出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=50&HEN=1&SYOU=3&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語50-1-31923/01真善美愛丑 高魔腹王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=15021

第三章 高魔腹〔一二九七〕

 初稚姫は祠の森の神殿に参拝し、長途の遠征を守らせ給へと祈願をこらし、再び高姫の居間へ引返した。高姫は遠く従うて神殿近く進み、初稚姫の後姿を打眺め、何処ともなしにその神格の完備せるに打驚き舌をまいた。そして高姫はその神格に感じ、心の底より初稚姫を神の如く尊敬した。しかしながら何処ともなく恐怖心に駆られ、且その神格の偉大なるに稍嫉妬の念を兆したのである。今まで初稚姫の大神格に圧倒され、しばし高姫の身体内に潜みて沈黙を守つて居た金毛九尾の悪狐は、高姫が少しく嫉妬心の兆したのを幸ひ、その虚に入り忽ち囁いて云ふ。
『吾は汝の略知る如く、神代において常世姫命に憑依し罪悪の限りを尽した金毛九尾白面の悪狐である。しかしながら時節来りてミロクの大神、地上に降臨し給ひし上は、吾等は何時までも悪を続ける訳には行かぬ。吾は悪の張本人なれば世の中一切の悪神の企みは皆知つてゐる。悪に強ければ善にも強い。吾は金毛九尾白面の悪狐だ。そして汝は常世姫命の身魂の再来だ。もうかうなる上は一切万事を打ち明けて、悪の企みを瑞の御霊の大神にお知らせ申さねばならぬ。就いてはあの初稚姫は稚桜姫命の再来なれば、到底汝等の匹敵すべき神人ではない。寧ろ吾よりトコトン改心を致すべければ、汝も彼の初稚姫を師と仰ぎ、共に神業に参加すべし』
と甘く高姫を誑惑してしまつた。高姫は兇霊の言を深く信じて初稚姫に対する態度を一変した。初稚姫は神殿の拝礼を終り、階段を下りながら心私かに思ふやう、
『彼高姫には金毛九尾の悪狐の霊憑依せり。しかして彼悪霊は形体を有するものなれば、吾真相を現はさば忽ち彼が肉体を亡ぼすか、但は遁走してまたもや相応の肉体に住居を構へ世を惑乱するに至らむ。如かず吾は和光同塵の態度を極力維持し、彼の悪霊を高姫の肉体に長く残留せしめ、彼が根本より改心すれば重畳なれども、万一改心せずとも高姫の肉体中に秘め置かば、彼精霊は外に出づる虞なし。要するに高姫の肉体は天下を乱す悪霊をつなぐ処の牢獄と見ればいい。もとより徹底的兇霊なれば、神の光明に照されなば、兇霊は忽ち自暴自棄となり、益々神業の妨害をなすべし。如かず、神慮に背くかは知らざれども、しばらく吾は猫を被つて彼と交際し、何時とはなしに高姫と精霊とを天国に救ひやらむ』
と決心し、大神に念じながら素知らぬ顔にて高姫の居間に帰つて来た。精霊は高姫の口舌を使用して、いとやさしげに言葉を飾つて云ふやう、
『変性男子の御身魂初稚姫様、よくも御降臨下さいました。私は三五教の宣伝使、御存じの高姫でござります。大神様の御都合により悪神の張本金毛九尾の悪狐が私の肉体に潜み入り、私の真心に感化されて漸く改心を致しまして、今までの悪をスツクリ白状致しました。就いては凡ての悪神の企みは何もかも存じて居ると申して居りますから、私が守護神と共にこの祠の森に大門を造り、凡ての人民の因縁をよく調べ改心をさせた上、斎苑の館へ送る考へでござります。何卒この事をお許し下さいますやうに、変性男子の御霊様、お願ひ申します。そして一方には変性男子の系統なる義理天上日出神が、厳の御霊の御命令によりまして世界中を調べに歩き、世の初まりの根本の根本の成り立ちから、人民の大先祖の因縁、大黒主の身魂は如何なる因縁があるか、竜宮の乙姫のお働きは如何なるものかと云ふ事を知らしたいのでござります。今の三五教には宣伝使は沢山ござりますが、皆智慧、学で神界の事を考へようと致すのでござりますから何も分りませぬ。貴女は変性男子の生粋の大和魂の善の神様でござりますから、何もかも三千世界の事は御存じでござりますが、外の守護神や宣伝使や信者はサツパリ駄目でござります。それ故此処に大門を拵へ、私が一々因縁をあらため、斎苑の館へ参拝さす御役にして下さいませぬか』
