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物語50-3-111923/01真善美愛丑 鸚鵡返王仁三郎参照文献検索
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第一一章 鸚鵡返〔一三〇五〕

 祠の森の神館に  現はれ来りし杢助の
 その正体は月の国  大雲山に蟠まる
 八岐大蛇の片腕と  妖魅の世界に名も高き
 獅子と虎との中性を  備へし怪しの動物ぞ
 妖幻坊と謳はれて  彼方此方に出没し
 神出鬼没の妖術を  使ひて世人をなやませつ
 地上の世界を魔界とし  所在善を亡ぼして
 邪悪と虚偽の世にせむと  狂ひ廻るぞ由々しけれ
 三五教の宣伝使  玉国別が丹精を
 凝らして仕へまつりたる  厳の御霊や瑞御霊
 尊き神の御社を  蹂躙せむと出で来る
 悪魔に御魂を奪はれし  高姫司を誑かし
 茲に夫婦となりすまし  生地を隠して居たる折
 忽ち来る三五の  道に名高き宣伝使
 初稚姫の霊光と  伴ひ来る猛犬に
 恐れて逃げ出すその途端  神に仕ふるスマートが
 その正体を看破りて  忽ち勇気を振り起し
 幾層倍の巨体をば  有する曲津に取りついて
 眉間のあたりを一噛ぶり  森を流るる谷水の
 傍へに鎬を削りつつ  妖魅は忽ち驚愕し
 雲を霞と山の尾を  指して一先づ逃げて行く
 スマートは足を傷つけて  チガチガしながら立帰り
 初稚姫の居間に入り  しばし痛手を舐めながら
 自分療治の巧妙さ  高姫司は杢助を
 兇暴不敵の曲神と  知らぬ悲しさ吾夫と
 恋ひ慕ひつつひそびそと  よからぬ事を計画し
 まづ第一に目上の瘤と  心にかかる珍彦や
 静子の方を毒殺し  楓の姫を吾子ぞと
 偽りすまして聖場に  いや永久に陣を取り
 斎苑の館にましませる  神素盞嗚大神の
 世界救治の神策を  妨害せむと首をば
 鳩めて囁く恐ろしさ。  

   ○

 楓の姫の枕辺に  現はれ給ひしエンゼルは
 言霊別の化身なる  文珠菩薩と厳めしく
 さしも雄々しきスマートを  伴ひ来り両親の
 危難を救ひ与へよと  百毒解散の神丹を
 与へて雲に身を隠し  何処ともなく出でましぬ
 楓はハツと目を醒まし  吾手の拳を調ぶれば
 夢に受けたる霊薬を  握り居たるぞ不思議なれ
 妖幻坊の杢助が  意思に従ひスマートを
 一先づここを追ひ出し  やつと安心する間なく
 杢助司の瘡傷を  癒さむために大杉の
 梢に生えし玉茸を  密に取らむと高姫は
 人目をしのび梯子を  大木の幹に立てかけて
 重い体をたわたわと  さしもに高き一の枝
 やつと手をかけ蜘蛛の巣に  引つかかりつつ右左
 梢を探し居たりしが  忽ち梟の両眼を
 認めてこれぞ玉茸と  喜び勇み手を出せば
 梟は驚き高姫が  二つの眼を容赦なく
 鈎のやうなる嘴で  力限りについばめば
 不意を打たれて高姫は  スツテンドウと高所より
 忽ち地上に顛落し  眼は眩み腰痛み
 息絶えだえとなりにける  受付役に仕へたる
 イルは見るより仰天し  忽ち館にふれ廻る
 珍彦、静子を初めとし  イル、イク、サール、ハル、テルの
 若き男は高姫を  担いで居間に運び入れ
 初稚姫の熱心な  その介抱に高姫は
 しばし息をばつきながら  杢助さまを逸早く
 招き来れとせきたつる  その心根ぞ不愍なれ
 顔面忽ち腫れ上り  二目と見られぬ醜面と
 変り果てたる恐ろしさ  祠の森の妖怪と
 怖れて近づくものもなし  さはさりながら三五の
 教を守る宣伝使  初稚姫は懇切に
 高姫司をいたはりて  介抱なせば七八日
 月日を重ねて両眼は  忽ちパツと元の如
 開けて痛みも頓にやみ  顔の腫まで減退し
 悦ぶ間もなく高姫は  初稚姫の神力を
 怖れて再び奸策を  企み初めしぞうたてけれ。

