出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語49-3-121923/01真善美愛子 お客さん王仁三郎参照文献検索
キーワード: 伊藤博文
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第一二章 お客さん〔一二八六〕

 祠の森の玄関口には、例の如くヨルが受付をやつてゐる。そこへ深編笠を被つた雲突くばかりの大の男現はれ来り、底づつた太い声で、
男『拙者はウブスナ山のイソの館より参りし者でござる。高姫殿はここにゐられる筈、一寸内々お目にかかりたいと申し伝へて下さい』
ヨル『ハイ、申伝へぬ事はございませぬが、御姓名を承はらなくては、何と云つても義理天上日出神の生宮様でございますから……』
男『如何にも申遅れました。今少し様子があつて名乗り難い場合でございますから、ただ一口トといふ名のつく男だといつて貰へばよろしい。そしてイソの館の重要なる職に就いている者だと御伝へ下さらば、高姫殿には成程と合点がゆくでせう』
ヨル『あなたはイソの館の重要なる役人様と聞きましたが、私はバラモン教から帰順致しましたヨルと申すものでございます、何分によろしく御願いたします』
男『あゝヨルといふ男はお前であつたか、五十子姫殿より確に承はつてゐる。それは御苦労だ。一度イソ館へお参りなさるがよからう』
ヨル『ハイ、有難うございます。かうして御用をさして戴いてゐるものの、肝腎の御本山を知らいでは話も出来ませぬので、参りたいのは山々でございますが、日出神の生宮様が……まだ身魂が研けないから、この方が許すまで参拝してはならぬと仰せられますので差控えてをります。どうぞ早く霊を研いて聖地のお庭を踏まして戴きたいものでございます。聖地も知らずに受付をして居りましては何だか気掛りでなりませぬ』
男『ともかくも、トといふ名のついたものが内証で折入つて話のしたい事があると云つて居ると伝へて下さい』
 ヨルは、
『承知致しました。しばらくここにお待を願ひます』
と云ひすて、高姫の居間に急ぎ、奥の間の襖をソツと開き、見れば高姫は脇息に凭れ、何か思案にくれてゐる最中であつた。
ヨル『もし、日出神様、貴女にお目にかかりたいと云つて、イソの館からトと名のついた大きなお方が見えました、内証でお話申し上げたい事があると云つてお出になりましたから、一寸御報告申上げます』
高姫『ナニツ、イソの館から、大きな男の、トといふ名の付いたお方がお出でになつたと申すのか』
ヨル『ハイ、それはそれは大きな男でございます。そして聖地の最も高級な職務に仕へて居るお方だとおつしやいました』
 高姫は嬉しげに打ちうなづき、
高姫『ヤア、ヨル殿、お目にかかると云つておくれ。しかししばらく次の間に控えて居つて下さい、今すぐ行つて貰ふと、此方の準備が出来ぬから、私がこの鈴を叩いたら、ソロソロと出てゆくのだよ、それまで控室で煙草でも呑んで待つて居て下さい』
ヨル『ハイ、承知致しました。どうぞ鈴をしつかり叩いて下さい、さうすればその音を合図にお迎へに参りますから……』
高姫『あゝさう頼む。しかしヨルや、日出神が許すまで、誰にもトと云ふお方がみえたとは云つてはなりませぬぞや』
ヨル『エヘヽヽヽ、どんな秘密でも申すよなヨルぢやございませぬ、まづ御安心なさいませ。貴女は日の出の御守護、私はヨルの守護でございますから、ヨルのお楽みも結構でございますワイ』
高姫『コレコレ、ヨル、いらぬ事を云ふものぢやありませぬ。次の間に、サア早く控えなさい。そして受付は誰に頼んでおいたのだい』
ヨル『ハイ、ハル公に頼んでおきました』
高姫『ウンよしよし、それでよい、あの男は気の利いた人間だからなア。お前もトといふ人がお出でになつたら気を利かすのだよ』
ヨル『ヘヽヽヽ、委細承知致しました』
と頭を掻きながら、次の間に行つて、高姫の合図を待つ事とした。高姫はツツと立つて、そこらの窓を覗きながら、一人も人のゐないのにヤツと安心したものの如く、胸をなでおろし独言、
高姫『何と云つても、ヤツパリ男だなア、あのよな気強い事を、東助さまはおつしやつたので、チツとばかり恨んで居つたが、ヤツパリ大勢の人の前だと思つて、あのよにつれなく言はんしたのだろ。あゝあ、男の心を知らずにすまぬ事を致しました。なア東助さま、その優しいお心を承はれば、最早高姫はこれで死んでも得心でござんす。ドレ、顔でも作つて髪をなであげ、着物を着替にやなるまい』
