出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語51-4-181923/01真善美愛寅 糞奴使王仁三郎参照文献検索
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第一八章 糞奴使〔一三三三〕

『文明花発三千国
 道術元通九万天。
 時節花明三月雨
 風流酒洗百年塵。
 黙然坐通古今
 天地人共進退。
 片々霊碁一局
 家々灯天下花。
 北玄武従亥去
 東青竜自子来。
 去者去来者来
 有限時万邦春』

と救世教主の詠んだ詩を吟じながら朧月夜の光を浴びて、草鞋脚絆に身を固め、蓑笠金剛杖の扮装にてやつて来たのは、ランチ将軍の副官たりしガリヤであつた。道の傍に新しき墓が沢山に並んでゐる。ガリヤは陣中において浮木の森のマリーと云ふ妙齢の美人に慕はれ、滞陣中は間がな隙がな密会を続けて居た。マリーとの関係がついたのは、ランチ将軍が命令を下して、四辺の女は老幼の区別なく残らず引捕へて陣中に連れ行き、炊事その外の軍務に就かしめむためであつた。この時ガリヤはその役目に当つて、マリーの家にふみ込み来り老人夫婦に、
『この村の女は残らず軍務に徴集さるべし。就いては炊事のみならず、数多の猛悪なる兵士に凌辱を受くる惧あれば、今宵の中に女は残らず逃げ去れ』
と親切に云つてくれた。マリーの父はこの村の里庄であつた。直ちに村にその由を内通し、勝手覚えし山道を辿り、或は小北山または思ひ思ひにパンを負うて山林に身を隠したのである。マリーは、ガリヤの親切な計らひによつて、村中の女は危難を救はれたのだ、自分は、
『村中の女を代表し人身御供に上つても構はぬ。況んやバラモンの軍人とは云へ、これ位やさしき武士が何処にあらうか。自分も夫を持つならば斯様な武士と添ひたいものだ……』
と妙な処へ同情を起し、早くバラモン軍が自分を捕縛に来てくれまいかと、両親の止めるのも諾かずただ一人家に待つてゐたのである。そして幸ひにこのマリーの家はガリヤの宿所と定められたのである。ガリヤは他の同僚が一人も女を連れてゐないのに、自分のみ女を侍らして居つては将軍の手前は如何と気遣ひ、倉の中に忍ばせて隙あるごとに密会を続けてゐたのである。しかるにマリーは身体日に日に痩衰へ、遂には鬼籍に入つた。そこでガリヤは夜密かにマリーの死骸をこの墓所に葬り、目標を建てて置いたのである。俄に適当な目標もないので外の墓の石を逆様に立て、何時か時を見て立派に祀つてやらうと思つてゐる矢先、治国別に帰順したのである。ガリヤはクルスの森で百日の薫陶を受け、それよりテームス峠において、またもや第二回の薫陶を授かり、治国別の添書を得て、ケースと共に斎苑の館へ修業に行く途中であつた。彼は一度マリーの墓に詣り弔つてやらねばならぬ、それにはケースと同道しては都合が悪いと思つたので、
『一寸その辺まで芋を埋けに行つて来る、君は一足先へ行つてくれ、何れ浮木の森で追付くから……』
とうまくケースをまいて自分は谷川に入り、水をいぢり或は蟹を追ひかけ等して日を暮し、東の空からボンヤリとした月の出たのを幸ひ、此処までやつて来たのである。ガリヤはマリーの墓に近づき、涙ながら述懐して云ふ。

『水色の月光は流れ
 真青に墓は並び立つ
 ああされどマリーの君よ
 君は情焔の人魚に非ず
 死を願ひつつ墓を抱き
 吾を見捨てて遠く行きましぬ
 後に残りし吾身は
 潛々と涙を濺ぐ
 君の心の紅絹は
 ガリヤの心を巡り
 やがて桃色の雰囲気は
 あたりを包む
 されど青き墓は
 地に影さへも動かさず
 君の姿のみ幻の如く月にふるひぬ
 ああ花は半開にして散りぬ
 惜しむべきかな桃色の頬
 月の眉、雪の肌
 一度見まく欲りすれど
 一度君に会はまく欲りすれど
 今は詮なし諸行無常
 是生滅法生滅々已
 寂滅為楽頓生菩提と
 弔ふ吾を
 仇には棄てな桃色の君よ』

