出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語48-3-131923/01舎身活躍亥 月照山王仁三郎参照文献検索
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第一三章 月照山〔一二六七〕

 治国別、竜公両人は、十二人のエンゼルに導かれ、宮殿の奥深く進み入つた。しかしこの宮殿は都率天の前殿とも前宮とも称へられ、最奥の御殿ではなかつた。最奥の御殿は大至聖所と称へられ、大神の御居間である。この居間は、如何なる徳高きエンゼルと雖も一歩も踏み入れる事は出来ない。日の若宮と称へられ、大神は高天原の太陽として御姿を現じたまふ所である。故に証覚の最も勝れたる天人のみ、遥にそのお姿を八咫の鏡の如く拝するを得るのみである。神は総て円満の相にましますが故に、此処にては太陽と現はれ給ひ、その御光は自然界の太陽の幾百倍とも知れない光を放たせたまひ、容易に仰ぎ拝する事は出来ない。しかし大神は諸団体の天人の前に太陽として現はれ給ふ時がある。その時は和光同塵的態度をもつて、第一天国の天人には地上における太陽の七倍の光をもつて現はれたまひ、第二天国に在りては五倍の光をもつて現はれたまひ、第三天国には二倍の光をもつて現はれたまふが例のやうに承はる。これはほんの大要であつて、各団体、各天人個々の善徳の如何によりて、その光に強弱の度があるのである。また時には一個の天人となつて団体中に現はれ給ふ時もある。さうして最奥の大至聖所における大神の御経綸とその御準備に至りては、如何なる証覚の勝れたる天人と雖も、明白にこれを意識する事は出来ない。その故は至貴至尊にして至智至聖なる大神の御神慮は天人の思慮の及ぶ所に非ず、証覚の達せざる所なるが故である。
 高天原の天界において一切を統合するものは即ち善徳である。この善徳の性相の程度の如何によつて天界に差別を生ずるに至るものである。さうしてかくの如く諸天人を統合するは、決して天人が自作の功に非ずして善徳の源泉たる大神の御所為である。大神は総ての天人を導き、これを和合し、これを塩梅しまたその善徳に住する限りこれをして自由に行動せしめ給ふのである。かくて大神は天人をして各その所に安んぜしめ、愛と信と智慧と証覚を得てその生涯を楽しましめ給ふのである。故に大神の御側へは容易に進む事は出来ない。言霊別命は奥殿深く進み給ひ、治国別、竜公は神界の都合によりてある機会により、天国巡覧修業に上り来りし由を奏上し、大神の許しを受け、茲に盛大なる酒宴を前殿において催さるる事となつた。先づ正面には言霊別命正座し、相並んで西王母その右に座を占め、治国別、竜公はその傍に座席を設けられた。さうして十二人のエンゼルは麗しき葡萄の酒を雲脚机に載せ、恭しく目八分に捧げて四人の前に静にこれを据ゑた。次には麗しき桃の実を雲脚机に一つ一つ載せ、一つは治国別の前に、一つは竜公の前にキチンと据ゑられた。西王母は玻璃の盃を先づ言霊別命にさし、葡萄酒をなみなみとつぎ給うた。言霊別命は押頂いてこれを飲み、盃洗の水に洗ひ、懐より紙を取出し、盃をよく拭き清め治国別にさした。治国別は押頂き、西王母より葡萄酒をまた八分ばかり注がれ、幾度も押頂いてこれを飲み、またもや盃洗に滌ぎ拭き清めて竜公に渡した。竜公は盃を押頂き、感謝の涙に暮れて居る。西王母は膝をにじり寄せ、竜公の盃に半分ばかりつがせたまうた。これにて盃は終りをつげた。一人の天女は徳利や盃を雲脚机に据ゑたまま目八分に持ち、次の間に運んだ。この葡萄酒は大神の血と肉とにもたとふべき最も貴重なる賜であつた。この酒を飲む時は心の総ての汚れを払拭し、広大なる神力を授かり、かつ永遠の生命をつなぎ得るものである。次に西王母は天女の運び来りし二個の桃を両人に与へ、速かにこの場において食すべき事を命じ給うた。二人は命のままに押頂き、その風味に驚喜しつつ静かに腹中に納めてしまつた。不思議にも種は米粒の如く小さく、いつとはなしに種もろとも咽喉を通つてしまつたのである。この桃実は前園に実りしものにして、三千年の齢を保つと云ふ目出度き神果である。西王母は一言も言葉を発したまはず、ニコニコとしながら二人の顔を嬉しげに眺め居たまうた。十二の天女は笛、太鼓、鼓、羯鼓、その外種々の楽器を吹奏し、面白き歌を爽かな声にて歌ひ、その中の最も若く見ゆる四人の天女は長袖淑に胡蝶の舞を舞ひ終り、一同に辞儀をなし、衣摺れの音サヤサヤと次の間に姿を隠した。さうして竜公は、玉依別と云ふ神名を賜ひ、喜び勇む事一方ならず、何事か歌を歌つて、感謝の意を表せむとしたが、天国の光に打たれ、これまた一言も発し得なかつた。