と俄に白いものをコテコテと、念入りにぬり立て、髪を政岡に結び、着物を新しいのと着替へ、紫の袴をゾロリとつけ、赤い襟を一寸出し、鏡台の前に立つたり坐つたりしながら、
高姫『あゝこれでよい これでよい、三国一の、言はば婿どのが来るやうなものだ。これで高姫もいよいよ願望成就だ。なア東助さま、ヤツパリ幼馴染はよいものですなア。マアよう来て下さつた。縁あればこそ子までなした仲だござんせぬかい。本当に枯木に花の咲いたよな心持が致しますぞや。ドコともなしに男らしいお方、さすが高姫の思ふだけあつて、杢助さまの一段上となり、副教主の地位まで進ましやんしたお方だもの、高姫が気をもむのも無理はございませぬわいの。ドレドレいつまでもおまたせ申してはすまない、モウこれだけ化粧した上は、何時お越しになつても差支ない。しかし何とはなしに恥かしいやうな気がして来た。ホヽヽヽヽ、年はよつても何だか昔の事が偲ばれて、顔がパツとあつくなつたやうだ。ホンに女の心と云ふものは優しいものだ。この初心な心を東助様が御覧になれば、キツと御満足なさるだろ、イヒヽヽヽヽ、あゝコレコレ、ヨル公や、モウいいから、トと云ふお方に、さういつて来て下さい』
と鈴を叩くのを忘れてしまひ、なまめかしい声で呼んでゐる。ヨルは、モウ鈴がなるかなるかと待つてゐたのに、思ひ掛けない高姫の声を聞いて、襖を開き恐る恐る首をニユツと出し、
『日出神様、何ぞ御用でございますか』
と云ひながら、顔をあげて見ると、高姫はうつて変つて、立派な装束をつけ、白いものをコテコテとぬり、頬辺の皺も何もツルツルに埋まつてゐる。ヨルは驚いて、
『イヤア、これはこれは、日出神様、何とお若うおなりなさいましたなア。ヤアこれでよめました。ヤツパリ神様でも、ありますかいな、ヘーン、お浦山吹きでございます』
高姫『コレ、ヨル、余り冷かすものぢやありませぬよ。サ早く、ト様を御案内してお出で』
ヨル『(芝居口調)エツヘヽヽヽ、確に……承知……仕りました、急ぎ参上仕ります』
高姫『コレ、ヨル、何を云つてゐるのだい、早く行つて来なさいよ。ホンにホンに、気の利かぬ男だなア』
ヨル『日出神さま、マア使つてみて下さい、中々よう気が利きますで……』
と云ひすて、表へかけ出し、大の男に向ひ、
ヨル『これは これは、ト様、日出神様に申上げました所、一寸少時御思案遊ばし、容易に御返事を遊ばしませぬので、このヨルがいろいろと申上げました所、折角はるばるお出で下さつたのだから、義理にでも会はねばなるまい。何を云つても、義理を重んずる義理天上日出神だとおつしやいまして、奥へ御案内せいとの仰せ……サア私についてお出で下さいませ。随分きれいな方でございますよ』
男『ハイ有難う、しかし少しく内密の用で参つたのですから、被物はこのままで願ひたい、差支ござらぬかなア』
ヨル『そんな事に気の利かぬようなヨルぢやございませぬ。ヨルの守護のヨル公でございますよ。ヘツヘヽヽ』
男『アハヽヽヽ、しからば御案内、お頼み申す』
とヨルに導かれ、高姫の居間に足音高く、ドシンドシンと進み行く。高姫は一足一足近付く足音に胸をドキ……ドキとさせながら、恋人の入り来るを、一息千秋の思ひにて待つてゐた。そして大男が襖を開いた時は、恥かしさが一時に込み上げて来たと見え、グタリと俯いてゐた。
男『御免なさいませ、高姫さま、先日は失礼致しました、定めて御立腹でございませうな』
 高姫はやうやう口を開き、
『東助様、よう尋ねて来て下さいました。本当に女子の至らぬ心から、お恨み申しまして誠に済みませぬ……コレお前はヨルぢやありませぬか、気を利かすと云つたぢやないか』
ヨル『ハーイ、承知致しました。どうぞ、シツポリとねえ、お楽み遊ばせ、ト様と……』
高姫『エヽいらぬ事を云ふものぢやありませぬ。お客様に失礼ぢやありませぬか』
 ヨルは両手で頭を抱へながら、腰を屈めて、スゴスゴとここを立去つた。
高姫『モシ、東助様、どうぞ被物を取つて下さいませ、そしてこの居間は誰も来ませぬから、どうぞ打寛いで、御ゆるりと御話を願ひます』
男『何だか体裁が悪くつて、昔の事を思ひ出し、年がよつても恥かしくなりましたよ、アツハヽヽヽ』
高姫『モシ東助さま、私だつて、ヤツパリ恥しいワ、エルサレムの山道でねえ、ホヽヽヽ』
 男は『高姫殿、御免被ります』と被物をパツと除つた。見れば東助にはあらで、時置師の神杢助であつた。
高姫『ヤ、貴方は時置師神様……マアマア、お腹の悪いこと……』
