出口王仁三郎 文献検索

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物語48-3-111923/01舎身活躍亥 霊陽山王仁三郎参照文献検索
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第一一章 霊陽山〔一二六五〕

 高天原に発生せる樹木は、仏説にある如く金、銀、瑪瑙、硨磲、瑠璃、玻璃、水晶等の七宝を以て飾られたるが如くその幹、枝、葉、花、果実に至るまで、実に美はしきこと口舌のよく尽し得る所ではない。神社や殿堂やその他の住宅においても、内部に入つて見れば、愛善の徳と信真の光明に相応するによつて、これまた驚くばかりの壮観であり美麗である。大神のしろしめす天国団体を組織せる天人は大抵高い所に住居を占めてゐる。その場所は自然界の地上を抜く山岳の頂上に相似して居る。また大神の霊国団体を造れる天人は、少し低い所に住居を定めて居る。恰も丘陵のやうである。されど高天原の最も低き所に住居する天人は、岩石に似たる絶景の場所に住居を構へてゐる。しかして之等の事物は凡て愛と信との相応の理によつて存在するものである。
 大神の天国は、凡て想念の国土なるを以て、内辺の事は高き所に、外辺の事はすべて低い所に相応するものである。故に高い所を以て天国的の愛善を表明し、低い所を以て霊国的の愛善を現はし、岩石を以て信真を現はすのである。岩石なるものは万世不易の性質を有し、信真に相応するが故である。しかしながら霊国の団体は低き所に在りとはいへ、矢張地上を抜く丘陵の上に設けられてある。丁度綾の聖地における本宮山の如きはその好適例である。霊国は何故天国の団体よりも稍低き所に居住するかと云へば、凡て霊国の天人は信の徳を主とし、愛の徳を従として居る。所謂信主愛従の情態なるが故に、この国土の天人は智慧と証覚を研き、宇宙の真理を悟り、次で神の愛をよくその身に体し、天国の宣伝使として各団体に派遣さるるもの多きを以て、最高ならず最低ならず、殆ど中間の場所にその位置を占むる事になつてゐるのである。故に世界の大先祖たる大国常立尊は海抜二百フイート内外の綾の聖地に現はれ給ふにも拘はらず、木花咲耶姫命は海抜一万三千尺の天教山にその天国的中枢を定め給ふも、この理によるのである。しかしながら木花姫命は霊国の命を受け、天国は云ふに及ばず、中有界、現実界及び地獄界まで神の愛を均霑せしむべきその聖職につかはせ給ひ、且神人和合の御役目に当らせ給ふを以て、仮令天国の団体にましますと雖も時々化相を以て精霊を充たし、或は直接化相して万民を教へ導き給ふのである。
 また天人の中には団体的に生活を営まないのがある。即ち家々別々に住居を構へてゐるのは、丁度前に述べた珍彦館の如きはその例である。しかして此等の天人はその団体の中心地点及大なるものに至つては高天原の中央を卜して住居を構へてゐる。何故なれば彼等は天人中においても、最も愛と信とによる智慧証覚の他に優れて、光明赫灼として輝き渡り、惟神的に中心人物たるが故に、大神の摂理によりて、その徳の厚きと相応の度の高きによるが故である。しかして高天原は想念の世界なるが故に、その延長は善の情態を表はし、その広さは真の情態を表はし、その高さは善と真との両方面を度合の上より見て区別することを表はすものである。また霊界においては先に述べた通り、時間空間などの観念は少しもない、ただ情動の変化あるのみである。しかしてその想念は、時間空間を超越し、無限にその相応の度によつて延長し拡大し且高まるものである。
