出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語51-3-111923/01真善美愛寅 乙女の遊王仁三郎参照文献検索
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第一一章 乙女の遊〔一三二六〕

 高姫は二人の侍女と共に満面笑を湛へ、蓬莱山に行つて無上の歓楽に酔ひし如く、恍惚として脇息に凭れ、わが運の開け口、宇宙一切を手に握るもかく楽しくはあるまいと満悦の折柄、ドアをパツと開いて足音高く入り来るは、六角の金色燦爛たる冠を戴いた高宮彦命が、さも愉快気にやつて来た。忽ち床を背にして、ムクムクとした厚い絹座布団の上に膝を埋めるやうにして坐り込んだ。高姫はさも嬉しげに媚びを呈しながら、
『これはこれは吾夫、高宮彦様、よく吾居間を訪はせられました。一時千秋の思ひで、君のお出でを待ち焦れて居りました。嬉しうござります』
と涙含む。妖幻坊は、
『いや高宮姫殿、長らく顔も見せず失礼を致した。さぞ淋しかつたであらうな』
『はい、幸に二人の娘が近侍してくれて居りますので、あまり淋しいとは存じませぬが、君のお姿が見えませぬと、何処とはなしに、ヤツパリ淋しうござります』
『アツハハハハハハ、さうするとヤツパリこの高宮彦が恋しいと見えるのう。や、さうなくては叶はぬ事だ。かうして夫となり妻となるも、昔の神代から絶るにきられぬ因縁であらう』
『尊き神様の御恵によりまして、かかる尊き御殿の内において親子夫婦の邂逅ひ、実にこんな嬉しい事はござりませぬ。貴方の御雄姿と云ひ、高宮姫の若返りと云ひ、この金殿玉楼と云ひ、更に錦上花を添へたる如き金剛不壊の如意宝珠の分霊、高子姫、宮子姫二人の美女、天極紫微宮の壮観も竜宮城の光景も、よもやこれほどまでにはござりますまい』
『それは、その筈だ。金剛不壊の如意宝珠の不思議の神力にて、天極紫微宮の御殿を地上に引移し、また竜宮の最も美しき処を、海底より此処に引上げ建て並べたる大城廓、その中心の金殿玉楼、曲輪城の高宮殿、綺麗なのは尤もだ、アハハハハハ』
『あの杢……いやいや高宮彦様、この城廓の広袤は何程ござりますか』
『うん、さうだ、東西が百町、南北が百町、中々以て広いものだぞや。その中心なるこの御殿において、汝と両人、天下を握る愉快さはまた格別だ。しかしながら高宮姫、よつく聞け、昨日まではバラモン軍の先鋒隊ランチ、片彦両将軍が屯せる陣営の跡、彼方此方に散在し、見る影もなき荒野なりしが、神変不思議の魔法によつて、田園山林陋屋は忽ち化して花の都となり、かく城廓を天より海底より引寄せ、天地の粋を尽したる建物は漸く建つたれど、これより汝は吾と力を協せ、第一吾々が行動を妨ぐる三五教及びウラナイ教の奴輩を、一人も残らずこの城中へ手段を以て引込み、霊肉共に亡ぼさねば、万劫末代この栄華を保つ事は難かしい。最も恐るべきは三五教を主管致す素盞嗚尊だ。それに従ふ東野別命、八島主命、日の出別命、言依別命、天之目一箇命、初稚姫命、その他沢山あれども、先づ吾々が敵とするは以上の人物だ。それに従ふ奴輩も一人も残らず打亡ぼさねば、吾々夫婦の大望は成就致さぬぞや。高宮姫、そなたが今後採るべき手段は如何でござるか。それを承はりたいものだ、アツハハハハハ』
『もし吾夫様、否吾君様、今となつて左様の事、お尋ねまでもござりませぬ。妾はこれより日々この城門を潜り出で、二人の娘を引連れ、火の見櫓の近辺にて往来の人を待ち伏せ、この美貌と弁舌にまかせ、残らずこの城内に引き入れ帰順させてやりませう。必ずやお気遣ひなさいますな』
『ヤ、出来した出来した。流石は高宮姫殿、しからば吾は奥殿にて休息致し、日々の神務を見るべければ、汝は高子、宮子を伴ひ、火の見櫓の前にて往来のものは云ふに及ばず、三五教の宣伝使及び三五教に帰順して斎苑の館へ参拝する奴輩を残らず引捕へ、吾城内へつれ帰られよ』
『仰せにや及びませう。高姫もかく若やいだ上は、いろいろと力を尽し手段を以て引き寄せませう、必ずともに御安心下さいませ』
『いやそれを聞いて安心致した。兎角浮世は色と酒、も一つ大切なものは権勢だ。何程智者学者と雖も、聖人君子と雖も、権勢なければ世に時めき渡る事は出来ない。まづ三五教を崩壊し、大黒主の神様に安心を与へ奉らずば、七千余国の月の国は云ふに及ばず、三千世界は乱麻の如く乱れ、且吾々の悪霊世界へ……否悪霊世界が吾々を滅亡せむと致すは火を睹るよりも明かだ。吾より先に進んで館を亡ぼさなくては、吾等は彼に亡ぼさるるに至らむ。如何に如意宝珠の妙力ありとも、敵にもまた一つの神宝あり。必ず油断なく……いざこれより初陣の功名を現はすべく出門召されよ』
と常に変り言葉も荘重に儼然として宣り伝へた。高姫は、
『はい、承知致しました。必ず手柄をしてお目にかけませう。さア高子、宮子、母についておぢや』
と錦の袖を間風にひるがへし、シヨナ シヨナと身振りしながら裾を持ち、高宮彦に別れて長廊下を伝ひ、玄関口より黄金の足駄を穿ち、浮木の森の火の見櫓の麓をさして、シヨナリ シヨナリと太夫の行列よろしくにじり行く。
 高姫は二人の侍女と共に襠衣を脱ぎ、火の見櫓の下の間に蔵ひ置き、長柄の籠を各携へて、菫や蒲公英を余念なき態を粧ひつつ摘んでゐた。さうして其処に咲き誇つてる寒椿の花の自然に落つるのを眺めて、昔のアーメニヤ時代を思ひ浮かべ、

