出口王仁三郎 文献検索

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物語52-1-31923/02真善美愛卯 楽屋内王仁三郎参照文献検索
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第三章 楽屋内〔一三三九〕

 イク、サールの両人は、裏口より森の中に道をとり、二三町ばかり水浅き谷底を潜つて本街道に出で、それより山口の森に駆けつけ、初稚姫に、如何なる手段を以てしても随行を許されむ事をと一生懸命に歌を歌ひながら急坂を下り行く。

イク『バラモン軍に従ひて  清春山の岩窟に
 留守居を勤めゐたる折  松彦、竜公現はれて
 伊太公司を迎へとり  三五教に帰順した
 その赤誠にほだされて  吾等も全く大神の
 教に帰順し奉り  祠の森に奉仕して
 今まで勤め来りしが  天の八重雲かき分けて
 降り給ひし宣伝使  初稚姫の神徳に
 心も魂も奪はれて  今は全く三五教の
 正しき信者となりにけり  さはさりながら斎苑館
 神の司は綺羅星の  如くに数多ましませど
 愛と善との権化とも  云ふべき司は稀ならむ
 初稚姫の神人を  おいて吾等を救ふべき
 誠の神はあらざらめ  吾等はこれより御後をば
 何処々々までも慕ひ行き  その神徳に照らされて
 誠の道の御使と  選まれ生きては地の世界
 死しては霊国、天国の  教司と任けられて
 人生最後の目的を  完全に委曲に遂行し
 天地に代る功績を  立てねばおかぬ二人連れ
 進めよ進め、いざ進め  山口さして逸早く
 岩石起伏の谷道も  何のものかは高姫や
 妖幻坊が途中にて  あらゆる魔法を使ひつつ
 吾等を艱め攻むるとも  何かは恐れむ敷島の
 大和男の子の益良夫が  神の光に照らされて
 悪魔の猛る山道を  最急行で突破する
 この首途ぞ勇ましき  「ウントコドツコイ ドツコイシヨ」
 そろそろ坂がきつなつた  サールの司、気をつけよ
 即ち此処が妖幻坊や  醜の司の高姫が
 出現したる場所ぞかし  「ウントコドツコイ」やつて来い
 今度は俺は大丈夫  百万人の力をば
 一つにかためた宣伝使  初稚姫を始めとし
 スマートさまが出てござる  妖幻坊の百匹や
 高姫万匹来るとも  もうかうなれば磐石よ
 ああ面白し面白し  神に任せしこの身体
 神の御ため世のために  一心不乱に走り行く
 「ウントコドツコイ、ヤツトコシヨ」  サールの司何してる
 何程お前のコンパスが  俺に比べて短いと
 云つてもこれまたあんまりだ  滅相足の遅い奴
 愚図々々してると姫様が  後姿を御覧じて
 こらこら待てよ両人と  呼止められたら何とする
 折角智慧を搾り出し  ここまで企んだ狂言が
 水泡に帰してしまふぞや  ああ惟神々々
 御霊幸はへましまして  初稚姫の神司が
 吾等二人を快く  長途の旅の御供を
 許させ給ふ計らひを  廻らせ吾等が一念を
 遂げさせ給へ大御神  珍の御前に願ぎ奉る
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 大地は泥に浸るとも  思ひ立つたるこの首途
 ひきて帰らぬ桑の弓  何処々々までも従ひて
 初稚姫の神格に  照らされ吾等が本分を
 尽さにやおかぬ大和魂  ああ勇ましし勇ましし
 これにつけてもハル、テルや  イルの奴等は馬鹿者だ
 気転を利かして何故早く  お先へ失敬せなんだか
 ヤツパリ智慧のない奴の  する事ア何処かに間がぬけて
 まさかの時には空気ぬけ  思へば思へば面白い
 守らせ給へ惟神  神の御前に願ぎまつる』

