出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語48-2-91923/01舎身活躍亥 罪人橋王仁三郎参照文献検索
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第九章 罪人橋〔一二六三〕

 高天原の霊国及び天国は光明の世界である。その光明は実性において神真である、即ち霊的神的証覚である。この神真なる光明は諸天人の内視と外視とを同時に照破するものである。さうして内視とは天人自身の心の内にあり、外視とはその目にあるを云ふ。また諸天人は高天原の愛の熱に包まれてゐる。即ちこの熱は実性において神善即ち神愛にして、吾々が益々証覚に入らむとする情動及び願望を有するものはこの熱より来るものである。要するに高天原の霊国、天国は万善の集合所である。天人の証覚の程度は現界人の口舌のよく尽し得る所でない。人間が一千言を費しても尚尽す能はざる所をも、天人は数言にてこれを弁ずる事をよくするのである。その他天人の一言一句の中にも無辺無量の密意の含まれてある事は、到底人間の言語に属する文字にて表はす事は出来ない。天人はその言語に用ふる所謂語字を以て十分に表はし得ざる所は、幽玄微妙なる音調を以てこれを補ふ。そしてその音調によつて情動を表はし、情動よりする想念中の諸概念は語字によつてこれを表はすのである。大本開祖の神諭もまたその密意の存する所は到底現代人の智慧証覚にては容易に解し難きものである。されども智慧証覚ある天人がこれを読む時は、直に無辺無量の密意の含まれてある事を諒得し得るものである。そしてこの語字については霊界物語第二輯第三巻(第十五巻)第一天国と云ふ所にその状況を示しあれば参照されたい。故に人間はその精霊を善と真とに鍛へ上げ、生きながら高天原の団体に籍を有するに非ざれば、大本の神諭は容易に解釈し得るものでない事を悟らねばならぬ。大本の神諭は、国祖大国常立尊、厳霊と顕現し、稚姫君命、国武彦命等の精霊にその神格を充し、さうして天人の団体に籍を有する予言者なる出口開祖の肉体に来し、大神の直々の御教を伝達されたものである以上は、余程善徳と智慧証覚の全きものでなければこれを悟る事は出来ない。しかしながら神は至仁至愛にましますが故に、この神諭の密意を自然界の外分的人間に容易く悟らしめむがために瑞霊の神格を精霊に充し、変性女子の肉体に来らしめ、その手を通し口を通して霊界の真相を悟らしめ給はむとの御経綸を遊ばしたのである。
 大本神諭の各言句の中に、人をして内的証覚に進むべき事項を含蓄せしめある所以は、神格に充されたる天人即ち本守護神の言語は情動と相一致し、一々その言語は概念と一致するものである。また天人の語字はその想念中に包含する事物の直接如何によつて無窮に転変するものである。尚また内辺の天人は言者の音声及び云ふ所の僅少なる語字によつてその人の一生を洞察し知悉し得るのである。何となれば、天人はその語字の中に含蓄する諸概念によつて、音声の各種各様に変化する状態を察し、これによつて、その人の主とする所の愛と信及び智慧証覚の如何なるものなるかを知るものである。現界の人間でも少しく智慧あり証覚あり公平無私なる者に至つては、その籍を生きながら天人の団体においてゐるものであるから、対者の一言一句の中に包める意義によつてその人の一生の運命を識別し得るものである。人間の想念及び情動はその声音に現はれ、皮膚に現はれ、如何にしても霊的智者賢者の前にはこれを秘する事が出来ないものである。この一言は愛を含むとか、この一句は親なりとか、彼の一句は勇とか、この一句は智とか、凡て一言一句の際にも顕現出没して、如何なる聖者といへども賢人といへども、心中の思ひを智慧証覚者の前には隠す事は出来ない、これ即ち神権の如何にしても掩ふべからざる所以である。心に悪なく欲なく、善の徳に充されたものは従つて智性も発達し情動の変化も非常に活溌なるが故に、対者の腹のドン底まで透見し知悉し得るは容易なれども、もし心に欲あり、悪を包み利己心ある時はその情動は鈍り智性は衰へ、意思は狂ひ、容易に対者の心中を透見する事は出来ない。故に人に欺かるるものは皆その心に悪と欲と自利心が充満してゐる故である。決して愛善の徳に充され信真の光に充ちた聖人君子は、自然界の体欲に迷ひ悪人に欺かるるものでない。要するに欲深き吾よしの人間が相応の理によつて貪欲な悪人に欺瞞され、取返しのならぬ失敗を招くものである。
