出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=47&HEN=3&SYOU=18&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語47-3-181923/01舎身活躍戌 一心同体王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=20766

第一八章 一心同体〔一二五一〕

 高天原の霊国及天国の天人は、人間が数時間費しての雄弁なる言語よりも、僅に二三分間にて、簡単明瞭にその意思を通ずることが出来る。また人間が数十頁の原稿にて書き表はし得ざる事も、ただの一頁位にて明白にその意味を現はすことが出来る、またそれを聞いたり読んだりする処の天人もよく会得し得るものである。凡て天人の言語は優美と平和と愛善と信真に充ちて居るが故に、如何なる悪魔と雖も、その言葉には抵抗する事が出来ない。すべて天国の言葉は善言美詞に充たされてゐるからである。さうして何事も善意に解し見直し聞直し宣直しといふ神律が行はれてゐる。それから日の国即ち天国天人の言語には、ウとオとの大父音多く、月の国即ち霊国天人の言語にはエとイの大父音に富んでゐる。しかして声音の中には何れも愛の情動がある。善を含める言葉や文字は多くはウとオを用ひ、また少しくアを用ふるものである。真を含んでゐる言葉や文字にはエ及びイの音が多い。そして天人は皆一様の言語を有し、現界人の如く東西洋を隔つるに従つて、その言語に変化があり、或は地方々々にいろいろの訛があるやうな不都合はない。されども、ここに少し相違のある点は証覚に充された者の言語は、凡て内的にして、情動の変化に富みかつ想念上の概念を最も多く含んでゐる。証覚の少い者の言語は外的にして、またしかく充分でない。愚直なる天人の言語に至りては、往々外的にして、人間相互の間におけるが如く、語句の中からその意義を推度せなくてはならぬ事がある。また面貌を以てする言葉がある。この言語は概念によつて抑揚頓挫曲折の音声を発すが如きものにてその終局を結ぶものもある。また天界の表像を概念に和合せしめたる言葉がある。また概念を自らに見るやう、成したる言葉もある。また情動に相似したる身振を以てなす語もある。この身振はその言句にて現はれる事物と相似たるものを現はしてゐる。また諸情動及諸概念の一般的原義を以てする言葉がある。また雷鳴の如き言葉もありその外種々雑多な形容詞が使はれてある。
 治国別、竜公は団体の統制者に導かれ、種々の花卉等を以て取囲まれた相当に美はしき邸宅に入る事を得た。此処はこの団体の中心に当り他の天人は櫛比したる家屋に住んでゐるにも拘らず、一戸分立して建つてゐる。現界にて言へば丁度町村長のやうな役を勤めてゐる天人の宅である。二人は案内されて奥の間に進むと、真善美といふ額がかけられ、そして床の間には七宝を以て欄間が飾られ、玻璃水晶の茶器などがキチンと行儀よく配置され、珊瑚珠の火鉢に金瓶がかけられてある。ここは第二天国においても最も証覚の秀れたる天人の団体であり、主人夫婦の面貌や衣服は特に他の天人に比して秀れて居る。治国別は恐る恐る奥の間に導かれ、無言のまま行儀よく坐つてゐる。この天人の名は珍彦といひ、妻は珍姫と云つた。珍彦は治国別の未だ現界に肉体があり精霊として神に許され、修業のために天国巡覧に来りし事を、その鋭敏なる証覚によつて吾居間に通すと共に悟り得たのである。ここに珍彦は始めて治国別の知れる範囲内の言語を用ひて、いろいろの談話を交ゆることとなつた。
『治国別さま、あなたは未だ精霊でゐらつしやいますのですな。実の所は天国に復活なされた方と存じまして、その考へで待遇致しましたので嘸お困りでございましただらう』
『ハイ、実の所はイソの館から大神様の命を奉じ、月の国ハルナの都に蟠まる八岐大蛇の悪霊を言向和すべく出陣の途中、浮木ケ原において、吾不覚のためランチ将軍の奸計に陥り、深き暗き穴に落され、吾精霊は肉体を脱離して、いつとはなしに八衢に迷ひ込み、大神の化身に導かれ、第三天国の一部分を覗かして頂き、またもや木花姫の御案内によつて、ここまで昇つて来た所でございます。何分善と真が備はらず、智慧証覚が足らない者でございますから、天人達の言語を解しかね、大変に面喰ひましたよ。丸で唖の旅行でしたワ。アハヽヽヽ』
