出口王仁三郎 文献検索

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物語53-1-51923/02真善美愛辰 愛縁王仁三郎参照文献検索
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第五章 愛縁〔一三六八〕

 ヒルナ姫の急使によつて左守司キユービツトは倉皇として衣紋を整へ恭しく伺候した。
左守『キユービツトがお招きによつて急ぎ参上仕りました。御用の趣仰せ聞け下されますれば有難う存じます』
ヒルナ姫『キユービツト、其方に折入つて急に相談致したい事があるのだ。そこは端近、近う寄つて下さい』
左守『はい、畏れ多うございますが、御仰せ否み難く失礼致します』
と云ひながら姫の三尺ばかり前まで進み出でた。ヒルナ姫は声を低うして四辺に心を配りながら、
ヒルナ姫『ヤ、左守殿、外でもないが其方の息子ハルナ殿に嫁を与へたいと思ふのだがお受けをなさるかな』
左守『これはこれは思ひもよらぬ御親切、左守身にとつて有難き幸福に存じます。しかしながらこの結婚問題ばかりは本人と本人との意志が疎通せなくては、本人以外の私が何程親だと云つても直様お答する訳には参りませぬ。今日は凡て世の中が昔と変り夫婦関係に就いても結婚問題に就いても、恋愛そのものを基礎とせなくてはいかない事になつて居りまする。夫婦仲良く暮してくれるのが所謂親孝行でもあり、凡ての事業のためでもあります。人間生活の本来としては、どうしても相思の男女が結婚を致さねば親の力や権力で圧迫しても到底末が遂げられないでせう。親子が衝突したり、夫婦の間に悲劇の起るのも、所謂思想上の誤謬と、その誤謬ある思想から出来た現代の法則や道徳や、いろいろのものの欠陥や、不完全から生ずるものであります。親の言ひ条につき親孝行せむがために恋人と添ひ遂げられなかつたり、またはある事情のために生木を裂かれて女を離別したりする事は、人間としては断じて真直な生活と云ふ事は出来ませぬ。この問題は篤と考へさして頂かねばなりませぬ』
ヒルナ姫『そらさうですとも。人間が拵へた金銭財宝等云ふものが邪魔したり、家族制度に欠点があつたり、法律が不備であつたりまたは周囲の人々の物の考へ方に時代錯誤があつたり、或は其処に野卑不劣な私欲が働いたり、種々雑多の理由によつて、人間的生活が破壊されて、純正の恋愛そのものは忠孝友誼などのためにも、断じて犠牲とせらるべき性質のものではありませぬ。忠信孝貞、何れの美徳をとつて見てもその根底には必ず大なるラブの力が動いてゐるものです。世間に沢山起る恋愛的悲劇について深く考へて見ますと、必ず舅姑の不当の跋扈とか、或は金銭の災とか、結婚当事者の無思慮とか、階級制度の誤謬とか、法律制度の不完全とか、何とかかんとか云つて、真に人間としてはその本質的でない事柄が多く禍根をなしてゐる事を発見するものであります。それ故互に諒解のない結婚を強圧的に強るのは、実に危険千万と云ふ事は、このヒルナもよく承知してゐます。しかしながら、妾がハルナ殿に嫁を貰へとお勧めするのは決して政略的でもなければ強圧的でもなく、また御都合主義でもありませぬ。ハルナ殿は恋人の右守司の妹カルナ姫と互にラブしあひ、殆んど白熱化せむとする勢でございます。かくの如き神聖な恋愛を等閑に附して置かうものなら何時心中沙汰が突発するか分りますまい。さすれば左守、右守両家の恥辱のみならず妾等の恥でございますれば、災を未然に防ぎ完全なるラブを遂行せしめ、両家の和合を図り、国家を泰山の安きに置かむとする一挙両得の美挙だと考へます。左守殿妾の言葉に無理がございますか』
左守『はい、実に新しき新空気を注入して頂きまして、この古い頭も何だか甦つたやうな心持が致します。成程姫様のお説の通り、私もウロウロその消息を聞かぬでもございませぬが、余りの事で、貴女に申上ぐるも畏れ多いと、今日まで秘密にして居りましたが、姫様にそれまでお分りになつて居れば、何をか隠しませう。朝から晩まで伜のハルナはリーベ・ライにのみ頭を痛め、殆んど神経衰弱に陥つてるやうな次第でございます。親として一人の伜、その恋を遂げさしてやりたいとは思うて居りましたが、何を云つても、刹帝利様や姫様のお許しがなくては取行ふ事は出来ませず、まして右守司の妹とある以上は口に頬張つてお願する事も出来なかつたのでございます。何卒何分にもよろしく御執成しをお願ひ申します』
ヒルナ姫『流石は左守殿、早速の御承知、ヒルナ姫満足に思ふぞや』
左守『はい、有難うございます。貴女が満足して下されば定めて刹帝利様も御承知下さるでせう。次にこの左守も満足、伜も嘸満足を致すでございませう』
ヒルナ姫『左守殿、其方も妾が何時も心配して居つたが、新旧思想の衝突で、右守殿と暗闘が絶えなかつたやうだが、これにて両家和合の曙光を認め、従つて城内の政治も完全に行はれるでせう。政略上から云つても、恋愛至上主義から云つても、間然する所なき、願うてもなき縁談ぢや。これでビクトリアの国家もビクとも致しますまい。ああ惟神霊幸倍坐世、盤古神王塩長彦命様!』
左守『姫様、重々の御心尽し、有難う存じます。何卒刹帝利様に早く貴女様よりお話し下さいまして、この縁談整ひますやうお執成願ひまする』
ヒルナ姫『心配なさるな。屹度整へて見せませう。其方の覚悟がきまつた上は直様この縁談に取掛ります。一時も早く帰つて御準備を願ひます。善は急げと申しますからな』
左守『はい、有難うございます。左様ならば』
と叮嚀に礼を施し欣々として己が館へ帰り行く。後にヒルナ姫はただ一人ニコニコ笑ひながら、
ヒルナ姫『あ、これにて両家の縺れもスツパリと和解するだらう。刹帝利様は七十路を越えた御老体なり、何時お国替遊ばすか人命のほどは図り知れない。後を継ぐべき御子様がないのだから、俄に御帰幽にでもなれば、忽ち左守、右守両家の争ひが勃発し、これを治むべき重鎮なる人物がなくなつてしまふ。さうすれば国家の滅亡も眼前にありと心も心ならず今日まで暮れて来たが、この結婚がうまく行つて両家和合せば仮令刹帝利様が御他界になつても最早大磐石だ。右守、左守司を率ゐて、女ながらも女王となり、この国家を治める事が出来るだらう。それに就いても困つたのは右守司だ。アアア、残念な事を妾もしたものだな。一つ逃れてまた一つ、右守司と手をきる事は実に難事中の難事だ。ホンにままならぬ浮世だなア』
と吐息を洩らし思案に暮れてゐる。

(大正一二・二・一二 旧一一・一二・二七 於竜宮館 北村隆光録)



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