出口王仁三郎 文献検索

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物語48-1-21923/01舎身活躍亥 武乱泥王仁三郎参照文献検索
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第二章 武乱泥〔一二五六〕

 浮木の館の陣営における幕僚室には、例のアーク、タールの両人が火鉢を真中にして、茶を飲みながら、雑談に耽つてゐる。タールは切りに土瓶の茶を注ぎながら、
『オイ、アーク、最前から大分、天の沼矛を虐使したので、喉がかわき、口角の泡も非常に粘着性を帯びて来たぢやないか。マア茶なつと一杯やり給へ。茶は鬱を散じ、心気を養ひ、且また心魂をして安静せしむるものだからなア』
『茶には色がある。色は即ちよくうつらふものだ……花の色はうつりにけりな徒に、わが身世にふる眺めせしまに……とか未来のナイスが言つたさうだ。俺は茶は嫌ひだ、それよりも少しも色なき水晶のやうな清水が好きだ。その透徹振は正に自足他に求むるなき君子の坦懐、道交を表するものだ。かく一杯の水にも、神の恵のこもらせ給ふ以上は、ポートワインの美酒も、遂に及び難き道味の淡然として、掬して尚尽くるなきものがある。仁者は山を楽み、智者は水を楽むとか云つてな、吾々には水晶の水が霊相応だよ。しかして山をも水をも併せ楽むこのアークさまは、所謂智者仁者の典型だ』
『智仁兼備の聖人君子の名を盗まうとする白昼の野盗、一言天下を掩有せむとする曲漢、そこ動くな………と一刀を引抜き、切つてすつべき所なれども、今日はランチ将軍の帷幕に参ずる顕要な地位に上つた祝として忘れて遣はす』
『アツハヽヽ唐変木だなア。茶の好きな人間の精神はヤツパリ滅茶苦茶だ。茶目小僧的人格者だ。そんなことでランチ将軍の帷幕に参ずるなどとは、サツパり茶目だ、否駄目だよ』
『吾々は殊更に山に入つて山を楽み、水に近付いて水を楽まなくても、人生の一切を客観して冷然としてこれに対することが出来るのだから、紅塵万丈の裡、恩愛重絆の境域尚其処に、山中の静寂と清水の道味を楽む事が出来るのだ』
『随分小理窟がうまくなつたねえ』
『きまつた事だ。治国別さまのお仕込みだもの、今までの狂乱痴呆兼備の勇者たる乱痴将軍の教とは、天地霄壌の差があるのだからなア』
『コリヤそんな大きな声で言ふと、耳へ這入るぞ、チツとたしなまないか』
『ナーニ何程大きな声でいつた所で、神格の内流を受けたる証覚者の聖言が耳へ通る気遣ひがあるかい。ランチ将軍の耳へ通ずる言葉は、虚偽と計略と悪欲と女色位なものだ。さういふ地獄的言葉は、何程小さい声で囁いてをつても直に聞えるものだ。要するにその内分が塞がり外分のみが開けて居るのだからなア。世間的罪悪に充ちたバラモン軍の統率者に、吾々の聖言が聞える道理はない、先づ安心し給へ。それよりも、あの蠑螈別を見よ、本当に馬鹿にしてゐよるぢやないか。如何に世間の交際は黄金多からざれば交り深からずと云つても、実に呆れたものぢやないか。今日の交際は水臭いと云ふよりも寧ろ銅臭いものだ。僅かに五千両の軍用金を献納しよつて、エキスの野郎に駕で送られ、腐つたやうな女を伴れて堂々とランチ将軍に面会を申込み、将軍もまた顔の相好を崩して、抱擁キツスはどうか知らぬが、固き握手を交換したぢやないか。俺やモウ本当に厭になつてしまつた』
『本当にさうだねえ。黄金万能の世の中とはよく言つたものだ。しかしながら治国別様は根つからお顔が見えぬぢやないか、どうしたのだろ』
『俺の観察する所によれば、何とはなしに余り目出度い御境遇に居られるやうに思はれないがなア』
