出口王仁三郎 文献検索

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物語48-2-71923/01舎身活躍亥 六道の辻王仁三郎参照文献検索
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第七章 六道の辻〔一二六一〕

 精霊界は善霊悪霊の集合する天界地獄の中間的境域にして、これを天の八衢といふ事は既に述べた所である。さて八衢は仏教者の云ふ六道の辻のやうなものである。また人の死後この八衢の中心なる関所に来るには、いろいろの道を辿るものである。東西南北乾坤巽艮と、各精霊は八方よりこの関所を中間として集まり来るものである。東から来る者は大抵は精霊の中でも良い方の部分であり、さうして三途の川が流れてゐる。どうしてもこの関所を通らなければならないのである。また西から来る者は稍魂の曇つたものが出て来る所であつて、針を立てたやうな、所謂剣の山を渉つて来る者である。ここを渉るのは僅に足を容るるだけの細い道がまばらに足型だけ残つて居つて、一寸油断をすればすぐに足を破り、躓いてこけでもしようものなら、体一面に、針に刺されて苦しむのである。また北から来る者は冷たい氷の橋を渡つて来る。少しく油断をすれば幾千丈とも知れぬ深い泥水の流れへ落ち込み、そしてその橋の下には何とも云へぬ厭らしい怪物が、鰐のやうな口をあけて、落ちくる人を呑まむと待つてゐる。そしてその上骨を刻む如き寒い風が吹きまくり、手足が凍えて、殆ど生死のほども分らぬやうな苦しい思ひに充されるのである。また南の方から来る精霊は、山一面に火の燃えてゐる中を、焔と煙をくぐつて来なくてはならない。これも少しく油断をすれば煙にまかれ、衣類を焼かれ、大火傷をなして苦しまなくてはならぬ。しかしながら十分に注意をすれば、火傷の難を免れて八衢の中心地へ来る事を得るのである。また東北方より来る者は寒氷道と云つて、雪は身を没するばかり寒い冷たい所を、野分に吹かれながら、こけつまろびつ、死物狂ひになつて数十里の長い道を渉り、漸くにして八衢の中心地へつくのである。また東南より来る精霊は、満目蕭然たる枯野ケ原をただ一人トボトボとやつて来る。そして泥田やシクシク原や怪しき虫の居る中を、辛うじて中心地へ向ふのである。また西南より来る精霊は、崎嶇たる山坂や岩の上をあちらへ飛び此方へ飛び、種々の怪物に時々襲はれながら、手足を傷つけ、飛んだり転げたりしながらに、漸く八衢の中心地に出て来るものである。また西北より来る精霊は、赤跣足になり、尖つた小石の路を足を痛めながら、漸くにして命カラガラ八衢へ来るものである。しかしながらかくの如き苦しみを経て各方面よりこれに集まり来る精霊は、何れも地獄へ行くべき暗黒なる副守護神の精霊ばかりである。しかして各方面が違ひ苦痛の度が違ふのは、その精霊の悪と虚偽との度合の如何によるものである。また善霊即ち正守護神の精霊は、何れの方面より来るも、余り苦しからず、恰も春秋の野を心地よげに旅行するやうなものである。これは生前に尽した愛善の徳と信真の徳によつて、精霊界を易々と跋渉する事を得るのである。善の精霊が八衢へ指して行く時は、殆ど風景よき現世界の原野を行く如く、或は美はしき川を渡り、海辺を伝ひ、若くは美はしき花咲く山を越え、或は大河を舟にて易々と渡り、または風景よき谷道を登りなどして漸く八衢に着くものである。正守護神の通過するこの八衢街道は、殆ど最下層天国の状態に相似してゐるのである。しかして八衢の関所は正守護神も副守護神も、凡てのものの会合する所であつて、此処にて善悪真偽を査べられ、且修練をさせられ、いよいよ悪の改善をする見込のなきものは、ある一定の期間を経て地獄界に落ち、善霊はその徳の度に応じて、各段の天国へそれぞれ昇り得るものである。
