出口王仁三郎 文献検索

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物語49-3-131923/01真善美愛子 胸の轟王仁三郎参照文献検索
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第一三章 胸の轟〔一二八七〕

 高姫は思ひもよらぬ立派な夫を持ち、ますます鼻息荒く、翌朝よりは義理天上日の出神をまたもや矢鱈にふり廻し出した。時置師神は朝の間早うから、神殿に参拝すると云つて出て行つた。跡に高姫は火鉢を前におき、キチンと坐りながら長い煙管で煙草をポカポカふかしてゐる、そして鈴をチンチンと叩いた。ヨルはコワゴワながら頭を掻きもつて、襖をソツとひらき、
『へ、御免なさいませ』
と身体を半分つき出し、早くも逃げ腰になつてゐる。
高姫『コレ、ヨル公、何と云ふ恰好だいな。その腰は何だい、みつともない、サツサとお這入りなさい』
ヨル『ヘー、何分夜通し、使つたものですから、とうとこんな腰になりました。本当に世界中一所によつたやうな心持でございましたよ、エヘヽヽヽ』
高姫『お前は、私たちのヒソヒソ話を聞いてゐたのだな』
ヨル『ハイ、エヽヽ、世界中、よつたやうだと、貴女がおつしやつたものだから、私も気が気でなく、もしもこんな所へ世界中押寄せて来うものなら、貴女の前の夫が交つてゐるに違ひない。さうすりや大喧嘩が始まるだらうと、捻鉢巻でチヤンと夜通し控えてゐました、先づ先づ無事で岩戸開きも相すみ、お目出度うございます、エツヘヽヽヽ、何分ヨルの守護でございますから、このヨル公は夜分は寝られませぬので……』
高姫『外の連中はどうして居つたのだい』
ヨル『ハイ、次の間で六人ながら、並列致しまして、御招伴に、ラマ教の修業を致して居りました。随分勢のよいものでしたよ』
高姫『エーエ、困つた連中だなア、サ早く御膳の拵へをしておくれ』
ヨル『ハイ畏まりました。しかしお膳は一つですか、二つにしませうか』
高姫『そんなこた言はいでも、大抵気を利かしたらどうだいなア』
ヨル『そんならお二人さまですから、二つに致しませうか』
高姫『エーエ、気の利かぬ男だなア、二つは即ち一つ、一といへば二を悟る男でないと誠の御用には立ちませぬぞや』
ヨル『どうぞハツキリ云つて下さいませ。二つか一つかと云ふ事を……』
高姫『エーエ、よいかげんに考へておきなさい。大抵分つて居るだらう』
ヨル『なるほど、ヤ分りました。昨夕は二つでしたな、そんなら二つに致しませう。据膳くはぬは男の中でないと云ひますから、イツヒヽヽヽ』
と云ひながら、舌をチヨツとかみ出し、腮を二つ三つしやくり出でて行く。
 高姫は煙管で火鉢をポンと叩きながら、
高姫『あゝ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世。何卒々々時さまと末永く添はれまして、神界のために結構な御用が出来ますやうに……』
と祈つてゐる。そこへ時置師の神は神殿の礼拝を了り、ニコニコしながら帰り来り、
時置『ヤア高ちやん、えらう待たせました。さぞお淋しいこつてござりませう』
高姫『コレ時置師の神さま、誰が聞いてるか分りませぬよ。高ちやんなんて言つて貰ふと、サツパリ威信が地におちます。義理天上日出神と云つて貰はにやなりませぬぞや』
時置『ヤツパリ日出神で立て通す積りですかな。成程そいつあ妙だ。よろしい、そんならこれから日出神様と申上げませう』
高姫『何ですか、改まつた物の云ひやうをして、本当に白々しい』
時置『そんなら、山の神様、何と申したらいいのですか』
高姫『義理天上日出神といふのだよ』
時置『よしよし、そんなら、これから、さう申しませうかな』
