出口王仁三郎 文献検索

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物語51-3-141923/01真善美愛寅 自惚鏡王仁三郎参照文献検索
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第一四章 自惚鏡〔一三二九〕

 妖幻坊の高宮彦は侍女の五月を高宮姫の居間に遣はし、一度吾室へ来れと命令した。この五月といふ美人は実は竹藪の中に棲んでゐる豆狸さまである。
『御免なさいませ。高宮姫様、御城主様が御招きでございますよ』
 高姫は脇息にもたれて、うつら うつら居眠つてゐたが、パツと目を開き、
『ああ其方は五月であつたか、吾君様が、妾に御用があるとおつしやるのかい』
『ハイ、直様お出でを願ひたいとの事でございます』
『すぐに参りますから、一寸御待ち下さいませと、云つておいておくれ』
 五月は、
『ハイ』
と答へて、ここを足早に立去つた。高姫は鏡台の前にキチンと坐り、髪のほつれをかき上げ、衣紋を整へ、口をあけたり、すぼめたり、種々と美顔術の限りを尽し、
『ホホホホ、何とマア、人魚でも食つたのかいな。五十の尻を作つてをるこの高姫も、自分ながらに吃驚を致すほど若くなつたものだなア。まるきり、十七か六位な、うひうひしい姿だ。初稚姫が何程綺麗だと云つても、この高宮姫には、ヘン、叶ひますまい、ホホホホホ。如意宝珠の玉といふものは、本当に偉いものだワイ。杢助さまも今は高宮彦と、真面目な顔して名乗つてござるが、ヤーパリ、偉いものだ。ようマア、斎苑の館の宝物を甘くチヨロまかされたものだなア。これだから人に気は許されぬといふのだなア。素盞嗚尊の盲神や、言依別のドハイカラ、八島主の青瓢箪、それに東野別のウスノロ、ガラクタばかりが居りやがつて、奇略縦横の杢助様を、真正直な人間だと思ひつめ、ヘヘヘヘヘ、蛸の揚壺を喰つて、今では斎苑の館は梟鳥の夜食に外れたやうな、小難しい顔をして居るだらう。あああ、心地よや、気味がよや、ドレドレこの綺麗な姿を吾背の君にお目にかけ、一つ喜ばして上げませうかな。見れば見るほど御綺麗な、何とした良い女だらう。何程杢助さまに気が多いと云つても、どこに一つ点のうち所もない、髪の毛の先まで、愛嬌がたつぷり溢れてゐるこの高ちやまを、どうして捨てられるものか。何程世界に美人があると云つても、これはまた格別だなア。本当にこの鏡の側を離れたくないやうだ。杢助さまもこの鏡を見たら、さぞ嬉しからう、しかし自分が自分に惚れる位な美人だからなア。私だつて、私の姿にゾツコン惚込んでしまつた。しかし自分の姿を見る訳にゆかず、この鏡の前に立つた時ばかりだ。ああ離れともない、鏡の君、お名残惜しいけれど、しばらく杢助さまの御機嫌を伺つて来るほどに、鏡さま、また帰つて来てこの綺麗な姿を写して上げるから、楽しんで待つてゐなさいや』
高子『ウフフフフ』
宮子『ホホホホ』
『エーエ、お前は此処に居つたのかいな。居るなら居るとなぜ言はぬのだい、皆私の独言を聞いたのだらう』
高子『ホホホホ』
宮子『フツフフフ』
『エーエ、余り自分の姿に見とれて、二人の侍女が横に居るのも気が付かなかつた。ホンにさう思へば、向ふの方に人間の姿がうつつてるやうだつたが、気がつかなかつた。コレ二人の娘兼侍女、こんな事、吾背の君を始め、誰にも言つちやなりませぬよ。サアサア参りませう』
『アイ』