 針の山を越えて漸く此処に息も絶え絶えにやつて来たのは、バラモン教の先鋒隊片彦将軍であつた。片彦は赤門の前に意気揚々と、ヤレ楽だといふやうな気になつてやつて来ると、赤白の守衛は、
『しばらく待てツ』
と呼びとめた。片彦は物見櫓の上から谷底へ真逆様に投げ込まれ、肉体の死んだことは少しも気がつかず、依然として現界に居るものの如く信じてゐた。それ故守衛の一喝に会ひ、少しも騒がず、
『拙者は大自在天大国彦神の教を奉じ、かつ数多の軍勢を率ゐて斎苑の館へ進軍の途中、浮木ケ原へ陣営をかまへて、戦備をととのへゐる、宣伝使兼征討将軍片彦でござる。某は酩酊の余り、道にふみ迷ひ、実に烈しき針の如き草木の茂れる霜の山を通り、漸く此処までやつて来たものでござる。此処は何といふ所でござるか、少時休息を致すによつて、腹も余程減つたなり、体も疲れたから、酒でもふれまつてくれまいか、あつい茶があれば、一杯戴きたいものだ』
 赤の守衛は目をギロリと剥き、
『当関所は霊界の八衢にて、伊吹戸主神の御関所だ。その方は浮木の森の陣営において、ランチ将軍の副官に後手に縛られ、谷川へほり込まれ、絶命致して此処へ迷うて来た精霊だ。精霊の中でも最も憎むべき、汝は悪霊だ。サア此処において、その方の罪の軽重を査べてやらう』
『ヘヽー、何を吐しよるのだ。馬鹿にするな。俺は酒にこそチツとばかり酔うたが、死んだ覚はない。一体ここは何処だ。本当の事を申さぬと、このままにはすまさないぞ。大方その方は往来の路人をかすめる泥棒だらう』
『馬鹿だなア、確り致さぬか、そこらの光景を見よ。これでも気がつかないか』
『別にどこも変つた所がないぢやないか、世間並に樹木もあれば、道路もある。小さい池もあれば川も流れてゐる。人間も道々沢山に出会つて来た。左様な事を申して、吾々を脅迫しようと致しても、いつかな いつかな誑されるやうな片彦将軍ではないぞ。左様な不都合な事を申すと、ふん縛つて陣営につれ帰り、火炙りの刑に処してやらうか、エエーン』
 赤は片彦の手をグツと後へ廻し、鉄の紐にてクルクルとまきつけ、伊吹戸主の審判廷へ引き立てた。
『ヤア此処は何だか妙な処だ。俺をかやうな所へ、縛つてつれて来るとは何事だ』
『先づ待つてゐろ、これから地獄行の言渡しがあるから……』
と云ひすて、青色の守衛に片彦を任せおき、慌しく表へ駆け出した。少時あつて、青赤の衣類をつけたる、いかめしき守衛や獄卒の如き者ドカドカと入り来り、片彦の身辺を取巻き、どこへもやらじと厳重に警戒してゐる。片彦は金剛力を出して、鉄の綱を引きちぎり、片方の腰掛をグツと手に取るより早く、前後左右にふりまはし、館の戸を無理に押開け、八衢の赤門前へ驀地に走り来り、門の敷居に躓きパタリと倒れ、しばしは人事不省に陥つてしまつた。
 しばらくするとランチ将軍及びガリヤ、ケースの三人は、東の方からスタスタと足早に走り来り、
ランチ『オイ両人、此処はどこだ、そこに門番が居る。一寸尋ねて来い』
ガリヤ『ハイ、承知しました。何だか、四辺の情況が怪しうございます。どうぞ、貴方はケースと共に少時ここにお待ちを願ひます』
