出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語52-3-121923/02真善美愛卯 盲縞王仁三郎参照文献検索
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第一二章 盲縞〔一三四八〕

 灰白の暮色に包まれた野も山も凡ては静かで淋しい。山と山とに挟まれた枯草のぼうぼうと生え茂る細い谷路を、杖を力にトボトボと爪先上がりに登り行く一人の盲者がある。これは小北山の受付にゐた文助の精霊であることはいふまでもない。文助は微酔ひ機嫌で鼻歌を唄ひながら、ボンヤリとした目の光を頼りに、どこを当ともなく歩いてゐたのである。傍の叢にガサガサと音がしたので、ハテ何者が飛出すのかと立止まつて考へてゐた。疎い目からよくよくすかして見れば、労働服を着けた十七八歳の色の黒い青年であつた。
文助『コレお若い衆、どうやら日も暮れかかつたさうだが、お前さま一人こんな処で何をしてござるのだい』
青年『俺は泥棒をやつてゐるのだ。この街道は目の悪い奴ばかりが通過する処だから、俺のやうな甲斐性のない泥棒は、盲でないと性に合はぬから、待つてゐたのだ』
『ハハハハ、私のやうなスカンピンの盲に相手になつた所で、何があるものか。それよりも巨万の金を有て居る盲は世界に何程あるか知れぬぢやないか。総理大臣でも、博士でも、富豪でも、大寺の和尚でも皆盲だ。お前は黒い着物を着て居ると思へば、盲縞の被衣を着たりパツチをはいてるぢやないか、さうすると矢張りお前も盲だな』
『盲にも色々あつて、その盲がまた盲を騙す力のある奴だから、俺たちの盲には手に合はぬのぢや。お前も随分世界の人間を盲にして来た男だが、世間の盲に比べて見ると余程くみし易いとみたから、ここに待ち構へてゐたのだ。サ、持物一切を渡して貰はうかい』
『ハハハハ、盲滅法界な事を言ふ奴だなア。かうみえても、この文助は心の眼が光つてゐるぞ。世間の盲は肉眼は開いて居つても心の眼は咫尺暗澹だが、この文助は貴様の腹の底まで鏡に照らした如く分つてゐるのだ。無理無体に虚勢を張つて恐喝しようとしても、お前の心は既に非常なる脅威を感じ、戦慄してるぢやないか、そんなことで盲を脅かさうなんて、チツと過分ぢやないか』
『何だか、お前に会うてから、俺も泥棒が厭になつた。どうぞ、何処へ行くのか知らぬが連れて行て貰へまいかな』
『貴様のやうな奴を道連れにしようものなら、チツとも安心するこたア出来やしない。送り狼と道連れのやうなものだ、何時スキがあつたら咬み殺すか分つたものぢやない、マア御免蒙つとこうかい。ああ惟神霊幸倍坐世』
『オイ盲爺さま、お前は世間の人間を盲にして、毎日日日地獄界へ案内してゐた癖に、俺一人の盲を捨てると云ふ事があるか』
『馬鹿を申せ、俺は皆人間の霊を高天原へ導いてゐたのだ。それだからこの間も一寸気絶した時に天国を覗いて来たのだ。俺の導いた連中は皆高天原に安住してゐるのだぞ』
『お前、高天原へ行つた時にその弟子に、一人でも出会つたか、滅多に出会はせまい、何奴も此奴も地獄へ墜ちてるのだからな。神の取次皆盲ばかり、そのまた盲が暗雲で、世界の盲の手を引いて、インフエルノ(地獄界)の底へと連れまゐる……といふのはお前の事だよ』
『エ、そんなこたア聞く耳持たぬワイ。何なと勝手にほざいておけ、ゴマの蠅奴が』
『ヨーシ俺も天下の青年だ。青年重ねて来らず、一日再晨なり難しといふ事を知つてゐるか、俺はかう労働服を着てゐるやうに見えても赤裸だぞ。それだから青年重ねて着足らずといふのだ。貴様の上着を一枚所望するから、キツパリと俺に渡せ、裸で道中はならぬからのう』
『丸で三途の川の脱衣婆のやうな事をぬかす奴だな。エエ仕方がない、そんなら一枚恵んでやろ。どうせこの先で婆アに取られるのだから……』
『オイ爺、お前は今幽界旅行をしてゐるといふ事を知つてゐるのか』
『きまつた事だ。一度経験がある。何時の間にやら体がこんな所へ来てるのだから、夢でなければ幽界旅行だ。夢であらうが、幽界旅行であらうが、どちらもユーメ旅行だ。貴様は此処を現界と思つてるのか、オイ黒助』
『コリヤ黒助とは何だ。これでも中には赤い血が通つてるぞ』
『エー、邪魔臭い、羽織を一枚やつたら、エエカゲンに帰つたらどうだ。これから長旅をせにやならぬのに、貴様のやうな奴がついてゐるとザマが悪いワ』
『ハハア、ヤツパリ貴様は偽善者だな。餓鬼虫ケラまで助けるのが神の道だと、小北山で吐いて居つたが、とうと、正体を現はしよつたな。気の毒ながら、どうしてもインフエルノ行きの代物だ、エツヘヘヘヘ、実は地獄界から貴様を迎へに来たのだぞ』
『ヘン、何を吐しよるのだ、そんな事に驚く俺かい。俺は前回において、正に天国に籍のある事をチヤンとつきとめておいたのだ。そんな事を云つて強迫しても、ゴマの蠅の如き者の慣用手段に乗るやうなチヤーチヤーぢやないぞ。勿体なくも大国治立尊様の教を伝達するグレーテスト(最も偉大な)プロバガンディストだ。燕雀何ぞ大鵬の志を知らむや、そこのけツ』
と杖を以て四辺の芝草をメツタ矢鱈にしばき倒しながら、トントンと登り行く。青年は後姿を見送つて、
『アハハハハハ阿呆阿呆、イヒヒヒヒヒインフエルノ行きの文助爺、ウフフフフフうろたへ者の盲爺、エヘヘヘヘヘエクスタシーを知らぬ盲爺、オホホホホホお気の毒さま、今度は地獄の定紋付だ。お前の背中を見い、オツホホホホホ』
と大声に笑ふ。文助は後振返つてその青年を見ると、赤ら顔に耳までさけた大きな口をあけ、舌を五寸ばかりはみ出して、厭らしい面して腮をしやくつてゐる。文助は惟神霊幸倍坐世と幾回となく繰返しながら、山と山との谷道を一目散に進んで行く。

(大正一二・二・九 旧一一・一二・二四 松村真澄録)



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