出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語48-3-141923/01舎身活躍亥 至愛王仁三郎参照文献検索
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第一四章 至愛〔一二六八〕

 治国別、玉依別は最高の霊国を後にして、帰途中間霊国を横断し、最下層の天国に降つて来た。往がけはその証覚、両人共今の如くならざりし故、非常にまばゆく感じたりしが、日の若宮において神徳を摂受したる二人は、最早第三天国の旅行は何の苦痛もなかつた。しかしながら第一、第二、第三と下降し来るにつれて、吾ながらその神力の減退する如く思はれ、また明確なる想念も甚しく劣りし如く思はるるのは、実に不思議であつた。漸くにして二人は、八衢の関所に着いた。伊吹戸主の神は数多の守衛を率ゐて二人を歓迎した。二人は館の奥の間に導かれ、茶菓の饗応を受け、霊界に関する種々の談話を交換した。
伊吹『治国別様、首尾克く最奥天国、霊国がきはめられましてお目出度うございます。さぞ面白きお話がございませうねえ』
『何分徳が足らないものですから、何れの天国においても荷が重すぎて、非常に屁古たれました。しかしながら諸エンゼルの導きによつて、辛うじて最奥天国まで導かれ、その団体の一部を巡拝し、漸く此処まで帰つて参りました。しかしながら不思議な事には、下層天国より順を追うて最奥天国へ上る時の苦さは譬へられませぬ。丁度三才の童子に重き黄金の棒を負はせたやうなもので、余り結構過ぎて、それに相応する神力なきため、到る所で恥を掻いて参りました』
『お下りの時はお楽でございましたらうなア』
『ハイ、帰りは帰りでまた苦しうございました。何だかダンダンと神徳が脱けるやうでございましたよ』
『すべて霊界は想念の世界でございます、それ故情動の変移によつて、国土相応の証覚に住するのですから、先づそれで順序をお踏みになつたのです。高天原の規則は大変厳格なもので、互にその範囲を犯す事は出来ないやうになつて居ります。最高天国、中間天国、下層天国及び三層の霊国は、厳粛な区別を立てられ、各天界の諸天人は互に往来する事さへも出来ないのです。下層天国の天人は中間天国へ上る事は出来ず、また上天国の者は以下の天国に下る事も出来ないのが規則です。もしも下の天国より上の天国に上り行く天人があれば必ず痛くその心を悩ませ、苦み悶え、自分の身辺に在る物さへ見えないやうに、眼が眩むものです。ましてや上天国の天人と言語を交ゆる事などは到底出来ませぬ。また上天国から下天国へ下り来る天人は忽ちその証覚を失ひますから、言語を交へむとすれば、弁舌渋りて重く、その意気は全く沮喪するものです。故に下層天国の天人が中間天国に至るとも、また中間天国の天人が最奥天国に至るとも、決してその身に対して幸福を味はふ事は出来ませぬ。吾居住の天国以上の天人は、その光明輝き、その威勢に打たるるが故に、目もくらみ、ただ一人の天人をも見る事が出来ませぬ。つまり内分なるもの、上天国天人の如く開けないがためであります。故に目の視覚力も明かならず、心中に非常な苦痛を覚え、自分の生命の有無さへも覚えないやうな苦しみに遇ふものです。しかしながら貴方等は大神様の特別のお許しを受け、媒介天人即ち霊国の宣伝使に伴はれて、お上りになりましたから、各段及び各団体に交通の道が開かれ、そのため巡覧が首尾よく出来たのです。しかして大神様は上天と下天の連絡を通じ給ふに、二種の内流によつてこれを成就し給ふのです。しかして二種の内流とは、一は直接内流、一は間接内流であります』
玉依『直接内流、間接内流とは如何なる方法を言ふのでございますか』
『大神様は上中下三段の天界をして、打つて一丸となし、一切の事物をして、その元始より終局点に至るまで悉く連絡あらしめ、一物と雖も洩らさせ給ふ事はありませぬ。しかして直接内流とは大神様から直に天界全般に御神格の流入するものであり、間接内流とは各天界と天界との間に、神格の流れ通ずるのを言ふのです』
