』
とメツタ打ちに打ちのめし、次に女の方に矛を向け、
右守『貴様はヒルナだ、……カルナだ……』
と髪の毛をひん握り、座敷中を引きまはす。男も女も悲鳴をあげキヤーキヤー ワンワンと忽ち右守の奥の間は阿鼻叫喚の巷と化してしまつた。そこへ宙を飛んで帰つて来たのは家令のシエールであつた。シエールはこの体を見て、大に驚き、
シエール『旦那様、お腹立は御尤もでございます、御心中察し申しまする。このシエールとても御同様でございまする』
と云ふより早く、床の間の掛地をバリツと引破り、置物を庭先にぶつつけ、障子を押倒し、踏み砕き、襖をパリパリパリと残酷な制敗に会はせ、尚も狂ひ立つて、炊事場に闖入し、手当り次第に、膳、鉢、茶碗、徳利などを投げつけ、ガラガラパチパチ、メチヤメチヤ ケレンケレンカリカリと阿修羅王の荒れたる如く止め度もなく荒れ狂ふ。流石の右守もシエールの乱暴に呆れ果て、自分の鬱憤はどこへやら、忽ちこの場に駆け来つて、
右守『コリヤコリヤ、シエール、さう乱暴なことをしちやいけないぞ、マアマア鎮まつてくれ。お前の腹立は俺も知つてる』
 シエールは尚も狂ひ立ち、
シエール『エエ残念や、口惜や』
と水瓶に庭の石をなげつけ、ポカンと肚を破つて忽ち庭一面の水と化せしめ、猶も竈を引くり返し、衝立を倒し、力限り荒れ狂ふ。右守は漸くにして取押へ『マアマアマア』と宥めながら、あれはてた自分の居間に連れ帰り、胸をなでながら、
右守『オイ、シエール、何といふ不都合な事をするのだ。怪しからぬ代物だな』
シエール『へ、今日殿中において、右守家に伝はる重大の兵権を取上げられ、旦那様より私の方が業が煮えてたまらず、殿中において、所在器物一切をメチヤメチヤに叩き壊し鬱憤を晴らさむと思ひましたが、タルマンの奴弓に矢を番へて、矢大臣の役を務めてゐやがるものですから、無念をこらえ、此処まで帰つて参りました。その余憤が勃発致しまして、かやうな狼藉に及びました。マアこれでスツと致しましたよ』
右守『ソリヤ貴様はスツとするだらうが、右守家の財産をさうメチヤメチヤにやられちや堪らぬだないか。かやうな不都合な事を致せば直に免職を致し、首を取る所なれど、元を糾せばこの方に同情しての腹立だから、寧ろ、褒むべき者だ。吾心の中を知る者はただシエール一人のみだ』
と撫然として項低れる。
シエール『旦那様、貴方も随分おやりなさつたやうですな。玄関口から奥の物まで、随分落花狼藉、私もつい旦那様に感染致しました。しかしまだ少し鬱憤が残つて居りまするから、一層の事このお館を主従が力を併せて叩き壊したらどうでせうか、鬱憤のやり所がありませぬがな』
右守『内わばりの外すぼりでは、根つから気が利かぬだないか。オイ、シエール、徹底的に鬱憤をはらし、再び兵馬の権を握り、あはよくば刹帝利になり、この恨を晴らす気はないか』
シエール『エエ何とおつしやいます。徹底的に鬱憤を晴らすとは、軍隊を以て王城を囲み、クーデターをやらうとおつしやるのですか。一方にはバラモン軍が徘徊致してをるなり、味方の勇士は四方に散乱したではありませぬか』
右守『そこには一つの計略があるのだ。オイ、シエール、耳をかせ』
 シエールは右守の口許に耳を寄せ、何事か聞き終り、厭らしい笑を浮べて、
シエール『成程、君の妙案奇策には感服致しました。しからば時を移さず、幸日も暮れましたなれば参りませう』
と何事かよからぬ事を牒し合せ、黒頭巾に黒装束のまま、裏口より、ソツとぬけ出したり。

(大正一二・二・一四 旧一一・一二・二九 於竜宮館 松村真澄録)



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