『どうぞ、ゆるりと珍彦館で御休息下さいませ。今日は幸ひ、大神様の祭典日でございますれば、やがて団体の天人共が吾館へ集まつて参るでせう。その時はこの団体に限つて、あなたの精霊にゐらせられる事を発表致します。さうすれば、吾団体の天人はその積りで、あなたと言葉を交へるでせう』
『ハイ、有難うございます。何分勝手を知らない愚鈍な人間でございますから……』
『これはこれは珍彦様、偉い御厄介に預かりました。先生を何分よろしく御願致します』
『イエイエ、決して私があなたの御世話をしたのぢやございませぬ。また御厄介になつたなぞと礼を言はれては大変に迷惑を致します。何事も吾々は大神様の御命令のままに、機械的に活動してゐるのでございますから、もし一つでも感謝すべき事があれば、直様大神様に感謝して下さいませ。すべて吾々は大神様の善と真との内流によつて働かして頂くばかりでございます。吾々天人としてどうして一力で虫一匹助けることが出来ませう』
治国『成程、さすが天国の天人様、真理に明るいのには感服の外ございませぬ』
『神様の御神格の内流を受けまして、実に楽しき生涯を、吾々天人は送らして頂いて居ります』
竜公『モシ珍彦様、この団体の天人は、何れも若い方ばかりですな。そしてどのお方の顔を見ても、本当によく似てゐるぢやありませぬか』
『左様です、人間の面貌は心の鏡でございますから、愛の善に充ちた者同士同気相求めて群居してゐるのですから、内分の同じき者は従つて外分も相似るものでございます。それ故天国の団体には余り変つた者がございませぬ。心が一つですからヤハリ面貌も姿も同じ型に出来て居ります』
『成程、それで分りました。しかしながら子供は沢山あるやうですが、三十以上の面貌をした老人は根つから見当りませぬが、天国の養老院にでも御収容になつてゐるのですか』
『人間の心霊は不老不死ですよ。天人だとて人間の向上発達したものですから、人間の心は男ならば三十才、女ならば二十才位で、大抵完全に成就するでせう、しかして仮令肉体は老衰してもその心はどこまでも弱りますまい。否益々的確明瞭になるものでせう。天国は凡て想念の世界で、すべて事物が霊的でございますから、現界において何程老人であつた所が天国の住民となれば、あの通り、男子は三十才、女子は二十才位な面貌や肉付をしてゐるのです。それだから天国にては不老不死と云つて、いまはしい老病生死の苦は絶対にありませぬ』
『成程、感心致しました。吾々は到底容易に肉体を脱離した所で、天国の住民になるのは六ケしいものですなア。いつまでも中有に迷ふ八衢人間でせう。実にあなた方の光明に照らされて、治国別は何とも慚愧に堪へませぬ』
『イヤ決して御心配は要りませぬ。あなたはキツトある時機が到来して、肉体を脱離し給うた時は、立派なる霊国の宣伝使にお成りなさいますよ。如何なる水晶の水も氷とならば忽ち不透明となります。あなたの今日の情態は即ちその氷です。一度光熱に会うて元の水に復れば、依然として水晶の清水です。肉体のある間は、何程善人だといつても証覚が強いと云つても、肉体といふ悪分子に遮られますから、これは止むを得ませぬ。しかし肉体の保護の上において、少々の悪も必要であります。精霊も人間もヤハリこの体悪のために現界においては生命を保持し得るのですからなア』
『ヤ有難う、その御説明によつて、私も稍安心を致しました。あゝ大神様、珍彦様の口を通して、尊き教を垂れさせ給ひ、実に感謝に堪へませぬ。あゝ惟神霊幸はへませ』
竜公『天国においては、すべての天人は日々何を職業にしてゐられるのですか。田畑もあるやうなり、いろいろの果樹も作つてあるやうですが、あれは何処から来て作るのですか』
『天人が各自に農工商を励み、互に喜び勇んで、その事業に汗をかいて、従事してゐるのですよ』
『さうすると、天国でも随分現界同様に忙しいのですなア』