『タール、お前もさう思ふか、俺は何だか気がかりになつて仕方がないワ。ヒヨツとしたら、あの、それ、秘密牢へでも計略を以て放り込んでしまつたのぢやあるまいかな。今まで俺達が、伺つても、喧しい言葉はなかつた奥座敷を、吾々の幕僚にさへ見せないやうにしてゐるのだから怪しいものだぞ。もし治国別様が危難にお遇ひなさるやうな事があつたら、お前はどうする考へだ』
『一旦心の中において師匠と仰いだ以上は、死を以てこれを守る考へだ。仮令治国別様のために死んでも、敢て厭ふ所ではない。士は己れを知る者のために死すといふからな』
『ランチ将軍だつて、片彦将軍だつて、ヤツパリ吾々の主人であり師ぢやないか。師といふ段になつては、少しも変りはない筈だ。そして諺にも忠臣二君に仕へずといふ以上は、どうしても前の主人たるランチ将軍に忠義を尽さねばなろまい……ぢやないか』
『そりや、どちらも主人だ。しかしながらランチ将軍に今迄仕へて居つたのは、彼が有する暴力と権威に恐れたがためだ。つまり言へば表面上の主従であつて、精神上から言へば仇敵も同様だ。どうして馬鹿らしい、精神的仇敵のために貴重な生命が捨てられようか』
『さうだな、俺も同感だ。しかしタール、まさかの時になつたら、親のために或は主のために師匠のために、死ぬこたア出来まい。俺だつてさうだ、しかしながら子孫のためには死んでみせてやる、それも霊体脱離の時期が来たら……だ。アハヽヽヽ』
『オツホヽヽヽ、何を吐しやがるのだい。人を馬鹿にして居やがる。チツと真面目にならないか。エヽー』
『このやうな化物の横行する世の中に、どうして真面目に着実にして居れようかい。真面目な正直な仁義に篤い人間は、現代においては却て悪人と見做されるからなア。天下のため、社会のため、人のためだと、うまい標語を語つて、何奴も此奴も自己の欲望を達せむことのみを望んでゐる世の中だ。俺達はさういふ贋物は嫌ひだ。清明無垢の小児の如き、赤裸々の言葉と行ひが好きなのだ』
 かかる所へ一人の従卒現はれ来り、
『モシモシ、只今ランチ将軍様の御命令でございますが、珍客が見えましたので、御接待に来て貰ひたいとの事でございます。どうぞ速にお居間へお越し下さいませ』
アーク『ヨシヨシ、只今参りますと言つてくれ。しかし、珍客といふのは、どこからお出でになつたのだ』
『ハイ、私にはどこの方だか分りませぬが、随分綺麗な女神さまのやうな方が二人、ズンズンと奥へお通りになりました。大方その方の事でございませう』
『ウン、ヨシ、直様参ると申上げてくれ』
『ハイ』
と答へて従卒はこの場を立去つた。後に二人は顔見合せ、
『オイ、タール、どう思ふか、この陣屋は何だか変梃になつて来たぢやないか。蠑螈別がお民をつれてやつて来るかと思へば、また二人の美人が来たとは、益々合点が行かぬぢやないか』
『ウン、さうだなア、大方化物だらうよ。これほど殺風景な陣営へ、そんな美人が二人も、大胆不敵にも侵入して来るとは、どうしても解せない。しかしながら将軍の命令、反く訳にも行くまい、行つたらどうだ』
『無論行く積だが、しかし大体の様子を考へた上でなくちや、取返しのならぬ失敗を演ずるかも知れないぞ』
『ナーニ刹那心だ、構ふものかい』
 かく話す所へ、酒にズブ六に酔うて、ヒヨロリ ヒヨロリと千鳥をふみながらやつて来たのは蠑螈別であつた。蠑螈別は狐と兎と猫との目をつき交ぜたやうな妙な目付をしながら、臭い息を吹きつつ、
『ヤア、お歴々、何ぞ面白い話がござるかな。一つ私にも聞かして下さい』
アーク『コレハコレハ、蠑螈別の御大将、大変な上機嫌と見えますなア、お話も承はりたいなり、またしみじみと御懇談も申上げたいのだが、只今将軍よりお呼び出しになりましたので、生憎ゆつくり話の交換も出来ませぬ。失礼ながら御免を蒙りませう』
