出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語51-3-131923/01真善美愛寅 槍襖王仁三郎参照文献検索
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第一三章 槍襖〔一三二八〕

 高姫は玄関口につき、
『もし御両人様、どうぞお上り下さいませ。これが父の本宅でございます』
ランチ『イヤ有難うござる。何とまア、四辺眩きばかり七宝をもつて飾られ、恰も天国浄土の荘厳を見るやうでござる』
片彦『いかにも左様、某生れてからまだ、斯様の館を拝見した事がない。ハルナの都の霊照殿でも、このお館に比ぶれば非常な劣りを感じまする』
『お二人様、お恥かしい破家でございます、どうぞ奥へお通り下さいませ。これ高子、宮子、早く奥へ往つてお父さまやお母さまにお客様がみえたと云つて来るのだよ』
『ハイ』
と答へて二人の侍女は衝立の影に姿を隠した。七宝をもつて描かれたる衝立の絵は月夜の海面であつた。如何なる画伯の手になりしものか、一目見るより幽玄壮大の気分に漂はさるるのであつた。二人はオヅオヅ高姫の後について長い廊下を面恥かしげに進みながら、ランチは片彦に向ひ、
『片彦殿、実に瑠璃宮のやうでござるなア』
『成程、形容の辞がござらぬ。これは これはとばかり花の吉野山、とでも言つて置きませうかな。嬋妍窈窕たる美人に導かれ、金、銀、瑠璃、珊瑚、瑪瑙、硨磲、玻璃の七宝をもつて飾られたる珍の御殿を進み行く吾々両人は、夢でも見て居るのでござるまいかなア』
と、こんな事を囁きながら、奥へ奥へと進み入つた。パツと突き当つた所に観音開きの庫のやうなものが立つて居る。其処から花を欺くばかりの十二三の乙女が七八人、バラバラと現はれ、中の最も年かさらしき乙女は叮嚀に手を仕へ、
『お嬢様、どこへ行つていらしたのでございます。御両親様が大変御心配でございました。そこで妾がお探ねに往かうと思つて居た所、そこへ高子、宮子様が、お嬢様は今お客さまを連れてお帰りとの事に、お迎へに参りました。ようまア帰つて下さいました』
と叮嚀に云ふ。
高姫『其方は五月ぢやないか、御苦労だつたねえ。このお方は三五教の宣伝使様だよ。サア奥へ御案内して下さい。初稚姫様のお居間へねえ』
五月『ハイ承知致しました。サアお客様、妾が案内致しませう』
ランチ『ヤア、これは誠に畏れ入ります』
片彦『左様なれば遠慮なく御免を蒙りませう』
と観音開きを潜らうとする時、
高姫『もしお客様、妾は一寸父母に会つて参りますから、どうぞ応接の間に待つて居て下さい。これ五月や、お客様を鄭重に御待遇なされや』
『ハイ畏まりました』
片彦『どうぞ初花姫様、お構ひ下さいますな』
ランチ『左様ならばお待ち申して居ります、どうぞ直にお顔を見せて下さい』
『ハイ承知致しました。一寸失礼致します』
と、扉を開けてパツと姿を隠した。これは高姫の与へられた狸穴の立派な部屋である。片彦、ランチは八人の少女に導かれ、観音開きを潜つて中に入つた。室内の諸道具は行儀よく整理され、五脚の椅子が、円いテーブルを中央にして並べられてある。二人は五月に勧めらるるままに腰を下した。何とも云へぬよい気分である。ドアは何時の間にか固く鎖された。二人はコクリコクリと夢路に入つた。
 しばらくすると、
『もしもし』
と肩を叩くものがある。二人はフツと目を醒ませば、机の上に見た事もない綺麗な器に、酒や寿司や果物が盛られて居た。そして何とも云へない妙齢の婦人が衣服一面に宝玉を鏤め、その光は灯火に反射して一層麗しく輝いて居る。赤、紫、青、紅、黄、白、橄欖色、紫紺色などの光が全身から溢れて居る。二人は夢かとばかり驚いた。さうして室内に灯火のついて居るのを見て、余程長く眠つて居たものだと思つた。
ランチ『ヤア、どうも失礼致しました。結構なお館へ引き入れられまして、失礼千万にも眠つてしまひました。どうぞ吾々が無作法をお咎めなく、お許しを願ひます』