治国『如何にも、それにて一切の疑問が氷解致しました。私はこれよりお暇を申し、現界へ帰らねばなりませぬ。しかしながらどちらへ帰つてよいか、サツパリ分らなくなりました。最高天国から下るに就いて、折角戴いた吾証覚が鈍り、今では元の杢阿弥、サツパリ現界の方角さへも見えなくなつてしまひました。これでも現界へ帰りましたら、神様に賜はつた神力が依然として保たれるでせうか』
『現界において最奥天国におけるが如き智慧証覚は必要がありませぬ。ただ必要なるは愛と信のみです。その故は最高天国の天人の証覚は第二天国人の知覚に入らず、第二天国人の証覚は第三天国人のよく受け入るる所とならないやうに、中有界なる現界において、余り最高至上の真理を説いた所で有害無益ですから、ただ貴方が大神様に授かりなさつたその神徳を、腹の中に納めておけばいいのです。大神様でさへも地上に降り、世界の万民を導かむとなし給ふ時は、ある精霊にその神格を充し、化相の法によつて予言者に現はれ、予言者を通じて現界に伝へ給ふのであります。それ故神様は和光同塵の相を現じ、人見て法説け、郷に入つては郷に従へとの、国土相応の活動を遊ばすのです。貴方が今最高天国より、段々お下りになるにつけ、証覚が衰へたやうに感じられたのは、これは自然の摂理です。これから現界へ出て、訳の分らぬ人間へ最高天国の消息をお伝へになつた所で、恰も猫に小判を与ふると同様です。先づ貴方が現界へ御帰りになれば、中有界の消息を程度として万民を導きなさるがよろしい。その中において少しく身魂の研けた人間に対しては、第三天国の門口位の程度でお諭しになるがよろしい。それ以上御説きになれば、却て人を慢心させ害毒を流すやうなものです。人三化七の社会の人民に対して、余り高遠なる道理を聞かすのは、却て疑惑の種を蒔き、遂には霊界の存在を否認するやうな不心得者が現はれるものです。故に現界において数多の学者共が首を集め頭を悩ませ、霊界の消息を探らむとして霊的研究会などを設立して居りますが、これも霊相応の道理により、中有界の一部分より外は一歩も踏み入るる事を霊界において許してありませぬ。それ故貴方は現界へ帰り学者にお会ひになつた時は、その説をよく聴き取り、対者の証覚の程度の上をホンの針の先ほど説けばいいのです。それ以上お説きになれば彼等は忽ち吾癲狂痴呆たるを忘れ、却て高遠なる真理を反対的に癲狂者の言となし、痴呆の語となし、精神病者扱をするのみで少しも受入れませぬ。故に現界の博士、学士連には、霊相応の理によつて肉体のある野天狗や狐狸、蛇などの動物霊に関する現象を説示し、卓子傾斜運動、空中拍手音、自動書記、幽霊写真、空中浮上り、物品引寄せ、超物質化、天眼通、天言通、精神印象鑑識、読心術、霊的療法等の地獄界及び精霊界の劣等なる霊的現象を示し、霊界の何ものたるをお説きになれば、それが現代人に対する身魂相応です。それでも神界と連絡の切れた人獣合一的人間は非常に頭を悩ませ、学界の大問題として騒ぎ立てますよ。アツハヽヽヽ』
玉依『モウシ、伊吹戸主神様、私は日の若宮において、王母様より玉依別といふ名を賜はりましたが、これは最高天国で名乗る名でございませうか、現界においても用ひて差支ありますまいか』
『現界へお帰りになれば、現界の法則があります。貴方は治国別様の徒弟たる以上は、現界へ帰ればヤハリ竜公さまでお働きなされ。治国別様がお許しになれば、如何なる名をおつけになつてもよろしいが、貴方が現界の業務を了へ、霊界へ来られた時始めて名乗る称号です。霊界で賜はつた事は霊界にのみ用ふるものです。しかしマア復活後は、結構な玉依別様と云ふ称号が既に既に頂けたのですから、お目出度うございます。決して霊界の称号を用ひてはなりませぬぞや』
『ハイ、畏まりました、しからば只今より竜公と呼んで下さいませ』
『モウしばらく玉依別さまと申上げねばなりませぬ』
『アーア、玉依別さまもモウ少時の間かなア、折角最高天国まで上つて、結構な神力を頂いたが、現界へ帰ればまた元の杢阿弥かなア。お蔭をサツパリ落して帰るのかと思へば、何だか心細くなりました』