『ヤア、実の所はランチ将軍様の使で来たのだ。今三五教の清照姫、初稚姫といふ頗る付のシヤンが、突然降つて来たので、両将軍の恐悦斜ならず、従卒を以て、アーク、タールの幕僚をお呼よせになつた所、今来られちや、肝腎の性念場が台なしになるといふので……蠑螈別殿、彼奴等両人は中々口の達者な理窟つぽい奴だから、そなた行つて、うまく喰ひとめて来て下され……とのお頼みだ。それ故実の所は一時ばかり暇取らせ、その間に両将軍がシツポリと要領を得ようといふ段取だ。アハヽヽヽヽ』
『ヤア、そりや勿怪の幸ひだ。なア、タール、一つここで蠑螈別のローマンスでも聞かして貰はうかい』
『所望だ所望だ』
『ナニ、俺のローマンスを聞きたいといふのかアー。聞きたくば聞かしてやらう。しかしながら余り口数が多いので、どの方面から糸口をたぐつたらいいか分らない。アーア、困つた註文を受けたものだ。エヘヽヽヽヽ』
アーク『モシモシ、涎がおちますよ』
蠑螈別『エヘヽヽヽヽ、イツヒツヒ』
タール『大分に嬉しかつたと見えますね。智者は対者の一言を聞いて、その生涯を知るとか云ひましてなア、このタールは蠑螈別さまのその顔面筋肉の動き方と、エヘヽヽイヒヽヽの言霊によつて、貴方の歓喜生活の生涯をほぼ悟る事を得ました』
アーク『ナヽ何を吐しよるのだ。よう囀る奴だな。貴様がそれほど分つてゐるなら、蠑螈別さまに代つて、ここで俺に聞かしたらどうだ』
タール『御本人の前で、御本人の講談は如何なる名人でもやりにくいからなア。講談師見て来たやうな嘘をつき……と何程真実を語つても、頭から相場をきめられちや、折角の骨折が無駄になる。それよりも直接御本人から承はつた方が、愚昧な貴様の頭には、余程有難く感ずるだらう。』
蠑螈別『実の所は、ウーン、今伴れて来たお民といふ女、随分別嬪でせう。エヘヽ、貴方も御覧になりましたか』
アーク『一寸横顔を拝まして貰ひましたが、随分稀体の尤物らしいですなア。しかしそんなお惚気話を聞かして貰ふのは、実ア、有難迷惑だ。一杯奢つて貰はなくちや約らないですからなア』
『真面目に聞いて貰へるなら、このブランデーを進ぜる』
と云ひながら、懐からガラガラ言はせながら、峻烈な酒を盛つた二個の瓶を取出し、二人に一個づつ渡した。二人は話はそつちのけにして、グビリグビリと喉をならして呑み始めた。蠑螈別は一生懸命に惚気話を虚実交々相交へて喋り立てる。二人は馬耳東風と聞き流し、ブランデーに気を取られて、
『アーア、よう利く酒だ、エヽー、何と甘いぢやないか』
『あゝ甘い甘い、何と気分がいいなア』
と酒ばかりほめてゐる。蠑螈別は一生懸命にお民との情交関係を喋り立ててゐる。そして二人の声を耳に挟み、
『本当にお前の言ふ通り、ウマイものだらう。聞いても気分がいいだらう』
 アークは額を切りに叩きながら、
『あゝ酔うた酔うた、実に感謝の至りだ』
『本当に完全な恋のローマンスを聞いて、酔うただらう。頭を叩いて感心せなくちや居られまい、本当にこんな取つとき話を拝聴して、お前も嬉しかろ、感謝すると云つたねえ』
タール『エーエ、俺もモ一本欲しいものだなア、本当に気分のいいものだ。蠑螈別さま、モ一つ下さいな』
 蠑螈別はうつつになり、
『本当に気分のいい女だらう、一目見ても恍惚として酔うたらう。しかし下さいと云つても、お民ばかりはやる事は出来ないよ。それだけは御免だ。蠑螈別の命の親だからなア』
『本当に百薬の長だ、命の親だ、それだから欲しいといふのだ。なア、アーク、エーエン、本当に心持がよくなつたぢやないか。こりやどうしてもこのままでしまふこたア出来ない、お民さまにでもついで貰つて、二次会でもやらうかなア』