 三人の女は何れも玉子に目鼻のやうな、揃ひも揃うた容貌をして居る。しかし中央に腰をかけて居る女は、どこともなしに気品高く、かつ二つばかり年かさのやうに見えた、十八才に十六才位な姿である。中なる美人は両人に向ひ、
『私は初稚姫でございます。承はれば貴方等はランチ将軍、片彦将軍様ださうですなア、よくまア三五の道に御入信なさいました。妾は大神の命を受けハルナの都を指して宣伝の旅に上る途中、如意王様に見出され、しばらく此処に足を止むる事となりました。さうしてこの右に居られる方は秋子姫、左の方は豊子姫と申すお方でございます。まだお年は若うございますが、王様がコーラン国から侍女としてお連れ遊ばした淑女でございます。どうぞ以後相共に宜敷く御提携を願ひます』
ランチ『貴女が、名に高き初稚姫様でございましたか。これはまた不思議な所でお目に懸りました。私は仰せの通りランチでございまする。一度は鬼春別将軍の部下となり、大黒主の命を奉じ、勿体なくも斎苑の館に攻め寄せむとした罪人でございます。しかるに、大神様のお恵によつてスツカリ改心を致し、治国別様の長らくの御教訓をうけ、御添書を頂いて斎苑の館へ修業に参る途中、王女初花姫様にお目にかかり、導かれて此処まで参上致しました。どうぞ至らぬ吾々、万事御指導を願ひ奉ります』
『拙者は片彦でございます。ランチ殿と同様の径路を辿つて、今は治国別様のお弟子となり、この門前において王女様に導かれ、只今これへ参つた所でございます。何分宜敷く御指導を願ひます』
 これより初稚姫は、秋子、豊子に命じ盛に両人に酒を勧めさせた。両人は恍惚として酒と二人の美貌に酔ひ、吾身の天にあるか、地にあるか、海中にあるか、野か山か、殿中か、殆ど見当のつかぬ所まで酔ひつぶれてしまつた。さうして三五教の教理も、治国別の教訓も、残らず念頭より遺失し、今はただランチには豊子の顔、片彦には秋子の顔が、浮いたやうに目にボツと映るのみである。ランチ、片彦両人は二人の女に手を引かれ、ヒヨロリヒヨロリと廊下を渡つて、麗しき一間に導かれ、二男二女は枕を並べて寝についた。
 しばらくあつて二人は気がつき四辺を見れば、石と石とに畳まれた一室内の石畳の上に横たはつて居た。さうして何処にも出口がない。一枚板を立てたやうな滑らかな大理石で四方が包んである。二人は俄に顔色を変へ、
ランチ『ヤア、こりや大変だ。片彦さま、どうだらう、美人に手を曳かれ眠つたと思へば、斯様な石牢の中へ放り込まれたぢやないか』
片彦『成程、こいつは困つた。どうしたらよからうかなア』
『どうしようと云つても手のかかる所もなければ、押しても突いても出口も入口もないのだから、仕方がないぢやないか。かふ云ふ時にこそ、天津祝詞を奏上するのだな』
『如何にも左様』
と二人は天津祝詞を奏上せむと焦れども、どう云ふものか、一口も出て来ない。外の言葉なら何でも出るが、天津祝詞に限つて一言も出ないのは、不思議中の不思議であつた。
ランチ『ヤア駄目だ、片彦、御身も駄目と見えるのう』
片彦『誠に残念至極でござる。一つ力限り呶鳴つて見ようではござらぬか。さうすれば誰かが声を聞きつけて救ひ出してくれるだらう』
『宜敷からう』
と二人はアオウエイを連発的に幾度も重ねて唸り出した。しかし石畳に少しの隙もなく囲まれた十坪ばかりのこの室は、声の外に漏れる筈もなく、声は残らず反響して、遂には両人とも喉を破り、カスリ声しか出なくなつてしまつた。
ランチ『ああ駄目だ、もう此処でミイラになるより仕方がないワイ』
片彦『これも吾々の罪劫が報うて来たのだと諦めて、男同士の心中でもしようぢやないか』
『どうも仕方がない』
とこれもひつついたやうな声で呟いて居る。忽ち足許から、カツカツカツと鋭利な鑿で岩を打ち砕くやうな音がしたかと思へば、筍のやうに鋭利な槍が石畳を通してヌツと現はれた。
『ヤアこれは険難だ』
