出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語49-4-191923/01真善美愛子 神丹王仁三郎参照文献検索
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本文    文字数=8050

第一九章 神丹〔一二九三〕

 珍彦、静子は火鉢を中に囲み、話に耽つて居る。
静子『もし珍彦さま、吾々親子はバラモン教の擒となり、危い所を治国別様に助けられ、御恩の返しやうもないその上に、こんな結構な宮番までさして頂き、何とも冥加に余つた事ぢやありませぬか』
珍彦『さうだ。お前の云ふ通り山海の大恩を受け、その上、神様の事も分らないのに、この館の主人を仰せつけられ実に身に余る光栄だ。しかし吾々は神のお道には全くの素人だから、余り荷が重過ぎて迷惑だな。日の出の神の義理天上とか云つて、生神様がお出になり、主人顔をしてござるが、何と云つても生神さまだから、維命維従ふより外はない。主人とは云ふものの有名無実で吾々の思ふやうには一寸もなりはしない、神様のお道と云ふものはこんなものかなア』
静子『それでも、六人の役員さまは矢張り私のやうな者でも主人と立てて下さるのだから結構ぢやありませぬか。楓のやうな何も知らぬ娘をお嬢さまお嬢さまと尊敬して下さるのだから有難いものだ、これと云ふのも全く神様のお蔭だわ』
 かく話す所へ楓は襖をそつとあけて入り来り、
楓『お父さまお母さま、今高姫さまが、貴方方に御馳走を上げたいと云ふて呼びに来られたらお出になりますか』
珍彦『それは折角の思召、無にする訳には往かない。また無下に断ればお心を悪くしてはならないからなア』
楓『お母さまも往く積りですか』
静子『珍彦さまが往かれるのに、女房の私が往かぬ訳には往きますまい。我の強い女だと義理天上様に思はれてはなりませぬからな。杢助さまと云ふ立派なお方がお出でになつて居るのだから、御挨拶に一度は往かうと思ふて居た所だ』
楓『それならお母さま、お父さま、お出なさいませ。就ては私夜前夢に文珠菩薩がお出になりまして、神丹と云ふ薬を下さいまして、「お前の両親の上に危急が迫つて居るから、これを一粒づつ飲ましておけば大丈夫」と渡して下さいました。有難うございますとお辞儀をしたと思へば夢は醒めました。目がさめましてもこんな立派な薬が三粒、手の上に残つて居ました。これを三人が一粒づつ頂きませう、さうすれば食当りも何もないさうですからなあ』
珍彦『それは有難い全く神様のお恵だ。何はともあれ頂いて往かう。オイ静子お前も頂きなさい』
楓『このお薬は私の手から口へ直接に上げなくては利かないと文珠菩薩がおつしやいました。サア口をお開けなさいませ』
 珍彦、静子二人は楓の命ずるままに口をパツと開けた。楓は一粒づつ両親の口へ放り込んだ。忽ち得も云はれぬ香が四辺を包み胸は爽かになり、身体から光が出るやうな心持になつた。楓もまた押頂いて自ら服用した。三人は俄に面色美しく、その美は益々美を加へた。かかる所へ高姫は満面に嫌らしき笑を湛へながら入り来り、襖をそつと開けて、
高姫『御免なさいませ。珍彦様、静子様、この間から参りまして、余り御神業が忙しいのでとつくり御挨拶も致しませず、誠に済まない事でございました。ついては夫杢助が心ばかりの御飯を差上たいと申しますので、義理天上日の出神が手づから拵へましたる料理、お口に合ひますまいが、御夫婦お揃ひなさつて御出下さるまいか、御酒の燗も出来て居ますから』
珍彦『左様でございますかな、私の方から一度御挨拶を致さねばならぬのに、貴方の方から却つて御馳走をして頂くとは誠に済まない事でございます』
静子『日の出の神の生宮様、左様ならば御遠慮なう夫婦の者が御馳走に預かりませう』
 高姫は仕済ましたりと内心打ち喜び、態と艶つぽい声を出して、
高姫『これはこれは早速の御承知、日の出の神身にとり満足に存じます。杢助殿もさぞや喜ぶ事でございませう。これにてお互に親睦の度を加へ御神業に参加致しますれば、御神徳四方に輝き、従つてこの館の主人公たる珍彦様の御名誉も世界に響き、結構な事でございます。サアどうぞ私についてお出下さいませ』
珍彦『ハイ有難うございます。しかしながら袴もつけなくてはなりませぬから、どうぞ一足お先にお帰り下さいませ。直に参りますから』
 高姫は、
『どうぞ早く来て下さい、お待ち申て居ります』
と云ひ捨て吾居間に立ち帰る。後に珍彦、静子に楓の三人は手を洗ひ、口を滌ぎ、
『神素盞嗚の大神様、何卒この危難をお救ひ下さいませ』
と祈願し、素知らぬ顔して高姫の居間に現はれた。
珍彦『唯今は、態々尊き御身をもつて私夫婦の如きものをお招きに預かり有難うございます。お言葉に甘え、御辞退致すも如何と存じ夫婦の者が罷出ましてござります』
高姫『それは御苦労様でございましたなア。何もございませぬが、丁度お燗がよい加減に出来て居ます。サア一つお過し下さいませ』
珍彦『有難うございます』
と云ひながら地獄の釜の一足とび 毒と知りつつ仰ぐ盃……神素盞嗚尊、守りたまへ……と高姫の注ぐ盃をグツと一口に飲み乾した。
杢助『ヤア珍彦様は日の出の神の生宮に酌をして貰ひました。男に女、よい配合だ、それでは私は静子さまに注がして頂きませう、アハヽヽヽ、男と女とは何とはなしに配置のよいものですわ』
 静子は『ハイ有難う』と手を慄はせながら盃を差出した。杢助は浪々と注いだ。静子は一生懸命に神を念じ『神丹の効を現はしたまへ』と小声に念じながら、グツト呑み乾した。それから高姫に飯を盛られ、種々の煮〆を盛られ、夫婦は十二分に腹を膨らした。されど両人の身体には些しの変化も無かつた。杢助高姫は、案に相違して不機嫌な顔をして居る。珍彦は態と言葉を設けて、
珍彦『御両人様、余り沢山頂きましたので、何だか頭がグラグラ致し、目が眩ひさうでございます。そして腹が痛うなりました。どうぞこれで失礼して吾居間でとつくりと休まして頂きます』
静子『アヽ私も何だか胸が悪くなりました。あまりどつさりお酒を頂いたものですから、失礼ながら御免を蒙ります』
高姫『ハイお塩梅が悪うございますかな。それはお気の毒様、どうぞ御勝手にお居間に往つてお休み下さいませ』
 両人は、
『ハイ有難うございます。左様なればこれにて失礼』
と態とに足をヨロヨロさせながら自分の居間に引きとり、布団を沢山かぶり、仮病を装ひ居たりける。
 後見送り高姫は、長い舌を出し、腮を二つ三つしやくつて居る。
杢助『アハヽヽヽ、願望成就時節到来だ、南無悪魔大明神、守り給へ幸はひ給へ』
高姫『ヱヘヽヽヘン。ヱヘヽヽヘン。オホヽヽヽヽ。オホヽヽヽヽ』

(大正一二・一・一九 旧一一・一二・三 加藤明子録)



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