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物語52-1-61923/02真善美愛卯 梟の笑王仁三郎参照文献検索
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第六章 梟の笑〔一三四二〕

サール『初稚姫に従ひて  ハルナの都に進まむと
 イクと二人が云ひ合せ  一足先に失敬して
 河鹿峠の上り口  樫の大木の麓にて
 神算鬼謀を廻らしつ  否応云はさず御供の
 許しを受けむと三番叟  折角企んだ芸当も
 忽ち画餅となりぬれば  最後の手段と首を吊り
 初稚姫を驚かし  有無を云はせず御供に
 仕へむものと思ひしが  これも矢張当はづれ
 忽ち熊と変化して  睨み給ひし怖ろしさ
 魂奪はれ魄消えて  絶え入るばかり戦けど
 弱味をみせては叶はじと  吾と心を励まして
 御後を慕ひすたすたと  曲神の集ふ山口の
 森の手前にかかる折  夜はずつぽりと暮れ果てて
 黒白も分かずなりにけり  忽ち見ゆる大火光
 これぞ全く大神の  吾等を守りたまへるかと
 喜び勇み近づけば  形相実にも凄じき
 二つの鬼が立つて居る  これぞ全く姫様が
 吾等を嚇して帰さむと  企み給ひし業ならむ
 素性の分つた化物に  如何でか怖れ縮まむや
 二人は傍にかけよつて  平気の平左でかけあへば
 初稚姫に非ずして  正体の知れぬ妖魅界
 意想外なる古狸  蜈蚣の奴がやつて来て
 吾等二人を刺し殺し  悩めむとして待ち居たる
 危き所をあら尊  天を照らして降りくる
 光眩き大火光  吾等が前に現はれて
 四辺隈なく伊照らせば  遉の魔神も戦慄し
 雲を霞と逃げて行く  火団は忽ち縮小し
 一寸ばかりの玉となり  清き光を現はして
 吾等を守りたまひけり  ああ有難や尊やと
 感謝の言葉捧げつつ  知らず知らずに眠りけり
 烏の声に驚きて  眼をさまし眺むれば
 水晶玉がただ一個  二人の間に置いてある
 これぞ全く皇神の  闇夜を照らす御宝
 吾等二人が赤心に  感じて天より宝玉を
 下させ給ひしものなりと  押し戴いて懐に
 いと叮嚀に納めつつ  勇気は頓に加はりて
 百草萠ゆる春の野を  心いそいそ進み往く
 ああ惟神々々  かくも尊き御守り
 吾等に下らせ給ふ上は  如何でか曲を怖るべき
 闇夜を照らす宝玉の  光と共に何処までも
 初稚姫の後追うて  御供に仕へ奉らねば
 男の顔が立つまいぞ  イクの司よ気をつけて
 サールの後について来い  野中の森も近づいた
 それから先は小北山  珍の聖場がありと聞く
 もしや初稚姫様は  その聖場に道寄りを
 なさつてござるぢやあるまいか  吾々二人はともかくも
 小北の山に参詣で  神に願をかけまくも
 畏き所在を探ねだし  初心を貫徹せにやならぬ
 ああ惟神々々  三五教の大御神
 何卒吾等両人が  この願望を逸早く
 許させたまへと願ぎまつる』  

と歌ひつつ行く。

イク『朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも落つるとも
 海はあせなむ世ありとも  大和男子の益良夫が
 一旦思ひ立ちし事  通さにやおかぬ弓張の
 月に誓ひて突き貫かむ  初稚姫はスマートを
 伴ひ一人出でませど  妖幻坊の曲津見や
 高姫司がいろいろと  姿を変じ待ち構へ
 もしも艱ませまつりなば  大神業は如何にして
 完成すべき道やある  神の司は綺羅星の
 如くに数多ましませど  この姫君に勝りたる
 神の司は稀なれば  吾等はたとへ死すとても
 初稚姫の御前を  助け守らにや居らうまい
 身も魂も打ち捨てて  神に仕ふる吾々は
 如何なる敵も怖れむや  野は青々と生ひ茂り
 風暖かく薫りつつ  蝶舞ひ遊ぶ野辺の花
 菫、蒲公英、紫雲英  咲き誇りたる道の上
 その中心を進み往く  吾等は天国浄土をば
 旅行なしつる心地なり  ああ惟神々々
 初稚姫の御上を  守らせたまへ大御神
 珍の御前に願ぎまつる』  