『お民をどうするといふのだ。酒をつがさうと云つても、お民の手は、さう易々と貴様の酒ア、つがないぞ、エヽン、この蠑螈別様一人に限つて、お酒をつぐために製造してある雪のやうなお手々だ。身のほど知らぬもキリがあるぞよツ』
と呶鳴りながら、ブランデーの空瓶で、アークの前頭部をカツンとやつた。アーク、タールの両人はヒヨロヒヨロになつたまま、蠑螈別に向つてまたもやブランデーの空瓶をふり上げ、打つてかかる。されど三人が三人共キツい酒に足を取られ、彼方へヒヨロヒヨロ此方へヒヨロヒヨロとヒヨロつきまはつた途端に、三つの頭が一所に機械的に集まり、烈しき衝突を来し、パチン、ピカピカピカと目から霊光を発射し、ウンとばかりその場に倒れてしまつた。この時お民は、蠑螈別の所在を尋ねて、現はれ来り、この態を見て打驚き、
『アレ、マア蠑螈別さま』
と云ひながら、抱起さうとする。蠑螈別は眼眩み、アークをお民と間違へ、
『コレお民、すまなかつた、お前の何時もの言葉を軽んじ、内証でブランデーをやつたものだから、足腰が立たぬやうになつた。こんな所を将軍さまに見られちや大変だから、どつかへ隠してくれないか。チツト酔ひが醒めるまで……』
 お民は蠑螈別の顔の疵を見て、
『アツ』
と驚き、殆ど失心状態になつてゐたので、蠑螈別がアークをお民と間違へてる事に気がつかなかつた。タールは目まひが来て、お民の傍にリの字形になつて倒れてゐる。アークは蠑螈別が自分をお民と間違へてゐるなア……と早くも悟り、舌のまはらぬ口から女の作り声をして、
『コレ、蠑螈別さま、お前さまは、本当にヒドイ人だよ、いつもいつも私にこれだけ心配かけて、それほど私が憎いの、サアもうお暇を下さい、今日限りモウ私はアカの他人ですよ。エヽ憎らしい』
といつては耳を引掻き、横面をピシヤピシヤとなぐり、鼻をつまもうとすれど、アークも余り酔ひつぶれてゐるので、手がどうしても命令を聞かず、蠑螈別の鼻をこすつたり、頬べたを撫でたり、耳を引張つてゐる。蠑螈別は余りアークの手がキツクさはらないので、ますますお民の手と信じ、
『アヽお民、すまなかつた、どつかへ一つ酔の醒めるまでかくしてくれ』
と叫ぶ。アークはまた作り声で、
『サ、蠑螈別さま、次の間の押入の中へかくして上げませう。酔のさめるまで静かにお休みなさいませ』
『流石はお民だ、親切な女だなア。これだから蠑螈別が命まで投込むのも無理もない。お前になら仮令どんな所へ連込まれても満足だ。ゲーガラガラガラ ウツプー、あゝ苦しい苦しい』
 アークはニタニタしながら、蠑螈別を肩にかけ、水門壺の前まで行つて、
『蠑螈別さま、ここが押入だよ』
と言ふより早く、水門壺へ蠑螈別を突きおとさうとした。蠑螈別は一生懸命に腕を握つてはなさない。押した勢に二人はヒヨロヒヨロとヨロめいて、水門壺の中へドブンと一緒におち込んでしまつた。この物音に驚いて、外面の見廻りをしてゐた二三の番卒は駆けより、二人を水門壺より救ひ上げ、火を焚きなどして二人の気をつけた。そして蠑螈別は依然としてお民と一緒に落込んだものと信じてゐた。アークもタールも、蠑螈別もお民も一度に正気を失つてしまつたのだから、番卒共の介抱は少しも知らず、気がついたのは何れも同時であつたために、知らぬ神に祟りなしで、アーク、蠑螈別の間に、この事に関しては少しの紛擾も起らなかつた。
 茲に四人はスツカリ酔がさめ、正気になるまで一日ばかり寝た上、その翌日になつて、昼狐を追出したやうな顔をして、ランチ将軍の前にヌツクリと顔を出した。

(大正一二・一・一二 旧一一・一一・二六 松村真澄録)



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