と兇霊はうまく高姫に化けて虫のよい事を頼みかけた。初稚姫は彼が奸計を残らず看破した。されど前述の如く初稚姫はこの悪霊を審判する事を避けられたのである。
『貴女は信心堅固にして霊界によくお通じ遊ばした方と見えますな。妾は賤しき杢助の娘と生れ、まだ年も若く、社会的の経験さへも積んでゐない愚者でござりますから、到底霊界の消息等は分りませぬ。就いては貴女に対し左様の事をお許し申すなどとは以ての外の事でござります。何れ神様が貴女の御神力をお認め遊ばしたならば、屹度瑞の御霊の大神様からお許しがござりませう。妾には左様な権限は少しもござりませぬから、左様な事をおつしやらないやうにお願ひ致します。何卒至らぬ妾、神徳高き貴女様より御教授を御願ひ致したいものでござります』
と一切の光明を包み、普通人の如くなつてしまつた。高姫はニタリと打笑ひ、
『アー、さうだらうさうだらう、それが正直の処だ。まだ年も若い癖に宣伝使に歩かすとは、瑞の御霊様も余程物好きな珍らし物喰ひだな。どれどれこの高姫がここで根本の根本の因縁を説いて聞かしますから十分修行をなさいませ。それでなければ、訳も分らずに宣伝に歩いたり、大黒主を言向和すなどとは、以ての外の無謀のやり方でござりますからな』
『何分、至らぬ妾、老練な貴女様の御薫陶をお願ひしたいものでござります』
『ハイ、よしよし、お前は水晶魂だ。本当に素直な可愛い娘だな。これからこの小母さまの云ふ事を聞くのだよ。否小母さまではない、絶つてもきれぬ母子だから、そのつもりでつき合つて下さいねー』
 初稚姫は心に打笑ひながら故意と空惚けて、
『小母様、今貴女は妾ときつてもきれぬ母子だとおつしやいましたが、それは身魂の母子でござりますか。チツとも愚鈍の妾には合点が参りませぬワ』
『身魂の母子は申すに及ばぬ、お前さまは杢助さまの大切の娘だらう。その杢助さまはこの度神様の因縁によつて常世姫命の改心した善の折の生粋の肉宮のこの高姫の夫とおなり遊ばしたのだよ。杢助様だつて、この高姫だつて、よい年をしてから若いものか何ぞのやうに夫婦になつたり、そんな見つともない事はしたくはない。胸に焼鉄をあてるやうに思うてゐるのだが、これも神様のため、万民を救ふため、千座の置戸を負うて御神業に参加してるのだよ。訳の分らぬ人民がいろいろと申すであらうなれど、人民の申す事に心を悩まして居りたらミロク神政の御用が勤まりませぬ。訳知らぬ人民は、杢助、高姫の結婚を何となつと申して笑へば笑へ、誹らば誹れ、神のお仕組一厘の秘密がどうして一寸先も見えない人民に分るものか、と云ふ磐石の如き決心を以てここに夫婦の約束を結んだのだから、初稚さま、貴女もそのお積りで、私を母と思つて下さいや。私も貴女を大切の大切の御子と致して敬ひますから、母となり子となるのも昔の昔のさる昔、も一つ昔のまだ昔の天地開闢の初めから大神様より定められた因縁ぢやによつて、どうぞその覚悟でゐて下され。何事にも素直なお賢いお前さまだから、この高姫の生宮の申す事、よく呑込めたでせうなア』
 初稚姫は杢助の本物でなく、獅子と虎との中間動物なる兇霊に騙されてゐる事はよく看破して居た。されど故意と空惚けて、
『高姫さま、私の父が何時そんな事を貴女と約束致しましたのですか、私今が初耳ですわ。まアまアまア不思議な御縁でござりますこと。さうしてお父さまは何処へ行かれましたの』
『一寸この森の中へ散歩にお出でになつたと見えます。杢助様は森の散歩が大変にお好きだと見えましてね。お前さまが此処へ訪ねて来られた事をお聞きになつたら、嘸喜ばれるでせう』
『はて、妙な事だわ。妾のお父さまは斎苑の館の総務を勤めて居らつしやるのだから、ここへお越し遊ばす道理はありませぬがな』