と歌ひつつ道を急ぎ行く。
 道の片方の榛の木の下に、一人の美人が黒い犬をつれて首をうなだれ、真青な顔をして何か思案に沈む風情であつた。イク、サールの両人は十間ばかり道を隔てた田の向ふに女の立つて居るのを眺め、つと立留まり、
『オイ、サール、あの女は初稚姫様によく似て居るぢやないか。そしてスマートによく似た犬まで傍について居る。一つお尋ねして見ようぢやないか』
『ウン、一寸見た所ではよく似てござるやうだが、些し顔が長いなり、背が高過ぎるぢやないか。そしてあの犬もスマートから見れば、どこともなしに容積がないやうだ。また昨夜の曲神奴が第二の作戦計画を立てよつて、吾等を艱めようとして居るのかも知れないぞ。うつかり相手になつては不利益だから、見ぬ顔して行かうぢやないか』
『それもさうだが、何だか心配さうな顔をして居るぞ。彼処は川側だから、身投げでもする積りぢやなからうかな』
『サア、あの様子では何とも判別がつかないよ。まアしばらく此処で様子を考へようぢやないか』
『ウン、よからう』
と、二人はしばし女の挙動を看守つて居た。忽ち女は榛の木に細帯を投げかけ、プリンプリンとぶら下つた。傍に居た黒犬は悲鳴をあげ、二人の方に向ひ、前足で空をかきながら救ひを求むるものの如くであつた。
『オイ、サール、俺達の後継が出来たぢやないか、随分苦しさうにやつてけつかる。何と無細工なものだなア、あれを見い、洟を垂らしよつて、あの態つたら見られたものぢやない。初稚姫様が吾等のブリブリして洟をたらした姿を眺められた時にや、何とした馬鹿な奴だ、情ない男だとキツト思はれたに違ひないぞ。人の姿見て吾姿直せと云ふ事があるからなア』
『オイ、イク、そんな気楽な事を云うて居る所ぢやないよ。人の危難を見て批評所ぢやない。グヅグヅして居ると絶命れてしまふから、サア貴様と二人で助けてやらうぢやないか』
『初稚姫様は、女の身として荒男の首吊り二人まで御助けなさつたのだ、高が女の首吊り一人に男が二人まで行かなくても貴様一人で結構ぢや。俺は此処で水晶玉の御守護をして居るから……汚れたものに触ると玉が汚れるからのう、貴様往つて助けて来い』
『何だか気分が悪くて仕方がない、イクよ、せめて傍までついて来てくれないか。さうしたら俺が一人で助けてやるから』
『エエ意気地のない男だなア、サア行かう』
とサールを促し榛の木の下に歩を急いだ。女は真青になつて、最早手足も動かず、ブラリと吊柿のやうに垂つて居る。サールは、手早く女を抱き、
『アヽ何と柄にも似合はぬ重い女だなア、此奴ア化州かも知れぬぞ』
と云ひながら助け下した。女は漸くにして気がついたらしく、キヨロキヨロ其処辺を見廻し、
『ああお前さまは何処のお方か知らぬが、私が折角天国の旅をしかけて居る所を、殺生な、なぜ邪魔をするのだい。よい加減に人を助ける宣伝使が悪戯をして置きなさいよ』
と礼を云ふかと思へば、反対に女は仏頂面をして怒り出した。
『オイ、何処の女か知らぬが、命を助けて貰うて不足を云ふものが何処にあるかい、のうイク、こんな事なら助けてやるぢやなかつたに、チエー馬鹿にしてけつかる。ハハ此奴はキ印だな』
『キ印でも構うて下さるな。朋友でもなければ親類でもなし、お前さまに助けられる理由が無いぢやないか』