 高姫は懇切なる初稚姫の介抱に漸く腰の痛みも全快し、顔の腫も引き両眼は元の如く隼の如く光り出した。喉元過ぎて熱さ忘るるは小人の常とかや、兇霊に憑依されたる高姫は、前に倍して悪垂れ口をつき始め、遉の初稚姫、珍彦を手こずらすこと一通りではなかつた。
 高姫は病気が癒つたのを幸ひ、いそいそとして珍彦の館を訪うた。
『ハイ御免なさいませ。珍彦さまは御機嫌宜敷うございますかな。静子さまも御無事ですかな。私も長らく怪我を致しまして困つて居りましたが、御親切の貴方様、あれほど私が苦しんで居るのに、ただの一度もお訪ね下さいませず、真に御親切なほど、有難う存じます。遉は大神様に直々お仕へ遊ばす御夫婦の事とて、何から何までお気のつく事でございますわい。この御親切をお報い申さねば済みませぬから、御迷惑ながらちつとばかり、いなやつとばかりお邪魔になるかも知れませぬよ』
と門口から喋りながら「お上りなさいませ」とも云はぬに早くも座敷に上り込み、火鉢の前にどつかと坐り、柱を背に、煙草を燻らしながら、傲然と構へて居るその憎らしさ。楓姫は淑やかに襖を開けて高姫の前に現はれ、
『ヤ、お前さまは義理天上さまぢやな。この間は真にお気の毒さま、イヒヒヒヒヒ、貴女もあれでよい修業をなさつたでせうね。お父さまやお母さまに大切な毒散を振れ舞つて下さいまして、真にお気の毒さまでございましたなア。ホホホホホ』
 高姫は、ぎよつとしながら左あらぬ体にて、
『これ楓さま、なんぼ年が若いと云つても、その悪言は聞き捨てなりませぬぞや。お前さまはこの義理天上が、御両親に毒を盛つたと云ひましたな。何を証拠にそんな事をおつしやる。この義理天上に、あらぬ悪名をつけ、無実の咎を負はせて追ひ出さうとの企みであらうがな。何奴も此奴も悪人ばかりで、挺にも棒にもおへた代物ぢやないわい。これほどこのお館に悪魔が蔓る以上は、いつかな いつかなこの高姫は、お前達が追ひ出さうと云つたつてびくとも動きはしませぬぞえ。そして珍彦さま、静子さまは何をしてござるのだ。「毒を呑ました」と、こんな失礼な事を現在自分の娘が云つて居るのに断りにも来ず、揃ひも揃つた四つ足身魂ぢやな。これだからこの義理天上が骨が折れるのだ。こんな分らずやの悪人が結構な結構なお館を汚して居るものだから、神力無双の杢助さままで、お前達の犠牲となつてあんな深傷を負ひ、今ではお姿も見えない。大方お前達が汚れて居るので、清浄無垢の杢助様はお嫌ひ遊ばし、斎苑の館へお帰りなさつたのだらう。エエ仕方のない曲津が寄つたものだなア。変性女子のしようもない教にとぼけて居る八島主を初め、玉国別、五十子姫などと云ふ阿婆摺女が肝腎の義理天上様に相談も致さず、許しもうけず、勝手気儘に大神様のお鎮まり遊ばす御聖場に、鷹か鳶か狸か鼬か分りもしない御霊の宿つた珍彦夫婦を、大それた神司に任じ、その上バラモン教の落武者、箸にも棒にもかからないガラクタ人足を半ダースも引張り込み、聖場を日に月に汚すものだから、杢助様の犠牲ではまだ足らぬと見え、女房の義理天上までが長らくの苦しみ、これもやつぱりお前達親子のために千座の置戸を負うたのだ。あの病気中にせめて一度位、「義理天上様、御気分はどうですか、お薬はどうか」と義理一遍の挨拶にでも来たらよささうなものだなア。本当に恩知らずと云つても、犬畜生にも劣つたどたほし者だ。珍彦、静子夫婦は、私の神徳に怖れて何処へ潜伏したのだ。サア楓さま、一遍御意見をして上げねばならぬから、ここへ連れて来なさい』
『イヤですよ。お前さまは杢助の妖幻坊と腹を合せて、毒散と云ふ悪い薬をお父さまやお母さまに呑ました怖ろしい大悪魔だから、何程お前さまが苦しんで居ても、よい罰だと思つて誰も訪ねに往くものがないのよ。気の毒ですねえ。ホホホホホ』
