出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語52-5-261923/02真善美愛卯 姑根性王仁三郎参照文献検索
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第二六章 姑根性〔一三六二〕

 次に呼び出されたのはお年であつた。
赤『お前は文助の娘お年であつたなア』
『ハイ、左様でございます』
『いつ霊界へ来たのか』
『ハイ、三つの年に現界を去り、八衢の世界において今日まで成長して参りました』
『其処に居るのはお前の弟か』
『左様でございます。両人とも萱野ケ原で淋しい生活を続けて居りました』
『お前等姉弟は親の罪によつて、天国に往くべき所を長らく修業を致したのだから、これから直に天国にやつてやらう。最早審判廷に往く必要もない。しばらく待つて居るがよい』
と云ひ放ち白に目配せした。白は直に門内に駆け込んだ。しばらくして得も云はれぬ麗しい天男天女が、琵琶や胡弓や縦笛等をもつて、どこからともなく現はれ来り、両人に麗しき衣類を与へ、不思議なる霊光に二人をパツと包み、微妙の音楽を奏しながら東をさして雲に乗り、光となつて立ち去つてしまつた。二人の守衛はその姿を見送つて合掌し、喜びの色を顔に浮べて居る。
赤『いつもかふいふ精霊ばかりがやつて来ると気分がよいのだがなア。高姫のやうな死損ひの阿婆摺れ女がやつて来ては、サツパリ関所守も手古摺らざるを得ないワ。それにまたお艶に呆助、極端のデレ助だから恋の奴となり果て、正邪理非の弁別も殆どつかないまでに恋愛に心酔して居るのだから、伊吹戸主神様もさぞお困りなさる事だらうなア』
『本当に困つたものですなア。サアこれからまた、ボツボツ調べねばなりますまい』
と云ひながら、白は一番近くに居つた婆の手を引いて赤の前に立たせた。
『お前は柊村のお照ぢやないか、どうして此処へ来たのだ』
『ハイよう聞いて下さいませ。私には天にも地にもただ一人の息子がございます。その息子は孝助と云うて、ほんとうに孝行してくれました。若い時夫に離れ、長い間後家を立て通し、這へば立て、立てば歩めと親心、寝ても起きても忘れた暇はなく、一つ咳をしても肺病になつたのぢやないかと思ひ、寝息が荒くても心臓病ぢやないかと、それはそれはえらい心配して漸く成人させ、優しい女房をもたせて老後を楽しまうと思うて居ました。処が、私の姪にあたるものにお清と云ふ娘がありましたので、それと娶はせました所、二三日の間は夫婦共大切にしてくれましたが、それから後と云ふものは孝助の心がすつかり変り、一にもお清、二にもお清と申して、お母さま其処に居るかとも云うてくれませぬ。そして夜になるとこの老人を別に寝かせ、自分等二人が抱き合つてグツスリ寝て居るぢやありませぬか。自分の大事の息子をお清に取られる位なら、女房に貰ふぢやなかつたにと悔んでも最早追付きませぬ。そこで息子の孝助に、親の気に入らぬ女房はトツトと追ひ出せと申した所、孝助の云ひますのには「今までは親の云ふ事は何でも聞きましたが、お清は私の女房でお前さまの女房ぢやないから構はいでもよろしい。老いては子に従へと云ふ事がある。お前はおとなしうして遊んで居れば、私等夫婦が働いてお前さまを養ひます」と云うて憎い憎い嫁を追ひ出さうとも申しませぬ。私が懐に抱いて育てた孝助をお清に自由にされて、どうして私の顔が立ちますか。御推量なさつて下さいませ、アンアンアン』
『ハテ、困つたものだなア』
『本当に困つたものでございませう。しかしながら私の息子に限つて、あんな不孝な者ぢやございませなんだが、何分嫁が悪い奴でございますから、何彼と悪い知恵をつけますので、一人しかないこの親に不孝を致します。それが残念さに裏の柿の木で首を吊つてやりました。さうした所、死にまんが悪いと見えて、矢張りこんな所へ迷うて参りました。死にたうても死なれもせず、本当に因果な婆でございます、オンオンオン』
