出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語53-1-61923/02真善美愛辰 気縁王仁三郎参照文献検索
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本文    文字数=8012

第六章 気縁〔一三六九〕

 ヒルナ姫は意気揚々としてビクトリア王の居間に進入つた。ビクトリア王は経机にもたれ、一心不乱にコーランを繙いてゐた。
ヒルナ姫『御免下さいませ。ヒルナでございます』
 この声にビクトリア王は老眼の眼鏡越しに覗くやうにして、
刹帝利『ヒルナ姫、今日は何とはなしに元気のよい顔だな。何か面白い事がありましたかな』
ヒルナ姫『はい、エー、早速でございますが、吾君様にお願がございましてお伺ひを致しました、コーランを御研究の最中にも拘らず御邪魔を致しまして済みませぬ』
刹帝利『ア、いやいや別に邪魔でもない。さうして願ひとは何事だ。早く云つて見たがよからう』
 ヒルナはモジモジしながら、満面に笑を湛へ、媚を呈し、言葉淑かに、なめつくやうな声で視線を斜に向けながら、少しく体を揺りシヨナ シヨナとして両手を膝の上に揉みつつ、
ヒルナ姫『吾君様、今日の国家の危急を救ふのには先づ第一着手として城内の内紛を鎮定せなくてはなりませぬ。それについて妾は日夜心胆を練つてゐました。漸く今日その曙光を認めましたので御相談に参りました』
刹帝利『成程、先づ国民を治めむとすれば、右守、左守司の暗闘を何とかして鎮めねばなるまい。しかしどうしても彼等は思想が合ない犬猿啻ならぬ仲だからこの際如何な手段を用ふるも何の効もあるまい。正直一途の左守司に対し権謀術数至らざるなき奸黠の右守司は、刹帝利としても、如何ともすべからざるものだ。彼の家は祖先から兵馬の権を握つて居るのだから、何時反旗を掲げるかも分らない。如何に左守司忠勇義烈なりとて兵馬の権を握らぬ中は、国家の禍害を除く事は到底不可能だ。何か其方は妙案を考へ出したのか、ともかく云つて見やれ』
ヒルナ姫『仰せの如く左守司は実に立派な人格者でございます。それについて右守司は才子肌の男で、年も若くかつデモクラシーの思想にかぶれて居りますれば、保守主義と革新主義との両人の争ひ、如何にしてこれを調停せむかと苦心惨憺の結果、思ひつきましたのは左守司の伜ハルナと右守司の妹カルナ姫との結婚問題でございます』
刹帝利『成程、それは至極妙案だらう。しかしながらどうしてもこの結合は至難事であらう。一時は刹帝利の命に服従して仮令結婚を致すとも忽ち破鏡の悲しみを見るは目の前だ。さうなつた上は両家は益々、嫉視反目の度を高め、遂には累をビクトリア家に及ぼすやうになつては大変だから余程考へねばなるまいぞ。一利あれば一害の伴ふものだ。それにつけても頑強なる律義一方の左守司は容易に承諾は致すまい』
ヒルナ姫『それは御心配遊ばしますな。最前も左守司を呼んでその意見を叩きました処、思ひの外打解けお国のためとなればお受け致します、嘸伜も満足致しませうと云つて帰りました』
刹帝利『何と、あの左守司がそんな開けた事をいつたかな。ウーン、これも時勢の力だ。忠義な家来は融通が利かず、融通の利く奴は悪い事を企むなり、真に股肱と頼む家来がないので心配致して居つたが、左守もそこまで開けたかな。それは実に結構だ。しかしながら右守司はどうだらうか。彼はまた頭の古い老耄れ爺と何時も排斥してるやうだが、この縁談を承諾するであらうかな』
ヒルナ姫『それは御心配に及びますまい。実際の処は左守の伜ハルナと右守の妹カルナの間には、已に既に情約の締結が内々結ばれたと云ふ事でございます。右守は元よりこの縁談は余り好まないやうでしたが、肝腎の妹が諾かないものですから、到頭我を折つて賛成をする事になりました』
刹帝利『さうなれば左守、右守相並んで国政に鞅掌し、ビクトリア家の政治は万世不易だ、ああ実に嬉しい時節が来たものだな』
ヒルナ姫『左様でございます。こんな嬉しい事はございませぬ。このまま両家暗闘を続けてゐませうものなら兵馬の権を握つた右守司は如何なる事を仕出かすか知れませぬ。遂には左守を亡ぼし、畏れ多くも刹帝利様を退隠させ、自分がとつて代らむとする野心を包蔵して居るかも分りませぬ。否確にその形勢が現はれて居ります。かかる危急存亡のビクトリア家を救ふのは、この結婚問題に越したものはございますまい。妾はホツト息をついたやうな次第でございます』
刹帝利『成程、お前の云ふ通りだ。しからば一時も早く左守司を呼び出し、彼に改めて申渡すであらう』
ヒルナ姫『早速その運びを致しませう。妾もこの事が成功致しますれば、仮令死しても心残りはございませぬ』
刹帝利『アハハハハ、二つ目には死ぬのなんのと、左様な心細い事を云ふものではない。七十の老躯をさげたビクトリアも未だ二十年や三十年は社会に活躍するつもりだ。お前は若い身を持つて、左様な事を思つたり、云つたりするものではない。言霊の幸はふ世の中だから、不吉の言葉は云はないやうにしてくれ』
ヒルナ姫『はい不調法申しました。屹度心得ます。盤古神王塩長彦命様、見直し給へ聞直し玉へ』
と合掌する。そこへ恭しく衣紋を整へ参つて来たのは左守司であつた。左守司は末座に平伏して言葉もつつましやかに、
左守『吾君様、ヒルナ姫様、私は左守でございます』
刹帝利『いや左守殿、いい処へ来てくれた。さア近う近う。其方に折入つて申入れたい事がある』
左守『はい、しからば御免蒙りませう』
と云ひながら恐る恐る一間ばかり間近まで進み寄り平伏した。
刹帝利『左守殿、其方はヒルナに聞いてゐるだらうが、気に入るまいけれど、ビクトリア家のため、国家の危急を救ふために、汝の伜ハルナと右守の妹カルナ姫との結婚を申付けるから、承諾してくれるだらうな』
左守『はい、畏れ多くも斯様な事までお心を悩まし奉り、実に感謝に堪へませぬ。仰せ畏み慎んでお受を致します』
刹帝利『流石は左守殿、満足々々。さア一時も早くこの縁談に取かかつてくれ』
ヒルナ姫『左守殿、吾君様のお言葉、有難くお受け致し、円満にこの縁談を解決するやう取計らつて下さい。それに就いては内事の司、タルマンを媒介として、この方より差遣はすによつて、その心算で居つたが宜らうぞ』
左守『はい、何から何まで、お心をつけられまして痛み入りまする。左様ならば吾君様、ヒルナ姫様、一時も早く館に帰り、準備にとりかかりませう』
と厚く礼を述べイソイソとして吾家へと帰り行く。後にビクトリア王とヒルナ姫は、直ちに神前に向ひ感謝の祝詞を奏上し、姫は慇懃に挨拶を述べて、吾居間に帰り行く。

(大正一二・二・一二 旧一一・一二・二七 於竜宮館 北村隆光録)



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