出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=48&HEN=1&SYOU=4&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語48-1-41923/01舎身活躍亥 雪雑寝王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=13796

第四章 雪雑寝〔一二五八〕

 蠑螈別は次の神殿の間に進んで一生懸命に祈願を凝らしてゐる。後にはランチ将軍、お民、アーク、タールの四人が冷やかな笑を泛べて、しばらく沈黙の幕を下ろしてゐた。アークは口を開いて鼻柱の両方を右の手でクレリ クレリと擦り上げながら、
『モシ将軍様、今承はれば実に御愉快な事でござつたさうですな。何処ともなしに御雄壮なる………否歓喜に充たされた御尊顔を拝し奉り、アーク身にとり恐悦至極に存じ承ります。古より英雄色を好むとか伝へ聞いて居りまする、これにて将軍様も初めて英雄の英雄たる器量を発揮遊ばしたと云ふもの、いかでかこれを祝せずに居れませう。しかしお祝には酒がつきものです。酒がつかなければあまり縁起がよくないものです。将軍様のこのお祝をして永遠無窮に益々幸あらしめむために、お酒を一杯頂戴する訳には行きませぬか。幸ひお民殿がここに居られますれば、お酌は合うたり叶うたり、万事惟神的に出来て居ります。如何でござりませう』
『アーク、その方は気の利いた奴だ。やはり俺が幕僚に栄転させて使つたのは、要するに先見の明ありと云ふべしだ。よし、その方の言葉が気に入つた、何程なりと酒は飲み放題、しかしながら軍規紊乱の恐れあれば、あまり部下の者には知らさぬやうに幕僚のみ私かに酒宴を催すであらう』
『早速の御承知、流石は明智の大将、吾意を得たりと云ふべしだ。エヘン、おいタール、どうだ、俺の言霊はその功力忽ちだ、恐れ入つたか』
『うん、かふ云ふ時にや貴様は最適任だ。その代り敵陣に向つちや一番がけに逃げる奴だからな。弱い敵と見りや無性矢鱈に追駆けて行きよるが、少しばかり敵が強いと見たら尻に帆かけてスタコラ、ヨイヤサと一目散だから大したものだよ。アハヽヽヽ』
『コリヤコリヤ両人、この目出度い時に、左様な争ひは不吉だ。七六かしい戦なんかの話はやめてくれ。それよりも話は止めてお民に酌をさせ、二人の珍客に舞ひつ踊りつ、お慰みに供するのだな。エヘヽヽヽ、サア早く将軍の命令だ、用意! 一、二、三!』
 アーク、タールは早速この場を外し、酒の用意を整ふべく出て行つた。あとにランチ将軍とお民は差向ひとなつて、一つの火鉢を隔て小さい声で何事か囁いて居る。
『将軍様、貴方は軍人がお好きでござりますか、但は理想の女と民間に下つて楽しくお暮し遊ばすがお好きですか、承はりたいものですな』
『ウン、俺はもとはお前の知つてる通りバラモン教の大宣伝使兼大将軍だ。右の手に剣を持ち、左の手にコーランを携へて臨み、教を聞くものはこれを善人と見做し、教を聞かないものはこれを魔物と見做して斬り捨つるのが将軍の役だ。これ位愉快な事があらうか。将軍の権威を以てすれば、何事も意の如くならぬ事はないのだから、何処までもバラモン教の宣伝将軍は止められないのだ。実に吾々の威勢は空に輝く日月の如きものだ。その方も吾前に近く侍り、実に光栄だらう』
『ハイ、光栄に存じます。しかし軍人と云ふものは天下泰平の時には必要がないものですな、かふ云ふ乱世になれば無くては叶ひますまい。その点になれば軍人さまは国家の柱石、平和の守り神様でござります。しかしながら貴方等の神力と武力によつて世界が平定され、真善美の平和が建設されたならば、軍人はおやめになりませうな、否必要がありますまいな』