と後へすざると、またもやカツと音がして槍の穂先が湧いて出る。瞬く中に三本四本五本十本と石畳を通して隙間もなく鋭利な槍が立ち並んで来た。横壁になつて居る石畳からも槍の穂先が三尺ばかり、カツカツと云ひながら四方から頭を出した。最早両人は真直に立つて居るより、横になることもどうする事も出来ないやうに槍に包まれてしまつた。槍の穂先は忽ち蛇と変じ、ペロペロと両人の身体を舐めむと一斉に首を擡げて舌端火を吐く奴、中には水を吐く奴、黒煙を吐く奴、次第々々に延長して両人の身体を雁字搦みにしてしまつた。二人は声も得上げず、互に顔を見合せた。俄に顔はやつれ、恨の顔色物凄く、忽ち地獄の餓鬼のやうな面相になつてしまつた。
 この時、何処ともなく太鼓のやうな声が聞えて来た。二人は耳を澄ましてよく聞けば、
『アアア悪魔外道の教をもつて世を誑らかす三五教に迷信致し、
イイイ印度の都ハルナに坐します大黒主の命令に背き軍務を捨てて、
ウウウ迂濶千万にも三五教に寝返りを打ち迷信致した罪によつて、
エエエ閻魔の庁より許しを受け、汝両人を剣の山、蛇の室、焔の牢獄につつ込み、
オオオ臆病者の汝等の霊肉を亡ぼし、地獄のどん底へ落してくれむ。
カカカ改悪致して片時も早く神にお詫を致せばよし、何時迄も頑張りて居るならば、
キキキ錐の地獄へつき落し、鋸の刃をもつて汝が首を引き破り、
ククク苦しみの極度に達せしめ、糞を食料に与へてやるがどうだ。
ケケケ怪しからぬその方。
コココこれより此処で改心致すと申せば、この苦痛を許してやらうが、何処までも三五教を奉ずるとあらば、最早許さぬ百年目、返答はどうだ』
と雷の如き声が聞えて来る。
ランチ『拙者は苟くも三軍を指揮したる武士でござる。一たん三五教に帰順したる上は、決して所信はまげぬこの方、サア早く某を如何やうとも致したがよからう。仮令肉体は亡ぼさるとも、如何なる責苦に遇ふとも、拙者の霊は肉を離れ、大神の天国に上り、神軍を引率して汝等の魔軍を木端微塵に粉砕してくれむ。如何やうなりとも致したらよからう』
 何処ともなくまたもや大きな声、
『さてもさても合点の悪い代物だなア。
シシシ強太う致して我を張りよると、汝が霊肉を粉砕し、高天原へ上る所か、第三天国の軍勢をもつて、汝が悪業を数へ立て、槍の穂先に亡ぼしくれむ。
ススス素直に改悪致して、この方の云ひ分についたが汝の身のためであらう。
セセセ背中に腹はかへられまい。
ソソソ傍に立ち上るその剣先、今に焔を吐いて汝を焼き尽すだらう。片彦も同様だぞ。一同思案を定めて返答を致すがよからう』
片彦『タタタ叩くな叩くな、悪魔の計略に乗ぜられて、仮令この肉体は亡ぶとも、
チチチ些とも怖れは致さぬ。
ツツツ突くなと斬るなと勝手に致せ。
テテテテンゴを致すと、やがて三五の大神現はれたまひ、汝を罰したまふべし。
トトトとほうに暮れて、如何に栃麺棒を振るとも、決してその方は許されまいぞ』
 頭の上からまた怪しの声、
『ナナナ何をゴテゴテと世迷言を吐すか。
ニニニ二人とも大黒主様に叛旗を翻し、
ヌヌヌヌツケリコと士節を破り三五教の道に、
ネネネ寝返り打つた横着物、
ノノノ望みとあらば、この槍の穂先を廻転させ、喉と云はず、頭と云はず、腹と云はず、突いて突いて突き捲つてやらうか』
ランチ『ハハハ腹なりと喉なりと、
ヒヒヒ肱なりと背なりと勝手に、
フフフ不足のないやうに、サア突けい、ガツプリ突けい。
ヘヘヘ下手な事を致して地獄の苦しみを受けな。
ホホホ呆け野郎奴、このランチは、汝如き悪神に屁古垂れるやうな弱虫ではないほどに、鯉は爼の上に載せらるれば決して跳ねも動きも致さぬ。武士の花と謡はれたるこのランチ、片彦両人は一寸も動かばこそ、大磐石心だ、勝手に致したがよからう』
と、かすれた、ひつついた声を出して抵抗して居た。
 不思議の事には槍は林の如く突立ち、火は炎々として燃えて来る。蛇、蜈蚣は体一面に集つて来るが、しかし痛くも痒くもない。両人はこれぞ全く神様の御守護と大神を念じ、且一時も早く天国に上らむ事をのみ念じつつあつた。
 ああこの両人は如何にして救はるるであらうか。

(大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 加藤明子録)



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