出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=52&HEN=3&SYOU=13&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語52-3-131923/02真善美愛卯 黒長姫王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=12358

第一三章 黒長姫〔一三四九〕

 天引峠の頂上に四五人の男車座となつて、青い火をチヨロチヨロ焚きながら、暖を取つてゐる。何れもパルチザンのやうな面構、髯をモシヤモシヤと生やし、何だか人の腕のやうな物を、火の中へくべては、横笛を吹くやうな調子で口に当ててしがんでゐる。この時文助の目は余程内分的になつて、明かになつて来た。文助は……厭な奴が居やがる、此奴アまた一つ悶錯だワイ。しかしながら一度死んだ者が命を取られるやうなこともあるまい。エエ惟神に任すより仕方がない……と決心の臍を固め、幽かな声で宣伝歌を歌ひながら近よつて行く。その中の一人は目ざとく文助を見て、
甲『オイ旅人、一寸待つて貰はうかい』
 文助は悪胴をきめて、ワザと平気を装ひ、
『待つて貰はうと言はいでも、一あたりさして貰ひたいのだ、大分寒うなつたからな。そしてお前等は泥棒商売と見えるが、チツと儲かりますかな』
『ヤアもう不景気風が八衢街道まで吹きまくつて来たものだから、一向この頃は駄目だ。お前は俺から見れば随分偉い奴だ。ウマく善の仮面を被つて、神様のお取次と化け込み、鼻紙の端に松の木や黒蛇、蕪大根を描きよつて、苦労なしに礼言はして金をとる剛の者だから、一つ俺達にも教へて貰ひたいものだ。ここで泥棒講習会を開かうかと云つて、最前から相談して居つたのだが、根つから適当な先生がないので、実の所は当惑してゐる所だ。うまく法律にふれないやうに、喜ばれて泥棒する方法を研究するのが、最も賢明な処世法だから、一つ小北山の先生、吾々の教導者になつて下さるまいかなア』
『馬鹿なことを言ふな、俺は正当の理由によつて正当の報酬を頂いて居つたのだ。貴様等は泥棒根性があるから、世界一切の事が皆泥棒的に解釈が出来るのだ。ピユリタンとしてのプロパガンディストの心事が泥棒先生に分るものかい。こんなことが教へて欲しければ、やがて現界に羽振を利かして居つた、大原さんがやつて来るだらう。そしたら十分に敬礼を表し、敬して近付けるのだ。現界においても、大多数盗を擁してゐた豪傑だからのう。俺は畑が違ふから、こればかりは御免だ、天国行の邪魔になると、一生の不利益だからのう』
『ヤツパリお前は利己主義だな。幽界へ来ても自愛と世間愛に執着してゐるから駄目だよ。そんなこと言はずに、男らしく秘密を教へてくれたらどうだい』
『お前達はピユリタンの精神が分らないから泥棒に見えるのだが、人が喜んで献つたものを戴くのは、つまり神様から下さるやうなものだ。神の宝を間接拝受するのだから、盗人ではないよ。お前達は往来の人を掠めて無理往生に取らうとする小盗人だよ。一層のこと、今此処で改心をして俺のお供をしたらどうだい、キツと天国へつれて行つてやるがなア』
乙『オイ甲州、こんな屁古垂爺を相手にしても駄目だぞ。すべて泥棒団体といふものは、こんなヒヨロヒヨロなレストレントの力のないやうな者では、頭に戴いた所で、統一が出来ない、ヤツパリ大原さまのやうな、大悪盗でないと、コントロールの力がないからな』
文助『さうださうだ、畑が違ふのだから、私には駄目だ。元から屁こいたやうな男だから、平兵衛ともいひ文助ともいふのだから』
甲『何と四方のない盲だなア。それなら免除してやるから、キリキリとこの場を立つたがよからうぞ。しかしこの関所は天引峠の二度ビツクリといふのだから、一つ吃驚せなくちや通過は出来ない。ビツクリ箱の蓋があくぞよと、いつも現界で云うて居つただらう。それの実現だから、これから一つ実行にかかるよつて、自由自在に吃驚するがよからう、煩悶苦悩驚愕の権利は、お前が惟神的に保有してるのだから、お手のものだ。イヒヒヒヒ』
『大和魂の生粋の水晶魂のビクとも致さぬ文助だ。幾らなりと吃驚さして御覧。如何なる悪魔も、恐怖も、醜事も、忽ち惟神の妙法によつて、所謂ザブリメーシヨンによつて一掃する神力が備はつてゐるエンゼル様だ。サア、吃驚さしたり吃驚さしたり』
『余り向ふ意気の強い盲滅法界の馬鹿者だから、話にならぬワイ。こつちが吃驚してしまふワイ。サア、キリキリ此処を通れ』
『貴様が通れと云はなくても、自由の権利で通るのだ。桃季物言はず自ら小径をなすというて、チヤンと道がついてるのだ。ヘンお構ひ御無用、お先へ失礼致します。この文助はかう見えても、神様から、重大なるメツセージを受けてゐるのだから、汝等如き泥棒の容喙は許さないのだ。エツヘツヘヘヘ』
と細い目に皺をよせ、笑ひながらコツリコツリと杖を突いて峠を下つて行く。文助は四五町ばかり降つて行くと、其処に形ばかりの屋根があつて、石の六地蔵が並んでゐる。ツと立寄つて、傍の虫の喰ひさがした足の半腐つた鞍掛に腰を打かけ、よくよく見れば古ぼけた柱に墨黒々と楽書がやつてある。見るともなしに目についたのは……盲の宣伝使文助がやがてここを通過するだらう、さうすれば一つ談判がある。黒蛇の一族は此処へ集まれ……と記されてあつた。文助はこれを見て独言、
