出口王仁三郎 文献検索

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物語49-1-41923/01真善美愛子 人情王仁三郎参照文献検索
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第四章 人情〔一二七八〕

 石搗は漸く無事に済んで地鎮祭も終り、直会の宴に移つた。今日は玉国別の許しを得てさしも酒豪のイル、イク、サール、テル、ハル、ヨルのバラモン組は天にも昇るやうな心地で歌を唄ひ、石などをケンケンと叩きならし、堤を切らして踊り狂ふた。何人も酒に酔ひ潰れた時は小供のやうになるものである。また平素から心にもつて居た不平は残らず喋るものである。
イル『おい、イク、サールどうだ。清春山に居つた時は、朝から晩まで甘い酒を鱈腹呑んで、新来のお客さま伊太公さままで敵味方の障壁をとつて優遇したぢやないか。それに馬鹿らしい三五教に帰順してから今日まで一滴も呑ましちや貰筈、本当に淋しくて、矢張元のバラモン教の方が余程よいと思つたよ。貴様等が何時までもこんな所に引いてけつかるものだから、俺も仕方なしにひつ付いて居たのだ。本当にここの大将はケチン坊だからな。なんだい道公なンて偉さうに監督面を提げやがつて、俺はあのしやつ面を見てもむかつくのだ。エーン』
と副守が発動して本音を吐き出した。
 イクはイルが大きな声で不平を云ふて管をまくので道公の監督に聞かれては大変と、一生懸命に左右の手で自分の耳を押へて居る。そしてイルの耳許に口を寄せ、
イク『オイ兄弟、そんな大きな声で不平を云ふものぢやない。勿体ないぞ。道公の耳へ入つたらどうするのぢや』
イル『ナヽ何だ、何が勿体ないのだい。道公の耳へ入るのが、それほどわれや恐ろしいのか。何だその手は耳を押へやがつて』
イク『それだつて、余り貴様が大きな声で悪口を吐すものだから、監督の耳に入らないやうにつめをして居るのだ』
イル『何さらしやがるのだ。馬鹿だな、耳を押へて鈴を盗むやうな事をしたつて何になる。このイルのおつしやる事は、何程金挺聾でも直ぐ耳にイルやうに云つて居るのだ。骨と皮との痩馬を河鹿峠を引いて通るやうに、ヘエヘエ ハイハイと盲従する奴は、それこそ気骨のない章魚人間だ。このイルはそんな卑怯な事はなさらぬぞ。も少し大きな声で不平を云ふのぢや。否大に怨言非辞を連発するのだ。のうサール、貴様もサール者だから、きつと俺と同感だらう』
サール『馬鹿云ふな、この目出度い地鎮祭に結構な酒を頂きやがつて何をグヅグヅ云ふのだ。ちと心得ぬかい』
イル『ナヽ何が目出度いのだ。何がそれほど結構なのだ。よく考へて見い、清春山は破壊され、浮木の森の陣営はメチヤ、クチヤにされ、どうして吾々バラモン勇士の顔が立つか、それに何ぞや三五教の神を祭るお宮のお手伝ひをさして貰ひ、嬉しさうに嫌でもない酒を強られて何が有難いのだ。勿体ないのだ。フゲタが悪いぢやないか、敵に兜をぬいで敵の馳走を頂き、感謝の涙をこぼすやうな者は人間ぢやないぞ。俺もかうして表面帰順して居るものの、心の底から貴様のやうに帰順して居るのぢやない。かうして大勢の中に紛れ込み、様子を探つた上、大に手柄をせうと思ふて居たのだ。白夷、叔斉は首陽の蕨を食つて周の粟を喰はず生きて居たぢやないか。それだけの気骨が無くてバラモンの武士と云はれるか。エーン』
サール『アハヽヽヽ、それほど三五教の飲食が気に入らぬのなら、なぜ前後も分らぬ所まで酒に喰ひ酔ふたのだ。貴様はいつも悪酒だから困つたものだ。ちと躾まぬと、俺達までが痛くない腹をさぐられては詰らない。俺達は、貴様のやうな二股武士ぢやない、帰順したと云ふたら心の底から帰順して居るのだ』
イル『俺だつて、松彦や治国別には心の底から帰順したのだ。玉国別や道公て、あんな宣伝使に帰順したのぢやない。第一それが俺は気に喰はないのだ。よく考えて見よ、天下の宣伝使ともあらうものが、四つ手に目玉を引つかかれるやうで何処に神徳があるか、俺はあの玉国別の面を見るとムツとするのだ。治国別さまのやうな宣伝使なら何程バラモン教の俺だつて帰順するのだけれどな』
 道公は、三人が隅の方に片寄り大きな声で囀つて居るので、喧嘩ぢやないか、もし喧嘩なら仲裁して目出度う納めねばならぬ、肝腎の地鎮祭にケチを付けられては耐らないと、三人の前にホロ酔機嫌でヒヨロヒヨロと進み寄り、
道公『おいイル、イク、サール、何をそれほど喧しう云つて居るのだ。何ぞ面白い話でもあるのか』
イク『ハイ、面白い事があるのですよ。このイルの奴たうとう本音を吹きやがつて仕様もない事を云ふのです』
イル『コレヤ コレヤ イク、幾何酒に酔ふても大事の事を云ふてはいけないよ。俺が玉国別が嫌になつた事や、この普請の気に入らぬ事や、矢張バラモン教の方が結構だと云つた事を決して道公の監督に云つてはならないぞ。そこが友達の交誼だからな』
道公『アハヽヽヽ、や イルさま、たつて聞かうとは云ひませぬよ。しかし皆分りましたからな』
イク『それ見ろ、イルの奴矢張りお神酒の神徳により、腹の中のゴモクを薩張り吐き出されよつたな。もし道公さま、どうぞイルが何を云つても、あいつは副守が云つて居るのですから聞き流してやつて下さいませ』
サール『道公の監督さま、イルはこんな奴です。しかし比較的正直者ですから、玉国別様にはどうぞおつしやらないやうにして許してやつて下さいませ。本当に仕方のない奴でございます。ウンウンガー、アヽ酔ふた酔ふた、ほんとに結構なお神酒を頂戴致しまして本守護神は申すに及ばず、正、副守護神まで恐悦至極に存じます』
道公『ヤア三人共心配するな。酒酔の云ふ事を取りあげるやうな俺も馬鹿ぢやないからな』
イル『成程、それ聞いて俺も道公さまが好きになつた。こんな気の利いた家来をもつて居る玉国別さまも好きになつた。その盃を一つ僕にさして下さい。今日はお神酒に酔つてすつかり腹の中のごもくを吐き出しました。決してイルの肉体であんな事を云つたのぢやありませぬ。腹の中に居つた大黒主の眷族が囁いたのですから、私は本当に迷惑ですよ』
道公『それやさうだらう。まあ心配したまふな。サア一杯いかう』
と道公は心よく、イル、イク、サールに盃を与へ、自らついでやり、自分も其処に安坐をかいて歌を歌ひながら面白をかしく酒を引つかけて居る。
イルは『兄貴まア一杯』と道公に盃をさし唄ひ出した。