『お前の息子夫婦が不孝したと云ふのは、一体どういふ事をしたのだ』
『ハイ、親の気に入らぬ事ばかり致します。お清が来てからと云ふものは、些も私と寝てくれませぬ。それが腹が立つて耐りませぬ。親の気に入らぬ事をするのは不孝ぢやございませぬか』
『そりや夫婦同衾するのは当然ぢやないか。何でそれが不孝に当るのぢや。お前は姑根性を起して法界悋気をして居るのだらう』
『滅相な、なんでそんな事を致しませう。私は孝助の身の上を案じ、夜分も寝ずに孝助夫婦の身の上を考へて居りますれば、お清の奴、大事の大事の息子をハアハア云ふ目に遇はせ、虐待めて泣かしますので腹が立つて耐りませぬ。どうしてあんな事を親が見て居られませうか、御推量下さいませ。私のやうな不仕合せなものはありませぬ。夫には早く別れ、一人の子に粗末にされ、嫁には情なく当られ、どうして生きて居られませうかいなア、アンアンアン』
 赤の守衛は口をへの字に結んだきり、横に長い帳面を開いて見てニタリと笑ひ、
『これこれお照、お前は随分嫁をイヂつたなア』
『ハイ、イヂりました。向ふの出やうが出やうでございますもの、姑婆の針いぢりと申して、あまり腹が立つと、木綿針で嫁の尻をチヨイチヨイと突いてやりました。しかし、これは姑の針いぢりと昔から諺にも残つて居る所でございます。些と痛い目に遇はして躾をせねば家のためになりませぬから』
『その方は随分悪党な婆だ。息子が女房と親密に暮して居るのが腹が立つと見えるな』
『些とは腹も立ちませうかい。お前さまだつて姑の身分になつて御覧なさい。お前さまは役人とみえるが、チツとは老人の贔屓もして、嫁を叱つて下さつたら好かりさうなものだがなア』
『嫁には些も悪い事はない、お前と息子が悪い、これから一つ成敗をしてやらう』
『滅相な、私の息子に限つて悪いことは塵ほども致した覚えはござりませぬ。またこのお照も、若い時から貞節を守り、夫の目を盗んで男を拵へたやうな事もなし、よく調べて下さいませ』
『お前はお清が朝寝をしたと申して、お清を庭の土間に坐らせ、戸棚からありたけの瀬戸物を出し、一口小言を云つては庭に打ちつけ、また一言云つては打ちつけ、終には土瓶、燗徳利、火鉢までなげつけてメチヤ メチヤに毀したぢやないか。お清が土間に頭を下げて謝つて居るのに、なぜ左様な乱暴を致したか』
『ハイ、何と云つても自分の家の宝ですから割りたくはありませぬ。初めの間は欠けた茶碗や、ニウの入つた手塩皿を投げつけたのです。その時気の利いた嫁なら私の手に取りついて「お母さま待つて下さい」と泣いて留める所ですのに、あのお清は家を思はぬ馬鹿な女ですから一つも留めはせず、謝つてばかり居るので、惜しいて叶はぬあの瀬戸物を、つひ行きがかり上、壊してしまつたのです。本当に惜しい事でございました。決してこの婆が壊したのぢやありませぬ、お清の奴がむかつかしたのが原動力となつて、つひあんな事が出来たのでございます。本当に心得の悪い女でございます。私を諫める事はしないで、おしまひには、錦手の立派な鉢まで持つて来て、お母さま、序にこれも割つてくれと申しますので、エ、割つてやらうかと思ひましたが、余り惜しいので上等品だけは残して置きました。そして首を吊る時に考へたのは、こんな瀬戸物やお金まで残して死んでも、皆あんな憎らしい嫁のものになるのが惜しいから、紙幣は皆燃やしてしまひ、瀬戸物は皆割つてしまつてやらうと思ひましたが、何としても可愛い孝助が、困るだらうと思うて、割らずと置きました。お金も臍繰が五百両ばかりありましたが、この金には書き残して置きました。「このお金は孝助が使ふべきもの、お清は手を触れる事も出来ない、これをお清が使ふと化けて出る」と書いておきましたから、何ぼ悪党な嫁でも、こればかりはよう使ひきりますまい、オンオンオン』