『おだやかな
 初春の
 小庭にしよんぼりと
 乙女の唇のやうな
 小さき寒椿
 滴るばかりの緑葉は
 昨晩から雨にぬれた
 病人の如く
 椿の花は幽かに慄ふ
 妾は今
 彼の恋男の
 痛々しい姿に
 悩まされつつ
 昔を今に写して
 喘いで居るのだ
 涙ぐましい気分が
 四辺に漂ひ
 わが小さき胸に襲ひ来る
 これの椿の花よ
 吾の姿に
 わが恋の思ひに似て』

とこんな事を云つてスツカリ十八気分になり、ありし昔を追懐してそのローマンスを夢の如く浮べて椿の花に思ひを寄せてゐた。世の風波にもまれ、あらゆる権謀を弄し、鬼の如き荒男を凹ませ、神人をなやませたる高姫の言葉とは、どう考へても思はれないほどの、あどけなき姿になりきつて居た。されど潜竜淵に沈むと雖も、一度風雲に際会すれば、天地を震撼し、黒雲を巻き起し、億兆無数の星晨を黒雲の下に舐め尽す如き執着心と焔の如き弁舌は、遺憾なく高姫の老躯より迸るのが不思議である。高姫があどけなき姿になり、白い手を出して怖さうに蒲公英を摘んでゐると、そこへ蓑笠を着け草鞋脚絆の旅装束、金剛杖を左手に握り、宣伝歌を歌ひながら進み来る二人の男があつた。

『神が表に現はれて  善神邪神を立別ける
 この世を造り給ひたる  国治立の大神は
 天地百の神人の  醜の罪科一身に
 引受け給ひ天界の  天極紫微宮後にして
 根底の国に落ちましぬ  ああさりながら大神は
 仁慈無限の御心に  この世を救ひ助けむと
 千々に心を悩ませつ  御身を変じ遠近と
 彷徨ひ世人を守りつつ  百の難みを苦にもせず
 守らせ給ふ有難さ  バラモン教に仕へたる
 吾はランチの将軍ぞ  吾は片彦将軍ぞ
 大黒主の命を受け  斎苑の館に現れませる
 神素盞嗚の大神を  打亡ぼして世の中の
 曲をば払ひ清めむと  数多の軍勢引率れて
 隊伍を整へ堂々と  浮木の森や河鹿山
 進み来りし折もあれ  三五教の宣伝使
 神力無双の神人に  説きつけられて三五の
 誠の道を相悟り  武装を棄てて治国の
 別の命の弟子となり  クルスの森やテームスの
 峠に長らく足を止め  天国浄土の御教を
 聴聞なして人生の  その本分を悟りしゆ
 吾信仰はいや固く  仮令巨万の黄金も
 天女を欺く美人にも  汚き心を起さざる
 勇猛心となりにけり  これぞ全く皇神の
 吾等を救ひ給はむと  降し給へる仁愛の
 恵みの雨の賜物ぞ  ああ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ  向ふの森を眺むれば
 印象深き浮木原  数多の軍勢引率れて
 滞陣したる馴染の地  しばらく月日を経るままに
 うつて変りしあの様子  如何なる偉人の現はれて
 かくも立派な都会をば  造りしものか、あら不思議
 雲表高くきらめくは  大廈高楼金銀の
 甍に輝く日の光  合点の行かぬこの始末
 汝片彦宣伝使  彼の光景を何と見る
 訝かしさよ』と尋ぬれば  片彦首をかたげつつ
 口許重く答へらく  『君の宣らするその如く
 実にも不思議の光景ぞ  いざこれよりは逸早く
 足を早めて実否をば  調べて見むか、如何にぞや』
 反問すればまたランチ  『如何にも尤も探険』と
 道を行きつつ語り合ひ  火の見櫓の麓まで
 二本の杖に地を叩き  しづしづ此処に着きにけり。

 ランチ、片彦両人は自分が四ケ月以前に駐屯してゐた時の俤は烟の如く消え、得も云はれぬ立派な城廓や市街が立並び、火の見櫓は金色燦然として四辺を輝かして居る。二人は不思議さうに立止まり、目を丸くしながら無言のまま、四辺キヨロキヨロみつめて居る。ランチは漸く口を開き、
『いや片彦殿、何と不思議ではござらぬか。拙者が将軍として貴殿と共に陣屋を構へし俤はなく、殆ど千年の都の如きこの壮大なる構へ、繁華なる市街の櫛比する有様、夢のやうにはござらぬか』
『成程、貴殿の申さるる通り実に不思議千万でござる。もしか悪神等の悪企みではござるまいかな。如何なる神人と雖も、かくの如き事業を短日月に完成すべしとは思ひも寄らぬ。さてもさても不思議の事よ。いや、向ふの椿の木の根元に妙齢の女が三人、花を摘んでゐるやうです。彼の女を捕へ、この城内の様子を伺つて見ようではありませぬか』
『成程、それもよろしからう』
と云ひながら三人の乙女の方へと歩を進めた。
 四辺は春めきて、去年のかたみの枯草の間から、青草の芽霧が細く柔かく伸びて居る。小鳥の声は音楽のやうに四辺に響いて来た。

(大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 北村隆光録)



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