出口王仁三郎 文献検索

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物語53-2-141923/02真善美愛辰 女の力王仁三郎参照文献検索
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第一四章 女の力〔一三七七〕

 久米彦将軍は、不性不精ながらもカルナ姫を吾事務室に引入れ、葡萄酒を出して互につぎ交し、軍旅の憂さを慰めて居る。総て陣中は女の影無きをもつて、如何なるお多福と雖も、女と云へば軍人は喉を鳴らし、唯一の慰安として尊重するものである。久米彦はヒルナ姫と見較べてこのカルナがどこともなく劣つて居るやうに思ひ、何だか鬼春別に負を取つたやうな心持がして、女の争奪に抜剣までして大騒ぎをやつて居たが、事務室に帰つて来て二人差向ひ、互に意見を語り合つて見ると、贔屓か知らねども別にヒルナ姫と何処が一つ劣つたやうにも見えない、否却て優みがあり品格が備はり、どこともなく優れて居るやうに思はれて来た。久米彦は現になつて穴のあくほどカルナの優しき顔を凝視め笑壺に入つて居る。
カルナ姫『もし将軍様、不思議な御縁で貴方のお傍にお仕へするようになりましたのは、全く神様のお引き合せでございませうねえ』
久米彦『ウン、さうだなア、お前のやうな愛らしいナイスとこんな関係になるとは、遉の俺も夢にも思はなかつたよ。実にお前は平和の女神だ、唯一の慰安者だ。否々唯一の救世主だ。益良雄の心を生かし輝かし、英雄をして益々英雄ならしむるものは、矢張女性の力だ』
カルナ姫『何と云つても女は気の弱いものでございます。どうしても男には隷属すべきものですなア。何程恋愛神聖論をまくし立てて居つても、男の力にはやつぱり女は一歩を譲らなくてはなりませぬわ。しかしながら女は男子に服従すべきものだと云つても程度の問題でございまして、理想の合はない男に添ふのは生涯の不幸でございますからな、どうかして自分の意志とピツタリ合つた男と添ひたいものと、現代の女は挙つて希望致して居ります』
久米彦『如何にも其方の云ふ通りだ。男のデヴアイン・イドムは女のデヴアイン・ラブに和合し、女の聖愛は男の聖智と和合した夫婦でなければ、真の夫婦とは云へないものだ』
カルナ姫『左様でございます。意志投合した夫婦位世の中に愉快なものはございませぬなア。時に将軍様は戦争がお好きでございますか』
久米彦『イヤ戦争の如き殺伐なものは心の底から好かないのだ』
カルナ姫『それならお尋ね致しますが、将軍様は何故心にない軍人におなり遊ばしたのでございます。その点が妾には些とも合点が参りませぬわ』
久米彦『イヤ実は拙者もバラモン教の宣伝将軍で、神の仁慈の教を説くものだ。この度大黒主様の命令によつて、止むを得ず出陣致したのだ。実に軍人なんぞはつまらないものだよ』
カルナ姫『貴方は今宣伝使だつたと仰せられましたねえ』
久米彦『ウンその通りだ』
カルナ姫『それなら貴方は人を助けるのをもつて唯一の天職と遊ばすのでせうねえ』
久米彦『それやその通りだ。かうして戦争を致すのも決して民を苦しむるためではない、天国浄土を地上に建設せむためだ』
カルナ姫『それでも貴方の率ゆる軍隊は民家を焼き人を殺戮し、ビクトリア城までも滅し、王様を虜となさつたではありませぬか。ミロクの世を建設する所か、妾の浅き考へより見れば貴方は破壊者としか見えませぬがなア』
久米彦『アハハハ、建設のための破壊だ。破壊のための破壊ではない。そこをよく考へねば英雄の心事は分らないよ』
カルナ姫『貴方のお言葉が果して真ならば、ビクトリア城を一旦破壊されたる上はまた建設なさるのでせうなア』
久米彦『尤もだ、直様建設を試み、国民を塗炭の苦しみより救ひ、至治泰平の世を来たす考へだ』
カルナ姫『そんなら貴方は、ビクトリア城の刹帝利や従臣などを捕虜になさつたさうですが、戦ひが治まつた以上は屹度解放なさるでせうなア』
久米彦『勿論の事だ。しかしながら刹帝利その他の従臣を生かして置けば、またもや何時復讐戦を致すやら知れないから、気の毒ながら王を遠島に送るか、末代牢獄に放り込むか致さねばなるまい、これも天下万民のためだ』
