出口王仁三郎 文献検索

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物語48-4-201923/01舎身活躍亥 心の鬼王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 心の鬼〔一二七四〕

 テルンスは、エム、ワクの両人を秘密の暴露せむ事を恐れて無残にも切り捨て、心地よげに打ち笑ひ独言、
『此奴等両人はランチ、片彦両将軍の間者だと云ふ事は予て承知し居つた。吾々が軍隊の指揮権を握る時節がいよいよ到来致したと云ふものだ。両将軍はいよいよ三五教の宣伝使にチヨロまかされ、骨のない蛸か蒟蒻の化物のやうになつてしまつた。いつまでも上に大将があると、吾々の向上の道を硬塞し、金槌の川流れ、出世する道がない、しかるに都合よく両将軍初め両副官エキスまでがすつかり軍職を止めてしまひよつた。かうなる上は、階級順によつて全軍の指揮官となるのはトランス、バルクの両人だ。俺達は折角栄進の道が開けても矢張り人の頤使に甘んぜなくてはならぬ。この時こそは時刻を移さずハルナの都に急使を馳せ、大黒主様に「治国別のため、ランチ、片彦両将軍及びガリヤ、ケース両人は、バラモン教を捨てて却て職権を利用し、反対にハルナの都に攻め寄せむとす。故にテルンス、コーの両人はこの計略を知り注進仕る。何卒臨時にても差支へなくば、全軍指揮官をテルンス、コーの両人にお任せ下さい」と云はうものなら、いよいよ願望成就だ。しかるに此等二人が居ては秘密が洩れると思うて、コーに喋し合せ、酒によせて泥を吐かせ置いたのだ』
 かかる所へコーは剣を杖につきながらヒヨロリ ヒヨロリとやつて来た。
『ヤア、その方はコーではないか』
『ハイ左様でございます。此奴等両人を切つて捨てむと追ひまくる中、少々酩酊致して居りましたせいか、庭石に躓き一時気も遠くなりましたが、やうやう起き直り、剣を杖に痛い膝を押へながら此処まで参りました。何と心地よく斃つたものですなア』
『アハヽヽヽ、拙者の深謀奇策はマア、ざつとこの通りだ。かうなる上は一刻も早く手紙を認め、早馬使を部下より選抜してハルナの都に遣はさう。さうすれば、このテルンスはランチ将軍の後釜、その方は片彦将軍の後釜だ。グヅグヅして居て他の奴に先を越されては詰らない、サア早く、コー、用意をせよ』
『ハイ、直様用意を致しますが、何だか首筋がゾクゾク致しまして、思ふやうに身体が動きませぬわ。手足の筋も骨も固くなつてしまふやうです。あれ御覧なさいませ。二人の死骸から青い火がボヤボヤボヤと燃え出したぢやありませぬか』
 テルンスの目には何も見えなかつたが、コーには二人の死骸から青い光が頻りと燃え出した。そして青い火から青い人の顔が見え出した。よく見ればエム、ワクの両人であつた。コーは手足をブルブルさせながら、
『コヽヽヽコレ、ワヽヽワク、ソヽヽヽそんな怖い顔をして俺を睨んだつて、俺が殺したのぢやない、恨があるなら、テルンス様に云ふがよい。私は酒の上でただ剣を抜いただけだ。コリヤ、ソヽそんな怖い顔をするな、ユヽヽ幽霊め、もしもしテルンス様、どうかして下さいな。火の中から怖い顔をして、今にも噛みつきさうにして居ります』
『オイ、コー、確りせぬか。火が出るの幽霊が出るのと、そりや貴様の神経だ。二人の死骸は前に首と胴とになつて斃つて居るが、そんな青い火だの幽霊だのと、そんなものがあつて耐るか』
『アヽヽヽ此奴は耐らぬ。オイ、ワク、エム、見当違しちや困る、俺ぢやない、下手人はテルンスさまだ。恨みるのならテルンスさまを恨みてくれ。コヽヽコレヤ、そんな怖い顔をすな』
