出口王仁三郎 文献検索

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物語51-4-161923/01真善美愛寅 暗闘王仁三郎参照文献検索
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第一六章 暗闘〔一三三一〕

 春風かをる小北山  木々の梢も緑して
 梅散り桃は紫の  花を梢に飾りつつ
 神の御稜威も灼然に  老若男女の朝夕に
 足跡たえぬ神の庭  訪ね来りし高姫や
 妖幻坊の杢助は  神の御稜威に照らされて
 醜の企みは忽ちに  露顕し岩下に投げられて
 コリヤたまらぬと尻からげ  痛さをこらへてスタスタと
 雲を霞と逃げ下る  折柄ヨボヨボ登り来る
 盲爺の文助と  衝突したるそのはづみ
 曲輪の玉を遺失して  コハさに慄ひ戦きつ
 一目散に逃げて行く  後追つかけて出で来る
 初、徳二人に命令し  小北の山へ引返し
 曲輪の宝を取返し  文助爺を突倒し
 またもスタスタ逃げて行く  所構はず打撲され
 苦み悶え文助は  力限りに人殺し
 誰か出て来て助けよと  叫びし声に驚いて
 忽ちかけ来る数十人  老若男女の信徒は
 右往左往に彷徨ひつ  こは何者の仕業ぞと
 皆とりどりに話しゐる  かかる所へ階段を
 下り来れる二人の女  お千代お菊は立寄つて
 いろいろ雑多と介抱し  文助爺さまにその由を
 承はれば初、徳の  二人がわれを突き倒し
 ブンブン玉の神宝を  奪つて直様逃げ行きし
 その物語聞くよりも  侠客育ちの両人は
 何条以て許すべき  お千代を後に残しおき
 文助爺の身の上を  依頼しおきてお菊嬢
 二人の後を追ひかけて  雲を霞と走り行く
 怪志の森に来て見れば  永き春日も暮れはてて
 あたりは暗に包まれぬ  お菊は森の入口に
 佇み思案にくるる折  ほど遠からぬ暗がりに
 ウンウンウンと呻き声  ハテ訝かしと耳すませ
 腕をば組みて聞きゐたり。  