『決してさうではありませぬ。貴方の精霊が頂いた神徳は、火にも焼けず、水にも溺れず、人も盗みませぬ。三五教の神諭にも……御魂に貰うた神徳は、何者も盗む事はよう致さぬぞよ……と現はれてありませう。貴方の天国において戴かれた神徳は、潜在意識となつて否潜在神格となつて、どこまでも廃りませぬ。この神徳を内包しあれば、マサカの時にはそれ相当の神徳が現はれます。しかしながら油断をしたり慢心をなさると、その神徳は何時の間にやら脱出し元の神の御手に帰りますから、御注意なさるがよろしい。しかして仮りにも現界の人間に対し、最奥天国の神秘を洩らしてはなりませぬぞ。却て神の御神格を冒涜するやうになります。霊界の秘密は妄りに語るものではありませぬ。愚昧なる人間に向つて分不相応なる教を説くは、所謂豚に真珠を与ふるやうなものです。忽ち貴重なる真珠をかみ砕かれ、一旦その汚穢なる腹中を潜り、糞尿の中へおとされてしまふやうなものですよ』
『治国別さま、駄目ですよ、私は天国の消息を実見さして戴き、これから現界へ帰つて、先生と共に現界における霊感者の双璧となり、大に敏腕を揮つてみようと、今の今まで楽しんで居りましたが、最早伊吹戸主様のお説を聞いてガツカリ致しました。さうするとヤツパリ身魂の因縁だけの事より出来ぬのですかなア。宝の持腐れになるやうな気がして聊か惜しうございますワ』
『アツハヽヽヽヽ』
『私は伊邪那岐尊の御禊によつて生れました四人の兄弟です。されどその身魂の因縁性来によつて祓戸の神となり、最高天国よりこの八衢に下り、斯様なつまらぬ役を勤めて居りますが、これも神様の御心のままによりならないのですから、喜んで日々この役目を感謝し忠実に勤めて居るのです。まだまだ私所か妹の瀬織津姫、速佐須良姫、速秋津姫などは実にみじめな役を勤めて居ります。言はば霊界の掃除番です。蛆のわいた塵芥や痰唾や膿、糞小便など所在汚き物を取除き浄める職掌ですから、貴方の神聖なる宣伝使の職掌に比ぶれば、実に吾々兄弟は日の大神の貴の子でありながら、つまらぬ役をさして頂いて居ります。しかしこれは決して吾々兄弟がこの役目を不足だと思つて申したのではありませぬ、貴方等の御心得のため一例を挙げたまででございます』
玉依『ハイ、大神様の御仁慈、実に感じ入りました』
と感涙にむせぶ。治国別は憮然として、
『アヽ実に大神様の御恵、感謝に堪へませぬ。厳の御霊の神諭にも……我子にはつまらぬ御用がさしてあるぞよ。人の子には傷はつけられぬから……とお示しになつてゐますが、実に大神様の御心は測り知られぬ有難きものでございますなア』
と云つたきり、吐息を洩らして差俯いてゐる。
『私ばかりぢやありませぬ、月照彦神様、弘子彦神様、少彦名神様、純世姫様、真澄姫様、竜世姫様、その他結構な神々様は皆、厳の御霊や瑞の御霊の大神の直々の御子でありながら、何れも他の神々の忌み嫌ふ地底の国へお廻りになつて、辛い御守護をしてゐられます。これを思へば貴方等は実に結構なものですよ。厳の御霊の御神諭にも……人民位結構な者はないぞよ……と示されてありませうがなア』
治国『成程、実に大神様の御心のほどは、吾々人間の測り知る所ではありませぬ。あゝ惟神霊幸はへませ、五六七の大神様……』
と涙を滝の如く流し、神恩の甚深なるに感じ、竜公と共に合掌してその場に打伏した。伊吹戸主神は目をしばたたきながら、
『御両人様、その心で、どうぞ現界において神のため、道のため、世人のために御活動を願ひます。左様ならばこれにてお別れ致しませう』
と云ふより早く忙しげに奥の間に姿を隠した。二人は後姿を見送り、恭しく拝礼しながら館を立出で、赤門をくぐり、白赤の守衛に厚く礼を述べ、八衢街道を想念の向ふ所に任せて歩み出した。アヽ惟神霊幸倍坐世。

(大正一二・一・一四 旧一一・一一・二八 松村真澄録)



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