と云ひ棄て、門口近く進み寄つた。見れば一人の男が倒れてゐる。何人ならむと近寄つて顔をのぞき見れば、豈計らむや片彦将軍であつた。ガリヤは驚いて、ツカツカと元来し道へ引返し、
『モシ、将軍様、不思議な事があるものです。物見台から谷底へ投込んで殺してやつた片彦将軍が、あの門の中べらに倒れて居ります。片彦将軍はいつの間にこんな所へ逃げて来たのでせうか』
『成程、ここから見ても、よく似てゐるやうだ。ハヽー、誰かに助けられ、此処まで逃げて来よつたのだなア。大方酒にでも酔うてゐるのだらう。何はともあれ、近づいて査べてみよう』
といひながらランチは進みよつた。そしてよくよく見れば、疑もなき片彦将軍である。ランチは肩を切りにゆすり、
『オイオイ片彦、貴様は命冥加のある奴だ。早く起きぬかい、かやうな所でイビキをかいて寝て居るといふ事があるか』
 片彦はこの声にハツと気がつき、ムクムクと起き上り、
『ヤア、その方はランチ将軍、ガリヤ、ケースの三人だなア。ヤア良い所で会うた。この方を高殿から突落しよつたのを覚えて居るか。かくなる上は最早了簡相成らぬ。サア尋常に勝負致せ』
『アハヽヽヽヽ、蟷螂の斧をふるつて竜車に向ふとはその方の事だ。こちらは武勇絶倫の勇士三人、如何に汝鬼神をひしぐ勇ありとも、到底汝一人の力に及ばむや、左様な無謀な戦ひを挑むよりも、体よく吾軍門に降つたらどうだ』
『馬鹿を申せ、この方を谷底へ投込んだのみならず、最愛の清照姫、初稚姫まで横奪した恋の仇、モウかうなる上は片彦が死物狂、命をすてたこの方、サア、かかるならかかつてみよ』
『ヤ、片彦、あの美人は妖怪でござつたぞや。拙者もあの美人が虎とも狐とも狼とも譬方ない形相をして、拙者を睨みつけた時は、本当に肝をつぶし、ヨロヨロとヨロめいた途端に、高殿の欄干に三人一時にぶつ倒れ、そのはづみに高欄はメキメキとこはれ、泡立つ淵に向つて三人は急転落下の厄に遇ひ、已に溺死せんとする所、命冥加があつたと見え、吾々三人は岸に泳ぎつき、無我無夢になつて此処まで走り来て見れば、門の傍に一人の行倒れ、救ひやらむと、ガリヤを遣はし調べて見れば片彦将軍と聞き、取るものも取敢ず救助に向つたのだ。最早彼の女が妖怪であり、また拙者が貴殿と同様、高殿より水中におち、双方無事に命を保ち得たのは、全く大自在天様の御守護の致す所だ。モウかうなる上は、今迄の恨をスツパリと水に流し、旧交を温めようぢやないか』
『さうだ、拙者もかうして命の繋げた限りは、貴殿と別に赤目つり合うて争ふにも及ぶまい。何分よろしく御頼み申す。しかしランチ殿、此処は不思議な所でござる。この門内に高大なる館があり、数多の番卒共が立籠り、拙者を軍法会議に附せむと致しよつた。そこで拙者は後手に縛られた鉄の綱を剛力に任せて切断し、門の戸を押破り逃来る途中、門の閾に躓き顛倒して、しばらく目をまはしてゐたのでござる。そこを貴殿がお助け下さつたのだから、命の御恩人、最早怨みは少しもござらぬ、サこれより浮木の森の方角を尋ね、一時も早く陣営へ帰らうではござらぬか、さぞ軍卒共が心配を致して居りませう』
 かかる所へ、ヒヨロリ ヒヨロリとやつて来たのはお民であつた。
片彦『ヤア其方はお民どのぢやござらぬか、ようマア拙者の後を尋ねて来て下さつた。ヤア感謝致す』
『ハイ、ここは何処でございますか』