 さうして自分の迂愚不明から悪人に欺かれ自ら窮地に陥り、遂にはその人間を仇敵の如く怨み且罵り、遂には自分の悪欲心より出でたる事を平然として口角に束ねながら、その竹篦は遂に神の御上にまで及ぼすものである。彼等は茲に至つて天道は是か非か、神は果してこの世にあるものか、果して神がこの世に儼存するものならば、何故かくの如き悪人に苦しめられ居るのも憐れみ給はず傍観的態度を執らるるや、吾々はかくの如き悪事災難を免れ家運長久を朝夕祈り立派にお給仕をして信仰を励んで居つたのに何の事だ。神には目がないのか、耳がないのか等と云つて、恨言を百万陀羅並べ立て、遂には信仰より離れ自暴自棄に陥り、益々深く地獄の底に陥落するものである。凡てこの宇宙は至善至真至愛の神が目的のために万物を造り、相応の順序によつて人間を神の形体に作り、神業を完全に遂行せしめ給はむとして、万物の霊長として人間を世に下し給うたものなる以上は、人間は神界の秩序整然たる順序を守り、善のために善をなし真のために真を尽さねばならぬのである。しかるに現代は遠き神代の黄金時代は何時しか去り、白銀時代、赤銅時代、黒鉄時代と漸次堕落して、今や混沌たる泥海世界となつてしまつたのである。これも人間に神より自由を与へて、十二分の神的活動を来さしめ給はむとし給うたのを、人間が次第々々に神に背き八岐大蛇や曲神等の捕虜となり、遂に自ら神に反き神の存在をも無視するに至つたために、かかる暗黒無明の世界が現出したのである。しかしながら物窮すれば達すると云つて至仁至愛にして無限絶対の権力を具備し給ふ大神は何時までもこれを看過し給ふべき。ここに大神は現幽神三界の大革正を遂行せむがために予言者を地上に降し、ある一定の猶予期間を与へて愚昧兇悪なる人間に対し神の愛を悟らしめ、勝手気儘の行動を改めしめむと劃策し給うたのである。これを思へば吾々人間は大慈大悲の大神の神慮を奉戴し、造次にも顛沛にも精霊を磨き改過遷善の道を挙ぐるに力めねばならぬのである。
 さて偽善者たるランチ、片彦両人の宣伝将軍は伊吹戸主の神の計らひによつて地獄へ追ひ込めらるる事となつた。ガリヤ、ケースもまたその後につき従ふ。大きな岩の虚隙から無理に番卒に押込まれ真暗の穴へ落ち込んだ。斜に下方に向つた隧道が屈曲甚しく通つてゐる。両手で探らなければ何時岩壁に頭を打ちつけ、また足許に注意せなくては何時躓くか分らない暗黒道を、四人は腰を屈めながら後から何物にか押さるるやうな心地して次第々々に下つて行く。少し腰を伸ばさうとすれば頭の上の岩壁に遮られる。丁度海老腰のやうになつて、何とも云はれぬ臭い香のする道を際限もなく探り探り深く深く落ち込んで行つた。少しく薄明い処へ四人は漸く着いた。そこには円い人間の潜るだけの穴が六つばかり覗き眼鏡のやうに並んでゐる。さうして青、赤の顔面をさらした守衛が一々立つて居て、ものをも云はず四人を同じ穴へ無理やりに突込んでしまつた。臭気紛々として嘔吐を催すが如き其辺一面の不愉快さ、彼等四人は却て愉快になり腐肉の臭気や堆糞の香を鼻蠢かし、嬉しさうに嗅ぎながらヤツと安心したものの如く息をつきまたもやドンドンと以前より稍薄明き隧道を右や左に折れながら下りゆくのであつた。四人は漸くにして少しく広い所に着いた。見れば其処に大きな川が横たはつてゐる。さうして細い長い橋が架けられてある。ここには厳しい顔をした冥官が武装をして二十人ばかり控へて居た。冥官の一人はツと前に進み寄り、
『その方はランチ将軍、片彦将軍と申して、現界において非常に体主霊従の行ひを致し、人獣合一の悪業を盛んにやつた人足だから、この橋を渡つて向ふへ行け。この橋が無事に渡られたならば再び娑婆に帰してやらう。しかしこれが渡られぬ時は、この橋下に住んでゐる数多の怪物のためにその方は苛まれ、最も苦しき地獄に落ちるのだ。さあ早く行け』