と答へて二人は高姫の前後につき添ひ、妖幻坊の居間へ進んで行く。ソツとドアを開いて中を伺ひ見れば、目もくらむばかり、金色燦爛と輝いてゐる。そして四方の壁は残らず鏡のやうに光り、高姫の妖艶な姿は、鏡面を互に反射して、幾十人とも知れぬほど映つてゐる。高姫は自分のやうな美人は恐らく天地の間に、自分一人よりないと誇り顔に思つて、盛装を凝らし、顔の造作まで修繕してやつて来たのに、自分と同様の美人が、幾十人ともなく妖幻坊を中心に取巻いてゐるので、俄にクワツと悋気の角を生やし、
『これはこれは、高宮彦様、お楽しみの所を、お多福がお邪魔を致しまして、さぞ御迷惑でございませう。これだけ沢山に美人をお抱へになつてゐる以上は、私のやうなお多福には到底手がまはりますまい。成程私と同棲しないとおつしやるのは分りました。私はどうせ数にも入らぬ馬鹿者、これだけ沢山の美人を側に侍らし、私だけはただ一人、こんな少女を側において監視させ、自分は栄耀栄華に、蝶の如き花の如き美人に戯れ、ホンにマア偉いお腕前、恐れ入りましてございます』
『ハハハハ、コレ高宮姫、そりや何を云ふのだ、誰もゐないぢやないか。この高宮彦はただ一人、孤塁を守つてゐるのだ。大方お前の姿が玻璃壁に映つて、それが互に反射してゐるのだ。それ故沢山の美人がゐるやうに見えるのだが、皆お前の姿だよ』
『エー、うまいことおつしやいませ。鏡に一つの姿がうつる事は、それはございませう、これほど四方八方に映る道理はありませぬ。あれを御覧なさい、右を向いたり、左を向いたり、前へ向いたり、背を向けたりしてるのぢやありませぬか。私は妬くのぢやござりませぬが、なぜ貴方は水臭い、女があるなら、これだけあるとおつしやつて下さいませぬのか。私に悋気させ、怒らせて楽しまうとの企みでございませう。そしてこれだけの女に高宮姫の狂乱振を見せて、笑はしてやらうとの御考へ、ヘン、誰がその手に乗るものですか。決して怒りませぬよ。しかしながら皆さま、お気の毒ながら、この高宮彦は私の夫、ここで意茶ついて御覧に入れるから、指をくはへて御覧なさい。ヘン、すみまへんな。コレコレもうしこちの人、否々吾背の君様、どうでございます、御機嫌は……』
『イヤ、高宮姫、よくマア来て下さつた、これだけ沢山女は居れども、気に入つたものは一人もない、何と云つてもお前の肌は細かい、そして柔かい。背の先まで尻の穴まで、何とも云へぬ香ばしい匂ひがする、またワイガは特別香ばしい』
と云ひながら、高姫の頬に吸ひ付いてみせた。高姫はグニヤグニヤになり、目を細うして鏡の映像に向ひ、
『オイ、そこな立ん坊、ヘン、すみまへんな。高宮姫さまは高宮彦の愛を独占して居りますよ。ここで夫婦の親愛振を見せて上げませう』
と云ひながら、四方八方を見まはし、舌をペロツと出して見せた。どの姿もこの姿も同様に舌をペロリと出す。
『エー馬鹿ツ』
と腮を前へ突き出して呶鳴ると、また一時に腮を突き出し、口をあける。高姫は、
『コラ、失敬な、真似をしやがるか、この高宮姫は正妻だ、ガラクタ奴』
と云ひながら、握り拳を固めて突貫し、壁に鼻を打つてウンと一声その場に倒れた。妖幻坊は此奴ア大変と打驚き、豆狸に渭の水を汲ませにやり、高姫の頭部面部の嫌ひなく吹きかけた。漸くにして高姫は正気に返つた。四辺を見れば使ひに行つた豆狸が、まだ高姫は中々気がつかうまいと安心してゐたものだから、変相もせず、そのままにチヨコンと坐つてゐた。流石の妖幻坊は高姫が失神した間も、何時気が付くか知れぬと思ひ、その体を崩さなかつた。高姫は、
『この豆狸』