 治国別、竜公二人が浮木の陣営において片彦将軍等の奸計に陥り、暗黒なる深き陥穽に墜落し、茲に人事不省となり、その間中有界及最下層の天国より最高の天国、霊国を巡覧したる期間は余程長い旅行のやうであるが、現界の時間にすれば、殆ど二時間以内の間失神状態に居つたのである。されど想念の延長によりて、現界人の一ケ月以上もかかつて巡歴したやうな長時間の巡覧をなしたのである。しかして情動の変化が多ければ多いほど、天国においては延長さるるものである。
 治国別、竜公は言霊別命の化相神なる五三公に導かれ、天国の消息を詳細に教へられながら、霊陽山の殆ど中央まで登りつめた。この時五三公は目も呟きばかりの小さき光団となつて、驀地に東を指して、空中に線光を描きながら、何処ともなく姿を隠してしまつた。二人は霊陽山の頂上に立つて、四方の景色を瞰下しながら、天国の荘厳をうつつになつて褒め称へてゐた。さうして五三公のこの場に姿を隠したことは少しも気がつかず、
『モシ先生、此処は霊陽山とか聞きましたが、実にいい所ですなア、最早此処は最高天国ではありますまいか。四辺の樹木と云ひ、山容と云ひ、如何なる画伯の手にも到底描くことは出来ますまい。どうかして早く現界の御用を了へ、斯様な所に楽しき生涯を送りたいものですなア』
『いかにも結構な所だ。現界人が美術だとか、耽美生活だとか、文化生活だとか、いろいろと騒いでゐるが、この光景に比ぶれば、その質において、その量において、その美において、到底比較にならないやうだ。そして何とも言へぬ吾心霊の爽快さ、ホンに斯様な結構な所があるとは、夢想だにもしえなかつた所だ。この治国別は第一天国ともいふべき斎苑の館に永らく仕へながら、未だ愛信の全からざりしため、瑞の御霊の大神のまします地上の天国が、さまで立派だとは思はなかつた。矢張如何なる荘厳麗美と雖も、心の眼開けざる時は到底駄目だ。恰も豚に真珠を与へられたやうなものだ。これを思へば吾々はあくまでも神に賦与されたる吾精霊を研き浄め、大神の神格に和合帰一せなくてはならない。アヽ実に五三公様の口を通して、かやうな至喜と至楽の境遇に吾々を導き、無限の歓喜に浴せしめ給ひしことを、有難く大神様の御前に感謝致します。アヽ惟神霊幸倍坐世』
と云ひながら拍手をうち、天津祝詞を奏上し了つて、天の数歌を歌ひ、あたりを見れば、豈計らむや、五三公の姿は眼界の届く所にはその片影だにも認め得なかつた。治国別は驚いて、
『ヤア竜公さま、五三公さまは何処へ行かれたのだらう、今迄月の如く輝いてゐられたあの霊姿を拝めなくなつたぢやないか』
『成程、コリヤ大変だ、どう致しませう』
『どうしようと云つても、仕方がない、これも神様の御試しだらうよ。四辺の光景に憧憬の余り、五三公様の御親切な案内振を念頭より取除いてゐた。凡て天国は相応と和合の国土だ。愛と信とによつて和合し、結合するものである。即ち想念によつて尊き神人と共にゐることを得たのだ。吾々が情動の変転によつて、吾心の中より五三公様を逃がしてしまつたのだ。アヽ惟神霊幸倍坐世』
とまたもや合掌する。
『成程、さうでございましたなア、私も余り嬉しいので、五三公様の御導きによつて未だ中有界に彷徨ふべき身が、かかる尊き天国まで導かれながら、うつかりと自分が勝手に上つて来たやうな気分になつて、無性矢鱈に天国を吾物のやうに思ひましたのが誤りでございます。先生、何と厳の御霊の神諭にあります通り、高天原は結構な所の恐ろしい所でございますな。油断をすれば忽ち天国が変じて地獄となり、明は変じて暗となり、神は化して鬼となるとお示しの通り、実に戒慎すべきは心の持方でございますなア』
