出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語51-4-201923/01真善美愛寅 狸姫王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 狸姫〔一三三五〕

 ガリヤ、ケース他四人は大門を潜つた。さうして天女のやうな八人の美人の姿に見惚れて居た。その中で一番年かさと思しき女、揉み手をしながら言葉優しく、
『これはこれは三五教の宣伝使様、ようこそお出で下さいました。妾は如意王の娘初花姫と申します』
ガリヤ『イヤ吾々は宣伝使ではございませぬ。これより斎苑の館に修業に参り、旨く合格すれば初めて宣伝使になるのでございます。さうして私が三五教だと云ふ事は、どうしてお分りになりましたか』
『ハイ、四ケ月以前より月の国コーラン国から此処まで国替を致しまして、俄造りの城廓を拵へ住まつて居ります。今まではウラル教でございましたが、バラモン教に追立てられ此方に参りました所、三五教の宣伝使初稚姫様がお出になり、いろいろと御教訓下さいましたので、両親は直ちに三五教に帰順し、今は熱心な信者でございます。さうして初稚姫様が奥殿にお留まりになり、結構なお話を聞かして下さるのだから、城内一般の喜びは譬がたないほどでございます。さうして初稚姫様のお言葉には、三五教の方が三四人見えると云ふ事でございましたから、侍女を連れ、此処までお迎へ旁遊びながら参りました。サア御遠慮はいりませぬ、どうぞお通り下さいませ』
『ヤアそれは願うてもない事でござる。初稚姫様は既に宣伝の途に上られ、斎苑の館へ参つても到底御面会は叶ふまいと覚悟をして居ました。此処で御目に懸れるとは全く神様の御引き合せ、イヤ是非ともお世話に預かりませう』
ケース『吾々両人は四ケ月前まで、バラモン軍の棟梁ランチ将軍の副官を致して居りましたガリヤ、ケースでござります。何時の間にか立派な建築が出来たぢやありませぬか』
『昼夜兼行で数万の人夫を使役し、やつとこの頃出来上つた所です。御覧の通りまだ壁も乾いて居りませぬ』
『成程さう承はれば、どこともなしに生々しいやうな気分がする。しかしながら昨冬此処に陣取つて居た事を思へば、木の芽はめぐみ、草は萌え、まるで地獄から天国へ行つたやうな気が致します』
『サア皆さま、私が御案内致しませう』
初『もし姫様、折角機嫌よくお遊びの途中になつては済みませぬ。放つて置いて下さいませ。しかし一寸物をお尋ね致しますが、このお館には高姫、杢助と云ふ両人が大将となつて頑張つて居ると聞きましたが、如何でございませうか』
『ハイ、杢助様と高姫様がお越しになり、ウラナイ教とやらを非常にお説きになつて居ます。初稚姫様のお話を聞いて、次に御両人のお話を聞きますと、それはそれは詳しう分ります。つまり初稚姫様は、ほんの概略をおつしやるなり、杢助、高姫様は噛んで含めるやうに細かう説いて聞かして下さるので、どちらの方にもお世話になつて居ります』
徳『エエ一寸承はりたいですが、このお館に小北山の教主松姫様が、牢獄に打ち込まれお苦しみとの事、それは事実でございますか。今ここに松姫の娘、お千代さまと云ふのが、泣いて吾々に頼まれましたから、実否を探らむと参つたのです。どうぞ包み匿さず事実をおつしやつて貰ひたいものですな』
『ハイ、何でも松姫さまとかが見えまして、大変な、高姫様、杢助様との間に争論が起つて居たやうです。その後は、どうなつたか妾は存じませぬ。大方仲直りが出来たかと存じます』