初『あああ、余り草臥れて、何時とはなしに夢路に入つてしまつた。しかしあまり時間も経つてゐないやうだ。その証拠には走つて来た時の動悸はまだ止まず、痛みはチツとも軽減してゐないし、汗も乾いてをらぬ。なア徳、暗いと云つても、これだけ暗い夜さはないぢやないか。ヤツパリ怪志の森だな』
徳『ウーン、俺もまだ半眠半醒状態で、トツクリ寝られないワ。何だか胸がドキドキして仕方がない。モシ高姫さま、杢助さま、チツと起きて下さいな、ああ首筋元がゾクゾクとして来ました。あああ、返辞をして下さらぬぞ、ヤツパリ御両人さまも草臥れて寝てござると見えるな、夜逃同様に撤兵して来たのだから、草臥れるのも無理はないワイ。何せよ高姫さまの外交がなつてゐないものだから、こんなヘマを見るのだよ。グヅグヅしてると、ここらあたりにバルチザンが襲来するかも知れないよ。その日暮しの日傭ひ外交だからなア。吾々国民は枕を高うして寝られないワ。どう考へても真から寝つかれないからなア』
『どうやら、高姫さまは杢助と、吾々雑兵を放つたらかして、満鉄で逸早く逃帰つたらしいぞ。しかし幽霊内閣の立去つた後は、何が出るか知れたものぢやないワ。どうしてもコリヤ吾々国民が腹帯を締め、国民外交をやる気でないと、当局者に任しておいても、肝腎の時になつたら逃げられてしまふからなア』
『さうだなア、一体何処まで逃げたのだらう』
『逃げるのに、定つた場所があるかい。その時の御都合主義だ。敵が遠く追つかければ遠く逃げるだけのものだ。今日の国際的外交は、朝に一城を譲り夕に一塁を与へて、十万億土のドン底まで譲歩するのだからなア。それが所謂宋襄仁者の唯一の武器だ、最善の方法だ。弱い者には何処までも追つかけて行くほど利益だが、強い奴には逃げるのが最も賢明な行方だ。しかしかう淋しくつては仕方がないぢやないか。オイ、一つ歌でも歌つて気をまぎらさうぢやないか。……折角文助のドタマを擲り倒して、ウマウマとブンブン玉をひつたくり、此処まで持つて来て杢助さまに渡し、喜んでは貰つたが、余り八百長芝居がすぎて、足腰が立たぬほど打ちのめされ、動きのとれぬ所を見すまして、この暗がりに置去りするとは、誠に残酷ぢやないか。これでは吾々下人民は、やりきれない。どうしたらよからうかなア』
『小鳥つきて鷹喰はれ、兎つきて良狗煮らるとは俺たちの事だ。あれだけ吾々が血を流してやつと奪つた曲輪の玉を、また強者に掠奪されてしまふと云ふのは、ヤツパリ未来の何処かの外交手腕が映つてゐるのだよ。手腕のワンは犬の鳴き声だが、本当に尾を股へはさんで、シヨゲ シヨゲと逃げ帰る喪家の犬のやうな手腕だからな。しまひには、ただ一つよりない大椀(台湾)まで逃出すかも知れぬぞ。何程琉球そに言うても、骨のない蒟蒻腰では駄目だ。貴様だつて俺だつて、半身不随だから、腹中の副守、ガラクタ連中には、うまく誤魔化しておいて、ともかく、自分の身体回復を待たねばなるまいぞ。何程人のためだの、刻下の急務だのといつた所で、ドドのつまりは、自分が大切だからな、ハハハハハ』
 お菊は二人の話をスツカリ聞いてしまつた。そして高姫、杢助の両人は曲輪の玉を、此奴等両人の手から引つたくり、逃げてしまつた事を悟つた。……此奴ア一つ、文助の声色を使つておどかしてやらうか……と横着なお菊は暗がりを幸に、
『ヒヤー、恨めしやなア、初公、徳公の両人に頭をコツかれ、ブンブン玉をボツたくられ、その上命までも取られたわいのう、ヤイ、初、徳の両人、冥途の道伴れ、その方の生首を貰うて帰るぞよ』
初『コリヤ徳、この厭らしい森の中で、馬鹿な真似をするない。何だ、爺の声を出しやがつて……』
徳『ヘン、貴様が真似をしたぢやないか、怪体な奴だなア』
『何、貴様が妙な声を出したのだらう』
『俺は決してそんなこた、言うた覚がない。貴様も言はないとすれば、どつか他に人間が一匹来てゐるに違ひない。暗がりを幸に、ヤツパリ杢助さまが隠れた真似をして、俺達の話を聞いてゐたのかも知れぬぞ。ハテ困つたのう』
『モシ、杢助さま、この厭らしい夜さに、そんな悪戯はやめて下さいな。困るぢやありませぬか』
お菊『ホホホホホ』
徳『高姫さま、腹の悪い、そんな厭らしい声を出したつて、吾々はビクともしませぬぞや』
『尻を叩かれ、骨まで腫上り、ビクとも出来ぬだらう。実に憐れなものだのう、オホホホホホ』
『コリヤ高姫、馬鹿にすない、人をよいほど使うておいて、こんな苦しい目に遇はして、その上可笑しさうに笑ふなんて、チツとは人情を弁へたらどうだ』