『これ阿魔つちよ。何だ小ちつぺの態をして、毒散を呑ましたなぞと、何を証拠にそんな事を云ふのだ。毒でない証拠には、お前の両親達は何の事もないぢやないか。熱が一つ出たと云ふのぢやなし、咳を一つしたと云ふのぢやなし、そんな無体の事を云ふと、このお館には居つて貰ひませぬぞや』
『大きに憚りさま。お前さまのやうな怖ろしい人は顔を見るのもいやだと云つて、お父さまやお母さまは、昨夜の中に斎苑の館へ、そつとお参りになりましたよ。ここは珍彦の監督権内、お前さまが義理天上か不義理の天上か知らぬけれど、まア二三日待つて居なされ、きつと立退き命令が、斎苑の館から下つて来るのに違ひありませぬわ、エヘヘヘヘ、お気の毒さまねえ』
『ほんにほんに年歯も往かぬ阿魔つちよの癖に、何とした謀叛を企らむのだらう。毒害を致したなぞと、この生宮を大それた斎苑の館まで讒言しに往きよつたのだな。エー、アタ小面の憎い、今に思ひ知らしてやるほどに、仮令立退き命令が来たとて、いつかないつかな日出神の御命令の下らぬ以上は動きは致さぬぞや』
『オホホホホ、日出神様、嘘だよ嘘だよ、あんまりお前さまが悪い事を企むから、お父さまとお母さまがとてもやり切れないから、斎苑の館へ注進に往かうかと云つて居たのだよ。まだ行つて居ないから、お社へでも御祈念にいらしたのだらう。今の間に改心して、お父さまやお母さまに毒を呑ましたお詫をなされば、私が取り持つて斎苑の館往きを留めて上げませう。天上さま、どうですな。この事を注進されたら、何程日出神様でもちつとは困るでせう』
『無実の罪を着せられて困る者が何処にあるか。無実の咎でおめおめと親子が四方に流され、泣いて一生を暮した未来の菅公見たやうな人間とは、ヘンちつと違ひますぞや。誣告の罪で、此方の方から訴へてやるのだ。何と云つても承知はせないぞや。さあ早く両親をここへ引きずり出して、義理天上様に、頭を地に摺りつけ、尻を花瓶にしてあやまりなさい。さうしたら都合によつたら、虫を押へこらへてやらぬものでもない』
『オホホホホ、オイ馬鹿の天上さま、悪の天上さま、どつこい不義理の天上さま、さうは往きませぬぞや。お前さまが妖幻坊と相談をして、印度の国から持つて来た毒散をお酒の中や御飯の中にまぜて喰はしたのだ。けれど、家のお母さまやお父さまは言霊別命様の御化身、いやお使ひ、文珠菩薩さまから、結構な結構な神丹と云ふ霊薬を頂いてゐらつしやつたのだから、その毒散が利かなかつたのよ。サアどうですか。もし楓の云ふ事が違ふなら、今文珠菩薩様を念じて此処に現はれて貰ふから、さうしたらお前さまも往生しなくちやなりますまい』
『そんな事は知らぬわい。子供だてらツベコベ言ふものぢやない。苟くも日出神の生宮たる善一条の高姫が、夢にもそんな事を致すものか。それはお前達の僻みから、そんな夢を見たのだ。そして許し難い事は、吾夫杢助様を捉まへて妖幻坊だと云つたらう。サア何を証拠にそんな事を云ふのか、誹謗の罪で訴へますぞや』
『ホホホホホ、未丁年者や少女の言葉は法律にはかかりませぬぞや。真にお気の毒さま、毒散の効能も、神力の前にはサツパリ駄目ですなア。サアサア早く帰つて頂戴』
 高姫は大いに怒り、楓の胸倉をグツと取り、拳を固めて、
『エエ、ツベコベとよく囀る燕め、この栄螺の壺焼をお見舞ひ申すぞ』
と云ひながら、可憐なる少女の頭を三つ四つ続け打ちに打つた。
『アレー、人殺ー』
と楓が叫ぶ声を耳にし、バラバラと駆けつけて来たのはイル、イク、サール、ハル、テルの五人であつた。

(大正一二・一・二一 旧一一・一二・五 加藤明子録)



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