千代『イエ皆さま、お母さまは牢の中へ打ち込まれたのよ。さうしてこの初花姫さまに化けて居るのは、妖幻坊の眷族ですから用心なさいませ。私だつてこんなものよ』
と云ふより早く獅子のやうな古狸となつて、ノソリノソリと奥を目蒐けて這ひ込んでしまつた。お菊はまたもや、
『をぢさま左様なら、私の正体はこれだわ』
と云ふより早く、以前のやうな大狸となつてまたもや駆け込んでしまふ。
 四人の男は不審に堪へず、初花姫の正体を見届けくれむと、眼を怒らして目ばなしもせず睨んで居た。
『ホホホホ、まア皆さまの六つかしいお顔、サウ睨んで頂くと私の顔に穴があきますよ。この浮木の森には古狸が居まして、チヨイチヨイ ワザを致しますので、それを防ぐために三五教の神様をお祀りして居るのでございますよ。貴方等の御神力によつてあの可愛らしい女の正体が現はれたのですよ。何が化けて居るのか分つたものぢやありませぬ。ほんに化物の世の中ですからな。妾も何かの変化ぢやないか、よく調べて下さい』
ガリヤ『イヤ決して決して貴女は疑ひませぬ。しかし浮木の森は妖怪の巣窟ですから、斯様な所へお館をお建てになれば、随分狸の巣がなくなるから、ワザを致しませう』
『ハイ父も困つて居ますの、自分の小間使だと思つて居れば、毛だらけの手を出したりして仕方がありませぬ。どうぞ初稚姫様が居られますから、あの方と力を合せて妖怪退治をして下さい。高姫さま、杢助さまも何だか怪しいやうな気がします。中にも杢助さまなぞは耳がペロペロ動くのですもの』
ケース『成程、吾々も実は狸に化かされ、真裸になつて相撲を取らされて来ましたよ、なア初さま、徳さま、アハハハハハ』
『ホホホホ、本当に悪い狸が沢山居ますので、何とかして退治せねばならないと申して沢山の家来を四方に遣はし狩立てましたけれど、到底人間の力ではいけませぬ。神力高き御方の法力によらねば駄目だと申し、俄に信仰を致したのでございます。サア斯様な所で立話をして居ては詮りませぬ。どうぞ奥へ行つて休息して下さいませ』
ガリヤ『しからば遠慮なく御厄介になりませう』
と幾つかの門を潜つて玄関口についた。
『サアどうぞお入り下さいませ。俄作りで準備も整はず、不都合の家でございます』
ケース『いやどうも有難う、実に立派な御殿でございます。以前とは面目を一新し、吾々が駐屯して居た時の面影は少しもございませぬ。まるで別世界へ行つたやうでございます』
ガリヤ『サア皆さま、御免を蒙つて通らして頂きませう』
『ハイ』
と一同は初花姫他七人の美女に後先を守られて、奥へ奥へと進み行く。観音開きの庫のやうな一室に請ぜられた。以前にランチ、片彦両人が請ぜられた居間である。五脚の椅子が丸いテーブルを中にして行儀よく並べてある。さうして随分広い居間であつた。初花姫は四人を案内し各椅子に着かしめた。四人は何とはなしに気分のよい居間だと、満足の体で安全椅子に凭れかかり、欄間の彫刻などを眺めて頻りに褒めちぎつて居る。初花姫は、
『一寸父に報告を致して来ますから、皆さま此処で御休息を願ひます。左様なら』
と軽く挨拶して七人の侍女を伴ひこの場を立ち去つた。四人は八人の女の綺麗な事や、何ともなしに淑やかな事、どれもこれも優劣のない美人なる事などを涎を垂らして語り合つて居る。初公は思ひだしたやうに、
『皆さま、吾々はかうして結構な座敷に休んで居るのもよいが、此処へ来た目的は松姫さまを救ひ出すためではなかつたかなア』
ガリヤ『そりやさうだつた。しかしお千代、お菊と云ふ奴、劫経た狸の正体を現はしよつたぢやないか。あれから見ると吾々は一寸狸に騙されよつたのだ。さうすると、あいつの云ふ事は当にならぬ。松姫様の此処に囚はれて居るのは全く嘘だと思ふが、君達はどう思ふ』
