出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=49&HEN=2&SYOU=8&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語49-2-81923/01真善美愛子 スマート王仁三郎参照文献検索
キーワード: スマート
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=12911

第八章 スマート〔一二八二〕

 夜風は寒く吹雪さへ  まじりて淋しき草枕
 露の蓐をやすやすと  初稚姫は眠れ共
 臆病風に誘はれし  六公八公両人は
 歯の根も合はずガタガタと  慄ひ戦き抱き合ひ
 夜の明けゆくを一時も  早かれかしと祈りつつ
 宙に飛ばした魂の  据ゑ所なき憐れさよ
 暗はますます深くして  天津空には星さへも
 見えぬばかりの黒雲に  包まれ胸はドキドキと
 戦く折しも時置師  神の命の家の紋
 付けた提灯ブラブラと  一本橋の向方より
 此方に向つて足早に  進み来るを両人は
 眺めてハツと胸を撫で  これぞ全く時置師
 神の命のわれわれを  救はむために遥々と
 イソの館を立出でて  来らせ玉ふものならむ
 卑怯未練な有様を  見せまいものと両人は
 俄にムツクと立上り  近寄る提灯打ながめ
 貴方は杢助御主人か  六公八公でござります
 仰せに従ひ姫様の  度胸を甘くためさむと
 茲まで進み来て見れば  初稚姫に似たれ共
 まだ十七の初心娘  柄に合はないことを言ふ
 此奴ア、テツキリ妖怪奴  初稚姫の御身をば
 うまうま喰ひ吾々を  騙さむために姫となり
 ここにグウスウ八兵衛と  大胆至極に寝てゐます
 何卒々々御主人の  お出でありしを幸に
 姫の仇を吾々と  力を併せ討つてたべ
 残念至極でございます  私もすでに妖怪の
 餌食たらむとせし所  ウブスナ山の神徳で
 貴方を茲に遣はして  一つは姫の仇を討ち
 一つは家来を助けむと  お越しなさつた有難さ
 早く御査べ下さんせ  それそれそこにあの通り
 バツチヨ笠をばひつかぶり  グウグウ鼾をかいてゐる
 大胆不敵の化物と  いふ声さへも慄ひつつ
 語れば杢助打笑ひ  卑怯未練な六八よ
 そも世の中に化物と  誠のあるべき筈がない
 貴様は余程卑怯者  その化物はどこにゐる
 早く案内致せよと  一声呶鳴れば両人は
 ハイハイ只今それ其処に  鼾をかいて居りまする
 貴方は先へ御出張  遊ばしませ腰の骨
 何とはなしに慄ひ出し  私の命令を聞きませぬ
 自由の身体となつたなら  どんなことでも聞きませう
 かかる折しもムクムクと  笠を被つて立上る
 片方の長き芒原  初稚姫は優しげに
 三人の男に打向ひ  汝等三人の荒男
 何用あつて真夜中に  妾が跡を慕ひ来る
 六、八、二人はともかくも  杢助などと佯つて
 ここに来れる可笑しさよ  そも杢助はイソ館
 総務の役に仕へたる  尊き司の身を以て
 吾子のことが気にかかり  神務を忘れてはるばると
 慕ふて出て来る向ふ見ず  左様の訳の分らない
 妾は親は持ちませぬ  正しく悪魔の変化して
 吾等の行手を妨害し  神務を遂行させまいと
 企みしものと覚えたり  早々この場を立去れよ
 妾は初稚姫神  汝に構つてゐる暇は
 なければこれより出でて行く  汝等三人トツクリと
 善からぬ相談するがよい  お先へ御免と云ひながら
 蓑を被つて杖をつき  スタスタ進み出でて行く
 杢助後より声をかけ  オーイオーイと云ひながら
 六、八、二人を従へて  姫の後をば追ひ来る
 初稚姫はトントンと  天津祝詞を奏上し
 神歌を歌ひ進み行く  夜はホノボノと明けそめて
 あたりも明くなりぬれば  道の片方の岩石に
 腰うちかけて息休め  少時思案に暮れにける。

