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原著名出版年月表題作者その他
物語49-2-71923/01真善美愛子 剛胆娘王仁三郎参照文献検索
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あらすじ
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第七章 剛胆娘〔一二八一〕

初稚姫『この世の中に人となり  神の恵に救はれて
 父の命と諸共に  産土山の聖場に
 朝な夕なに仕へたる  吾身の上こそ嬉しけれ
 神素盞嗚の大神は  高天原に登りまし
 姉大神に疑はれ  高天原の安河で
 誓約の業をなしたまひ  清明無垢の瑞御霊
 現はれ給ひし尊さよ  さはさりながら八十猛
 神の命は猛り立ち  吾大神の御心は
 かくも尊き瑞御霊  しかるを何故大神は
 汚き心ありますと  宣らせたまひし怪しさよ
 事理聞かむと伊猛りて  遂には畔放ち溝埋め頻蒔や
 串さしなどの曲業を  始めたまひし悲しさよ
 我素盞嗚の大神は  百千万の神人の
 深き罪をば身一つに  負はせたまひて畏くも
 高天原を下りまし  島の八十島八十の国
 雪に埋もれ雨にぬれ  はげしき風に曝されて
 世人のために御心を  尽させたまひ産土の
 伊曾の館にしのばせて  茲に天国建設し
 千座の置戸を負はせつつ  五六七の御代を来さむと
 いそしみ玉ふ有難さ  妾も尊き御神の
 御許に近く仕へつつ  天国浄土の真諦を
 悟り得たりし嬉しさよ  父の命に暇乞ひ
 踏みも習はぬ旅の空  出で往く身こそ楽しけれ
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  誠一つの三五の
 愛と信との御教は  幾万劫の末までも
 天地と共に変るまじ  かくも尊き御教に
 吾精霊を充しつつ  尊き神の御使と
 茲に旅装を調へて  ハルナを指して出でて往く
 あゝ惟神々々  神の恵の深くして
 往く手にさやる曲もなく  身も健にこの使命
 果させたまへ大御神  石の枕に雲の夜着
 野山の露に身を伏せて  仮令幾夜を明すとも
 神の御守り有る上は  何か恐れむ宣伝使
 かよわき女の身ながらも  絶対無限の神力を
 保たせ給ふ大神の  吾は尊き御使
 必ず神の御名をば  汚さず穢さず道のため
 世人のためにあくまでも  神の御旨を発揚し
 八岐大蛇も醜神も  剰さず残さず神の道
 救はにややまぬ吾覚悟  立てさせたまへ惟神
 神の御前に赤心を  捧げて祈り奉る
 神が表に現れまして  善神邪神を立てわける
 五六七の御代も近づきて  常世の春の花開き
 小鳥も歌ふ神の園  この世は曲の住家ぞと
 世人は云へど吾身には  皆天国の影像ぞ
 あゝ勇ましや勇ましや  悪魔の征討に上り行く
 吾身の上ぞ楽しけれ』  

と声淑やかに歌ひつつ、産土山を下り、荒野ケ原を渡り、漸く黄昏時深谷川の丸木橋の辺についた。この谷川は川底まで殆ど百間ばかりもある、高き丸木橋である。総ての宣伝使は皆この一本橋を渡らねばならない。しかし一本橋とは云へ、谷川の辺の大木を切り倒し、向岸へ渡せし自然橋なれば、比較的丈夫にして騎馬のまま通過し得る巨木の一本橋であつた。初稚姫はこの丸木橋の中央に立ち、目も届かぬばかりの眼下の谷水が飛沫をとばして囂々と流れ往くその絶景を打ち眺めて居た。