 カルナ姫はハツと驚いたやうな振りをしてウンと仰向けに倒れてしまつた。久米彦は驚いて抱き起し顔に水を注いだり、耳許に口をよせて、オーイ オーイと呼びかけて居る。カルナ姫は故意と息の止まつて居るやうな振を装ひ、しばらくして目を開き四辺をキヨロキヨロ見廻しながら、
カルナ姫『アア偉い夢を見て居りました。貴方は久米彦将軍様、ようマア無事で居て下さいました。妾は本当に怖い夢を見たのですよ』
 久米彦はこの言葉が何だか気にかかり、言葉急はしくカルナに向ひ、
久米彦『ああカルナ姫、お前は気絶して居たのだよ。まアまア結構々々、しかしながら怖い夢を見たとはどんな夢だつた、一つ聞かしてくれないか』
カルナ姫『ハイ、申上げたきは山々なれど、夢の事でございますから、お気を悪くしてはなりませぬから、こればかりは申上げますまい』
久米彦『これカルナ姫、さうじらすものではない。何でも構はないから云つて見よ』
カルナ姫『キツトお気にさへて下さいますなや、夢でございますからな』
久米彦『エエどうしてどうして夢なんかを気にさへるやうな馬鹿があるか、早く云つて見よ』
カルナ姫『そんなら申上げます、妾が気絶致しましてから随分時間が経つたでせうなア』
久米彦『何、今お前が卒倒したので直様、水をかけて介抱したのだ。先づ二分か三分間位のものだよ』
カルナ姫『そんな道理はございますまい、妾は少くとも、五六時間はかかつたやうに思ひます』
久米彦『それやお前、気絶してお前の精霊が霊界に行つたのだらう。霊界は想念の世界だから、延長の作用によつて五六時間だつたと思うたのだらう。実際は二三分間だ。サア早う云つて見やれ』
カルナ姫『妾は何処ともなく雑草の原野をただ一人トボトボ参りました。さうすると天の八衢と云ふ関所がございまして、そこには白い顔をした守衛と、赤い顔をした守衛とが厳然として目を光らして居りました。そこへ不思議な事には鬼春別様、貴方様の御両人が軍服厳めしくお越しになり、八衢の門を潜らうとなさつた時に、赤の守衛は「しばらく待て」と呼止めました。さうすると両将軍は立ち止まり、「拙者はバラモン軍の統率者、鬼春別将軍だ、久米彦将軍だ」と、それはそれは偉い元気で仰せになりました。さうする中に牛頭馬頭の沢山の冥官が現はれ来り、貴方方を高手小手に縛め一々罪悪の調を致しました。妾はその傍で慄ひ慄ひ聞いて居ると、先づ貴方様から訊問が始まりました。貴方も随分女を弄びなさいましたなア。さうして斎苑の館へ進軍なさつた事や、ビクトリア王を軍隊を向けて捕虜となし苦めたことや、数多の従臣を縛り上げ苦しめた事や、民家を焼き、かつ人を殺しなさつた事が調べ上げられましたよ。貴方は一々「その通りでございます」と、大地に頭を下げ詫び入つて居られました。怖ろしい顔をした冥官は、節だらけの鞭をもつて頭部、面部、臀部の嫌ひなく、打ち据ゑます、貴方は、悲鳴をあげて叫んで居られます。それはそれは何とも云はれない惨酷い目に遇はされて居ましたよ。それから衡にかけられ、愈地獄行と定つた時の貴方の失望したお顔、私は見るも御気の毒に存じました。さうすると白の守衛が仲に入つて、「この男は今まで罪悪を犯して来たけれど、肉体はまだ現界に居るのだから、今地獄に堕す訳には往かぬ。命数つきて霊界に来るまで待つがよい」との事でございました。そこで貴方は非常に冥官に向つてお詫なさいました。そしてその条件は「ビクトリア王をお助け申し、その他の従臣を解放し、刹帝利様を元の王位に据ゑ、自分はビクトリア王の忠良なる臣下として仕へますから」とおつしやいましたら、冥官は忽ち顔を柔げ、「汝果して改心致すならば、今度来る時地獄往きを赦して、花咲き実る天国に遣はすほどに、もしこの約に背いたならば剣の地獄に落すぞよ」と、それはそれは厳しい云ひ渡しでございました。私は身も世もあられぬ思ひで慄ひ戦いて居ると、どこともなしに貴方の声が遠い遠い方から聞えて来たと思つたら目が醒めました。やつぱり夢でございました。何と不思議な夢ではございませぬか』
久米彦『何と不思議な事を云ふぢやないか、自分の精霊は何時の間にか八衢に往つて居たと見える。いやそれが事実かも知れない、困つた事ぢやなア』