『ハハア、おれが朝から晩まで、竜人さまだと云つて、黒蛇を書いては信者に渡し、掛字や額に仕立てて祭らしてやつたお蔭で、結構な飲食を供へて貰ひ、黒蛇の奴、俺の行方を大に徳となし、歓迎会でも開きよる積だなア。そらさうだらう。誰一人お給仕をしてくれる者がないのに、虫の分際として大神さま格に祀つて貰ふのだから、喜ぶのも無理はないワイ。あああ人はヤツパリ禽獣に至るまで助けておかねばならぬものかいな。ああ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世。三五教の松彦さまがやつて来てゴテゴテ言ふものだから、黒蛇の画かきも中止してしまひ、松に日輪様ばかりを描いて居つたが、あれから引続いてやつてゐたなら、まだまだ沢山に喜ばれただらうに……何程日輪様を描いた所で、日輪様が喜んで下さる筈もなし、ヤツパリ性に合うた竜神さまを描いてをつたがよかつたのだ。霊不相応なことをすると、却て何にもなりやしないワ』
 かかる所へ妙齢の美人が三人連れで忽焉と現はれて来た。
『モシ、貴方は文助さまぢやありませぬか、私は黒長姫と申します、随分苦しめて下さいましたね。朝から晩まで、松の木にまき付いたなりで、身動きも出来ぬやうな目に遇はし、殺生なお方ですワ。サアこれから御礼を申しませう』
『お前は黒竜神の精霊と見えるが、あれだけ立派に祀らして上げたのに、何が不足なのだ。畜生の分際として、神様として貰つて、喜ぶことを措いて、こんな処で不足を聞く耳は持ちませぬワイ』
『吾々は畜生道に堕ちたもの、霊相応ですから、さやうな神様の席へ上げられ祀られては、目が眩み、頭が痛み、苦しくてなりませぬ。それだから吾々の怨みが塊まつて、お前さまの目が見えなくなつたのだ。分に過ぎた待遇をせられては本当に迷惑だ。お前さまのお蔭で、私達の眷族が幾千人苦しんだか知れやしない。そしてお前さまはこれを祀つておけば、悪事災難が逃れるとか云つて、神様の真似をしたでないか。吾々の眷族を竜神さまだなどと大それた名をつけ、そして大変に神力のある神のやうに言ひふらし、世界の亡者に拝ませて、栃麺棒をふらさした張本人だ。神様の側に祀られて苦しくてたまらなかつたと、皆が云つてゐる』
『そんな不足を聞かうと思うて描いたのぢやない。一人でも世に堕ちた霊を世に上げてやらうと思つて善意を以てしたのだ。チツとその精神も買つて貰はなくちや困るぢやないか』
『ようおつしやいますワイ。世に堕ちた者を世にあげるやうな力が、人間の分際としてどこにありますか。それは皆神様の御権限にあるのだ。神様の神徳を横領せむとするお前さまは天の賊だよ。それだから、こんな天引峠の二度吃驚を通らなくちやならぬやうになつたのだ。エエ恨めしい。これから五体をグタグタに咬み砕いて恨を晴らすから、その積りでゐなさい。そしてお前の身体は黒蛇となり、私達の仲間に入り、奴となつて働くのだ。あのお前の描いた黒蛇には、スツカリお前の霊魂の一部が憑依してゐるから、自然の道理でお前の霊身は蛇となるのは当然だ。お前は口の先で、神様のため世人のためと云つてゐるが、私達の仲間の姿をかいて祀らすのは、所謂ゼルブスト・ツエツクを達せむとする野心に外ならなかつたのだ』
『馬鹿を云ふな。神の道に仕へる者が、どうしてそんな心になれるか、何れも神の大御心に倣うて、虫ケラまで助けようと云ふ真心からやつたのだ。何程大蛇のお前だとて蛇推するにもほどがある。チツとは善意に解して貰ひたいものだな』
『何と云つても、セルフ・プリサベーシヨンのためにしてゐたことは、瞭然たるものだ。お前は神を松魚節にする偽善者だ。なぜ自分は謙遜して、人に頼まれても断りを云はないのだ。厳の御霊の筆先には、御神号や神姿は書く人がきまつてるぢやないか。きまつた方に書いて貰ふのなれば、所謂神様の霊がこもつてゐるから、蛇だつて解脱することが出来るが、権威なき者に描かれては益々苦しみを増し、罪を重ぬるのみだよ』
『それだと云つて、俺もヤツパリ天国の天人団体に籍をおいてる者だ。蛇なんぞを勿体ない、変性男子の御手で描いて貰ふといふことがあるか。俺の絵で満足すべきものだ、余り増長するない』
『ホホホホホ、どちらが増長してゐるのか、よく考へてみなさい。それだから盲聾と神様がおつしやるのだ。今に口笛を吹いたが最後、お前に苦しめられた眷属が此処へやつて来るから覚悟をなさい』
と云ふより早く、ピユーピユーと口笛をふいた。俄に四辺の草も木の片も木の葉も真黒けの蛇となり、一本の角を生やし、波の打ち寄する如く、文助の四辺を力一杯口をあけて襲撃して来た。文助は杖を打振り打振り、キヤアキヤアと断末魔のやうな声を出し、蛇の群を踏み越えて、命カラガラ西北さして逃げて行く。忽ち強烈なる山颪となり、数多の蛇は中空高く舞ひ上り、空を真黒に染めて、文助の走つて行く数百間の前まで飛散してゐる。文助は心も心ならず、神言を奏上しながら、倒けつ転びつ進み行く。

(大正一二・二・九 旧一一・一二・二四 松村真澄録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web