初稚姫『大神の恵は清き谷水の
  流れて広き海に入るかな。

 闇の夜を明きに渡す丸木橋
  妾は今や中に立ちぬる。

 眺むれば底ひも知れぬ谷川に
  伊猛り狂ふ清き真清水。

 谷底を流るる水はいと清し
  空渡り往く人は如何にぞ。

 黄昏れて闇の帳はおろされぬ
  されど水泡は白く光れる。

 伊曾館、咲き匂ひたる白梅に
  暇を告げて別れ来しかな。

 月もなく星さへ雲に包まれて
  暗さは暗し夜の一人旅。

 かくばかり淋しき野路を渡り来て
  黒白もわかぬ闇に遇ふかな。

 さりながら神の光に照らされし
  吾が御霊こそは暗きを知らず。

 ただ一人橋のなかばに佇みて
  思ひに悩む父の身の上。

 いざさらばこの谷川に名残りをば
  惜みていゆかむ河鹿峠へ』

 かく歌ひながら暗の小路を足探りしつつ進み往く、遉の初稚姫も暗さと寒さに襲はれ止むを得ず路傍に蓑をしき、一夜を此処に待ち明さむと、天津祝詞を奏上し、うとうと眠る時しも一本橋の彼方より現はれ出でたる黒い影、のそりのそりと大股に踏張りながら、初稚姫の傍近く進みより、
甲『オイ、臭いぞ臭いぞ』
乙『何が臭いのだ。ちつとも臭くは無いぢやないか。昨夕も失敗し、今晩こそは人の子を見つけて腹を膨らさなくちや、最早やり切れない。何とかして人肉の温かいやつを食ひたいものだなア』
甲『さうだから臭いと云つて居るのだ。何でもこの辺に杢助の娘、初稚姫と云ふ奴が来た筈ぢや。昼は到底俺達の世界ぢやないが、都合のよい事には女一人の旅、肉はムツチリと肥て甘さうだ。何とかして捜索出して御馳走に預かりたいものだ。……オイますます臭がして来たよ。何でもこの辺の横つちよの方に休息して居るに相違ない。オイ黒、貴様はそつちから探してくれい。この赤サンは足許から探しに着手する』
黒『オイ赤、貴様は鬼の癖に目が悪いのか』
赤『何、ちつとも悪くは無いが、この間から人間を食はないので些しうすくなつたのだ。オイ黒、貴様は見えるかい』
黒『見えいでかい。イヤ、其処に金剛杖や笠が見えかけたぞ。ヤ旨い旨い今晩はエヘヽヽヽ久し振りで、どつさりと御馳走を頂かうなア』
 初稚姫は不思議の奴が来たものだと、息を凝らして考へて居た。さうして心の中に思ふやう、
初稚『妾は天下の宣伝使だ、この位な鬼が怖ろしくて、この先数千里の旅行が続けられやうか。一つ腕試しに此方の方から先をこして相手になつて見よう、否威かしてやらう』
と胆力を据ゑ、
初稚『こりやこりや そこな赤黒とやら申す鬼共、貴様は最前から聞いて居れば、大変に腹を減して居るさうだなア。人肉の温かいのが喰ひたいと云ふて居たが、茲で温かい肉と云へば妾一人しかいない筈ぢや。年は二八の若盛り、肉もポツテリと肥て大変味がよいぞや。所望とならば喰はしてやらう。サア手からなりと、足からなりと、勝手に喰つたがよからう。妾は天下の万物を救ふべき宣伝使だ。吾の御霊は神の聖霊に満されて居る。汝は哀れにも悪霊に取りつかれ、肉体までが鬼になつたと見える。妾は今日は宣伝使の門出、初めて聞いたその方の悔み事、これを救うてやらねば妾の役がすまぬ。サア遠慮はいらぬ、吾肉体を髪の毛一条残さず食ふてくれ。神の神格に満された初稚姫の肉体を喰はば、汝赤、黒の鬼どもはきつと神の救ひに預かり、清き尊き人間になるであらう。妾は繊弱き身なれども、汝の如き荒男に喰はれ、汝を吾生宮として使ひなば、初稚姫の身体は荒男二人となつて神のために尽す非常の便宜がある。サア、早く喰つてもよからうぞ』
 赤黒二人は初稚姫のこの宣言に肝を潰したか、ビリビリと慄ひ出した。
赤『オイ、ク、黒、駄目だ駄目だ。サヽ遉は杢助さまの娘だけあつて偉い事を云ふぢやないか。俺はもう嚇し文句が何処へかすつ込んでしまつた。貴様何とか云つてくれないか。帰宅で話が出来ぬぢやないか』
と慄ひ慄ひ囁いて居る。
黒『オイ赤、彼奴はバヽヽ化物だよ。決して初稚姫さまぢやなからう。あんな柔しい女がどうしてあんな大胆の事が云へるものか。彼奴はキツト化物に違ひない。グヅグヅして居ると反対に喰はれてしまふぞ。サア、逃げろ逃げろ』