時置『アハヽヽ、東助さまだとよろしいに、誠に不粋な男が参りまして、さぞ御迷惑でございませう』
高姫『これはこれはよくこそ御入来下さいました。お尋ね下さいました御用の筋は、如何な事でございます』
時置『実の所は、私はイソの館をお暇を頂き、此処へ参つたのです』
高姫『それはまた、神徳高き貴方が、どうして左様な事にお成り遊ばしたのでござります』
時置『お前さまの前で、こんな事は申し上げにくいが、実の所は東助様と事務上の争ひから、止むを得ず、拙者は辞職したといふのは表向、実は東助さまに放り出されたのですよ』
高姫『それはマアマア何とした気の毒な事でございませう。東助さまもそんな悪い方ぢやございませなんだのになア、どうしてそんな気強いお心になられたのでせうか、人間の心といふものは分らぬものでございますなア』
時置『高姫さま、貴女だつてさうでせう。はるばると自転倒島から後を慕つてお出なさつた親切を無にして、あの通り大勢の前で肱鉄をかまし、恥をかかすやうな人だもの、大抵分つたものでせう。私だつたら、貴女のやうな親切な御方なら、どうしてあんな気強い事が出来ませう』
高姫『そらさうですなア、本当に東助さまは無情な方ですワ。若い時はあんな水臭いお方だなかつたですがなア』
時置『あれだけ、東助さまのやうに沢山女があつてはたまりませぬワイ。イソ館の今子姫さまだつて、五十子姫さまだつて、夫のある身でゐながら秋波を送り、その外聖地の女は老若の嫌ひなく、箸まめな方だから、皆つまんでゐられるのです、それをお前さまが御存じないものだから、あんな不覚を取つたのです。私などは御存じの通り不粋な鰥鳥ですから、牝猫一匹だつて、見向いてもくれませぬワ。アツハヽヽヽ』
高姫『貴方は本当にお偉いですな。よう独身で今まで御辛抱なさいました。私も貴方のやうな夫があつたら、何程力になるか知れませぬがなア、ホツホヽヽ』
と顔赤らめ、袖で目をかくす。
時置『イヤもう、高姫様にきつう冷かされました。腹の悪い事いつて下さるな、何だかこの時置師も妙な気分になりますワ』
高姫『どうぞ、貴方、今晩ゆつくりとお泊り下さいませ。そして外の間は役員共が休みますので、不都合でございます。どうぞ私の居間で、失礼ながら、おやすみ下されば、お足でも揉まして頂きます。サ、マア一杯お酒でもおあがり下さいませ』
時置『ヤア、これは有難い、しばらく神様のお道に入つて、お酒を心得て居りましたが、今晩はここでゆつくりと頂きませう。高姫様のお酌で、何とマア、こんな結構な事は近年ござりませぬワ、アツハツハヽヽ』
高姫『モシ時置師様、貴方は三五教の三羽烏といはれたお方でせう、バカらしい、東助如きに放り出されて、この後どうなさる積りですか、一寸の虫も五分の魂といふ事がござりませう』
時置『それで実の所は、ソツと御相談に参つたのですよ。何分生田の森以来、特別の御昵懇に願つた仲なのですからなア』
高姫『左様左様、私もまた貴方のお館の守役となりましたのも、何かの因縁でございませう。どうぞ杢助様、私と力を併せて、東助の高慢な鼻を挫き、三五教のために彼を改心さしてやる気はありませぬか』
時置『さうですなア、貴方と一所に願へば、大変面白いでせう。しかし生田の森はどうなさる積ですか』
高姫『ハイ生田の森は、駒彦に一任しておきましたから、私が仮令一年や二年帰らなくても大丈夫ですよ。一つ貴方、此処で○○になり一旗挙げちやどうでございませうかな』
時置『イヤ此奴ア妙案です。私のやうな老ぼれでもお構ひなくば御世話になりませう。しかし私には初稚姫といふ一人の娘がございますが、それは御承知でございませうな。実の所は娘が可愛いので、継母にかけまいと思ひ、今まで独身生活をやつて来たのですが、最早娘も一人前の宣伝使となりましたので、私も神様の御用を勤めながら、気楽に余生を送りたいのです』
高姫『あの可愛らしい初稚姫さまの……私は仮令継母にもせよ、母となるのは満足でございます。キツト大切に致しますから、御安心下さいませ』
と妙な目をして、斜かいに時置師の顔を睨んでゐる。
時置『サア高姫さま、一杯行きませう』
と盃をわたし、ドブドブと徳利から注いでやる。高姫はえもいはれぬ嬉しさうな顔をして、キチンと両手に盃を持ち、鼠のやうな皺のよつた口で、グーツと呑み、懐から紙を出して盃をソツと拭き、首を二つ三つ振つて、盃を両手にささげ、手を左右左に体グチふりながら、
高姫『モシこちの人、返盃致しませう』
とさし出す。時置師は、
時置『アツハヽヽヽ』
と笑ひながら盃を受取り、なみなみとつがしてグツと呑み、