『ウン、それもさうだ。しかしそれは云ふべくして行ふべからざるものだ。徒に高遠な理想世界を夢みた所で、所詮この世の中は戦ひの世の中だ。弱い者は到底頭の上らない娑婆世界だ。さうして不幸にして世界が平和に治まり善人ばかりになつたら、俺達軍人はサツパリ商売が出来ない。敵が現はれて各所に動乱が起ればこそ俺達の威勢も出るなり、また安楽に生活が出来るのだ。世の中は善悪混淆だよ、芝居だよ。虚偽と罪悪とを擅にする世の中だ。よく考へて見よ、瀬戸物屋は瀬戸物の割れる事を好み、坊主は死者の多からむ事を願ひ、医者は病人の多からむ事を望み、スパイは小盗人の多からむ事を欲し、役人は罪人の最も多きを以て自分の商売の繁栄として喜ぶのだ。何程三五教とやらがこの世の中を水晶にすると云つても五六七の世を建設すると云つても、それは口先ばかりだ。要するに商売の能書だ、広告手段だ。お前もチツと時代に目を醒し社会の潮流に遅れないやうにしたがよからうぞ。これが人世の径路だ。さうして悪を喜ぶのは人間の本能だ。己を安全にし己の幸福を得むとすれば、必ずや他を亡し他を圧迫し他の利益を掠奪せなくちや、到底世に時めき渡り、貴人となり富豪となり紳士紳商となることは出来ない。お前のくはへて来た蠑螈別も余程薄野呂だな。あれ見よ、泡沫に等しき経文を楯に、このランチ将軍の命を祈りによつてとらう等と、アハヽヽヽ……さてもさてもうぶな考へだ。殆ど今日の時代より一万年ばかりおくれて居る。チツと脳味噌の詰替をしてやらなくちやこの陣中でも使ひやうがないわ』
と調子に乗つて体主霊従主義をお民に向つてまくし立ててゐる。お民は善悪に迷ひ、ただ俯向いて考へ込んでゐる。
『もしランチ将軍様、夜前のお二人の美しいお方は何方へ行かれました。一度拝顔を願ひたいものでござりますな』
『ウン、あまり話に実が入つて、肝腎のナイスを念頭より遺失して居た。オー、さうだ、こんな事してる時ぢやない、ヒヨツと片彦にでも占領されちや大変だ。いやお民殿、其方は蠑螈別に対し某が今申した言葉、トツクリと云ひ聞かしたがよからう、それが合点が行つたら、お前と二人この陣中に大切にしておいて上げよう』
『ハイ有難うござります。御存じの通りの男でござりますから、お気に障る事をチヨイチヨイ申しませうが、何卒大目に見てやつて下さい。蠑螈別は少々ばかり精神上に欠陥がござりますから』
『ウン、ヨシヨシ、精神病者ならばまたその積りで、つき合うて上げよう、随分気をつけてやつたがよからう』
『ハイ、お情深いお言葉、お民の肝に銘じて、何時の世にかは忘れませう。将軍さま、有難うござります』
と手を組んで涙を流し感謝してゐる。
 アーク、タールの両人は酒房へ振舞酒をとり出すべく欣々として進みやつて来た。見れば一人の男が壺に杓を突つ込みグビリ グビリと飲んでゐる。よくよく見れば同僚のエキスであつた。アークはエキスの後から足音を忍ばせながら近く進み寄り、
『オイ』
と一声呶鳴ると共に背中を三つ四つ喰はした。エキスは不意を打たれて杓をパツと放し、呂律も廻らぬ舌で、
『ダヽヽヽ誰ぢやい、エーン、人が折角いい気分になつてるのに、後から来やがつて脅かしやがつたな。マア待て、今に将軍様に訴へてやらう』
『コリヤ、貴様はエキスぢやないか、エーン、俺の方から訴へてやらう。酒泥棒奴、誰の許しを得て此処に来たのだ』
『エーン、八釜しう云ふない。同じ穴の狐ぢやないか。貴様だつて今酒を盗んで喰はうと思つて来やがつたのだらう。俺が一足先に来たばかりだ。やはり酒を盗む心は同じだ。俺の事を云ふと貴様の事を素破抜くぞ』
『馬鹿云ふな。俺は将軍様の命令によつて今日お祝があるのでお酒をとりに来たのだ、なあタール、さうだらう。それにエキスの奴、俺達まで自分の卑しき心に比べて盗人呼ばはりをするとは怪しからぬ奴だ。こりやエキス、違ふと思ふなら将軍様に聞いて見よ』
『酒の上でした事は罪はないわい。そんな野暮な事を云ふものぢやない。マア貴様も一杯やつたらどうだ』
