出口王仁三郎 文献検索

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物語49-3-141923/01真善美愛子 大妨言王仁三郎参照文献検索
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第一四章 大妨言〔一二八八〕

 高姫の居間には高姫、お寅、魔我彦の三人が三角形に座を占め、高姫の説教を耳をかたげて聞いて居る。
高姫『魔我彦さま、お前はイソの館へ詣るのも結構だ。決してとめは致さぬが、まだお前のやうな事で到底イソの館へ行つても赤恥をかくやうなものだから、この高姫がこれから行つても差支ないと云ふ処まで義理天上日出神の御説教を聞いてその上にしなさい』
魔我『それは有難うござりますが、さうグヅグヅして居れませぬ。何程貴女が偉くてもヤツパリ元は元ですからな。私は祠の森へ参拝するつもりで来たのぢやありませぬ。松姫さまに許されてイソの館に直接に教を聞く事に致して来ましたから、今夜は御世話になるとしても是非明日はイソの館へ百日ばかり修業に行つて参ります』
高姫『これ魔我彦、お前チツと慢心してはゐないかな。何程松姫さまがイソの館へ行けとおつしやつても神力のない者がどうして行けますかね。お前は元は高姫の弟子だつた事は誰知らぬ者はありませぬよ。お前のやうに修業の足らぬ人がイソの館に行つて御覧、高姫もあんな分らぬものを弟子にして居つたかと思はれちやお前ばかりの恥ぢやありませぬぞえ。忽ちこの高姫の恥になります。それで此処で充分修業して義理天上日出神からお許しを受けたらイソの館へ行つてもよろしい』
魔我『それなら、何日ばかり此処にお世話になつたらよろしいでせうかな』
高姫『さうだな、まア早くて百日、おそくて二百日だらうかいな』
魔我『さう長らく居る訳にや行きませぬ。往復の日数を加へて百日の間お暇を戴いて来たのですから、こんな所に百日も居らうものならイソ館へ詣る事が出来ぬぢやありませぬか。それでは松姫さまに嘘をついた事になりますから、ともかく明日はお寅さまと参拝して来ます』
高姫『仮令百日かからうと二百日かからうと聖地に上るだけの徳がつかねばどうして行けるものか。私もお前を大切に思へばこそかうして気をつけるのだよ。よう考へて御覧なさい。中有界に迷ふてゐる八衢人足の身魂が何程天国を覗かうと思つてもまばゆいばつかりで却て苦しいものだ、面曝されて逃げて帰つて来ねばなりませぬぞや。チツと此処で義理天上日出神の筆先を戴いて身魂の因縁をよく調べて詣れる資格があればお詣りなさい。何はともあれ身魂研きが肝腎だからな』
魔我『高姫さま、義理天上日出神は私ぢやなかつたのですか』
高姫『さうぢや、しばらくお前に表向き、さう云はしてあつたのだが、何時までも世は持ちきりには致させませぬぞや。誠の日出神はこの高姫ですよ。ヘン……済みませぬな』
魔我『身魂の因縁だとか、義理天上だとか、日出神だとか、私はもうこりこりしました。小北山で松彦さまが見えて、何もかもサツパリ化けが露はれてしまつただもの、義理天上日出神と云つてるのは金毛九尾の家来の大きな黒狐ですよ。お前もヤツパリその黒狐を喜んで奉つてゐるのですか』
高姫『これ魔我、そりや何と云ふ大それた事を云ふのだい。勿体なくも日出神様を狐だ等と馬鹿にしなさるな。お前の腹の中に曲津が棲んでゐるのだらう。それがそんな事見せたのだ。それでマガ彦と神様が名をおつけ遊ばしたのだよ。左様の事申すなら何と云つてもイソの館へはやりませぬぞや』
魔我『お寅さま、どうしませうかな。高姫さまがあんな事云ひますがなア』
お寅『高姫さまが何とおつしやつても私は治国別様から手紙を戴いて来たのだから非が邪でもイソ館へ参り八島主様にこの手紙を手渡しし嫌でも応でも立派な宣伝使となつて帰らねばなりませぬ。お前は此処に修行に来たのではない。このお寅の付添だからどうしても来て貰はねばなりませぬ。高姫さま、私が魔我彦を連れて行きますからまた御世話になります。今度はどうしても連れて行かねばなりませぬ』