とせき立て睨みつける。四人は四肢五体の力何時しかスツカリ抜けてしまひ、手足がブルブルと震ひ戦き、満足に歩く事も出来なくなつてゐた。さうしてこの橋には罪人橋と橋詰に立札が立つてゐる。その長さは目の届かぬばかり殆ど数百町に及んでゐる。さうして橋の幅が僅かに一尺ばかり、一寸体の平均を失つたが最後、真逆様に百尺以上の川に落ち込まねばならぬ。さうしてその水の深さは地球の中心に達して居ると伝へられ、幾千万丈の深さとも分らない。この橋には欄もなく、加ふるにヒヨヒヨとして上下左右に揺り動く、実に危険な橋である。さうして橋の下には激流が飛沫をとばし赤黒い汚穢の水が流れてゐる。さうして何とも形容の出来ぬ怪物が沢山に棲み、橋の上を通行するものが過つて落ちて来るのを、大口を開けて待つて居るその恐ろしさ。一目見ても身慄ひするやうである。さうして橋の上には膚を劈く如き寒風吹き、何とも云へぬ厭らしき声、八方より聞えて来るのであつた。
 ランチは余りの恐ろしさに身体すくみ、ビリビリ慄うて居ると冥官の一人は、
『サア、ランチ将軍、その方は現界においては立派なるバラモンの宣伝将軍ではなかつたか。沢山の敵味方の命をとつたる英雄豪傑でありながら、何故これしきの橋が恐ろしいのか。サア早く向ふへ渡れ』
と厳命した。ランチは震ひ声を出して、
『イヤ、モシ冥官様、斯様な恐ろしい処は到底渡る事は出来ませぬ。どうぞ改心しますから、元の処へお帰し下さい。お願でございます』
『ならぬならぬ、決して霊界においては汝等にかかる責苦を与へ、これを以て快楽としてゐるのではない。大神様を初め、すべてのエンゼルも冥官も、一人なりとも天国へ上り得る身魂の来り得る事を待つてゐるのだ。否唯一の歓喜としてゐるのだ。汝自らの罪業によつて汝自らこの罪人橋を渡るべく準備致し、また汝永久の住家を向ふの地獄に作りおいた以上は、汝の身魂は、其処まで行かねばならぬ。可愛さうなれど吾々は救ふ事が出来ぬ。汝は神の愛を信じて自ら天国を開くべき処を、自然界の欲に精霊を汚し、かくも浅猿しき身の上となつたのだから、自縄自縛と諦めて行つてくれ』
と流石の冥官も憐愍の情に堪へかねてか、両眼より涙をポロポロと流してゐる。
片彦『モシ冥官様、もはやかうなる上は自ら生んだ鬼が自らを責めるのですから、どうとも致し方がございませぬ。しかしながらその地獄は随分辛い処でございませうな』
『地獄にも色々あるが先づ大別して十八地獄と分つてゐる。さうしてその地獄にもその罪業によつて大小軽重の区別がある。地獄の団体も今日の処にては幾万を以て数へられるであらう。その中重なる地獄は、吊釣地獄、幽枉地獄、火孔地獄、郭都地獄、抜舌地獄、剥皮地獄、磨摧地獄、碓搗地獄、車崩地獄、寒氷地獄、脱壳地獄、抽腸地獄、油鍋地獄、暗黒地獄、刀山地獄、血池地獄、阿鼻地獄、秤杆地獄と云つて、これが大体の地獄であり、その中で罪業の大小軽重によつてそれぞれの階段が出来てゐる。お前達も確りして、地獄に行つたら随分悪の強い奴だから地獄の統治者となるかも知れない。それを楽みに行つたがよからう』
『どうしても吾々は地獄へ参らねばなりませぬか』
『お前達四人の霊衣を見れば尚多少朧気に円相が残つてゐる。未だ冥土へ来るべき命数でないが、しかしながら伊吹戸主の神様より御命令があつたによつて、どうしても此処を通さにやならぬ。四人が四人ながら、まだ娑婆臭い亡者が来るとは不思議千万だ』
と首を傾け思案顔をしてゐる。
 かかる所へ骨と皮とになつた我利々々亡者の一隊、雑魚の骨を打ち開けたやうにウヨウヨウヨと幾百千とも数知れず現はれ来り、ランチ、片彦両将軍に向ひ、得も云はれぬ厭らしき声を振り搾り、前後左右より武者振りつくその厭らしさ。ガリヤ、ケースもまた相当に厭らしき怪物にとりまかれ、悲鳴をあげて泣き叫んでゐる。
 この時何処ともなく天の数歌が幽かに聞えて来た。見る見るうちに我利々々亡者は煙の如く消えてしまつた。さうして数多の厳しき冥官の姿は一人減り二人減り、おひおひとその数を減ずるのであつた。宣伝歌の声おひおひ近づいたと見えて、だんだん高く聞えて来た。非常に薄暗かつた四辺は、薄紙を剥いだやうに次第々々と明るくなつて来た。

(大正一二・一・一三 旧一一・一一・二七 北村隆光録)



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