と慨歎久しうし、形ばかりの墓場に涙を濺ぎ、残り惜しげに墓場を辞し、またもや宣伝歌を歌ひながら、風薫る朧夜の月を浴びて進み行く。

『四方の山々春めきて  吹き来る風も暖かく
 今を盛りと咲き匂ふ  マリーに似たる桃の花
 三月三日の今日の宵  瑞の御霊の御教を
 頸に受けてトボトボと  天津御空に照りもせず
 曇りもやらぬ春の夜の  朧月夜の風光に
 如くものなしと誰が言うた  吾は心もかき曇り
 朧の月を眺むれば  千々に物こそ思はるれ
 嘆ち顔なる吾涙  乾く暇なき夜の旅
 定めなき世と云ひながら  花を欺くマリー嬢
 吾を見捨てて墓を越え  幽冥界に旅立ちぬ
 悔めど帰らぬ恋の仲  神や仏は坐さぬかと
 思はず知らず愚痴が出る  汝をば慕ふ吾心
 仇に聞くなよマリー嬢  向ふに見ゆるは浮木の里か
 印象益々深くして  恋に逍ふ益良夫の
 心の空は烏羽玉の  暗夜とこそはなりにけり
 ああ惟神々々  御霊幸はひましまして
 惑ひ来りし恋雲を  晴らさせ給へ三五の
 皇大神の御前に  謹み敬ひ祈ぎまつる
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 大地は仮令沈むとも  星は空より落つるとも
 神に任せしこの体  三五教の御為に
 尽さにや置かぬ益良夫の  ひきて返らぬ桑の弓
 弥猛心を何処までも  貫き通す神の道
 進ませ給へ惟神  神の御前に願ぎまつる』