『サア』
と三人は首を捻つて居る。そこへ光つたものを衣服一面に鏤めた妙麗の美人が、ドアを開いてニコニコしながらやつて来た。最前見た初花姫以下も美しかつたが、これはまた素的滅法界のナイスである。そして背は少し高く、どこともなしに犯すべからざる威厳が備はつてゐる。四人は思はずハツと頭を下げ敬意を表した。美人は一脚の空椅子に腰を下し淑やかに、
『妾は三五教の宣伝使初稚姫でございます。よくまアお越し下さいましたなア』
『拙者は治国別様の弟子でガリヤと申します。どうぞお見知りおかれまして御指導を願ひます』
『拙者はケースと申します、何分宜敷くお願ひ申します』
『某は初公別と申します』
『拙者は徳公別と申す、未来の宣伝使でございます。何分宜敷く、万事お引き立てを願上げ奉ります』
と、ド拍子のぬけた声で挨拶をする。
『早速ながら貴方等にお願ひ致したい事がございます。それは外の事ではございませぬ。杢助、高姫と云ふ三五教におけるユダがこのお館へ旨く入り込みまして、妾の説を極力攻撃致し、またランチ、片彦の両人を石牢に打ち込み、その上松姫様まで何処かへ匿してしまつたのでございます。彼高姫、杢助は狸を使ひまして人の目をくらまし、変幻出没自在の魔力を発揮致しますれば、妾一人のみにては如何ともする事が出来ませぬ。誰かのお助けを借りたいと大神様を念じて居ました。所が明日は三五教の信者を四人ばかり寄こしてやらうとおつしやつたので、首を長くして待つて居ました。城主如意王様も初花姫様も大変な御心配でございます。どうかお力をお貸し下さいますまいか』
ガリヤ『ハイ、お頼みまでもなく吾々は一旦主人と仰いだランチ、片彦様の御遭難を聞いて、これが黙つて居られませうか。最早義のためには命を捨てます。なあケース、一つ獅子奮迅の活動をやらうではないか』
ケース『イヤやりませう、姫様、御心配なさいますな。きつと悪魔を退治してお目にかけませう。高姫、杢助、如何に妖術を使ひましても、此方には正義の刃がありますから、大神の愛善の徳と信真の光によつて、見事化を現はしてお目にかけませう』
『何卒よろしくお願ひ致します』
初『吾々と雖もお師匠様の松姫様を、どうしても取返さなくてはなりませぬ。徳公と両人力を協せて高姫、杢助の魔法を破つて御覧に入れませう』
『館の様子はほぼ呑み込んで居りますれば、ランチ、片彦様初め松姫様の在処を力を協せて探し出し救ひ出して頂きませう。ただ些し心配なのは松姫様の事でございます。何でも水牢に放り込んだのではあるまいかと存じます』
初『猪口才な高姫、杢助、今に見よ、思ひ知らしてくれるぞ』
と思はず知らず大音声に呼ばはつた。慌しくドアを押開けて入つて来たのは杢助、高姫の両人であつた。両人は棒千切を振り上げ、初稚姫の左右より目を怒らせながら、
杢助『ヤア初稚姫、よくも吾々が計略の穴に陥つたなア、覚悟致せ』
と打つてかかる。初稚姫は椅子を取つて受け留める、高姫はまた棍棒にて空気を切りブンブン唸らせながら、
『ヤア初稚姫、覚悟を致せ、観念せい』
と一人の女に二人の男女が渡り合ひ、互に秘術を尽して戦ふ。四人は黙視するに忍びず、各椅子を取つて、杢助、高姫に打つてかかる。七人は渦をまいて室内を荒れ狂ひ、漸くにして高姫、杢助は隙を窺ひ棍棒をなげつけ、雲を霞とこの場を逃げ出した。
 初稚姫は涙ながらに四人に向ひ、急場を救はれし事を感謝した。

(大正一二・一・二七 旧一一・一二・一一 加藤明子録)



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