 高姫はツーンとすねて、肩をプリツとふり、背中を向け、
高姫『勝手になさいませ。どうでこんなお多福はお気に召しますまいからなア、ヘン』
時置『アツハヽヽヽ、芋虫のやうに、ようプリンプリンと遊ばすお方だなア』
高姫『あゝ貴方、耳が動くぢやありませぬか、あらマア不思議なこと』
時置『私の耳の時々動くのは、生れつきだよ。それだから時と云ふのだ。お前だつて、歩く拍子に尻をふるだらう。それ位な大きな尻でさへもプリン プリンふるのだから小さい耳が動く位、何が可怪しいのだ。お前たちの耳は不随意筋と云つて、思ふやうに動かないのだらう。祝詞の文句にもあるだないか、天の斑駒の耳ふりたてて聞こしめせとか、小男鹿の八つの耳ふり立てて……とか書いてあるだらう。すべて神格に満たされた大神人は耳が動くのだよ。国治立の大神様でさへも、大変によく耳が動いたのだ。それだから、あれだけの大神業が出来たのだ。しばらくその御神力を隠させ玉ふたのを、耳をかくし玉ふと祝詞に書いてあるのだ。耳の動くのは大神人の生れ代りたる証拠だよ。義理天上さま、この時置師の耳が動くのが厭なら、これきり私は、お前さまのお気にいらぬに違ひないから、別れませうよ』
高姫『さう怒つて貰つちや困るぢやありませぬか。互に打解けた夫婦の仲、耳が動くと云つて褒めた位に、さう怒るといふ事がありますか』
時置『アハヽヽヽ、お前が余りプリンプリンするので、何か一つ返報がへしをせうと思つてた所だ。それで一寸すねて見たのだよ。アハヽヽヽ』
高姫『おきやんせいなア、よい年をしてゐて、みつともない』
時置『エツヘツヘツヘ』
 かかる所へ楓は襖をソツとあけ、
楓『もし日出神の小母様、御膳が出来ました』
と膳部を持ち運んで来た。
高姫『あゝ御苦労さま、どうぞ其処においといておくれ、そして御膳はたつた一つだなア、早くもう一膳持つて来て下さい』
楓『あの、小母さま、御膳はこれきりのよ、ヨルさまが一膳持つて行けばよいと云ひましたの』
高姫『エヽ、気の利かぬ男だなア。コレ楓さま、ヨルを一寸此処へお出でといつて下さい』
楓『ハイ』
と云ひながらこの場を立つて行く。
時置『オイ日出神さま、僕はモウお暇する。これだけ虐待されちや、居りたくても居られないからな。俺だつて木像ではなし、なんぼ杢助だと云つてもヤツパリ食物は必要だ。朝飯もよんで貰へぬやうな所に居つても約まらないから……』
と憤然として立上るを、高姫は慌てて取すがり、金切声を出して、
高姫『コレ、時さま、さう短気を出すものぢやござんせぬわいな、昨夕のことを覚えてますか、気の利かない奴ばかりだからこんな不都合致しましたのですよ。私がトツクリと言ひ聞かせますから、御機嫌を直して、このお膳を召上つて下さいな』
時置『一人前の男を化物扱ひ致して、耳が動くの何のと侮辱を加へた上、何だ。貴様の膳部ばかり持て来て、俺をてらしよつた。馬鹿らしい、そんな所にのめのめと居る時さまぢやないぞ』
高姫『お前さまはこの高姫の心が分りませぬのかい、……コレコレ、ヨル、一寸お出で』
 この声にヨルは、ソツと襖をあけ、
ヨル『ハイ、何ぞ御用でございますか』
高姫『お前なぜ、お膳を二つして来ないのだい』
ヨル『ハイ、夜前ソツと聞いて居りましたら、二つにせうか、イヤイヤ今度は始めてだから、一つにしておかうとおつしやつたぢやございませぬか、それ故おつしやつた通り致しました』
高姫『何と、気の利かぬ男だなア。コレからキツと二人居つたら、二人前持つて来るのだよ』
ヨル『ハイ、今後は心得ます。実の所は貴女は何時も断食断食とおつしやるものですから、今朝から断食をお始めなさつたかと思ひ、お客様のだけ持つて来たのでございます。楓さまが何と云つたか知りませぬが、このお膳は貴女のぢやございませぬ。トさまのでございます』
 高姫は機嫌を直し、