と云ひながら、ポンと頭を叩いた。当り所が悪うて、一匹の狸はその場に悶絶した。他の一匹は一生懸命に窓の穴から飛出してしまつた。
『ああ、あの憎い女に鼻をこつかれて、ふん伸びました。高宮彦様、どうぞお願ひだから、彼奴を皆帰なして下さいな。私は何だか気分が悪くてたまりませぬワ』
『あれはその方の姿が鏡に映つてゐるのだが、それほど分らねば、この光つた壁に泥を塗つて上げよう、さうすれば映らなくなつて疑が晴れるだらう』
と云ひながら、裏の背戸口に使ひ余りの壁土があるのを、妖幻坊は大きな盥に一杯盛り、片手にささげ、片手に泥を握つて、一面に室内を塗つてしまつた。そして盥を外へ出し、手を洗つて再び入り来り、
『高姫、これで疑が晴れただらうな』
『なるほど、貴方はヤツパリ私が可愛いのですな、あれだけ沢山の女を、縄虫かなんぞのやうに、皆泥で魔法を使つて平げてしまつたその手並は、実に天晴なものですよ』
『天地の間の幸福を一身に集めたのは其女と某だ。しかし高姫、御苦労でござつたなア。ランチ、片彦両人は、甘く其方の計略にかかり、今は殆ど嚢中の鼠、活殺の権利はこの高宮彦の掌中にあるも同然だ。ホホー頼もしい頼もしい。かふいふ仕事は其女に限るよ。この高宮彦も其女より外に何程美人があつても心を迷はさないから、安心して高子、宮子を伴ひ、どうぞ日に一遍は、椿の下まで人曳きに行つてくれ。これがお前の勤めだ。お前も春野の花を摘みながら、郊外散歩は余り悪くはあるまいから……』
『ハイ、さう致しませう。本当に昨日のやうに甘く行きますと、心持がようございます。そうしてあの両人は如何なさいました。その後根つから私に顔を見せませぬがな』
『彼奴は何程云ひ聞かしても、到底ウラナイの道に帰順する見込がないによつて、生かしておけば三五教の宣伝使となり、吾々兇党界……否善のお道の邪魔を致すによつて、石牢の中にブチ込んでおいた。かうしておけば自然に寂滅為楽、モウ此方のものだ。別に骨を折らなくとも、刃物持たずの人殺、丁度お前と同じやり方だ、アハツハハハ』
『コレ、もし吾夫様、私が人殺とは、ソラ余りぢやございませぬか。何時人を殺しました』
『アハハハハ、其方の美貌で一寸睨まれたが最後、恋の病に取りつかれ、寝ても醒めても煩悩の犬に追はれて忘れられず、遂には気病を起して不断の床につき、身体骨立してこがれ死ぬやうになつてしまふのだ。この高宮彦も其方の事を思へば、骨までザクザクとするやうだ。この高宮彦を殺すのには、チツとも刃物はいらぬ。お前が一つ尻をふつたが最後、忽ち寂滅為楽の道を辿るのだ。アハハハハハ、てもさても罪な男殺のナイスだなア。それさへあるに、毒酸を以て珍彦夫婦を殺さうとなさるのだから、イヤハヤ恐ろしい、安心して夜も昼も眠られない代物だ、アハハハハハ』
『コレ、杢ちやま、ソラ何をいふのだい、お前さまが発頭人ぢやないか。私は教へて貰つてやつたのぢやないか。口に番所がないかと思うて余りな事を云うて下さるな』
とソロソロ生地を現はし、野卑な言葉になりかけたが、フツと気がつき、俄に言葉を改めて、
『吾背の君様、揶揄ひなさるも、いい加減に遊ばせ。妾は悲しうございます、オンオンオンオン』
『アハハハハ、面白い面白い、人間といふものはいろいろの芸を持つてゐるものだなア』
『ヘン、人間なんて、チツと違ひませう。ソリヤ私は人間でせう。しかし霊は義理天上日の出神の生宮ですよ、どうぞ見損ひをして下さいますな』
『ハハハハ、イヤもう恐れ入りました。義理天上様、今後はキツと慎しみませう』