カルナ姫『どうぞ気にして下さいますな、夢の事でございますからな、しかしあんな事が本当なら最愛の夫の身の上、悲しい事でございます』
と目に袖を当て差俯向いて泣き出した。久米彦は双手を組み深い息を洩らし思案に暮れて居る。カルナは心中に仕済ましたりと喜びながら左あらぬ態に、
カルナ姫『もし将軍様、貴方は大層お顔の色が悪くなつたぢやございませぬか、妾の夢の中で見たお顔とそつくりでございます。仕様もない夢の事を申上まして、御気分を悪くしてどうも相済みませぬ。お許し下さいませ』
とまたもや泣声になる。
久米彦『イヤ俺も些と考へなくちやならぬ。お前の夢はきつと正夢だ。あまり勢に乗じて、部下の奴が余り乱暴をやり過ぎたと見える。しかし部下の罪悪は将軍の責任だ。罪は将軍が負はねばならぬ。困つた事ぢやなア』
 カルナはどこまでも気を引くつもりで、
カルナ姫『もし将軍様、貴方は堂々たる三軍の指揮者、かやうな夢問題に御心配なさるには及びますまい、将軍は職責としてある場合には民家を焼き、人を殺し、城を屠るのは止むを得ないぢやございませぬか。こんな事に心配しておいでなさつては、将軍として役目が勤まりますまい』
久米彦『お前は夢を見てから俄に鼻息が荒くなつたぢやないか、妙だなア。俺はお前の話を聞いて俄に未来が怖ろしくなつた。これや一つ考へねばなるまい、しかしながら吾頭の上には鬼春別将軍が控へて居る。何程久米彦が善に立ちかへり、刹帝利を助けむと致しても、上官が首を横に振つたが最後、到底駄目だ。ああ引くに引かれぬ板挟みとなつた。どうしたらこの解決がつくだらうかなア』
とまたもや思案に沈む。
カルナ姫『貴方さう御心配には及ばぬぢやございませぬか、御決心さへ定まればその位の事は何でもございますまい。鬼春別様は妾の主人を妻に持つて居られますから、妾よりヒルナ様に申上げ、ヒルナ様より将軍様に申上げるようにすれば、比較的この問題は解決が早いでせう。それより外方法はございますまいなア』
と心配さうに故意と首を傾ける。
久米彦『遉はカルナ姫だ。よい所に気がついた。そんならこの問題は其方に一任する事にしようかなア。しかしながら拙者は鬼春別将軍と何処ともなしに意志が疎隔して居る最中だから、何程ヒルナ様の諫言と雖も容易に聞くまい。ああ心配な事が出来て来たものだなア』
 カルナは久米彦の顔を見て、稍嬉し気に打笑ひ、
カルナ姫『アア貴方のお顔は俄に輝いて来ました。何とまアよいお顔だこと、やつぱり貴方の霊に光が顕れて来たのでございますなア。人間の顔は心の索引だと云ひますから、心に悪心あれば悪相を生じ、善心あれば、善美の相を現ずるものだと聞きましたが、今貴方のお顔の変相によつて、的確に聖哲の言葉を認識致しました。ああ益々麗しきお顔になられますよ。ああどうして妾はかかる尊い美しい夫に添うたのだらうか、盤古神王様、大自在天様、有難う存じます。何卒妾等夫婦を貴神の鎮まります高天原に、霊肉共にお助け下さいまして、現世も未来も、久米彦様と睦じく暮せますやう偏にお願ひ申上げます』
と誠しやかに祈願する。久米彦将軍はすつかりカルナ姫の容色と弁舌に巻込まれ、最早何事もカルナ姫の言とあれば、利害得失を考へず、正邪の区別も弁へず、喜んで聴従するやうになつて来た。実に女の魔力と云ふものは怖るべきものである。武骨一片のバラモンの名将軍も、美人の一瞥に会つては実に一耐りもなく参つてしまうたのである。ああ男子たるものは心を潜めて、女に注意せなくてはならぬものである。女は俗に魔物と云ふ、金城鉄壁をただ片頬の靨に覆へし、柳の眉、鈴の眼に田畑を呑み、家倉を跳ね飛ばし、男の命を取り、さしもに威儀堂々たる将軍を初め、数千の軍隊の必死の努力も、容易にメチヤメチヤに壊すものである。世の青年諸氏よ、敬愛なる大本の信徒よ、この物語を読んでよく顧み、虚偽的恋愛に身心を蘯かし、一生を誤る事なきやう注意されむ事を望む次第である。ああ惟神霊幸倍坐世。

(大正一二・二・一三 旧一一・一二・二八 於教主殿 加藤明子録)



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