出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語48-4-171923/01舎身活躍亥 甦生王仁三郎参照文献検索
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第一七章 甦生〔一二七一〕

 ランチ将軍、片彦、ガリヤ、ケースの四人は罪人橋の傍に佇み、肌を断るばかりの寒風に曝されながら、幽かに聞ゆる宣伝歌の声をせめてもの力として、慄ひながら待つて居た。四方を見れば、今まで吾身辺を包みたる冥官は一人も居らず、また我利我利亡者の姿は残らず消え失せたれども、再び潜り来りし小孔は塞がりて分らず、この橋を向ふへ渡らむか、実に危険にして百中の百まで顛落しさうな光景である。宣伝歌の声は追々高くなつた。それに次いで、ワイワイと喚く数百人の声、前後左右より響き来る。四人は心も心ならず、如何なり往くならむと、絶望の淵に沈んで居た。かかる所へ忽然として現はれ給うたのは容貌端麗なる一人の女神、二人の侍女を伴ひながら、四人の前に鳩の如く下り給ひ、女神は優しき声にて、
『貴方は大自在天様の教を奉ずるランチ将軍の一行ぢやございませぬか』
 四人は蘇生の思ひをしながら、俄に嬉し気に声まで元気よく、
『ハイ、仰せの如く、ランチ将軍主従でございます。誠に罪悪のため斯様な所へ落され、二進も三進もなりませぬ。今日までの罪悪はすつかり悔い改めまして、生れ赤児の心に立ち帰りますれば、どうぞこの急場をお救ひ下さいませ』
『それは嘸お困りでせう。貴方が誓つて体主霊従の行ひを改むるとならばお助け申しませう。妾は都率天に坐ます日の大神のお傍に仕ふるもの、妾が申す事御合点が参りましたらキツと救うて上げませう、実の所は貴方等の危難を大神様が御照覧遊ばし「一時も早く彼が前に往き、誠を説き明し救ひやれ、時後れなば一大事」との仰せに、取るものも取り敢ず、都率天を下り此処に来ました。あれお聞きなさいませ。あの宣伝歌は、貴方等を救ふための宣伝歌の声でございます』
片彦『ハイ、有難うございます。歌は聞えますが、その歌がボンヤリとして少しも意味が分りませぬ』
『あの歌は、三五教の宣伝使が、貴方等を救ふべく神への祈り歌でございます、サア篤りとお聞きなされ』
と懐中より大幣を取り出し左右左に打ち振れば、不思議や四人の耳はパツと開けて、歌の意味は益々明瞭になつて来た。四人は両手を合せ、大地に跪いてその歌を一語も洩らさじと聞き入つた。その歌、

『高天原の最奥の  日の若宮に現れませる
 至仁至愛の大神は  八岐大蛇や醜狐
 曲鬼共に取りつかれ  善の道をば取り違へ
 智慧証覚をくらまして  体主霊従の小欲に
 浮身を窶すバラモンの  大黒主の部下となり
 ミロクの神の化身たる  神素盞嗚の大神の
 常磐堅磐に現れませる  産土山の霊国の
 貴の館を屠らむと  大黒主の命をうけ
 ランチ将軍、片彦が  数多の部下を引率れて
 浮木の森に陣営を  構へて作戦計画の
 真最中に入り来る  治国別の宣伝使
 忽ち悪心勃発し  神の尊き御使を
 千尋の暗き穴の底  落し入れたる曲業は
 忽ちその身に報い来て  眼はくらみ変化神
 此上なき美人と過りて  互に修羅を燃やしつつ
 反間苦肉の策を立て  互に命を奪ひ合ひ
 忽ち精霊肉体を  離れて地獄に踏み迷ひ
 進退茲に谷まれる  その窮状を臠はし
 妾に向つて詔らすやう  汝紫姫の神
 二人の天女と諸共に  根底の国に降臨し
 彼等四人が心底を  調べたる上真心の
 聊かなりと照るあらば  誠の道を説き聞かせ
 再び娑婆に追ひかへし  遷善改過のその実を
 あげさせよやと厳かに  詔らせたまひし神勅を
 慎み畏み今茲に  降り来りしものなるぞ
 軍の君よ汝は今  吾言霊を聞き分けて
 尊き神の愛に触れ  再び現世に立ち帰り
 大神業に奉仕する  赤心あらば吾は今
 汝を安きに救ふべし  あゝ惟神々々
 尊き神の勅もて  汝等四人に詔り伝ふ』

と言葉淑かに聞え来る。よくよく見れば宣伝歌の声は外には非ず、女神の口から歌はれて居たのである。されど神格に満ちたる天人は、現代人の如く口を用ひたまはず、一種の語字を用ひ四辺より語を発し、その意を述べ給ふにより、四人の亡者の気づかなかつたのも道理である。
 ランチ将軍は漸くにして力を得、歌をもつてエンゼルに答へた。