『何とまア、業の深い婆だなア。貴様のやうな悪垂れ婆はキツと地獄行きだらう。さア、キリキリとこの門を潜れ』
『お前さまのやうな没分暁漢に云つた所で、老人の精神は分りますまい。さア、これから出る所へ出て、嫁の悪事を訴へ仇を討たねば置きませぬわいなア、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、ああ腰の痛い事だ。ここは何と云ふお役所だか知らないが、こんな若いお役人が何を知るものか、一日でも先に生れたら世の中のお師匠さまだ。どれどれ ちと分る人に会うて、この訳を聞いて貰はう。これ赤白の若い衆、偉いお邪魔を致しました。皆さま、お先イ、左様なら』
と藜の杖をついて海老のやうに腰を曲げ、禿げた頭にお定目ばかりの髪を後に束ね、エチエチと門内さして進み入る。
 次に引き出されたのは、腕に入墨をした荒くれ男であつた。
『その方のネームは何と申すか』
『ハイ俺ア、鳶の弁造と云つて世の中に些は男を売つたものでござんす。如何なる揉め事が起つても、この弁造さまが真裸となり、捻鉢巻をグツと締め「まつたまつた」とやつたが最後、鶴の一声、何でも彼でも水をうつた如く、一度に納まると云ふ男達でござんす。一体此処は何と云ふ所でござんすか。ヘン、お前さま等にメモアルを調べらるると云ふのは根つから葉つから腑に落ちませぬワイ』
『此処は八衢の関所だ。随分お前も現世において乱暴な事をやつて来た奴だから、この衡にかかれ。さうして地獄行きの方が下れば地獄行き、天国行きの方が下れば天国にやつてやらう』
『ヤア、有難テエ、地獄の釜のどん底でもビクとも致さぬ某、根が侠客渡世兼鳶の親分だから、地獄行きが俺の性に合つて居るでせう。どうか衡なんか面倒くせえ事をせずに、すぐ地獄にやつて下せえな、天国なんか性に合はない、地獄には定めし喧嘩もあるであらう、また火事もあるであらう。その時は鳶の弁造が真裸となつて飛び込み仲裁をし、甘い酒でも飲むに便利がいい。喧嘩鳶の、グヅ鳶の、グレン鳶と云はれて来た、チヤキ チヤキの兄イだ』
と胡坐をかき、侠客気分を極端に発揮して居る。
『ともかく霊界の規則だから、この衡に乗つてくれ、サア早く』
とせき立てる。
『よし、幡随院長兵衛は柳の爼の上に坐つて、白鞘組から生きながら料理をされた例もある。俺達はその幡随院を理想とするものだ。何でも構はぬ乗つてやらう。些と位好い事があつても、決して天国へやつてはいけないぞ』
と業託を云ひながら衡にかかつた。衡は両方、水平になつて、地獄の方も指さず、天国の方も指さず、じつとして居る。
『ハハこいつは比較的善人だ。口で悪垂れを吐くが、善が半分、悪が半分、マアマアこれなら今日の娑婆では上等の部だ。オイ弁造、気の毒ながらその方の望む地獄にやる事は出来ぬ。さりとて天国にもやられず八衢人足だ。まづしばし中有界で修業を致したがよからう。決して地獄行きなどを望むぢやないぞ。その方は審判の必要がない。これから西北の方をさして勝手に行け。またその方相当の相棒が待つて居るであらう』
 弁造は梟鳥が夜食に外れたやうな詰らぬ顔をして、
『エエ中有界なんて気がきかない、なぜ俺を地獄にやらないのかなア』
と呟きながらノソリノソリと両腕を振り荒野をさして進み行く。
 それから沢山の精霊は一々ネームを訊ねられ、メモアルを繰られ、或は天国へ、或は中有界へ、または地獄へと各その所主の愛によつて審かれて行く。

(大正一二・二・一〇 旧一一・一二・二五 加藤明子録)



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