 初稚姫は河鹿峠の坂口の岩の上に腰うちかけ、
『昨夜現はれし怪物は合点のゆかぬ代物だナア。六、八両人と言ひ、父の杢助と云ひ、合点のゆかぬことだなア。妾が首途の時、あのやうに素気なく云つた吾父が、妾を慕つて追つかける位ならば、モウ少し優しい言葉をかけさうな筈。大神様の、妾が心を試さむための御計らひだらうか、何につけても合点のゆかぬことだなア』
と差俯いて思案に暮れてゐる。そこへ突然現はれたのは杢助、六、八の三人であつた。
杢助『オイ其方は初稚姫だないか、なぜ父があれほど呼び止めるのに待つてくれないのだ。一言お前の旅立について言つておきたいことがあつた。それを忘れたによつて、後追つかけ、言ひきかしに来たのだ』
初稚『妾はお前さまのやうな卑怯未練な親は持ちませぬ。よく考へて御覧なさい。貴方が果して杢助とやら言ふお方ならば、なぜイソの館に専心お仕へなされませぬか。何事も一身一家を捧げて神に仕へるとお誓ひなさつた杢助ぢやありませぬか。ヤツパリ貴方も年が老つたとみえて耄碌しましたねえ。妾はイソの館の大神様より直接使命を受けた、年は若うても、立派な宣伝使でございます。最早悪魔の征途に上つた上は、立派に使命を果すまで、杢助さま何かに用はございませぬ。早く御帰りなさいませ。しかしお前は本当の杢助さまぢやありますまい。その耳は何ですか、獣のやうにペラペラと動いているぢやありませぬか。初稚姫がハルナの都に参ると聞き、手をまはして出発の間際に妾を邪道に引入れ、目的の妨げを致さうとするのだらう。いかなる魔術も初稚姫に対しては一切駄目ですよ。ホヽヽヽヽ、マアマアよくも巧に化けましたねえ』
杢助『其方は父に向つて何といふ無礼なことを言ふのだ。これ見よ、何程耳が動いても、これは風が吹いてゐるからだ。風が吹けば耳ばかりか、木の葉でさへも、大木でも動くだないか、流石は子供だなア。親の心は子知らずとはお前のことだ。この杢助は何程冷淡に見せて居つても、心の中には愛の熱涙が沸き立つてゐるのだ。左様なことをいはずに人間は老少不定だ。不惜身命的神業に参加するお前、これが別れにならうも知れぬと思ひ、態々ここまで、夜の目も寝ずに、御用の隙を考へて追つかけて来たのだ。親の心もチツとは推量してくれ、初稚姫殿』
初稚『ホツホヽヽヽ、うまい事お化けなさいますなア。妾は二人の父は持ちませぬ、いい加減にお帰りなさい。何と云つても駄目ですよ』
六『もし姫様、この杢助様はさうすると本真物ぢやございませぬか』
初稚『本真物か贋物か、頭の上から足の爪先まで、よく見て御覧』
八『オイ六、姫様のおつしやる通り、様子が変だぞ。御主人に本当によく似てゐるが、何となしに腑におちぬ所があるぢやないか』
六『コヽコラ、モヽ杢助のバヽ化物、ドヽどうぢや、姫様の眼力には往生致したか』
杢助『コラ六、主人に向つて不都合千万な、化物扱ひに致すことがあるか、八、貴様も六と同じやうな奴だ。今日限り暇を遣はすから、モウ、イソ館へ帰るには及ばぬツ』
六『貴様のやうな化物の乾児になつてたまるかい。のう八公、さうではないか』
八『さう共さう共、本当の杢助様の御家来だ。こんな耳の動く奴の家来になつてたまるかい。コラ化州、何時だと考へてる、モウ夜明けだないか。いいかげんスツ込まぬかい』
杢助『アツハヽヽヽ六、八の両人、若もこの方が本当の杢助であつたら何と致す』
六『ナアニ、本当の杢助であつた所が構ふものかい。暇を貰つたら姫様の後に従いて、何処まででもお供するのだ。のう八公』