サール『それだつてこの犬奴、一生懸命俺の方に向いて救ひを求めたものだから、忙しい道中を繰合せて助けに来てやつたのだ』
『ヘン阿呆らしい、犬が物言ひますか。お前さまも見た割りとは馬鹿だな。人の目的の邪魔をして置きながら、礼を云へなどとは以ての外だ。これ位分らぬ馬鹿野郎がまたと世界にあるだらうかなア、私は死ぬのが目的だ。その目的を妨害して置いて何だ、お礼を云ふの云はぬのと……謝罪りなさい、怪しからぬ人足だ』
イク『こりや女、俺達を馬鹿だとは何だ。余り口が過ぎるぢやないか。貴様は死ぬのが目的だと申したが、死んでどうする積りだ。エーン、何ぞいい目的があるのか』
『ヘン馬鹿だなア、お前達に霊界の事が分つて耐らうかい。馬鹿と云うたのは外でもないが、今の世の中は命がけの事をして人を助け、さうして世界の人間から褒めて貰はうと考へたり、一口の礼でも云つて貰はうと考へる奴ばかりだ。それだから馬鹿と云ふのだよ。命を助けてやつた女に、眉毛を読まれ、尻の毛をぬかれ、現をぬかし、涎を繰り、終には先祖譲りの財産まですつかり取られる馬鹿の多い世の中だよ。貴様達も俺が女だと思うて助けに来たのだらう。どうだ、これから骨を抜き取り、章魚のやうにグニヤグニヤに蕩かしてやらうか。俺の目は千両目と云うて、一瞥よく城を傾け、山林を吹き飛ばす威力を持つて居るのだぞ。俺のやうな者が娑婆を離れて霊界に行つたならば、娑婆の邪魔者がなくなつて、人民がどれ位喜ぶか知れないのだ。また生かしやがるものだから、この涼しい目をもつて腰抜野郎を片つ端から骨を抜き、足腰の立たぬやうに殺生をしなくてはならぬワイ。貴様は一人を助けて大きな害を世の中に拡げようとする頓馬だから馬鹿と云つたのだ。これ二人の馬鹿野郎、分つたか。分つたら犬蹲となつてお断りを申せ』
『何とまア、理窟と云ふものは、どんなにでもつくものだなア。まるで高姫や黒姫のやうな事を吐すぢやないか、のうイク』
 イクは、
『フン』
と呆れ果て、女の顔を打ち眺め、
『こんな優しい顔をしながら、どこを押へたら、あんな悪垂口が出るのだらうか』
と頻りにみつめて居ると、女は、
『馬鹿』
と一声イクの横面を張り倒した。イクはヨロヨロとよろめいて田圃の中に倒れた。犬はイクの懐の水晶玉をくはへるや否や、一生懸命に駆出した。サールは、
『こりや畜生待て』
と叫ぶのを見て、女は手を拍つて笑ひ、
『ホホホホホ、馬鹿だな、俺は昨夜山口の森で貴様を嚇さうとした怪物だ。貴様に水晶玉を持たせて置くと俺達の邪魔になるから、計略を以て取つてやつたのだ。アバヨ、イヒヒヒヒ』
と白い歯を出し、腮をしやくりながら大狸の正体を現はし、南をさして雲を霞と逃げ出した。サールはイクを抱起し、ブツブツ小言を言ひながら、ともかくも小北山の聖場に参拝せむと、間抜けた面をして力なげにトボトボと進み行く。傍の密樹の枝に梟がとまつて、
『ホー、ホー、ホー助、ホー助、ころりと取られたなア、ホー、ホー、ホー助、アツポー アツポー』
と啼いて居る。

(大正一二・一・二九 旧一一・一二・一三 加藤明子録)



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