時置『○せう○せうと言つて鳴く鳥は
  鳥の中でも鰥鳥
 あゝコリヤコリヤ』

と調子にのつて手を拍ち歌ひ出した。高姫は杢助のこんな打解けた姿を見た事は始めてである。『なんと面白い可愛い人だなあ』と思ひながら、

高姫『三五教の大元で  三羽烏の杢助さまは
 月か花かよ、はた雪か  見れば見るほど美しい
 こんな殿御と添ひぶしの  女はさぞや嬉しかろ
 ヨイトナ ヨイトナ  ドツコイシヨ ドツコイシヨ』

と手を拍つて、調子に乗り歌ひ出したり。

杢助『酔ふては眠る窈窕高姫の膝
  醒めては握る堂々天下の権』

と博文もどきに高姫の膝を枕に、足を上げ、手を拍ち打解けて歌ひ出した。

高姫『三五教のその中で  私ほど仕合せ者がまたあろか
 三羽烏の一人と  時めき渡る時さまを
 夫に持つて意地悪い  東助さまの向ふ張り
 これから一つ堂々と  旗挙致してみせませう
 日出神の義理天上  その神徳はこの通り
 訳の分らぬ奴共を  アフンとさせねばなりませぬ
 ホンに嬉しい事だなア  こんな結構な所をば
 高山彦や黒姫に  お目にかけたらどうだらう
 何でもかんでも構やせぬ  ホンに目出たいお目出たい
 サアサア時さま ねよかいな  遠音に響く暮の鐘
 塒求める群烏  小鳥も吾巣へ帰るのに
 いつまで起きてゐたとてせうがない  ヤートコセーヨーイヤナ
 アレワイセー、コレワイセー  サツサ、ヤツトコセー』