 西王母がこの二人に向つてこの宴席において一言も言葉を発したまはなかつたのは、畏れ多き大神のお側近き前殿であつたから、遠慮をせられたのである。西王母の如き尊き証覚の神さへ謹慎を表し、一言も発したまはざる位なれば、言霊別命もまた沈黙を守り、治国別、玉依別は、一言を発せむにも発し得なかつたのである。
 しばらくあつて以前の舞姫は、二人の麗しき婦人を先に立てこの場に現はれて来た。治国別はその二人の女に何処ともなく見覚えのあるやうな感がしたので、頻りに首を傾げよく見れば、豈計らむや、先に立つた女は紫姫であつた。さうして紫姫は、玉照彦を嬉しげに懐に抱き、何事か玉照彦に向つて顔の表情をもつて囁きつつ西王母の左側に座を占めた。も一人の女をよく見れば、お玉の方であつた。お玉の方は玉照姫を懐に抱き、同じく何事か表情をもつて玉照姫に囁きながら静々と西王母が右側に座をしめた。治国別、玉依別の両人はハツと驚き思はず知らずアヽと云つたが、その後の言葉は継げなかつた。西王母は紫姫、お玉の方に目配せし給うた。紫姫はスツと立つて治国別の前に座をしめ、得も云はれぬ笑顔を作りながら玉照彦を治国別の懐に抱かせた。またお玉の方はスツと立つて玉依別の前に進みより、嬉しげに笑顔を作り、玉照姫を玉依別に抱かしめ、二人は静々と西王母の左右にかへつた。しばらくすると天女二人、治国別、玉依別の前に現はれ、一人は玉照彦を、一人は玉照姫を大事さうに抱へ、奥殿の大神の御殿をさして足音を忍ばせながら静に進み入つた。言霊別命は西王母に目礼をなし、二人を手招きしながらこの御殿を出でて往く。二人は同じく西王母に目礼をなし、言霊別の後に従ひ前殿を出でて往く。それより中門を潜り表門に出た。
 因にこの前殿において、玉照彦、玉照姫を抱かせたまひたるは、深き意味のおはする事ならむも、二人はその何の意たるかを解し得なかつた。しかし何れはその意味の判然する時が来るであらう。読者は楽しんで発表の時機を待たれむ事を希望する次第である。
 三人は表門に出た。幾千人とも知れぬ麗しき天人は、各麗しき金色の旗を神風に翻へしながら、言霊別命他二人の前途を祝する如く見えた。二人は夢ではないかと思ひながら、麗しき樹木や花卉の道の両側に茂れる金砂の敷きつめたる如き坦々たる大道を、天津祝詞を奏上しながら、数多の天人が喜びの声に送られて、何処ともなく、言霊別命と共に進み往くのであつた。
 言霊別命は、とある麗しき山上に二人を伴ひ、四方の風景を眺めながら、此処に腰を下し休息をした。二人も同じく側に腰を下し、天国の荘厳に打たれて唖然たるばかりであつた。
言霊『治国別さま、玉依別さま、大変な貴方はお蔭を頂きましたなア、お祝ひ申します』
治国『何ともお礼の申しやうがございませぬ。大神様は貴方の御身を通し、吾々如きものにかかる尊き神庭に導きたまひ、結構な賜物まで頂きまして、何とも早や感謝の情に堪へませぬ』
玉依『私も色々と御神徳を頂いた上、神名まで賜はりまして、実に何と申してよろしいやら、吾任務の益々重大なるを悟りました。これと申すも全く大神様の御仁慈、貴神様の御取りなし、実に感謝に堪へませぬ』
『拙者は大神様の命によりてお取次を致したばかり、感謝を受けては困ります。総て天国のものは何事も皆神様の御所為と信じて居りますれば、感謝などせられては実に困ります。貴方等に感謝の言葉を受けるのは、要するに神様の御神徳を私する事になります。何卒この後は如何なる事ありとも、私に対して感謝の言葉を云つて下さるな。こればかりは固く願つて置きます。どうぞ神様に感謝して下さいませ』
治国『ハイ有難うございます、キツと今後は心得ませう』
と云ひながら両手を合せ、茲に両人は紫微宮の方に向つて感謝の祝詞を奏上した。
『此処は第一天国の楽園で、聖陽山と申します。皆さま、被面布をお除りなさいませ。最早此処まで参りました以上は、お除りになつてもよく分ります。貴方は前殿において生命の酒を与へられ、加ふるに結構な桃の実までも与へられ給うたのですから、もはや最高天国の諸団体を御巡覧になつても目の眩むやうな事もなく、また総ての天人の言語も明瞭に分ります。私はこれにて貴方等に対する今回の使命は終りました。どうぞ自由に天国団体をお廻り遊ばし、月の大神のまします霊国の月宮殿に御参拝の上、御帰顕あらむ事を望みます、さらば』