高姫『これお寅さまとやら、お前さまは治国別とやらに添書を貰つてイソの館へおいでるのかい。そりや措いたがよろしからうぞや。云ふとすまぬがお前はまだそれだけの資格が備はつて居らぬ。治国別なんて偉相に云つてるが、彼奴は元はウラル教の亀公ぢやないか。そんな奴が手紙を書いた処が……ヘン何、八島主様がお受取り遊ばすものか。悪い事は決して申しませぬ、この日出神の申すやうになさつたがよろしからうぞや』
お寅『治国別様は立派な宣伝使ぢやござりませぬか。さうして第一天国までお調べになつた結構なお方ですよ。そのお方から手紙を下さつたのだから八島主様がお受取りなさらぬ道理がありますか。私は何とおつしやつても参ります』
高姫『ヘン、偉相に、亀の野郎、第一天国に行つて来た等と、そんな事がどうしてあるものか。彼奴は醜の岩窟の井戸に這入つてドン亀のやうに苦しんでゐた男だ。そして自転倒島に渡り英子姫、悦子姫等の女達の家来になつた男ですよ。お寅さま、そんな男の手紙を貰つて何になりますか。それよりも義理天上日出神様の教を受けてその上でイソの館へおいでなさい。さうしたら屹度八島主が面会してくれるでせう』
お寅『はい、御親切は有難うござりますが何とおつしやつて下さつても、私は思ひ立つたのだから参ります。そして貴女様の弟子ぢやあございませぬ。治国別の直々のお弟子になつたのでござります。おとめ下さるのは嬉しうござりますが、仮令イソの館で赤恥をかいても是非行つて参ります。いかいお世話になりました。さア魔我彦、行きませうぞや』
魔我『高姫さま、折角御親切におつしやつて下さいましたけど、今度はお寅さまの付添ですから是非参つて来ます』
高姫『何と云つてもやらさぬと云つたら、やらしやせぬぞや。この祠の森にお宮さまを建てて高姫に番をさしてござるのは何とお考へでござる。大神様が高姫の御神力を御信認遊ばし、お前は一方口の祠の森に居つてよく身魂を調べ、よく研けぬ者は一年でも聖地へよこすでないぞよ。汚れた者が聖地に参つたら天変地異が勃発し聖地が汚れるから、よく調べよと大神様の御言葉、それで遥々此処まで参つて身魂調べをしてをるのだ。何程お寅さまが治国別の手紙を持つて行つてもこの関所の認めがなくては、駄目ですよ。お前一人のために三千世界の大難儀になつたらどうしますか。よい年をして居つてチツとは考へてもよさそうなものぢやありませぬかい。魔我彦だつてそれ位の道理は分つてゐさうなものぢやないか。これが分らぬやうな低脳児なら、体よう目なつと噛んで死んだがよいぞや。もう高姫も、どうしても云ふ事聞かぬなら魔我彦と師弟の縁をきるがどうだい』
魔我『お前さまに、師弟の縁をきられたつてチツとも痛痒は感じませぬ。私は松彦さまの弟子にして貰つたのだから忠臣二君に仕へずと云つてお前さまにお世話にならうとは思ひませぬ。どうぞ放つといて下さい』
高姫『エーエ、相変らずの没分暁漢だな。お前もここまでになつたのは誰のお蔭だと思つてるのだい。皆この高姫のウラナイ教で鍛へ上げられたのぢやないか。諺にも師の影は三尺隔てて踏まずと云ふぢやないか。たとへ一年でも教をうけたら師匠に違ひない。師匠の恩を忘れるのは畜生同然だぞえ』
魔我『畜生と云はれてもチツとも構ひませぬわ。貴方だつて偉相に義理天上日出神とすまし込んでござるが、ヤツパリ守護神は劫経た黒狐ぢやありませぬか。何程偉相に云つても小北山の御神殿でチヤンと審神がしてあるから……お気の毒さまだ……そんな事おつしやるとお前の守護神はこれこれだと今ここでスツパぬきませうか』