『コレ高さま、宮さま、何をクツクツ笑つてゐるのだい、それほど可笑しいのか。子供といふものは、仕方のないものだなア』
高子『それでもお母さま、可笑しいぢやありませぬか。チンチン喧嘩をなさるのだもの、ねえ宮さま、可笑しいてたまらないぢやないか』
妖幻『ハハハハ、オイ、高宮姫さま、子供が笑つてゐるよ』
『貴方が、しようもない事おつしやるから、二人が笑ふのですよ』
高子『それでもお母さま、貴女のお居間で可笑しかつたぢやありませぬか。あの時はお父さまはゐませぬでしたね。お母さま一人で私等二人が堪へきれないほど、可笑しい身振をなさいましたワ』
妖幻『アハハハハ、大方おやつしの所を見たのだらう』
宮子『ハア、さうですよ。お尻をふつたり口を歪めてみたり、独言をいつたり、自分の姿に惚れたり、そしてこの姿を吾背の君に見せたら、さぞお喜びだろツて言つてゐらつしやいましたよ。ねえ高さま、違ひありませぬだらう』
高子『本当にその通りでしたね、お母さまも余程面白いお方だよ』
妖幻『アハハハハ』
高姫『あああ、夫や吾子に、ぞめかれ、ひやかされ、別嬪に生れて来ると辛いものだ。ホホホホホ、アハハハハハ、フフフフフ』
と四人は一度に笑ふ。高姫に頭をくらはされて死んでゐた豆狸は、この笑ひ声にフツと気がつきムクムクと起上り、室内を二三遍駆けまはり、窓の口から、手早く姿を隠した。
高姫『何とマア、これほど立派な御殿に狸が棲んでゐるとは不思議ぢやありませぬか。犬でもおいたら、皆逃げて行くでせうにねえ』
妖幻『イヤ俺は何時も申す通り、申の年の生れだから、犬は大嫌ひだ。それだから諺にも、仲の悪い間柄を犬と猿みたやうだといふではないか』
『申といふのは、男の方からヒマをくれる事、犬といふのは女房の方から夫にヒマをくれて帰ることでございませう。モウこれから、犬だの申だの、縁起の悪い事はいはぬやうに、互に慎しみませうね』
『こつちは慎しんでゐるが、お前の方から、何時も約束を破るのだから困つたものだよ、アハハハハ』
『左様ならば、また夜の拵へもございますから、妾は居間に引取りませう』
『コレ高宮姫殿、二人の侍女を……否子供をお前が独占しようとは余りぢやないか。どうか一人ここにおいてゐてくれまいかなア』
『如何にも、貴方は一人、男が一人居ると、何時魔がさすか分つたものぢやありませぬ。コレ高子ちやま、お前御苦労だが、お父さまのお側に御用を聞いてゐて下さい。そして、もしも外の女がここへ入つて来たら、いい子だから、ソツと私に知らすのだよ』
 高子はワザと大きな声で、
『ハイお父さまの居間へ、どんな女にもせよ、入つて来たものがあつたら、キツと内証で知らしてあげますワ』
『コレ高子さま、そんな内証がありますか。エーエ気の利かぬ子ぢやなア』
妖幻『ハハハハ、何処までも御注意深いこと、イヤハヤ恐れ入りました。高子は要するに、私の監視役だなア。ヤアこはい こはい。コレ高子さま、お手柔かく願ひますよ。何事があつても決して高宮姫に内通しちやいけませぬぞ、アハハハハ』
高姫『エー、なんぼなとおつしやいませ、さようなれば』
と宮子の手をひき、吾居間に肩をゆすり、袖の羽ばたき勇ましく、長い襠衣を引きずつて、シヨナリシヨナリと太夫の道中よろしく帰り行く。

(大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 松村真澄録)



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