出口王仁三郎　文献検索

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物語52-3-161923/02真善美愛卯 水車王仁三郎参照文献検索
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本文    文字数=7804

第一六章　水車〔一三五二〕

　文助は久し振に会うた二人の子供を引連れて、八衢の関所に進まむとしたが、どうしても二人の子供はその時に限つて体が磐石の如くになり、動く事が出来なかつた。これは産土の神の取計らひによつて、かくなつたのである。文助が一念悔悟の上は大神より直接に産土神に伝へられ、それより各霊の安住所に導かるる事になつてゐるが故である。文助も吾子の側にしばらくなりと居りたかつた。されど何者にか後より押さるるやうにあつて、次第々々に遠ざかり行く。僅に後ふりかへつて茲に親子三人は悲しき別れを告げた。
　文助はただ一人、トボトボ薄の穂にも怖ぢ恐れながら、西北をさして機械的に進み行くと、ドンと行当つたのは水車小屋であつた。俄に空腹を感じたので、水車小屋に立寄つて食物を乞はむと門口に訪へば豈図らむや、自分の生前に仕へて居た実父母が、粉まぶれになつて働いてゐた。文助は驚いてよくよくその顔をすかし見た。老夫婦もまた文助の顔を穴のあくほど睨んでゐる。ややしばし互に首をかたげ沈黙の幕がおりた。この二人は冬助、おくみと云ふ文助の両親である。十年ばかり前に現界を去つてここに第二の新生涯に入り、水車小屋の主となつてゐたのである。
冬助『お前は伜の文助ぢやないか』
『はい、左様でござります。貴方はお父さま、お母さま、どうしてマア、こんな処で斯様な事をして居られますのか。チツとも合点が行きませぬ』
『ここはお前の目ではどう見えるか知らぬが、大変な処だよ。お前のために吾々夫婦は天国の団体から下されて、賠償的労働に従事してるのだよ』
『ここは水車小屋ではござりませぬか。ヤツパリ霊界においても現界同様に水車小屋があるのですかな』
おくみ『お前は若い時から随分我の強いヤンチヤ男で神様の事は少しも耳に這入らず、その天罰で到頭目を病み、種々雑多と手を尽した揚句、しよう事なしに神様の道を信仰するやうになつたのだ。しかしながら三つ児のくせは百までと云つて、持つて生れた我情我慢は容易に直らず、ウラナイ教や三五教の取次をして受付に頑張り、いろいろと脱線的教理を伝へたものだから、お前のために地獄へ迷うて来るものは何程あるか知れぬ。そして不思議な事には、お前の導いた連中は皆この道を通るのだ。お前は沢山の人間を地獄に導いた科によつて、地獄の苦しみを受けねばならぬ処だ。それを親としてどうして黙つて見て居る事が出来ようか。親となり子と生れるのも皆深い因縁があつての事だ。それ故自分は下層天国の天人の団体に加へられ夫婦が楽しい生活を送つて居つたが、お前が現界において神様のお道の邪魔を致して居るがために、大勢の者が地獄に堕ち行き、子や孫に至るまで中有界に迷うと云ふ事を、エンゼルから聞いたによつて、せめては子の罪を軽くしてやりたい、また世間の人間を一人でも助けて吾子孫の罪を軽くしたいと思うて、神様にお願ひ致し、この荒野ケ原の中央に水車小屋を建ててこの通り艱難苦労をしてるのだ。ここを通る旅人は大抵偽宣伝使の教によつて迷うて来るものが多い。自分の息子もその一人だから、どうぞ吾々夫婦が犠牲になつて、皆様の罪を洗ひ清め、天国へ上らしたいと思ひ神様にお願ひすれば、沢山の亡者の罪穢れ垢等が吾等夫婦の体に堆高く集まり来り、どうしても落ちないので、夫婦が互に搗臼の中に体を沈め、地獄以上の苦みをして皆様のために霊を研いて居るのだ』
とばかりワツと泣き伏す。文助は父母の恩の何処までも限りなきを感謝し、ただ両手を合して泣きじやくりするのみであつた。
　文助は水車小屋の中へ這つて見れば大きな二つのつぼがあつて、そこには縦柱の杵が二本互に臼を搗いてゐる。ここは両親が替はる替はる臼の中へ這入つてこの柱杵に体の垢を摺り落される修行場である。米や麦を搗く水車とは余程趣が変つてゐる。しかしながら、トントンと臼搗きするごとに何処ともなしに白い粉が立つて二人の体は灰を被つたやうになつて居た。文助は両親の手を曳き形ばかりの小さい居間に座を占め、両親に向つて心の底から天津祝詞を奏上し、神に謝罪した。そして、
『自分が両親に代り水車の苦業を致しますから、両親や吾子を助けて頂きたい』
と熱涙を流して祈願を凝らした。両親はまた一生懸命に、
『吾々は仮令如何なる苦労を致しましても、少しも厭ひませぬ。何卒吾子の文助や孫が天国に救はれますやうに……』
と一心不乱に涙と共に祈つてゐる。そこへ宙空を照してこの場に下り来る大火団があつた。火団は忽ち五色の色と変じ、その中より容色端麗なる美人が現はれた。これは初稚姫の聖霊である。親子はハツと頭を下げ、
『何れのエンゼルか存じませぬが、この穢るしい冬助の処へ御降臨下さいまして有難うござります。就いては如何なる御用でござりますか、承はりたうござります』
『妾は高天原の霊国よりの命によつて、只今此処に現はれたエンゼルでござります。冬助、おくみの両人が世人を思ひ吾子孫を思ふ真心が天に通じ、子孫の罪を許され愈もとの天国へ帰らるる事となりました。さア御夫婦殿、妾に跟いてお出でなさいませ、妾は三五教の初稚姫でござりますよ』
おくみ『何とも申し上げやうのない有難い事でござります。しかしながら吾々夫婦は如何なる苦労を致しましても少しも厭ひませぬ。何卒伜の文助を天国に救うて下されば、吾々が救はれたよりも何程有難いか知りませぬ。何卒そのお取計らひを願ひたう存じます』
『その願は尤もなれども、神界の規則は動かす事は出来ませぬ。この文助殿はまだ現界において尽すべき仕事も残つて居りますれば、再び八衢の関所まで送り、それより現界に返さねばならぬ事となつてゐます。貴方等は先に行つて天国の生涯を送り、子孫の上り来るをお待ちなさるがよろしい』
冬助『しからば仰せに従ひ、冬助お供に仕へませう』
文助『有難うござります。何分両親をよろしくお願ひします。私は両親に倣ひこの水車小屋で修行をさして頂きませう』
『神の言葉に二言はござらぬ。貴方は八衢に向つてお進みなさい。冬助殿、おくみ殿、さア参りませう』
と云ふより早く紫の雲に包み、三個の火団となつて東南方をさして、宙空を掠めて立去り給うた。文助はこの姿を見送つて両手を合せ、感謝の涙にうたれてゐる。

（大正一二・二・九　旧一一・一二・二四　北村隆光録）



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