 かかる所へヨルは走り来り、
ヨル『モシ、高姫様、お呼びになりましたか、何とマアお楽みの最中を失礼致しました』
 高姫はビツクリして頓狂な声を出し、
『コレ、ヨル、誰が呼んだのだい、彼方へいつてなさい、本当に気の利かぬ方だなア』
ヨル『ハイ、実の所は次の間に控えて御様子を承はつてゐました。あんな事云つて貴方に危害を加へるのぢやあるまいかと、受付はそつちのけにして、イル、イク、サール、テル、ハル、楓さままでが、次の間で貴方方の御話を一伍一什聞いてゐましたよ。マアこの分ならば結構でございますワ、お目出たう』
 高姫は焼糞になり、
高姫『この方は私の夫だよ。お前も聞いてをつただらうが、昔からの許嫁だから、別に隠す必要もないのだ、サア彼方へ行かつしやれ』
ヨル『ハイ、承知致しました。甘い事おつしやいますワイ、コレコレ楓さま、イル、イク、サール、ハル、テル、彼方へ行かう、グヅグヅしてると、高姫様が、事にヨルと、頭をハルと、いふテル……でもない。これから、夜にイルと、高姫さまとトさまのイクサールが始まるのだから、サアサアあちらへ控えたり控えたり、ホンにホンに、仲のいい事だ、お目出たいなア』
と云ひながら、七人は足音高く、ドスドスドスと表へ駆け出した。
高姫『コレ時さま、起きなさらぬかいな、意地が悪い、若い奴といふ者は、物珍し相に仕方のないものですよ。最前から貴方との話を、皆次の間で聞いてゐたのですもの』
時置『アハヽヽヽ、そりや面白い、何れ年が老つて、結婚をせうと云ふのだから、チツと度胸がなくちや駄目だ。一層の事いいぢやないか、披露する必要もなくて……なア、高ちやん』
高姫『さうですなア、私もトちやんがお出でになつてから、何だか気がイソイソして心強くなりましたワ。サ就寝みませう』
時置『それだと云つて、今すぐに休む訳にや行くまい。御神殿へ行つて御礼を申上げ、そして時置師と高姫が臨時結婚を致しますと申上げて来たらどうだらうなア』
 高姫はプリンと背中をそむけ、
高姫『コレ時さま、臨時結婚なんて、厭ですよ、永遠無窮の結婚でなくちや嘘ですわ』
時置『さうだと云つて、さう俄に大層な婚礼式も出来ぬぢやないか、今晩は一寸仮結婚としておいて、互に気に入つたら玉椿八千代までも契るのだ。想思の男女の事だから、マアゆつくりと楽しんで、婚礼までに互の長短を調べて、いよいよ両方から、これならば偕老同穴を契つてもよいといふやうになつたら、それこそ改めて公々然と結婚式を挙げやうぢやないか』
高姫『あてえ今晩は、体の都合が悪うございますから、御礼はこらへて戴きます、お客さまのある時に神様へ参るものぢやありませぬからな』
時置『月に七日のお客さまがあるといふのかな、ソリヤ仮結婚式も駄目だないか』
高姫『ホツホヽヽ、合点の悪いお方だこと、お客さまといへばこの人だよ』
と細い目をしながら、時置師の肩をポンと叩いた。時置師はワザとグナリとしながら、細い目をして、
時置『エヘツヘヽヽ』
 こんな話をしながら二人は灯火を消して、睦じく一夜を明しける。

(大正一二・一・一八 旧一一・一二・二 松村真澄録)



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