赤『俺だつて足がワナワナして逃げるにも逃げられぬぢやないか。ほんとに貴様の云ふ通り彼奴は、バヽ化物だ。それだから杢助さまに耐へて下されと云ふのに、ちつとも聞いて下さらぬからこんな目に遇ふのだ』
と二三間此方の萱の中に首を突つ込んで慄ひ慄ひ囁いて居る。初稚姫は、
初稚『ホヽヽヽヽ、何とまア腰抜けの鬼だこと、そんな鬼みそに喰つて貰ふのは御免だよ。お前の身体に入つて見た所で、そんなみそ鬼は仕様がないから今の宣言は取り消しますよ。オイ鬼共一寸茲へ来なさい、少し神様のお話を聞かしてあげる。お前も可愛さうに人間の身体を持ちながら、何と云ふ弱い事だ。妾は初稚姫に違ひありませぬよ。決して化物ぢやありませぬ。最前からお前の囁き声を聞いて居れば、どうやら下僕の六と八のやうだが、それに違ひはあるまいがな。妾も初めはほんとの鬼かと思ふて身体を喰はしてやらうと云つたが、幽かに囁く話声を聞けば六と八とに相違あるまい。お父さまに頼まれて私を試しに来たのだらう。サアここに来なさい、決して化物でもありませぬ』
 赤と名乗つて居た六は小声になり、
六『オイ黒八、どうだらう、本当に姫様だらうか? どうも怪しいぞ。うつかり傍へ往かうものなら、頭から噛りつかれるかも知れやしないぞ』
八『さうだなア、赤六の云ふ通り、どうも此奴は怪体だぞ。それだから今晩の御用は根つから気に喰はぬと云つて居たのだ。あゝ逃げるにも逃げられぬ、どうも仕方がない。鬼さま、いや化さまの所へ行つて断りを云はうぢやないか。喰はれぬ先にお詫をして九死に一生を得る方が余程賢いやり方だ』
赤『ウンさうだな、もしもし初稚姫様にお化けなされたお方、実は私は八、六と云ふ伊曾館の役員杢助と云ふ方の下僕です。実は姫様のお身の上を案じ、かつ試す積りで主人の命令をうけ此処まで来たものでございます。決して悪い者ぢやありませぬ。どうぞ命ばかりはお助け下さいませ』
初稚『ホヽヽヽヽ、やつぱり六に八であらう。そんな肝のチヨロイ事でどうしてこの初稚姫が試されませう。お父さまもそんな腰抜男を沢山の給料を出してお抱へ遊ばすかと思へばお気の毒だよ。六でもない八助だなア』
六『もしお化様どうぞ勘忍なして下さいませ。そしてお嬢様は此処をお通りになつた筈ですがお前さま喰つたのでせう。喰はれたお嬢さまは仕方がありませぬが、しかし吾々二人の命だけはどうぞお助けを願ひます』
初稚『これ六に八、妾は初稚姫に間違ひないぞや。些と確りなさらないかい。お前、睾丸をどうしたのだい』
八『オイ六、やつぱり化州だ。彼奴は睾丸狙ひだよ。俺の睾丸まで狙つてけつかる、此奴は堪らぬぢやないか』
六『睾丸狙ひだつて、俺の金助は余程気が利いとると見えて、どこかへ往つてしまつた。貴様は八と云つて八畳敷の大睾丸だからちつと困るだらう』
八『イヤ、俺の睾丸も何処かへ往つてしまつたやうだ。吃驚してどこかへ落したのではあるまいかな』
六『ハヽヽヽヽ、馬鹿云へ、睾丸を落す奴があるか、大方転宅したのだらう』
八『何だか腹が膨れたと思ふたら腹中にグレングレンやつて居ると見える。オイ一つこんな時には御主人の云つて居られた惟神霊幸倍坐世を唱へようでないか。さうすればきつと曲津神が消えると云ふ事だよ』
六『そりやよい所へ気がついた。サア一所に惟神だ。カーンナガアラ、タヽマチ、ハヘ、マセ』
八『カンナンガラ、タマチハヘマセ。……何だか自分の声まで怖ろしくなつて来た。アンアンアン』
初稚『惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世、吾家の下僕六、八の二人の御霊に力を与へさせたまへ。惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』
 初稚姫はうとうとと眠りについた。六、八の両人は初稚姫の鼾を聞いて益々怖ろしくなり、一目も眠らず夜中頃まで互に体を抱き合ひ、怖ろしさに慄へて居た。

(大正一二・一・一六 旧一一・一一・三〇 加藤明子録)



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