『あゝさうかな、さうだらう さうだらう、そんな気の利かぬ男は此処には居らない筈だ。しかし今朝は私も頂くのだから、どうぞモウ一膳拵へして来て下さい……コレ時置師様、今お聞の通りでございます、これで御合点が参りましただらう』
時置『ヤア、済まなかつた。あ、それを聞いて、私も満足した。高姫、エライ心配をかけてすまなかつた。コレこの通り杢助が両手を合せて、お詫を致します。惟神霊幸倍坐世』
高姫『オツホヽヽヽ、おきやんせいなア、人を困らせようと思ふて、本当に仕方のない人だ。私に気ばかり揉まして、憎らしいワ』
時置『ワハツハヽヽ、マアよいワイ。犬も食はぬ喧嘩をして居つても、はづまぬからなア』
 ヨルは膳部の用意をなすべく、急いでこの場を立去つた。漸くにして二人は機嫌よく朝餉をすまし、時置師は祠の森の境内を一々巡視すると云つて、ただ一人瓢然と出て行つた。高姫はソロソロ寄つて来る参詣者に対し、教を伝ふべく装束をキチンと着替へて、日出神と成りすまし、簾を吊つて、鉛の天神さま然と脇息に凭れながら、客待ち顔である。
 ヨルは例の如く朝餉をすまし、受付にすました顔で、賓頭盧尊者よろしくといふ態で控えてゐる。そこへスタスタやつて来たのはお寅、魔我彦の両人であつた。
お寅『何でも此処に御普請が出来てると聞いて居りましたが、立派な御普請だなア、十曜の紋の旗が閃いてゐる。イソの館へ参るには此処を通りぬけにする訳にも行くまい。心が急くけれど、一つ参拝して参りませうか』
魔我『同じ三五教の神さまぢやありませぬか、是非共参拝致しませう』
と受付にツカツカと進みより、
魔我『モシ、私は元は小北山のウラナイ教の副教主でございましたが、三五教の松彦様に教を承はり、両人連れでイソの館へ参る途中、一寸お邪魔を致しました。どうぞ参拝をさして頂きたいものでございます』
ヨル『それはよう御参りでございます。私もかうして受付を致して居りますが、元はバラモン教の信者でございました。そしてイソの館へ宮潰しにゆく軍の中に加はりながらその神様の御家来となつて、御用をするとは、本当に人間の運命といふものは不思議なものですよ。お前さまもウラナイ教では立派なお方だと承はりますが、さぞ神様はお喜びでせう。ここには義理天上日出神様の生宮様が御降臨遊ばし それはそれは エライ御威勢でございますよ』
魔我『エ、何と仰せられます、日出神の生宮様とは……それは何方でございますか』
ヨル『ハイ、楓姫といふ若い娘に御神懸り遊ばしてゐられましたが、それはホンの四五日の間で、本当の日出神の生宮、三五教の宣伝使高姫様がお出でになつて居られます、それはそれはエライ御神力でござりますわ』
魔我『ヤア、其奴ア不思議だ。こんな所で高姫様にお目にかかるとは夢にも知らなかつた。あゝあ蠑螈別さまが居つたら、さぞ喜ぶことだらうに……コレお寅さま、蠑螈別さまのレコですよ。腹を立てちやいけませぬよ』
お寅『オツホヽヽヽ、コレ魔我ヤン、いつまでも何を言ふのだい。このお寅は最早そんな恋着心は露ほども有りませぬぞや。それより早く、高姫様とやらに会はして頂きたいものだ』
魔我『早く高姫様に魔我彦が来たと伝へて下さい。さういへば高姫様は御存じですから』
ヨル『ハイハイ、承知致しました。何と高姫さまはお顔の広い人だなア。昨日も高姫さまを尋ねてトさまとやらがお出でになるなり、今日もまたマさまとやらがお越し遊ばす、此奴もヤツパリ、レコだなア』
と呟きつつ、二人を受付に待たせおき、高姫の居間に慌ただしく駆け込んだ。
ヨル『もしもし高姫さま、マヽヽマヽヽガヽヽヒヽヽコとかいふお方が見えました』
高姫『ナニ、魔我彦が来たといふのかい』
ヨル『ハイ、魔我彦さまと、そして何でも蠑螈別とか……云つてゐらつしやいました、訪問者はお二人でございます』