『高天原の最奥の  日の若宮に現れませる
 尊き神の勅もて  天降りましたる紫の
 姫の命の御前に  慎み敬ひ願ぎ申す
 吾はバラモン大御神  大国彦を祭りたる
 大雲山の聖場に  朝な夕なに身を清め
 難行苦行の功をへて  漸く道の奥処をば
 悟りて茲に神柱  大黒主に選まれて
 教司となり居たり  時しもあれやウラル教
 三五教の神柱  数多の軍を引率れて
 空照り渡る月の国  ハルナの都に攻め来る
 噂は強く聞えけり  茲に大黒主の神
 大に怒らせ給ひつつ  善か悪かは知らねども
 軍を起し産土の  館を指して進むべく
 鬼春別によさしまし  数多の兵士任けたまふ
 鬼春別の部下なりし  吾等は命に従ひて
 浮木の森に来る折  怪しき女に村肝の
 心を汚し同僚を  恋の敵と恨みつつ
 悪逆無道の行動を  敢てなしたる悔しさよ
 かくなる上は吾とても  如何でか悪を尽さむや
 唯今限り悪を悔い  誠の道に立ち帰り
 皇大神の御教に  厚く服ひ仕ふべし
 尊き神の御使よ  この有様を憫れみて
 何卒救はせたまへかし  もし許されて現界に
 再び帰り得るなれば  神素盞嗚の大神に
 刃向ひまつりし罪咎を  償ふために一身を
 捧げて誠の大道に  進み奉らむ吾心
 尊き神の御使の  御前に心固めつつ
 委曲に願ひ奉る  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 一旦誓ひし吾魂は  皇大神の御ために
 仮令命は捨つるとも  のどには捨てじ一歩も
 顧みせざる誠心を  清くみすかし給ひつつ
 愍み給へ紫の  姫の命の御前に
 慎み敬ひ願ぎ申す』  

と細き声にて詔り上げた。片彦もまた歌をもつて罪を謝した。

『ここたくの罪や汚れになづみたる
  わが身魂をば清めて救へ。

 惟神誠の道に踏み迷ひ
  根底の国に落ちにけるかな。

 何事も神の御ため世のためと
  知らず知らずに曲になりぬる。

 ここたくの罪を許して現世に
  救はせ給へと乞ひのみ奉る』

ガリヤ『吾もまた汚き欲に包まれて
  黒白も分ぬ暗に落ちぬる。

 いと深き神の恵に包まれて
  根底の国を去るぞ嬉しき。

 皇神のこの御恵を如何にして
  報はぬものと危ぶまれぬる。

 さりながら元は尊き大神の
  身魂なりせば清く帰らむ』

ケース『身の欲に心曇りて根の国の
  川辺に迷ふ吾ぞ果敢なき。

 如何にしてこの苦しみを逃れむと
  千々に心を痛めたりしよ。

 有難き神の恵の霑ひて
  紫姫は降りましけり』

ランチ『有難し勿体なしと申すより
  外に言の葉なかりけるかも。

 大神の恵の露は根の国や
  底の国まで霑ひにけり』

紫姫『村肝の心の闇の晴れし身は
  安く帰らむ顕御国へ。

 さりながら再び現世に帰りなば
  曲の仕業は夢にな思ひそ。

皆さま、結構でございました。どうやら現世へお帰り遊ばす道が開けたやうです。妾も大慶に存じます。しかしながらこの国の守護神様は金勝要大神様、一度お許しを蒙らねばなりませぬ。お願ひを致して参ります』
と云ふより早く、麗しき雲を起し、罪人橋の上を北へ北へとその神姿を隠し給うた。四人は互に顔を見合せ、ホツと息をつきながら、
ランチ『あゝ片彦殿、真に済まない事を致しました。悪魔に取りつかれ、俄にあのやうな悪心を起し、こんな所へ閉ぢ込まれるとは、どうも恥かしい事でござる。どうか現界へ帰るとも、今迄の恨は川へ流し、層一層御親交を願ひます』
と心の底より片彦に詫びた。片彦はこれに答へて、さも嬉し気に云ふやう、
『将軍様、勿体ない事を仰せられますな。皆私が悪いのでございます。数多の軍勢を指揮する身分で居ながら、陣中の規律を紊し、女に心を奪はれ、遂には思はぬ葛藤を起しましたその罪は、私が大部分負担すべきものです。何卒今までの罪をお許し下さいまして、従前よりも層一層の御親交を願ひます』
と心の底より打ち解けて云つた。
 ガリヤ、ケースの両人は両将軍の物語を聞き、身を縮め、感歎の息を洩らして居る。かかる所へ治国別、松彦、竜公、万公、アク、タク、テクの一行、宙を飛んで走り来り、四人の前に整列し、
治国『片彦さま、貴方の改心が国魂の神、金勝要大神様に通じました。拙者は要の神の命により、貴方を現界に救ふべくお迎へに参りました』
『ハイ、有難うございます』
と落涙に及ぶ。松彦はランチ将軍に向ひ、
『将軍殿、貴方の悔悟のお願が大地の金神金勝要神様の御前に達しました。拙者は神命により、貴方を現界へお送り申しませう、次にガリヤ、ケースの両人も同様現界へお帰りなさい』
 三人は、
『ハイ有難う』
と頭を下げる途端、ザワザワと聞ゆる人声に目を醒ませば、浮木の森の物見櫓の下座敷に四人は横たはり、数多の人々に介抱されて居た。さうしてお民はお寅に救はれて居た。ランチ将軍、片彦は枕許をよく見れば、豈図らむや、今夢ともなしに罪人橋の麓にて救はれたる治国別、松彦を初め、竜公、万公、アク、タク、テクの面々であつた。彼等四人は治国別、松彦の一隊に死体を河中より救ひ上げられ、宣伝歌を聞かされ、かつ天津祝詞と天の数歌の功力に救はれ蘇へつたのであつた。またお民は蠑螈別の声にハツと気がつき四辺を見れば、その枕許には蠑螈別、エキス、アーク、タール、お寅婆アさまの面々が親切に介抱をして居た。これよりランチ将軍を初め幽冥旅行の面々は心の底より前非を悔い、初めて神素盞嗚大神の御前に両手を合せ、反逆の罪を陳謝し、遂に三五の道に帰順する事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。

(大正一二・一・一四 旧一一・一一・二八 加藤明子録)



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