初稚『六、八の両人、一時も早く御帰りなさい、妾は飽迄一人旅でゆかねばならぬ。今にこの化物の正体を現はし往生さして見せるから、お前さまは早く御帰りなさい』
と云ひながら、天の数歌を唱へ上げた。杢助は忽ち、牛の如き怪物となり、
『ウー』
と唸りを立て、目を怒らし、牙を剥き出し、初稚姫を目がけて飛びかからむとし、前足の爪を逆立て、大地の土をかいて、爪を尖らしてゐる。初稚姫は平然として天津祝詞を奏上し始めた。六、八の両人はこの姿をみて、顔色土の如くに変り、その場に打倒れ、チウの声も得上げず慄ふてゐる。怪獣の顔をよくよくみれば、巨大なる唐獅子である。唐獅子は初稚姫をグツと睨めつけ、猛然として咬みつかむとする一刹那、後の方より『ウー』とまた唸り声、何者ならむと、後ふり返れば、逞しい大きい山犬である。山犬は大獅子に向つて、疾風の如く飛び付いた。獅子は一目散に細くなつて、逃げてゆく、山犬は獅子の跡を追跡する。初稚姫は後見送つて打笑ひ、
『ホツホヽヽ、始めての神様の試しに会うて、お蔭で及第したやうだ。ヤア六、八、最早心配は要らぬ、一時も早く吾家へ立帰り、父の杢助に、初稚姫は大丈夫だから御安心遊ばせと伝へてくれ、左様ならば』
といふより早く、足早に河鹿峠を登り行く。六、八両人はヤツと胸を撫でおろし、神言を称へながら、杢助館を指して、また日が暮れては一大事と急ぎ帰り行く。初稚姫はただ一人宣伝歌を歌ひながら、河鹿峠を登り行く。以前の猛犬慌ただしく駆来り、初稚姫の前になり、後になり尾を掉つて、嬉しさうにワンワンとなきながら、駆けめぐる。初稚姫は漸く坂の頂上に達し、四方の景色を眺めながら、少時腰を卸して休息した。以前の猛犬は初稚姫の前に蹲まり、耳を垂れ目を細くし、尾を掉つてゐる。
『其方はどこの山犬か知らぬが、随分敏活な働きをする者だ。これから妾の家来として上げよう。ハルナの都まで従いて来るのだよ。而してお前には「スマート」といふ名を上げませう』
と云ひながら、猛犬を抱へ、首筋を撫でなどして労はつてゐる。スマートは頻りに尾を掉り、ワンワンと叫びながら、感謝の意を表してゐる。初稚姫はこの犬を得て非常に心強くなり、宣伝歌を歌ひながら、河鹿峠の南坂を下りつつ歌ふ。

『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 悪魔の征途に上り行く  初稚姫の魂を
 査べむためか父となり  或は巨大な獅子となり
 妾が首途を遮りて  所存のほどを調べしか
 但しは誠の曲神か  心に解せぬ事あれど
 ただ何事も一身を  神に任せし上からは
 仮令如何なる事あるも  初心を曲げずドシドシと
 人にたよらず皇神の  神言のままに真心を
 尽して往かむ吾心  仮令曲津は行先に
 さやりて仇をなすとても  吾には神の守りあり
 今また神はスマートを  吾行先の供となし
 与へ玉ひし尊さよ  神は吾等と共にあり
 吾等は神の子神の宮  いかでか恐れむ敷島の
 大和心をふり起し  ハルナの都に蟠まる
 八岐大蛇を言向けて  神素盞嗚の大神の
 誠をあらはし奉り  五六七の御代を詳細に
 普く地上に建設し  三五教の神力を
 現はし奉る神の道  進みゆくこそ嬉しけれ
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ』

と歌ひながら進み行く。

(大正一二・一・一八 旧一一・一二・二 松村真澄録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web