『ハイ左様、吾々は最早かうなる以上は、再び中有界へ帰り、現界へ復帰すべき道も分らない、またどこをどう歩いたらいいか、方角さへも判然せない、天国の迷児になつたやうなものだ。アヽ心の油断ほど恐ろしいものはない。ただ大神様にお詫をなし、救ひをお願ひするより道はなからう』
と話す折しも、足下の土をムクムクムクと土鼠のやうに膨らせながら、ポカンと頭をつき出したのは、片彦将軍であつた。二人は驚いて、無言のままよくよく見れば、擬ふ方なき将軍は泥酔になつて、全身を山上に現はし、
『ワハツハヽヽ』
と山も崩るるばかり高笑ひした。
治国『ヤア其方は河鹿峠にてお目にかかつた片彦将軍ではござらぬか』
『ワハツハヽヽヽ、その方は盲宣伝使の治国別であらう。そしてマ一匹の小童武者は某が奴、しばらく秘書を命じておいた竜公であらう。悪虐無道の素盞嗚尊に諛びへつらひ、大自在天大国彦命の宣伝使兼征討将軍の片彦に向つて刃向ひを致した極重悪人奴、よくもマア悪魔にたばかられ、斯様な処へ彷徨つて来よつたなア。天下一品の大馬鹿者奴、某が計略によつて、八岐大蛇や金毛九尾の悪狐を使ひ、汝を、天国とみせかけ、此処まで連れて来たのはこの方の計略だ、どうだ、大自在天の神力には恐れ入つたか、アハツハヽヽヽハア、何とマア不思議さうな顔を致してをるワイ、イヒヽヽヽ、オイ竜公、その方もその方だ。主人に反いた大逆無道の痴者、どうだ、この霊陽山と見せかけたのはバラモン教の霊場、大雲山の頂辺でござるぞ。あれ、あの声を聞け、雲霞の如き大軍を以て、当山を十重二十重に取巻きあれば、いかに抜山蓋世の智勇あるとも、到底逃るることは出来まい、治国別、返答はどうだ』
 治国別は、
『ハテ心得ぬ』
と云つたきり、双手を組んでしばし想念をたぐつてゐる。竜公もまた無言のまま、俯いてゐる。
『アツハヽヽヽ、エツヘヽヽヽ、如何に治国別、モウかうなる以上は何程考へても後へは引かぬ。サアどうだ。キツパリと素盞嗚尊の悪神を棄てて、大自在天様に帰順致すか』
『サアそれは……』
『早く返答致せ。返答なきは不承知と申すのか。アイヤ家来の者共、治国別、竜公の両人をふん縛り、嬲り殺しに致せ』
竜公『将軍様、しばらくお待ち下さいませ』
『アハヽヽヽ、往生致したか。ヨシ、しからば此処にこの通り黄金を以て作りたる素盞嗚尊の像がある。治国別、竜公共に命が助かりたくば、この像に向つて小便をひつかけ、その上この岩石を以て木端御塵に打砕き、大自在天様に帰順の誠を表はせ。否むにおいては、その方が身体は木端微塵、地獄に突き墜し、無限の責苦を加へるが、どうだ』
 治国別は初めて顔をあげ、大口あけて高笑ひ、
『アハヽヽヽ、拙者は厳の御霊、瑞の御霊の大神を信仰致す誠の宣伝使だ、仮令汝如き悪神に脅迫され、或は責め殺さるることありとも、吾心霊は万劫末代、大神に信従するのみだ。治国別はこれ以外に汝に答ふることはない、どうなりと勝手に致したがよからう』
『勝手に致せと申さいでも、この方が制敗を致してくれる。しかしながら竜公、その方は憎くき奴なれど、一旦某が部下となつたよしみによつて制敗は許して遣はす。その代りに治国別をこの金剛杖を以て打ちのめせ、さうすれば汝の誠が分るであらう。どうぢや、治国別を打ちのめす勇気はないか。矢張その方は二心を持つてゐるのか。返答致せツ』
と呶鳴りつけた。その声に不思議にも、あたりの山岳はガタガタガタと震動し始めた。竜公は少時双手を組み思案にくれてゐたが、忽ち威丈高になり、