『この高姫は人情なんか、嫌だツ、よく考へて見よ。今日の世の中に人情を知つた奴が一人でもあるか。ニンジヨウといへば松の廊下で塩谷判官が師直に斬りかけた位なものだ。人情なんか守つて居らうものなら、お家は断絶、その身は切腹、家来は浪人、しまひの果には泉岳寺で腹を切らねばならぬぞや。そんな馬鹿が今日の開けた世の中にあるものかい。時代遅れの馬鹿だなア、オツホホホホ、いい気味だこと、杢助さまと実の所は、小北山を占領し、貴様等両人をウマウマ チヨロまかして使つてやらうと思うたなれど、樫の棒で二十や三十撲られて、悲鳴をあげ、歩けないのなぞと弱音を吹くやうな奴は、高姫も愛想がつきた。そんな事で、どうして悪の企みが成就すると思ふか、馬鹿だなア、オホホホホ』
初『エー、胸クソの悪い、もうかうなれば馬鹿らして小北山へ帰る訳にゆかず、またそんな悪人の後へついて行つたつて駄目だし、進退惟谷まつたなア、のう徳、これから一つ善後策を考へなくちやなるまいぞ』
徳『さうだなア、マア此処で足の直るまで、ゆつくり養生して、トクと考へようかい。コリヤ杢助、覚えてけつかれ、貴様の企みは何処までも邪魔してやるから、一寸の虫も五分の魂だぞ』
『この杢助は貴様のやうな小童武者の百匹千匹、束に結うて来てもビクとも致さぬ英雄豪傑だ。ましてや尻をひつぱたかれ、骨を挫き、体の自由にならぬ奴が、仮令万人攻め来るとも、決して驚く者でない。また仮令体の自由が利く代物でも、今の人間は金輪の魔術を以て口にはましたならば、どれもこれも皆往生致す代物ばかりだ、アハハハハ』
『コリヤ杢助、俺はかうして、腰が立たぬと云つて、貴様の様子を考へてゐたのだ。本当の事は此処まで走つて来た位だから、自由自在に立つのだ、サア来い勝負だ。貴様のやうな冷酷な餓鬼の後を追つて行た所で仕方がない。それよりも貴様の生首を引抜いて持ち帰り、松姫様にお詫の印にするのだ。オイ初、貴様もいい加減に起きぬかい』
『ウン、モウそろそろ活動してもいい時分だ。俺も何だか、この先の浮木の里が気にくはぬので、一寸作病を起してみたのだが、つひグツと寝てしまひ、その間に高姫、杢助に逃げられたと思つて残念でたまらず、副守の奴と作戦計画をやつてゐた所、神の神力に照らされて、高姫、杢助の奴、後へ引寄せられよつたのだなア。何と神力は偉いものだ。サア杢助、高姫、汝が如き老ぼれの五匹や十匹、束に結うてかからうとも食ひ足らぬ某だ、サア来い』
『オツホホホホ、この暗がりに目が見えるのか、喧し吐すと、声をしるべに撲りつけてやらうか。暗の晩に囀る奴位馬鹿はないぞ』
『オイ徳、確りせぬかい、益々怪しからぬ事を吐すぢやないか』
 お菊は足音を忍ばせ、声をしるべに、ついて来た杖で暗をポンと打つた。都合よく二人の頭に橋をかけたやうに、カツンと当つた。二人は一度に、
『アイタタタ、コラ初、馬鹿にすない』
『ナアニ徳の奴、人の頭をなぐりやがつて、馬鹿も糞もあるかい』
『それでも貴様、俺を撲つたぢやないか』
『ナアニ、俺やチツとも撲つた覚がない』
『ホホホホホ、同士打喧嘩は面白い面白い、向ふ見ずの途中の鼻高が、暗雲で、欲ばかり考へ、吾ほど偉い者はないと思うて慢心致すと、何時の間にやら鼻が高うなり、鼻と鼻とがつき合うて、しまひには一も取らず二も取らず、大騒動を起すぞよ。可哀相な者であるぞよ。何と云うても暗がりの人民を助けるのであるから、頭の一つや二つは叩いてやらねば目がさめぬぞよ。神も中々骨が折れるぞよ、早く改心致されよ。神の申す事を素直に聞く人民は結構なれど、今の世はサツパリ鬼と賊と悪魔との世の中であるから、神の教を聞く奴はチツともないぞよ。余り改心が出来ぬと、スコタンくらふぞよ』
と云ひながら、またカツンとやつた。
 初公は前額部をシタタカ打たれ、
『アイタア』
と云つたきり、すくんでしまつた。徳は、
『何でも近くに声がした、高姫の奴、ここらに居やがるに違ひない……』
と四這になり、手をふりまはして探つてゐる。もし足にでもさはつた位なら、ひつくり返してやらうと思つたからである。お菊は何だか自分の足許に這ふものがあるやうな気がしたので、杖を以て力限り、足許を払うた。途端にただれた尻のあたりをピシヤツと打つた。
徳『アイタタ、コリヤ、尻叩きはモウすんだ筈だ。まだこんなとこまで来て叩くといふ事があるかい』
お菊『約束の三百がまだ二百ばかり残つてゐるから、これから叩いてやるのだ』
徳『オイ初、気をつけよ、馬鹿にするぢやないか……コラ高姫、杢助、サア来い』
と暗がりに、どつちに敵が居るか分りもせぬのに、空元気を出して気張つてゐる。お菊は杖を縦横無尽に打ちふり、二人の頭といはず尻といはず、手当り次第にポンポンポンと撲り倒し、
『ホツホホホホ』
と厭らしい笑ひを残し、森を立出で、息を殺して二人の様子を考へてゐた。

(大正一二・一・二七 旧一一・一二・一一 松村真澄録)



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