高姫『エーエ分らぬ男だな。どうなつと勝手にしたがよい。あとで吠面かはかぬやうにしたがよいわ。後になつて高姫の云ふ事を聞いておいたらよかつたのに……と云つてヂリヂリ舞ひしても後の後悔間に合はぬぞや。神が気をつける間に気づかぬと何事があるや知らぬぞよ。何事も神に不足申して下さるな。大橋越えてまだ先へ行衛分らぬ後戻り、慢心するとその通りと変性男子のお筆に出てゐませうがな。この祠の森は世界の大門とも大橋とも云ふべき処だ。大門開きも出来ぬ身魂を以て十里四方の宮の内、イソの館へ行かうとは……オホヽヽヽヽ向ふ見ずにもほどがある。盲蛇に怖ずとは、よくも云つたものだ。魔我彦さま、これでも行くなら行つて見よれ。目まひが来るぞや。神罰が当つて大地に蛙をぶつつけたやうにフン伸びんやうにしなさいや。これだけ高姫が気をつけるのに、どうしても意地の悪い東助の居る……ウヽヽウンとドツコイ……意地の悪い、……どうしても行くのかい。後は知りませぬぞや。アーア高姫さまが親切におつしやつて下さつたのに、あの時、我を張らなけれや、こんな事はなかつたらうにと豆のやうな涙を零して嘆いても後の祭、波に取られた沖の舟、とりつく島が無くなつてから、「高姫さま、どうぞ助けて下さい」と縋りて来ても義理天上日の出神は聞き済みはありませぬぞや。行くなら行くでよいからトツクリと心に相談をして、うせるがよからう、エツヘヽヽヽヽ』
魔我彦『何とマア相変らず達者な口ですこと。そんな事云はれると何だか幸先を折られたやうで、気分が悪くなつて来た。なアお寅さま、どうしませう』
お寅『御勝手になさいませ。このお寅は一旦云ひかけたら後へは引かぬ女丈夫だ。初めから一人詣る積りだつたが、お前がお伴さしてくれえと云つたから、連れて来たのだよ。高姫さまの舌にちよろまかされてお神徳を落さうと勝手になさいませ。私は何と云つても行くと云つたら行きますぞや。女の一心岩でも突き貫くと云つて、つき貫いて見せてやりますぞや』
高姫『これお寅さま、決して高姫は悪い事は申しませぬ。どうぞマアお腹が立ちませうが、トツクリと胸に手をあてて考へて御覧なさいませ。祠の森の許しがなくちや折角遥々遠方へ行つても、恥をかかねばならぬから私が親切に忠告するのですよ』
お寅『何と云つて下さつても私は参ります。治国別様から祠の森の高姫さまに許しを得て行けとは聞いて居りませぬ。もしもイソの館へ行つて高姫さまの許しがないから受付けぬと云はれたら、帰つて来ます。その時はまたよろしうお願ひします』
高姫『神の申す時に聞かねば神は後になりてから、何程ジタバタ致してもお詫申しても、そんな事、取上げて居りたらきりがないからあかぬぞよ……とお筆に出て居りますぞや。高姫の承諾なしに行くなら行つて御覧、夜食に外れた梟鳥、アフンと致して六つかしいお顔をなさるのが日の出神は気の毒なから気をつけますのだ。ヘン、どうなつとお前さまの御神徳は……えらいものだからなさいませ。この日の出神は帳を切りますぞや。帳を切られたら何程地団太踏んでも助かりませぬぞや』
お寅『お前さまに帳を切られたつて、私は大神様から帳を切られなければ一寸も構ひませぬワ』
高姫『何処までも分らぬ人だな。アーア一人の人民を改心させようと思へば神も骨が折れる事だわい。大国常立尊の片腕とおなり遊ばす日の出神の云ふ事を聞かずにどうして思惑が立ちませうぞ。阿呆につける薬がないとはよく云つたものだ。縁なき衆生は度し難しかな。本当に度し難い代物ばつかりだ』
 お寅はムツとして高姫をグツと睨みつけ少しく声を尖らして、
お寅『これ高姫さま、度し難き人物だとは何と云ふ口巾の平たい事をおつしやる、このお寅はかう見えても若い時から浮木の里の女侠客丑寅婆と云ふ女ですよ。鬼でも取挫ぐ婆だ。それが大神様の御意に叶ふて今や宣伝使の修行に参る途中、お前は私の修業の妨害を致す考へだな、お前は義理天上日の出神と云つて居られるが、日の出神がそんな訳の分らぬ事をおつしやいますか。何程お前が偉くともイソの館の八島主さまには叶ひますまい。私は仮令神罰が当つても貴方のやうな無理云ふ方には教は受けませぬ。放つといて下さい。さア魔我ヤン、行きませう、こんな気違じみた方に構ふて居つちや堪りませぬわ』
高姫『これお寅さま、強つてお止めはしませぬが、神様は順序ですよ。順序を乱したら誠の道が潰れますから、それを御承知ならおいでなさい。何事も順序と手続きが必要でござりますから……』