イル『三五教の道公さまが  朝から晩までポンポンと
 拍手うつのはよけれども  ヨイトサヽ ヨイトサヽ
 このイルさまを捉まへて  ポンポン云ふのにや困ります
 ヨイトサ ヨイトサぢや  

アハヽヽヽ、まア一杯僕についでくれたまへ、なア道公さま、酒酔本性違はずと云つて、よく覚えて居るだらう』
 道公は歌ふ、

『道公司がポンポンと  お前に云ふたのは訳がある
 朝から晩まで酒をのむ  お前を瓢箪と思た故
 そしてまたお前は面の皮  太鼓のやうに厚うして
 サツパリ腹が空故に  太鼓と思うてポンポンと
 叩いて見たのだイルさまよ  俺に怒つちや見当違ひ
 俺は役目でポンポンと  石搗しなくちやならないで
 合図をしたのだと思ふてくれ  ヨイトセ ヨイトセ
 ヤツトコセ、ヨウイヤナ  アレワイセ、コレワイセ
 サアサ、ヨーイトセ』  

 イク、サールは手を拍ち、
イク『ヤア ポンポンだ、甘い甘い、ポンポンながらカンカンながら、このイクさまが一つ唄つて見ませう。エヘン、オイ、イルちつと手を拍つて囃してくれ、囃がまづいと歌が全くいかぬからな』
イル『ヨシ囃してやらう、サア云ふたり云ふたり』

イク『祠の森の神さまは  梵天帝釈自在天
 大国彦と思ふたら  サツパリ当が外れよつて
 大国治立神様だ  今まで俺はバラモンの
 神ほど偉い奴は無いと  思ふて居たのにこれや何だ
 アテが外れて三五教の  いやな神様を喜んで
 拝まにやならない羽目となり  不性無精に朝夕に
 信者らしく見せかけて  今まで来たのが偽善者の
 その行ひと知つた故  胸に手を当て考へた
 揚句の果は三五教の  教は誠と知つた故
 心の悩みも晴れ渡り  今は全く三五の
 神を信ずる身となつた  ほんとに心の持ちやうで
 どうでもなるのが人の身だ  人は神の子神の宮
 天地経綸の主宰者と  教へられたるその時は
 何だか怪体の事を云ふ  慢心じみた教だと
 心に蔑み居つたれど  矢張神は嘘つかぬ
 バラモン教では吾々を  塵や芥の固りの
 より損ひのよに云ふけれど  矢張人は神の子だ
 これを思へば飲む酒も  一入味がよいやうだ
 今日の石搗お祝に  どつさりお酒を頂戴し
 魂は浮れて天国の  御園に遊ぶ思ひなり
 あゝ惟神々々  御霊の恩頼を慎みて
 茲に感謝し奉る  サア一盃いきませう』