 青い火は段々と大きくなり、遂にはテルンスの目にも入るやうになつて来た。テルンスは初めて驚き、ちりげもとがザクザクし出した。されど気が弱くては叶はじと戦く胸をじつと抑へ空気焔を吐いて居る。されど手も足もワクワクと地震の孫のやうに慄うて居る。今、斬り捨てられたワク、エムの両人は厭らしき形相となり、口より火焔を吐き、真青の頬となり、血走つた眼を剥き出しながら、両手を前に垂れ、身体一面慄はせながら、細き蚊の鳴くやうな声で、
ワク『恨めしやな、残念至極、口惜しやな、汝テルンスの悪人輩、仮令この肉体は汝の手にかかつて果つとも、魂魄この世に留まつて、汝が素首を引きぬき、地獄のどん底に連れ行き、無念を晴らさねば置かぬぞ。ヤア恨めしや』
と死体に足をくつつけながら、前によつたり後に引いたりして居る。
 一方エムの体よりは、またもや怪しき幽霊立ち出で、青い火に包まれながら、
『ヤア恨めしや、テルンスの悪人奴。よくも某を無残にも手にかけたな、この恨み晴らさで置かうか』
と二人の幽霊は交る交るにテルンスの左右より進んだり退いたりして睨め付けて居る。テルンスは恐怖心にかられ、手足は慄ひ戦き逃げる事も得せず、遂にはキヤツ キヤツと声張り上げて救ひを叫び出した。その声は何とも云へぬ、凄味を帯びた嫌らしいものであつた。コーはこの体を見て雪の上を転げながら、十間ばかり此方に逃げ来り、肝を潰してパタリとふん伸びてしまつた。
 折から進み来る夜警の二人はこの有様を見て、腰を抜かさむばかりに打ち驚き、片彦将軍の居間をさして韋駄天走りに駆けつけ、
夜警の一『モシモシ将軍様、タヽ大変でございます。ユヽ幽霊が二体も現はれました。そしてテルンスが両方から幽霊に責悩まされ困つて居ります。如何致してよろしきや、余りの怖ろしさに一寸御報告申します』
『何、幽霊が出たと、そいつは妙な事を聞くものだ。拙者も幽界旅行より帰つてまだ間もなきに、幽霊が出たとは不思議千万だ。ドレ、これから治国別様に夜中ながら申上げ、実地検分に往つて見よう』
夜警の二『将軍様、どうぞ貴方来て下さいませ、私は恐ろしくて体が縮みます』
『アハヽヽヽ、何と気のチヨロイ男だな。俺も何だか首元が、ゾクゾクと致しはせぬでもないワイ』
 かかる所へ、お寅は小便に出で、人声がするので不思議と思ひ門口を覗けば、片彦将軍と二人の夜警が幽霊の出た話をして居る。お寅はこれを聞くより気丈な女とて、夜警を促しその場に到り見れば、果して夜警の云つた通り、テルンスは門口に立ち、怪しき幽霊が両方より蟷螂のやうな手つきで互交に苦しめて居る。お寅は傍に走り寄り、泰然自若として天津祝詞を奏上した上に、天の数歌を声緩やかに歌ひ終つた。不思議や二人の幽霊は、数歌を歌ひ終ると共に煙の如く消えてしまつた。
 よくよく見れば、エム、ワクの両人は雪の上に酒に酔つて打つ倒れ、怪我一つして居なかつた。テルンスは大に驚き、自分の悪しき企みを、包まず隠さず、ランチ、片彦両将軍の前に自白してその罪を謝した。しかしながらこの陣営には二千人ばかりの軍卒が、ランチ将軍指揮の下に駐屯して居たが、将軍が三五教に帰順せし事を発表すると共に、武器を捨てて各地に自由に出で往くもあり、中には鬼春別将軍に早馬に乗つて報告するものもあり、遥々とハルナの都へ忠義だてに駆け往くものもあつた。
 そして浮木の森の陣営は支離滅裂に解体され、殺風景のこの地も、軍人の片影をも認めない以前の平和なる村落となつた。
 治国別、ランチ将軍、その他一同の今後の行動は後日述ぶる事とする。嗚呼惟神霊幸倍坐世。

(大正一二・一・一四 旧一一・一一・二八 加藤明子録)



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