『コリヤ、悪神の張本片彦奴、汝は拙者の一時主人に間違ひはない。その主人に離れたるのは汝が行動天に背き、善に離れたるが故だ。仮令拙者が汝のために一寸刻みか五分だめしに遇はされようとも、恩情深き治国別様の御身に、どうして一指をそむることが出来ようか。ここを何と心得て居る、第二天国の神聖な場所だ、大雲山などとは思ひもよらぬ、詐りを申すな。天国には虚偽と迫害と悪はない筈、その方は要するに天国の魔であらう』
と云ひながら………「厳の御霊、瑞の御霊、守り給へ幸はへ給へ」と拍手し、音吐朗々と怖めず臆せず神言を奏上し始めた。治国別も竜公と共に神言をいと落着いた調子で奏上し始めた。片彦は何時の間にやら数多の部下を集め、金棒をふり上げ、ただ一打に両人を粉砕せんず勢を示してゐる。治国別、竜公両人は胆力を据ゑ、声調ゆるやかに騒がず焦らず、神言を奏上し終り、「惟神霊幸倍坐世」と唱ふるや否や、今迄ここに立つてゐた片彦他一同の姿は煙の如く消え失せ、四辺に芳香薫じ、嚠喨たる音楽さへ頻りに聞え来るのであつた。
『アハヽヽヽ、猪口才千万な、バラモン教を守護致す八岐大蛇奴、畏くもかかる天国まで化けて来やがつて、尊き神言に面喰ひ、屁のやうに消え散るとは、さてもさても神様の御神力は尊いものだ。アヽ有難うございます。惟神霊幸倍坐世』
『竜公さま、ここは第二天国、しかも霊陽山の頂だ。八岐大蛇の来るべき道理がない、大方これは神様の御試しだつたらう。私も一度は悪魔の襲来かと考へてみたが、よくよく思ひ直せば、かかる天国に悪魔の来るべき理由がない。もしも彼果して悪魔なりとせば、吾等は天国と思ひ、慢心して地獄に墜ちてゐたのであらう……と考へてみたが、忽ち心中の天海開けて神様の御神格の内流に浴し、矢張第二天国なることを悟り、且片彦と見えしは尊きエンゼルの、吾等が心を試させ給ふ御所為と信ずるより外に途はない、必ず必ず悪魔などと、夢にも思つてはなりませぬぞや』
『仰せ御尤もでございます。サア先生、どうでせう、これから霊陽山を下つて、また天国の団体を修業さして頂きませうか』
 かくいふ所へ、忽然として現はれ給うたのは、三十恰好の美はしき容貌をもてる一柱の神人であつた。神人は治国別の側近く寄り、その手を固く握り、
『治国別さま、第二天国の団体は無数無辺にありますが、貴方は第二天国の試験に合格致しました。また竜公さまもその通り、余程証覚を得られたやうです。これから拙者が最奥第一の天国及び霊国を御案内致しませう。しかしながらこの第二天国に比ぶれば、最高天国の光明は殆ど万倍に匹敵するものです。しかしてその天国に住む諸天人は、善と真とより来る智慧証覚に充ち、容易に面を向くることが出来ませぬ。その団体の天人に会ふ時は忽ち眼くらみ、言句渋り、頭は痛み、胸は塞がり、四肢五体萎縮して非常な苦痛でございますが、貴方等両人は天国の試験に合格されましたから、その被面布を以て最奥天国の巡覧的修業をなさいませ。拙者が案内を致しませう』
と先に立ち、雲を踏み分けてのぼり行く。二人は一生懸命に神言や天津祝詞を交る交る奏上しながら、フワリフワリと雲の橋を渡つてのぼり行く。この神人は言霊別命であつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。

(大正一二・一・一三 旧一一・一一・二七 松村真澄録)



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