高姫『コレ、ヨルや、魔我彦さまだけ、一寸此方へ来て貰つておくれ、そして一人の方は私が会ひに行くまで、都合があるから待つて下さるやうにいつておくれ、余り急いで行つちやいけないよ、この長廊下の椽板を一枚一枚間違はぬやうに、読みもつて行くのだよ』
ヨル『椽板は百八十枚キチンと有ります。今更よまなくつても分つて居りますがな』
高姫『エーエ、気の利かぬ男だな、ボツボツ行きなと云ふのだ』
ヨル『エヘヽヽヽヽ、またその間におやつしの時間が入りますからな、随分貴女も凄い腕前ですな、イツヒヽヽヽ』
高姫『エーツ、この心配なのに、そんな気楽な事どこかいな。サ、彼方へ往つて下さい』
 ヨルは『ヘーエ』と云ひながら、舌をニユツと出し、頭をかき、腰を蝦に屈め、スゴスゴと出て行く。高姫は窓の外を見まはし、時置師神の姿の見えぬのにヤツと胸撫でおろし独言、
高姫『あゝあ、蠑螈別さまも、気の利かぬ方だなア。モチツと早く来て下さればいいのに、折角こがれ慕ふて来て下さつても、高姫にはモウ時さまと云ふ夫が出来たのだから、大きな顔でお目にかかる訳にもゆかず、あゝどうしたらよからうかな。歯抜婆でも、ヤツパリどこかによい所があるとみえる……とはいふものの困つた事だワイ』
 かかる所へ、ヨルは魔我彦の手をひいてやつて来た。
魔我『これはこれは高姫さま、久し振でお目にかかります。私もたうとう三五教になりました。貴女は偉う御出世をなさいましたなア。イヤお目出度うございます』
高姫『ヤア魔我彦さま、御機嫌よろしう、久しくお目にかからなかつたが、一体お前はどこに居つたのだえ、どれだけ捜してゐたか知れやしないワ』
魔我『ハイ、有難うございます。実の所は貴女が三五教へお入信りになつてから、蠑螈別様が北山村を立退き、坂照山に貴女のお筆先を元として、ユラリ彦様や、ヘグレ神社様、種物神社、その外の神々を祭り、小北山の神殿と称して、蠑螈別様が教主となり、私が副教主として活動してゐました。そこへ三五教の宣伝使がみえまして結構な教を聞かして頂きまして、たうとう帰順致しました。貴女にここでお目にかからうとは思ひませなんだ』
高姫『さすが蠑螈別さまだ。エライものだ、お前も頑固な男だが、高姫の教を仮令ゆがみなりにせよ、よう立てて下さつた、マア三五教に帰順すればこれに越した事はない。そして蠑螈別はヤハリ三五教に帰順されたのかな』
魔我『ハイ、サツパリ、心の底から改心されまして、今では治国別さまに従ひ、宣伝に歩いてゐられます』
高姫『今ここへお前さまのつらつて来た、モ一人の方は蠑螈別さまぢやありませぬか』
魔我『ハイ違ひます、蠑螈別さまの……実は御敷蒲団でございます。今にお目にかけませう』
高姫『定めて若い奇麗な御方でせうなア、本当に蠑螈別さまは、何と云つても色男だ、私のやうな者は見限り遊ばすのは無理はない、しかしながら今となつては却て結構だ』
魔我『イエイエ滅相もない、六十ばかりのお寅といふお婆アさまですよ、元は浮木の村の女侠客、白波の艮婆さまといふ剛の者ですよ。それがスツカリ改心して、治国別様の添書を戴き、これからイソの館へ参拝して、宣伝使にならうといふとこです。この魔我彦もお寅さまのお伴してウブスナ山の聖場へ修行に参る積りです』
高姫『それは誠に結構だ。しかしながらお寅さまとやらにも、お前にも、トツクリと義理天上日出神から云つておかねばならぬ事があるから、そのお寅さまを此処へよんで来て下さい……コレコレ ヨルや、お前そのお寅さまとやらを、ここまで御案内申しや』
 『ハイ』と答へてヨルは受付を指して、長廊下をドシドシ威喝させながら走り行く。

(大正一二・一・一八 旧一一・一二・二 松村真澄録)



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