と云ひながら、またもや大光団と化して、天の一方にその英姿を隠させたまうた。二人はその後を眺め、しばらく伏し拝み居たりしが、治国別は玉依別に向ひ、
『ヤア玉依別殿、実に結構な事ではござらぬか。言霊別命様は昔の神様と承はつて居たが、現在吾前に現はれて、種々と結構な教訓を垂れたまひ、またもや五三公となつて身を下し、吾等を導きたまひしその尊さ、有難さ、治国別はもはや感謝の言葉さへ出なくなりましたよ』
『仰せの如く結構な御導きに預かり、こんな嬉しい事は復とございますまい。アヽ神様、この悦びと栄えをして永遠に吾等に臨ませたまへ、惟神霊幸倍坐世』
『惟神霊幸倍坐世』
と手を拍ち感謝の涙に袖を霑して居た。これより二人は天国の諸団体を一々訪問し、各団体の天人より意外の優遇を受け、感謝に満ちた境涯を送りながら、これより霊国の月宮殿に詣でむと聖陽山を乗り越え、霊国の中心を目当に道々祝詞を奏上しながら進み往く。
 局面忽ち一変して紫、赤、黄、白さまざまの花咲き匂ふ大野ケ原に二人は立つて居た。
『モシ治国別さま、見渡す限り際限なき百花爛漫たる大原野、これが所謂霊国でございませうかなア』
『サア、霊国らしうございますなア。誰人か天人に会つて尋ねたいものです』
と話す折しも、一人の宣伝使、霊光に四辺を輝かせながら後より足早に、オーイオーイと声かけ進み来る。二人は立ち止まり、宣伝使の吾側に近づくを待つて居た。
『私は大八洲彦命と申す霊国の宣伝使でございます。貴方は治国別、玉依別のお二方ではございませぬか』
 二人はハツと大地に踞み、
『ハイ、仰せの通り、治国別、玉依別の両人でございます。貴方は吾々が日頃慕ひまつる月照彦様の前身、大八洲彦命様でございましたか、存ぜぬ事とて甚い失礼を致しました。何卒不都合の段お赦しを願ひます』
と嬉し涙に暮れながら答へた。大八洲彦命は両人を従へ、スタスタと東を指して進み往くその足の早さ。二人は後れじと一生懸命にチヨコチヨコ走りになつて従いて行く。何時の間にやら小高き丘陵の上に着いて居た。大八洲彦命は二人に向ひ、
『此処は霊国一の名山、月照山と申します。この山は御存じの通り実に平坦な場所でございます。これより私と奥へお進みになれば、月の大神様の宮殿なる月宮殿と云ふ立派な御殿がございます。サア、も一足です、急ぎませう』
とまたもや急ぎ歩み出した。二人は漸くにして七宝をもつて飾られたる門の前に辿りついた。数多の麗しき天人は大八洲彦命の帰館を出で迎へ、音楽や歌をもつて歓迎の意を表するのであつた。大八洲彦命は諸天人に一々挨拶を返しながら、七つの門を潜つて邸内深く進み入る。二人は後に従ひ勢よく数多の天人に会釈しながら、月宮殿さして急ぎ往く。
 大八洲彦命は二人を導き、殿内深く進み、数多の天女に命じ、珍らしき果実や酒などを饗応し、歌舞音曲を諸天人に奏せしめ、その旅情を慰めた。二人は感謝の涙に咽びつつ、大八洲彦命の命のまにまに珍らしき飲食を喫しつつ、口中に天津祝詞の奏上を怠らなかつた。奥殿より金色燦爛たる御衣を着し、麗しき容貌に得も云はれぬ笑を湛へ、この場に現はれ給うた大神は、最前紫微宮において、桃園の案内をされた西王母であつた。西王母の後には巨大なる月光が影の如くつき従ひ輝いて居た。大八洲彦命は恭しく頭を下げ、王母に向ひ、
『お蔭によりまして、治国別、玉依別の両人は漸く天国の修業を果しました。これ全く大神様の御恵と、両人にかはり、厚く御礼申上げます』
と恭しく奏上した。二人はハツとばかり頭を下げ、畏まり居る。西王母は両人の側近く進み給ひ、左手に治国別、右手に玉依別の手を固く握り、涙を落させ給ひ、
『汝等両人、よくも神命を重んじ天国霊国の巡見を全うせしよ。その熱誠は感賞するに余りあり。汝等二人はこれより天の八衢に向つて帰り往け、汝が教へ子、アーク、タールの両人が、キツと迎へに来るであらう。さすれば汝等両人は元の肉体に帰り、素盞嗚尊の神業に参加し得るであらう。名残は尽きざれど、これにて訣別するであらう』
と御声までも打ち湿り、振返り振返り奥殿指して帰り給ふ。二人はハツと後姿を伏拝み、感慨無量の態であつた。大八洲彦命は両人に向ひ、
『サラバ、拙者はこれにてお別れ申さむ。神業のため随分御精励あれ』
と云ひ捨て、またもや鮮麗なる光となつて、その姿を東天に隠した。これより二人は祝詞を奏上しながら、中間天国を越え、下層天国をも乗り越え、神業に参加すべく天の八衢を指して帰り往く。

(大正一二・一・一三 旧一一・一一・二七 加藤明子録)



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