お寅『ハイ、御親切に有難うござります。私は治国別様に手続きをして頂き順序を踏んでイソの館へ参るのです。お前さまはイソの館から命令を受けて来たのぢやありますまいがな。珍彦様が此処の神司となつて治めなさらなならぬ処だのに、お前さまから順序を破つて勝手に義理天上日の出神だとおつしやつてこの新しいお館を占領してござるのだらう。今私の耳許に守護神が囁きましたよ。お前さまはこのお寅がイソの館へ参ると化けが露はれるものだから、何とか云つてお止めなさるのだらうが、私も苦労人だから、人の悪い事は申しませぬから御安心なさいませ。守護神の囁く処を聞くと、お前さまは大山子を張つてイソの館に参る宣伝使や信者を皆お前さまのものにする考へだ。云はば天の賊も同様だ。チツと改心なされ。悪は長く続きませぬぞや。さあさあ魔我ヤン、こんな処に長く居つても駄目ですよ。さあさあ早く行きませう』
高姫『こんな処とは、……何と云ふ事を云ひなさる。勿体なくも国治立の大神様、日の大神様、月の大神様、大自在天大国彦命様その外御神力のある尊い神様の祀つてあるこの聖場をこんな処とは……何を云ひなさる。滅多に許しませぬぞや』
お寅『高姫さま、私はこの森の神様を決して悪くは申しませぬ。こんな処と云つたのは貴方のやうな没分暁漢のござる居間をさして云つたのですよ。エーエ耳が汚れる、さあ魔我彦さま、行かう行かう』
と早くも立つて表へ走り行く。高姫はイソの館へ行かれちや大変だと気を苛ち『ヨル……ハル……テル』と呼ばはつてゐる。ヨル、ハル、テルの三人は『ハイ』と答へて此処に集まり来り、
ヨル『高姫様、イヤ日の出神様、お呼びになつたのは何の御用でござりますか』
高姫『お前達、何をグヅグヅしてゐるのだい。あの二人の連中をトツ掴まへて来なさい』
ヨル『何ぞあの人は悪い事を致しましたかな。別に罪のない者をトツ掴まへる必要はないぢやありませぬか。イソの館へ参らうとおつしやるのを止めると云ふ事がありますか。お一人でも本山へお詣りするやうにお奨めするのが道でせう。それにお前さまは何とか、かんとか云つて参らせぬやうにするのが不思議ですな。私だつて一度詣りたいと云へば何とか、かとか云つて、お止めになる。どうも貴方のおつしやる事は腑におちませぬわい』
高姫『勝手にしなさい。もう此処には居つて貰へませぬ。さあトツトと去んで下さい。日の出神の云ふ事に一々反対する人は受付に居ても邪魔になるからな』
ヨル『大きに憚り様、私は玉国別様と五十子姫様とのお許しを受けて此処の受付をしてゐるのですよ。決して貴方から任命されたのぢやありませぬ。此処の館は珍彦さまの御監督、お前さまのグヅグヅ云ふ処ではありませぬ。そんな事云ふとお寅さまと魔我彦さまに随いてイソの館の八島主さまの処へ行つて一伍一什を報告しますよ。おいテル、ハル、イク、サール、お前達気をつけて珍彦御夫婦さまや楓姫さまをよく気をつけてお宮さまを注意して下さい。私はこれから一足本山に行つて来ますから……』
と出て行かうとするを、高姫は飛びかかつて首筋をグツと捕らへ、
高姫『こりやヨル、日の出神の許しもなく何処へ出て行くのだ』
ヨル『ヘー、放つといて下さい。お尋ねまでもなくイソの館へ注進に参りますわ。さアお寅さま、魔我彦さま、参りませう』
 高姫は仁王立ちになり真赤な顔を膨らして、握り拳で乳の辺りを、反身になつて交る交る打ちながら、ヤツコスが六方を踏むやうなスタイルで玄関に立ちはだかり、ドンドン云はせながら、
高姫『ヤアヤアヤア三人の四足共、日の出神の命令を聞かずに行くなら、サア行つて見よ。あとで吠面かはくなよ。気もない中から義理天上日の出神が噛んでくくめるやうに気をつけておくぞや』
 お寅、魔我彦、ヨルは少しも頓着なく尻に帆かけて急坂を上り行く。

(大正一二・一・一八 旧一一・一二・二 北村隆光録)



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