『サア地名がサツパリ分らないのだ。最前も赤い面した奴が一人やつて来よつて、八衢だとか関所だとか威かしよつたが、俺の勢に辟易して、何処ともなく消え失せてしまひよつた。アツハヽヽヽヽ、しかしお民、俺を慕ふ心が何処までも離れぬと見えて、こんな名も知れない所まで、よくついて来てくれた。イヤ本当に優しい女だ』
『あの片彦様の自惚様わいのう。私には蠑螈別さまといふ立派な夫がございますよ。あなたは人の上に立つ将軍の身でゐながら、主ある女に恋慕するとは余りぢやありませぬか、チツと心得なされませ』
『言はしておけば、女の分際として、聞くに堪へざる雑言無礼、いよいよ軍法会議にまはし、その方を重き刑罰に処してやるから、覚悟を致したがよからう』
『ホヽヽヽヽ、あなたも余程常識のない方ですね。軍人でもないもの、しかも軍隊に何一つ関係のないこの女一人をつかまへて、軍法会議にまはすなんて、余り常識がなさ過ぎるぢやありませぬか、ねえランチ将軍様、まるで片彦将軍は八衢人足みたやうな方ですねえ。ホツホヽヽヽ』
『サア、どうかなア』
『コリヤお民、何といふ無礼な事を申すか、八衢人足とは何だ。畏くも大自在天様の御恩寵を受けた、万民を天国に救ひ、かつ世界の動乱をしづめる宣伝将軍様だぞ。八衢にさまよふ奴は、その方や蠑螈別の如き人足だ』
『ホツホヽヽヽヽ、私が八衢人足なら、あなた方皆さうですワ。現に八衢の関所へ迷つて来てゐるぢやございませぬか。あれ御覧なさい、あすこに館がございませう。あこが閻魔さまのお館でございますよ。何れここで、私もあなた方も取調べられるにきまつてゐます。その時になれば私が天国へ行くか、あなた方が地獄へお落ち遊ばすか、ハツキリと分りませうから、マア楽んでお待ちなさいませ』
『コリヤお民、その方は狂気致したか、死んでるのぢやないぞ。今から亡者気取りになつて何とする。コレコレ ランチ殿、お民に気つけを呑ましたいと思ひますが、生憎途中にて肝腎の薬を遺失致しました。少しばかり貴方の分を与へてやつて下さい』
『拙者も川へ落込んだ刹那、肝腎の霊薬を川へ落したと見えます、仕方がありませぬワ』
『ホヽヽヽヽ、私の方から気付を上げたい位だが、私も生憎持合せがないので、仕方がありませぬ。しかしながら今赤鬼さまがお調べ下さるでせうから、その時になつてビツクリなさいますなや、本当にお気の毒さまですワ。あなたの霊衣は浮木の森の陣営にござつた時とは大変に薄くなつてゐますよ。気の毒な運命が、あなた方の頭上にふりかかつて来てるやうに思へてなりませぬワ』
『気の違つた女といふものは、どうも仕方がないものだなア』
 かく話す所へ、今度は十人ばかりの赤面の守衛が突棒、刺股などを携へ、いかめしき装束をして、バラバラと五人の周囲を取巻いた。
『拙者はバラモンの先鋒軍、ランチ将軍でござる。その方は何者なるや知らねども、そのいかめしき形相は何事ぞ。それがしを護衛のためか、但は召捕る考へか、直様返答を致せ』
守衛の一『ここは霊界の八衢だ、其方等は已に肉体を離れ、ここに生前の業の酬いによつて、今や審判を受けねばならぬ身の上となつてゐるのだ。サア神妙に冥土の御規則に従ひ、この衡の上に一人々々乗つたがよからう、罪の軽重大小によつて、その方の行くべき所を定めねばならぬ。サ、キリキリとこの衡にかかれ』
 ランチは双手を組み、
『ハーテナア』

(大正一二・一・一二 旧一一・一一・二六 松村真澄録)



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