出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語51-4-191923/01真善美愛寅 偽強心王仁三郎参照文献検索
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第一九章 偽強心〔一三三四〕

 ガリヤはケースに、
『どこで着物を脱いだか』
と尋ねて見た。ケースは、
『あまり相撲に呆けてゐたので、脱ぎ場所を忘れた。大方狸の野郎くはへて去んだのだらう』
と答へた。
『それでも何処かにあるだらう』
と一生懸命探して見たが、杖が一本あるばかりで着物らしいものはない。
ケース『此奴狸の奴、敷物にしようと思つて、狸穴へくはへて行きよつたのだなア。えー残念だ』
と歯ぎしりしながら北へ北へと進んで行つた。丁度一間巾ばかりの青藻を被つた川流れがある。そして深さは四寸位平均になつてゐる。三人は交代に川に横たはり、水を淀めて川端の草を千切り、手拭に代用して体中を擦り、臭気を漸くにして洗ひ落した。
ケース『さア、これで裸百貫だ。人間はここまで落ちぶれなくちや力が分らない。これから一日々々暖かくなるのだから裸でも結構だ。おい初公別、徳公別、急いで斎苑の館へ参る事にしよう』
初『おい徳、小北山へ寄れば、古着の一枚位は何とか云つて貰へるだらうけれど、一寸義理の悪い事がしてあるので、こんな時には立寄る訳にも行かぬわ。ああ困つたな』
と手を組んで思案をしてゐる。何処ともなくフワリフワリと笠に蓑、衣類などが三人前降つて来た。三人は手早く拾ひとり、よくよく見れば自分の着物だ。そして何時の間にか、カラカラに乾き、何程嗅いで見ても臭気は除いてゐる。そして強い糊をしたものかパチパチに固くなつてゐる。
初『ハハア、狸の奴、神様に叱られよつて到頭洗濯をやりよつたのだな。のう徳、これだから信仰はやめられぬのだ』
 徳は嬉し涙を零し両手を合せて、
『惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』
と感謝してゐる。しかしその実は菰の半腐つたのが立派な衣服に見えてゐたのである。三人は嬉しさうにチヤンと着替へ、
『さア、これで大丈夫だ。愈斎苑の館へ行かう』
 初、徳両人は慌てて引き留め、
初『もしもし、貴方、一寸待つて下さい。三五教の強敵がこの近辺に隠れてゐるに違ひありませぬから、一遍其奴を平げておいでになつたらどうです。貴方等もよい土産になりますよ』
ガリヤ『三五教の強敵とは誰の事ですか』
『斎苑の館の総務をやつて居つた時置師神の杢助と宣伝使の高姫と云ふ奴です。彼奴、この頃大変な謀叛を起して居りますよ』
『治国別の先生から承はれば、高姫さまはどうも怪しいが、杢助さまは三五教の柱石だと聞いてゐたのに、それはまた妙な事を承はるものだな』
『それが猫を被つてるのですよ。祠の森の聖場を占領せむとして尻尾を出し、高姫と夫婦となつて小北山へ逃げ来り、小北山の聖場でまたもや謀叛を企み、神力にうたれて逃げ出し斎苑の館の御宝物、金剛不壊の如意宝珠を奪ひ取つて逃げて来よつたのです。どうしてもあの宝を取返さなくては、三五教も玉ぬけですからな』
ケース『何、そんな事があつたのか。どうも人間と云ふものは分らぬものだな。ガリヤさま、こいつは一つ聞き棄てにはなりませぬぞ。この両人を案内者として、何処に居らうとも彼奴の在処を索め、その宝を奪ひ返して行かなくては吾々の役が済みますまい』
ガリヤ『そりや、さうです。おい御両君、その杢助、高姫は何方へ行つたかな』
徳『怪志の森から此方へスタスタと二三日前に走つて来よつたのです。此処は一筋街道だから、貴方怪しいものに出会ひませぬか。五十位な女と同年輩の大男と二人ですよ』
ケース『ガリヤさま、根つから、そんなものに出会ひませぬな。さうするとこの浮木の森の奥の方の小山にでも隠れてゐるのかも知れませぬぜ。ともかく吾々は一生懸命に探さうぢやありませぬか』
ガリヤ『承知しました。初さま、徳さま、さアこれからこの萱野ケ原を探して見ませう。吾々の声を聞いて恐れをなし、潜伏してるかも知れませぬよ。しかしこれだけ広い原野なり、萱も伸びてゐるから、互に連絡を図つて、五間以上離れないやうにして探しませう』
『ハイ、よろしからう』
と評議一決し、萱草の生え茂つたのを小口おしに探しつつ、奥へ奥へと進み入つた。
 後の方から、
『オーイ オーイ』
と甲声を出して招くものがある。四人は後振返り見れば、一人は十二三、一人は十六七の綺麗な娘が一生懸命に道傍の高い石の上から差招いてゐる。初公は耳を傾け、
『やアあの声はお千代さまにお菊さまだ。こりや何か変つた事が出来たに違ひない。おい徳、一先づ後へ帰らう。もし御両人、御苦労だがしばらく後へ引返して下さるまいか』
『何はともあれ引返しませう』
とケース、ガリヤは二人の後について、少女の立つてる岩の前まで漸く帰つて来た。
初『お前はお千代さまに、お菊さまぢやないか。俺を呼び止めたのは何か急用でも出来たのか』
千代『別に急用でもありませぬが、高姫、杢助の両人がこの浮木の森にあの通り立派な陣屋を構へ、魔法を使うて俄に城廓を造り、町まで拵へて三五教の信者を小口から引張り込みますので、松姫さまが高姫、杢助を説き諭さうと云つてお出になりました。私も跟いて行つたのだが、忽ち松姫様を牢の中へぶち込んでしまひました。私は裏口から脱け出して此処まで逃げて来たのですよ。初さま、徳さま、どうぞ松姫さまを助けに行つて貰ふ訳には行きませぬだらうかな』
『オイ、徳、どうしよう』
『さうだなア、松姫がさうなれば、一層の事俺達は後へ帰つて小北山で頑張らうぢやないか』
『そんな無茶な事が出来るかい。何とかして松姫さまをお助け申し、今までの御無礼をお詫して、もとの通り使つて貰はうぢやないか。これがお詫のよい仕時だ』
ガリヤ『これこれ娘さま、松姫さまと云ふのはお前の先生かな』
お菊『ハイ、小北山の教主で松彦さまと云ふ立派な夫があるのよ』
『ヤア、そりやどうしてもお助け申さなくちやなるまい。松彦さまには大変なお世話になつたのだからな。さア行かう、ケース』
『やア面白い面白い、浮木の森は私は勝手を知つてるのだ。牢の在処も何もかも手にとる如くだから、さア一働きやらう』
千代『どうぞお母さまを助けて下さいませ。妾が案内を致します』
ケース『ハ、よろしいよろしい、心配しなさるな。お前は泣いてゐるぢやないか。ヤ、無理もない、お母さまがそんな目に遇つたのだからな。しかし吾々が駆け込む上は大丈夫だから、心配なさるな。さア初さま、徳さま、行かうぢやないか』
『賛成々々』
とここに四人の男と二人の女は、浮木の森の曲輪城の表門をさして足を早めて進み行く。大門口に進めば、向ふより綾錦を纒うた妙齢の美人が七八人、手に籠を持ちながら、菫を摘み蒲公英をむしりつつ、何事か嬉しげに囁きながらやつて来た。その華やかさ、淑やかさに四人の男は魂を宙に飛ばして見惚れて居る。

(大正一二・一・二七 旧一一・一二・一一 北村隆光録)



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