『アハヽヽヽ、到頭折れて来よつたな。それでは御酒宴に先立つて毒味をして見よう。もし味が悪けりや直して置かんならぬからな』
『アハヽヽヽ、到頭地金を出しよつたな。オイ、鍍金先生、偉さうに云つても、塗つた金箔は剥げるから仕方がないわ。エー』
『オイ、アーク、ここで飲んぢやいけない、樽にドツと詰め込んで将軍様の前に持つて行かう。そしてエキスの事をスツパぬいてやらう。さうぢやないと、成上り者の癖に威張りよつて仕方がないからな』
『ヘン、貴様も成上がり者ぢやないか、俺ばつかりぢやないぞ。人の事を云はうと思へば自分の蜂から払うてかかれ。人を呪はば穴二つだ、本当に馬鹿だな』
『エー、何だか喉の虫が頻りに汽笛を吹き出した。飲みたい事はないけど、機関に油を注すと思うて、ホンの三升ばかり喉を潤はして見ようかい。オイ、タール、そんな七六かしい顔せずに、つきあうたらどうだ。なあエキス、さうだらう』
『ウン、さうだ。気に入つた。人間はさうなくちやいけない、タールのやうな唐変木は社会の落伍者だ。可憐さうなものだな』
『ヘン、馬鹿にすない』
と腹立ち紛れに杓をグツと取り、酒壺にグツと突つ込み鯨飲をはじめた。
エキス『アハヽヽヽ、到頭、俺の舌に捲き込まれよつたな。しかし吾党の士だ。えらいえらい』
と凡ての紛紜はケロリと忘れ、三人は交る交る杓に口をつけてガブガブと飲みさがし、前後不覚になつてその場に倒れてしまつた。蠑螈別、お民はヒヨロリ ヒヨロリと何気なうこの場に現はれ来り、三人の打ち倒れてゐる姿を見て打驚き、
『マアマア、この方はアークさま、タールさま、エキスさまぢやありませぬか。マアどうしてこんな処に倒れてござるのだらう。家がないものかなんぞのやうに土の上に倒れて、みつともない処を丸出しにして、エーマアいやな事』
『此奴ア盗み酒に喰ひ酔うて倒れてゐるのだ。何と酒の酔と云ふものは見つともないものだな』
『貴方だつて何時もお酒にお酔ひになると、もつともつと見つともないですよ。そんな時の姿を見ると三年の恋もゾツとして醒ましますよ。私なりやこそ、貴方を今迄愛して来たのですよ。本当に男と云ふものは卑しいものだな。吾身の正念がなくなる処まで意地汚い、本当に嫌になつてしまふわ。蠑螈別さま、これを見て酒をこれつきり止めて下さい』
『ウン、側から見て居りや見つともないが、酔うて居る本人になつたら愉快だよ。俺やどうしても止められない。死んだらどうか知らぬが、息のある間は止められないよ』
『それなら、貴方は酒と私と、どちらか止めなならぬと云つたら、何方をお止めになりますか』
『ウン、さうだな、小豆餅食たか、島田と寝るか、小豆餅食て島田と寝ると云ふ事があるだらう。酒も好きだ、お前も好きだ。何方と云ふ事は出来ないね』
『米を潰して拵へた植物の液汁と神様の生宮たる人間と同様に見られちや堪りませぬわ。そんな水臭いお方なら今日限りお暇を下さい。さうして貴方は腸の腐る所までお酒をお上りなさいませ』
『アーア、酒は飲みたし、女には別れともなし、えらいヂレンマに罹つたものだな。アヽもう堪らぬ。この香を嗅いぢや立つても居ても居れない』
と云ひながら鏡のぬいた酒を見ながら、両手で樽を抱へながらグウグウと鯨飲し初めた。忽ち蠑螈別はその場に酔ひ倒れ、此処に四人の泥酔者の雑魚寝が初まつた。お民は逸早くこの場を立去り、奥の間さして進み行く。
 凩が持て来る雪しばきは遺憾なく四人が地上に倒れた上に降り注ぎ、次第々々に雪はこまかくなり来り、ザアザアと砂を撒くやうな声を出して、四辺雪襖を立てたやうになつて来た。忽ち四人の身体は積雪に包まれてしまつた。

(大正一二・一・一二 旧一一・一一・二六 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web