『現界のやうに天国にては人を頤で使ひ、自分は金の利息や株の収益で遊んで暮す人間はありませぬ。上から下まで心を一つにして共々に働くのですから、何事も埓よく早く事業がはか取ります。丁度一団体は人間一人の形式となつて居ります。例へばペン一本握つて原稿を書くにも、外観から見れば一方の手のみが働いてゐるやうに見えますが、その実は脳髄も心臓肺臓は申すに及ばず、神経繊維から運動機関、足の趾の先まで緊張してゐるやうなものです。今日の現界のやり方は、ペンを持つ手のみを動かして、はたの諸官能は我関せず焉といふ行方、それでは迚も治まりませぬ。天国では上下一致、億兆一心、大事にも小事にも当るのですから、何事も完全無欠に成就致しますよ。人間の肉体が一日働いて夜になつたら、凡てを忘れて、安々と眠りにつく如く、休む時はまた団体一同に快よく休むのです。私は天人の団体より選まれて、団体長を勤めて居りますが、私の心は団体一同の心、団体一同の心は私の心でございますから……』
治国『成程、現界もこの通りになれば、地上に天国が築かれるといふものですなア。仮令一日なりとも、こんな生涯を送りたいものです。天国の団体と和合する想念の生涯が送りたいものでございます』
『あなたは已に天国の団体にお出でになつた以上は、私の心はあなたの心、あなたの智性は私の智性、融合統一して居ればこそ、かうして相対坐してお話をすることが出来るのですよ。只今の心を何時までもお忘れにならなかつたならば、所謂あなたは、仮令地上へ降られても天国の住民ですよ。しかしながら、あなたは大神様より現界の宣伝使と選まれ、死後は霊国へ昇つて宣伝使となり、天国布教の任に当らるべき方ですから、到底その時は、吾々の智慧証覚はあなたのお側に寄り付く事も出来ないやうになりますよ。あなたが霊国の宣伝使にお成りなさつた時は、吾団体へも時々御出張を願ふ事が出来るでせう』
『成程、さう承はればさうに間違ひはございませぬ』
『先生、慢心しちやいけませぬよ』
『イヤ、決して慢心でない、珍彦様の心は治国別の心と和合し、治国別の心は珍彦様と和合し、珍彦様は大神様の内流を受け、大神様と和合してござるのだから、少しも疑ふ余地はない。お言葉を信ずればいいのだ。高天原には愛善と信真とより外には無いのだ。疑を抱くのは中有界以下の精霊の所為だ』
『さうすると、あなたは已に天人気取りになつてゐるのですか、まだ精霊ぢやありませぬか』
『已に天人となつてゐるのだ。珍彦様も同様だ』
『ヘーン、さうですか、そら結構です、お目出度う、そしてこの竜公はどうですか、ヤツパリ天人でせうなア』
『無論天人様だ。大神様の御内流を受けた尊き天人様だよ』
『何だか乗せられてゐるやうな気が致しますワ。モシ、先生、からかつちやいけませぬよ』
珍彦『アハヽヽヽ』
治国『ウツフヽヽヽ』
竜公『オホヽヽヽ』
『コレ竜公、オホヽヽヽなんて、おチヨボ口をして女の声を出しちや、みつともよくないぢやないか』
『木花姫様の御神格の内流によりまして、善と真との相応により、忽ち神格化し、竜公は何も知らねども、内分の神音が外分に顕現したまでですよ。オツホヽヽヽ』
 三人の笑ひ声に引つけられて、勝手元に在つた珍姫はこの場に現はれ来り、三人の前に手を仕へ、
『遠来のお客様、よくもゐらせられました。私は珍彦の妻珍姫と申します』
治国『何と御挨拶を申してよいやら、天国の様子は一向不案内、しかしながら今珍彦様に承はれば、同気相求むるを以て、かく和合の境遇にありとのこと、さすればあなたの心は私の心、私の心は貴女の心、他人行儀の挨拶も出来ず、また自分と同様とすれば、自分に対しての挨拶も分らず、実は困つてをります』
『ハイ私もその通りでございます。現界的虚礼虚式は止めまして、万年の知己、否同心同体となつて、打解け合うて、珍らしき話を聞かして頂きませう』
『どうも現界の話は罪悪と虚偽と汚穢にみち、かかる清浄なる天国へ参りましては、口にするも厭になつて参りました。それよりも天国のお話を承はりたいものでございます』
『ハイ、惟神の許しを得ましたならば、あなたが何程喧しいとおつしやつても、如何なることを申上げるか分りませぬ。弓弦をはなれた矢のやうに、当る的に当らねばやまないでせう、ホツホヽヽヽ』
竜公『モシ珍姫さま、あなたは珍彦さまと服装が違ふだけで、お顔はソツクリぢやありませぬか。ヨモヤ現界において双児にお生れになつたのぢやありますまいかなア』
『コレ竜公、何といふ失礼なことをおつしやる。チツトたしなみなさい』