『これ初ちやま、お前の、さう疑ふのも尤もだ。実の処は杢助さまは、あの我の強い東野別の東助さまと云ふ副教主との間に事務上の衝突が起り、それがために斎苑の館を追ひ出されなさつたのですよ。東助の野郎、正直一途の英雄豪傑、三羽烏の御一人なる杢助さまを追ひ出すとは以ての外の悪人ぢやありませぬか。あの東助はやがて今まで目の上の瘤のやうに困つてゐた杢助さまを首尾よく追ひ出し、斎苑の館の全権を掌握し、終には八島主の教主さまをおつ放り出し、自分がその後釜にすわると云ふ野心を抱いてをるのですよ。それでお前と私が此処で一肌脱いで、斎苑の館へ参る信者を小口から虱殺しに調べ、斎苑の館へやらぬやうにせねばなりませぬ。私がここで杢助さまと大門開きをしたのは、杢助さまや八島主の教主がお困りになつた時、お助け申すやうにチヤンと仕組をしてゐるのだから、お前さまも何処へも行かず、此処に居つて親子三人御用を致さうぢやありませぬか』
『それはまた不思議な事を承はります。東助様はそんなお方ぢやないやうに思ひますがな』
『それが善の仮面を被つてゐる悪魔ですよ。屹度悪人は悪相を以て現はれるものぢやありませぬ。所在虚偽と偽善を以て人民を詐り、虚栄的権威に甘んじてゐるものですよ。これ初稚さま、油断してはなりませぬぞや。この高姫は海千川千山千の修業をした善にも強い、悪にも強い、そして悪の企みは何もかも看破してゐるのだから、一分一厘間違ひはありませぬよ』
『あの東助さまは小母さまの若い時のお馴染だつたさうですな。そんなに悪口を云ふものぢやありませぬよ。父の杢助に比ぶれば、幾層倍人格が上だか知れぬぢやありませぬか』
『ヤツパリ子供だな。しかし子供は正直ぢや。何と云つても水晶魂だから心に罪がないので、表面から良く見える人を信用なさるのだ。そこが本当に尊い処だよ。しかし高姫の云ふ事はチツとも違ひませぬぞや』
『さうでござりますかな。一遍父に会つてみたいものですがな。もし小母さま、長上をお使ひ申して真に済みませぬが、一度お父さまに会ひたうござりますから、探して来て下さいませ』
『アアさうだろさうだろ、無理もない。親子の情と云ふものは本当に尊いものだな。吾身を捨てる藪はあつても吾子を捨てる藪はないと云ふ事だが、杢助さまも何もかも天眼通で知つて居りながら、こんな可愛い娘が来て居るのに、そしらぬ顔して森に散歩してゐなさるとは本当に水臭い方だな。子の心、親知らずだ。しかし初稚さま、この高姫はかう見えても本当にやさしいものですよ。杢助さまに比べて幾百倍も可愛がつてやりますから、どうぞ私を本当の母だと思つて下さいや』
『ハイ、御親切有難うござります』
と俯向いて見せた。
『これ初稚さま、一寸待つてゐて下さい。お父さまのあとを探して今直に屹度連れて参りますから』
と云ひながら羽ばたきしつつ欣々として森林の方に行く。高姫は森の茂みに隠れて後ふり返り舌をニユツと出し、いやらしい笑みを漏しながら独言、
『何と云つてもヤツパリ子供だな。しかしながらあの娘は何処ともなしに気高い処もあり、中々シヤンとした事を云ふ。あれをうまくチヨロまかし自分の子として置けば、三五教は吾手に握つたやうなものだ。何と都合のいい事になつたものだな。これから一つでも、うまい物があつたら、あの娘にくれてやり、そして十分懐かして置かねばならぬ。しかし都合のいい事には杢助さまが私の夫だから、切つても切れぬ仲だ。ああ有難うござります、八岐の大蛇様、金毛九尾の大神様』
と口の中から囁いた。高姫はこの声に驚いて目を怒らし、臍の辺を握り拳でトントンと打ちながら、
『こりや、金毛九尾の悪狐奴、何と云ふ事を申すのだ。左様な事を申すと、もうこの高姫は肉体を借さぬぞや。杢助さまや初稚姫の傍で、そんな事でも云うて見よれ。この高姫は立場がないぢやないか。改心致したと云うたぢやないか』
 腹の中から、
『ここは誰も居ないから一寸云つて見たのだから、さう怒るものぢやない。メツタに人の居る処で正体は現はさぬから安心しておくれ』
『よし、屹度守るか、うつかりした事を申すと常世姫の生宮が承知しませぬぞや。これから八岐大蛇や金毛九尾はスツカリ改心致して、あとへ日出神の義理天上が這入つてゐると何処までも主張するのだよ。よいか、分つたか。馬鹿な守護神だな』
 腹の中から、
『何とまア、我の強い、向ふ息のきつい肉体だな、アハハハハ』

(大正一二・一・二〇 旧一一・一二・四 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web