 サールはまた歌ふ。

『「ウントコドツコイ ドツコイシヨ」  何時来て見てもこの坂は
 行歩に苦しむ難所だな  これ待てしばしイクの奴
 それほど慌てて何にする  初稚姫の御司は
 後からござるに違ひない  まアボツボツと行くがよい
 もし過つて転けたなら  弱味を見すまし高姫や
 妖幻坊が現はれて  先度のやうにえらい目に
 遇はしよつたら何とする  さきにはスマートに助けられ
 またも今度はスマートに  九死一生の所をば
 助けて貰ふ目算か  それはあんまり虫がよい
 柳の下に二度三度  鰌は居らぬと云ふ事を
 お前は合点してゐるか  前車の顛覆するを見て
 後車の必ず戒めと  なせとの教を忘れたか
 猪武者にもほどがある  三五教の御教に
 退却なしと云つたとて  猪突猛進することは
 チツとは考へ物ぢやぞよ  あああ足の早い奴
 姿が見えなくなりよつた  この坂道を矢のやうに
 走つて行つたが目がくらみ  またもや石に躓いて
 スツテンドウと顛覆し  向脛打つてウンウンと
 苦しみながら笑ひ泣き  屹度してるに違ひない
 急げば廻れと云ふ事だ  一足々々気をつけて
 俺はボツボツ進みませう  「オツト、ドツコイ」きつい坂
 足を踏み込む所はない  もし過つて辷つたら
 それこそ命の捨て所  何程下賤の身なりとも
 ヤツパリ神の生身魂  かからせ給ふ生宮だ
 人は持身の責任を  忘れてこの世にたてよまい
 何程身魂が偉くとも  現実界に働くは
 どうしても体が必要だ  霊肉ともに完全に
 保全しまつり大神の  大神業に仕ふるは
 人の人たる務めなり  ああ惟神々々
 神の恵の幸はひて  吾等二人は恙なく
 この急坂を駆け下り  初稚姫のおでましを
 行手の森で待ち迎へ  千言万語を費して
 御供に供へまつるべく  あらゆるベストを尽すべし
 それでも聞き入れ給はずば  皇大神の御守護で
 初稚姫の体をかり  その言霊を使用して
 御供を許させ給ふべし  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  この目的を達せねば
 吾等二人は死すとても  祠の森へは帰らない
 吾誠心を憐れみて  許させ給へ大御神
 珍の御前に願ぎまつる  「ウントコドツコイ ドツコイシヨ」
 そろそろ道が緩うなつた  大方此処等でイク公が
 息を休めて居るだらう  大難関も恙なく
 突破したるに違ひない  これも全く神様の
 清き尊き御守護  嬉しく感謝し奉る』

と歌ひながら、細い谷道をトントントンとイクと二三町の間隔を保つて、木の間に見えつ隠れつ、漸くにして山口の樫の大木の麓に着いた。
『おいサール、どうだ。随分足が遅いぢやないか。鉄の草鞋を穿いても、もちと早く来れさうなものだ。俺が此処に着いて冷たうなつてるのに、まだ貴様の姿が見えぬので、またも途中で妖幻坊に出会し、やられてゐるのぢやなからうか、もしさうだつたら貴様の骨なつと拾つてやらうと、聊か御心配をしてござつた所だ。まアまア無事に此処までやつて来たのは聊か褒めてやる。しかしながら貴様の顔は何だ。真黒気ぢやないか』
『俺は館の裏から抜け出す時に、見つかつては大変だと思ひ、貴様の後から炭俵を被つて跟いて来たものだから、ヒヨツとしたら炭の粉が着いたのかも知れぬわ。何だか其処辺中が鬱陶しくなつて来たやうな気がするわい』
『ハハハハ、炭俵を被つて汗をかいたものだから、うまく炭汁の調和が出来て、貴様の顔は草紙のやうだ。しかしその炭俵はどうしたのだ』
『何処で落したか、捨てたか、そんな事を考へてる余裕があるかい。貴様が俺を捨てて一生懸命駆けだすものだから、先も見にやならず、足許も気をつけにやならず、本当に辛い目をして、神様を念じつつ漸く此処に着いたのだ。幸ひ此処に谷川が流れてゐるから、顔や手を洗つて来るから貴様待つて居てくれ。まだ姫様がおいでになるのは余程間があるだらうからな』
『待て待て、その黒いのが大変都合のよい事がある。貴様の顔はどつち向いてゐるか分らぬ位黒いぞ。これで一つ狂言をやつて姫様の心を動かし、うまく御供をさして頂くのだな。俺も一つ何か顔に塗りたいものだが、何ぞ都合の好いものはあるまいかな』
『実は楓さまが使つてゐる白粉を、何気なしに懐へ捻込んでやつて来た。これを貴様にやるから、貴様は顔一面に塗つて、色の白き尉殿となり、俺は幸ひこの黒い顔で黒い尉殿となり、元の屋敷へお直り候……とかますのだ。さうすると初稚姫様が、もとの祠の森へ帰つて下さるかも知れぬ。もし帰つて下さらなかつたら、直様帯を解いてこの樫の木にフイと引懸つて、腮を吊つてプリンプリンとやるのだな』
『やあ、それは面白い』
とサールの懐にあつた白粉をとり、顔にベタベタと塗りつけると、顔の頬一面に生えてゐる髯に白い粉がひつついて、まるで白狐のやうになつてしまつた。二人は恰好な木の枝を折り、片手に扇を持ち、片手にその梢を鈴と看做して、樫の元に初稚姫の進み来るを待ち構へ、姿が見えたら一斉に三番叟の舞を初めむものと、いろいろと工夫を凝らして待つてゐる。

(大正一二・一・二九 旧一一・一二・一三 北村隆光録)



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