と歌ひながら椿の花咲く木蔭までスタスタやつて来た。
 ガリヤは椿の下の天然の石のベンチに腰を打掛け、火打を取出し煙草を燻べながら、浮木の森の彼方を眺め感慨無量の息を洩らしてゐる。
『有為転変は世の習ひ、変れば変るものだな。僅か四ケ月以前にはバラツク式の陣営が沢山に建て並べられてあつたが、何時の間にやら、大なる城廓が建つてゐるやうだ。はて、何人の住宅であらうか。合点の行かぬ事だな』
と独語ちつつ目をつぶつて考へ込んでゐる。何だか間近の方から人声が聞えて来る。ガリヤはツと立つて人声を当に月に透かしながら探り寄つた。見れば三人の男が萱の茂つた中に真裸となつて四這となり、思ひ思ひの事を囀つてゐる。
『はて不思議だ。春とは云へど夜分はまだ寒い。それに何ぞや、斯様な萱草の中に荒男がしかも三人、何をして居るのだらう。ハハア大方、浮木の森の豆狸につままれよつたのだらう。一つ気をつけてやらねばなるまい』
と思つたが、また思ひ直して、
『待て待て彼等三人の言ひ草を聞いてから、何者だと云ふ事の、凡その見当をつけてからでなくては、如何なる災難に遇ふかも知れない。まづ凡ての掛合は相手を知るが第一だ』
と思ひ直して杖にもたれて覗くやうにして考へ込んでゐた。
裸の一『おい、転田山、あの摩利支天と云ふ奴、口ほどにない弱味噌だな。俺の反にかかりやがつて、土俵のド中央にふん伸びた時の態と云つたらなかつたぢやないか』
裸の二『貴様は負田山だと名乗つてゐるが妙に強かつたぢやないか。大方向ふが力負したのかも知れないのう』
『馬鹿云へ。俺が強うて向ふが弱かつたのだ。弱いものが負けると云ふのは何万年経つたつてきまつた規則だ。しかし、彼奴は吃驚しやがつて雲を霞と逃げたぢやないか』
『ナーニ、そこに居るぢやないか。アー、臭い臭い貴様、屁を垂れやがつたな。俄に臭くなりやがつたぞ』
『馬鹿云へ、貴様も臭いわ。最前から何だか臭いと思つたが、よう考へりや相撲に呆けて忘れて居たが、古狸に撮まれて糞壺へ貴様と俺とが落ち込み、椿の下の泉で衣服を洗ひ、木に掛けて乾かす間に、寒さ凌ぎに相撲を始めたぢやなかつたかね』
『ウン、さう云ふと、そんな気も……するやうだ。この体が臭いのは洗ひが足らなかつたのに違ひないぞ。何程雑兵だと云つても、こんなに臭い筈はないからな』
裸の三『こりや、二人の奴、貴様は狸に騙されよつたのだな。馬鹿だな』
裸の一『アハハハハハ、あれほど沢山の相撲取や見物が来て居つたのは皆狸だ。オイ何処の奴か知らぬが、弱相撲、貴様だつてヤツパリ騙されて居つたのだよ』
裸の三『馬鹿云へ。俺は貴様と相撲とつたのだ。貴様こそ狸を相手に挑み合つてゐたのだよ。あれほど沢山居つたが、人間はただの三人より居なかつたと見える。本当に馬鹿の寄合ひだな。オイ、貴様の本名は何と云ふのか。負田山、転田山では、テーンと分らぬぢやないか』
『俺の本名が聞きたくば、貴様から名告れ、そしたら云ひ聞かしてやらう』
『俺の名を聞いて驚くな。バラモン軍のランチ将軍が副官ケースの君だぞ』
『何だ、そんな肩書をふり廻したつて今時通用しないぞ。某こそは三五教の未来の宣伝使初公別命だ。もう一人は徳公別命だぞ』
ケース『お名を承はりまして初めて呆れ返りました。如何にも下賤愚劣のお方でござるな』
初『きまつたことだ。神変不思議の力を有する、どうしても解せぬ男だらう。酒を飲めばグレツく事は天下の名人だ。小北山の初公と云ふより下賤愚劣と云つた方が、よく通つてるからな、アハハハハ』
 ガリヤは、
『ハハア、ケースの奴、狸にチヨロまかされ相撲とりよつたのだな。そして糞壺へはまつた奴と取組みよつたと見える。何だか臭くなつて来たぞ。一つ大声を出して呶鳴り、眼を醒してやらなくちや駄目だ』
と云ひながら臍下丹田に息をつめ(大声)『ウー』と発声した。三人は猛獣の襲来かと早合点し、赤裸のままノタノタと這ひ出し、何れも云ひ合したやうに椿の根元に集つてしまつた。
ガリヤ『オイ、お前はケースぢやないか。拙者はガリヤだ。何だ、こんな処へ赤裸になりよつて……』
ケース『ウン、兄貴か、もう一足早く来ればよかつたにな。大変狸相撲がはづんでゐたよ、アハハハハ』
初『エヘヘヘヘ』
徳『臭い臭い臭い、ウツフフフフ、糞面白うもない。糞にされてしまつた』
ケース『揃ひも揃つて臭い野郎だな』
ガリヤ『アハハハハ、ああもう夜が明けた』
 三人は泥まぶれの顔をして其処等を見まはした。糞まぶれの着物は異様の臭気を放ち、傍の青木の枝に烏の死んだのを水に漬けたやうな形になつてブラ下つて居る。椿の下の清泉は……と覗いて見れば臭気紛々たる肥壺であつた。金色の蠅がブンブンと四人の顔を目標に襲撃し、目をせせつたり鼻の穴へ潜伏したり、口の角などを頻りにいぢり出した。
『此奴ア堪らぬ』
とガリヤ及び三人の裸は一生懸命に北へ北へと逃げて行く。

(大正一二・一・二七 旧一一・一二・一一 北村隆光録)



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