『それでも私の心に浮んだのですよ。思ふ所を言ひ、志す所をなすのが天国ぢやありませぬか。そんな体裁を作つて、現界流に虚偽を飾るやうなことは天国には用ひられますまい。天国は信の真を以て光とするのですからなア』
『ヤ、恐れ入りました、アハヽヽヽ、天国へ出て来ると、治国別も失敗だらけだ。かうなると純朴な無垢な竜公さまは実に尊いものだな』
『ソリヤその通りです、本当に清らかなものでせう。ホツホヽヽヽ』
『また木花姫の御神格の内流かな』
『これは竜公の副守の外流ですよ。モシ珍彦さま、どうぞ私の今の言葉が天国を汚すやうなことがございますれば直に宣り直します』
『滑稽として承はれば、仮令悪言暴語でもその笑ひによつて忽ち善言美詞と変化致しますから、御心配なさいますな。天国だつて滑稽諧謔が云へないといふことがありますか、滑稽諧謔歓声は天国の花ですよ』
『ヤア有難い、先生、これで私も少し息が出来ますワイ』
『ウン、さうだなア、何だか私は身がしまるやうにあつて、どうしてもお前のやうに洒脱な気分になれないワ』
『ソラさうでせう、娑婆の執着がまだ残つて居りますからな。あなたは再び肉体へ帰らうといふ欲があるでせう。私は第三天国でいつたでせう、最早娑婆へは帰りたくないから、此処に居りたいと言つたことを覚えてゐらつしやいませう。私は仮令再び現界へ帰るものとしても、刹那心ですからなア。過去を憂へず未来を望まず、今といふこの瞬間は善悪正邪の分水嶺といふ三五教の真理を体得してますからなア』
『大変な掘出物を、治国別は捉まへたものだなア』
『本当に掘出物でせう。先生もこれだけ竜公に証覚が開けてるとは思はなかつたでせう。それだから人は見かけによらぬものだと現界でも言つてませう』
『ハイ有難う、何分よろしう願ひます』
『口先ばかりでは駄目ですよ。心の底から有難う思つてゐますか、まだ少しあなたの心の底には、竜公に対し稍軽侮の念が閃いてゐるでせう』
『ヤ恐れ入りました、あなたは大神様でございませう』
『大神様ぢやございませぬ。吾精霊に大神様の神格が充ち、竜公の口を通して、治国別にお諭しになつてゐるのですよ。時に珍彦さま、奥さまとあなたと双児のやうによく似た御面相、その理由を一つ説明して頂きたいものですなア』
『夫婦は愛と信との和合によつて成立するものです。所謂夫の智性は妻の意思中に入り、妻の意思は夫の智性中に深く入り込み、茲に始めて天国の結婚が行はれるのです。言はば夫婦同心同体ですから、面貌の相似するは相応の道理によつて避くべからざる情態です。現界人の結婚は、地位だとか名望だとか、世間の面目だとか、財産の多寡によつて婚姻を結ぶのですから、云はば虚偽の婚姻です。天国の婚姻は凡て霊的婚姻ですから、夫婦は密着不離の情態にあるのです。故に天国においては夫婦は二人とせず一人として数へることになつてゐます。現界のやうに、人口名簿に男子何名女子何名などの面倒はありませぬ。ただ一人二人と云へば、それで一夫婦二夫婦といふことが分るのです。それで天国において百人といへば頭が二百あります。これが現界と相違の点ですよ。君民一致、夫婦一体、上下和合の真相は到底天国でなくては実見することは出来ますまい。治国別様も竜公様も現界へお下りになつたら、どうか地上の世界をして、幾部分なりとも、天国気分を造つて貰ひたいものですなア』
治国『ハイ微力の及ぶ限り……否々神様の御神格によつて吾身を使つて戴きませう。あゝ惟神霊幸倍坐世』
 かく話す所へ、玄関口より一人の男現はれ来り、
『珍彦様、祭典の用意が出来ました、サアどうぞ皆が待つて居ります。お宮まで御出張下さいませ』
『あゝ御苦労でした。直様参りませう。お二人さま、どうです、これから天国の祭典に加はり拝礼をなさつたら……』
『お供致しませう』
『天国の祭典は定めて立派でせう。竜公もお供が叶ひますかなア』
『ハイ、さうなされませ』
治国『もし叶はなかつたら、木花姫の神格の内流によつて、参拝すれば良いぢやないか、アハヽヽヽ』
竜公『ウーオーアー』
珍彦『竜公さま、どうぞお供をして下さい』
竜公『ハイ有難う』

(大正一二・一・一〇 旧一一・一一・二四 松村真澄録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web