 かく四人は一団となりて酒汲み交して居る。一方にはまたバラモン組のヨル、ハル、テルの三人三巴となつて趺坐をかき、管を捲いて居る。
ヨル『オイ、あのイルを見よ、彼奴は最前から結構な酒に喰ひ酔、しようもない腹の中のごもくたをさらけ出したぢやないか、彼奴はいつも酒くらひやがると何もかもさらけ出しやがるのだ。何か怪体なものが憑いて居るのだよ』
テル『さうだな、可哀さうなものだ。彼は村でも怠惰者で仕事が嫌ひなのだから仕方がない。いつも襤褸を下げやがつて、人の門口に立ち酒でも呑んで居やうものなら、汚い風をして坐り込むのだから誰しも迷惑して、酒を呑ましてやり、少しばかり金をやつて帰してやるのだ。それが今度の戦争で安い金で雇はれた雇兵だ。元来がノラクラ者の成上りだから、一度憐れみをかけると云ふと好い気になり、メダレを見て仕方が無いものだ。道公さまがよい気であんな奴と盃の取り交しをするなんて余りぢやないか、俺にだつて盃の一杯位さしてくれたつて損はあるまいに、あんな奴より下に見られちや約まらないぢやないか』
ハル『オイ、テル、貴様は気をつけないと額際に曇りがかかつてゐるぞ。そこが曇つて居るのは貴様の未来に取り不祥なる事が来るのを教へて居るのだ。つまり死ぬと云ふ事を教へて居るのだ。深酒を呑まぬやうにせぬと危ないものだ。たとへ身体がピンピンして居ても人の悪口ばかり云ふて居ると、憎まれてどんな災難を買ふやら分らないぞ。些と慎むがよい』
テル『そんな事を聞くと折角の酔がさめてしまふぢやないか。俺は平常から顔色が悪いのだ、気にかけてくれるな。そんな事を聞くと何だか俺まで気分が悪くなるからな』
 かく話す所へ片手に燗徳利を下げ、片手に盃を持ち進んで来たのは晴公であつた。
晴公『ヨルさま、ハルさま、テルさま、石搗は大分大層でしたが、先づ貴方方のおかげで無事終了し、こんな目出度い事はありませぬね。お祝ひに一杯つがして下さい』
と盃をさし出した。ヨルはさも嬉し気に晴公につがせながら、一口のんで額をポンと叩き、
ヨル『遉は晴公さまだ。治国別さまのお仕込みだけあつて道公さまとは大分気が利いてゐるわい。晴公さま、宜敷く頼みますよ。吾々はバラモン教から帰化した所謂異邦人だから何かにつけて疎外せられるやうに思はれてなりませぬワ。これも心のひがみでせうか。人間といふものは妙なもので貴方のやうにして下さると本当に心の底から打ち解けたやうで、働くのも何だか勢が出るやうですわ。ナア、ハル、テルさうぢやないか』
テル『さうだなア、人の上に立つ人は余程気をつけて下さらぬと下の者はやり切れないからなア』
ハル『同じハルのついた晴公さまだから、同名異人と云ふだけで、やつぱり身魂が合ふて居るのだよ。それだから晴公さまが俺達の所へ来て下さつたのだ。ヨル、テル、晴公様に感謝すると共にこのハルさまにも感謝するのだぞ』
ヨル、テル『ヘーン、何を吐しやがるのだえ、鼻を捻折るぞ』

晴公『常暗のヨルははれけり大空に
  月は照るなり星は輝く。

 空晴る月テルヨルの星影は
  いとも疎に見え渡るかな』

ヨル『オイ、テル、ハル両人喜べ、俺はヨルさま、お前はテル、ハルの両人、それに晴公さまだから、あのやうに目出度い歌を詠んで下さつた。親切と慈愛の徳は曇つた空も晴るるなり、曇つた心の月も照るものだなア』
 晴公は両手を合せ、惟神霊幸倍坐世と何を思ふてか、感謝の声に涙を帯びながら神文を奏上した。三人も手を打つて『惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』と連呼した。かくして直会の宴は全く閉ぢ、一同は十二分に歓を尽して寝についた。

(大正一二・一・一六 旧一一・一一・三〇 加藤明子録)



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