出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語47-3-161923/01舎身活躍戌 霊丹王仁三郎参照文献検索
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第一六章 霊丹〔一二四九〕

 天教山にあれませる  木花姫の御化身に
 案内されて第三の  天国界を後にして
 五色の雲を踏み分けつ  東をさして上り行く
 治国別や竜公は  如何はしけむ目は眩み
 頭は痛み足はなえ  胸は轟き両の手は
 力も落ちてブルブルと  慄ひ出すぞ是非なけれ
 木花姫の御化身は  順風に真帆をかかげたる
 磯の小舟の進むごと  何の故障もあら不思議
 とんとんとんと上ります  治国別や竜公は
 吹く息さへも絶え絶えに  命限りの声しぼり
 『これこれもうし木花の  姫の命の神司
 しばらく待たせ給へかし  如何なる訳か知らねども
 何とはなしに目は眩み  意識は衰へ力落ち
 進退茲に極まりて  最早一歩も進めない
 何卒お慈悲に両人を  も一度後に引返し
 お助けなさつて下されや  偏に願ひ奉る
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  尊き神の御恵は
 いつの世にかは忘れませう  抑天国の存在は
 神の慈愛を善真の  その高徳に構成され
 愛と善とに満ち満ちし  神の国土でございませう
 貴神も尊き神なれば  吾等二人の苦みを
 決して見捨て給ふまじ  かへさせたまへ惟神
 木花姫の御前に  命限りに願ぎまつる
 嗚呼惟神々々  御霊幸はへましませよ』

と歌ふ声も切れ切れに第二天国の入口まで来てバタリと平太り込んでしまつた。竜公はただ一言も発し得ず、痴呆の如く口をポカンと開いたまま僅かに指先を間歇的に動かして居る。木花姫は後ふり向きもせず巨大なる光と化して、天の一方に姿を隠させ給うた。治国別は後打ち眺め、
『あゝ、過つたりな過つたりな。自愛の欲に制せられ、吾身の苦しさに木花姫様の救助を求めた愚かしさよ。「師匠を杖につくな、人を頼りにするな」と云ふ御教を、正勝の時になつて忘れて居たか。あゝ人間と云ふものは、何と云ふ浅ましいものであらう。竜公はもはや虫の息、かかる天国において、精霊の命までも捨てねばならぬのか、あゝどうしたらよからうな。国治立大神様、豊国主大神様、神素盞嗚大神様、何卒々々この窮状を、も一度お救ひ下さいませ』
と色蒼ざめ、殆ど死人の如くなつて、合す両の手もピリピリ慄ひ戦き、実に憐れ至極の有様となつて来た。願へど、祈れど、呼べど、叫べどただ一柱の天人も目に入らず、神の御声も聞えず、四辺寂然として物淋しく、立つても居ても居られなくなつて来た。竜公はと顧みれば、哀れにも大地に蛙をぶつつけた如く手足をのばし、殆ど死人同様になつて居る。されど治国別は何処までも神に従ひ神に頼り、神の神格を信じ、かかる場合にも微塵も神に対し不平または怨恨の念を持たなかつた。治国別は決心の臍を固め、
『あゝどうなり行くも神の御心、吾々人間の如何ともすべき限りでない。神様、御心のままに遊ばして下さい。罪悪を重ねたる治国別、過分もこの清き尊き天国に上り来り、身のほどをわきまへざる無礼の罪、順序を乱した吾等の罪悪を、何卒神直日、大直日に見直し下さいまして、相当の御処分を願ひます』
と祈る声も細り行き、最早絶体絶命となつて来た。この時俄に天の戸開けて天上より金色の衣を纏ひたる目も眩きばかりの神人、二人の脇立を従へ、雲に乗つて二人の前に悠々と下らせ給ひ、懐より霊丹と云ふ天国の薬を取り出し、二人の口に含ませたまへば、不思議なるかな二人は正気に返り、勇気頓に加はり、痩衰へた体は元に如く肥太り、顔色は鮮花色と変じ、得も云はれぬ爽快の気分に充されて来た。二人は恐る恐る面を上ぐれば、威容儼然たる男とも女とも判別し難き優しき天人、その前に莞爾として立たせたまふのであつた。治国別は思はず手を拍ち、
『あゝ有難し有難し、大神の御仁慈、罪深い吾々をよくもお助け下さいました。有難う存じます』
とよくよくお顔を見れば、以前に別れた木花姫命が、二人の侍女を連れ立たせ給ふのであつた。
『ヤア、貴神は木花姫命様でございましたか。誠に誠に御仁慈の段感謝の至りに堪へませぬ』
『神様、よくまアお助け下さいました。竜公は既に既に天国において野垂れ死をする所でございました。天国と云ふ所は、真に苦しい所でございますなア』
『総て天国には善と真とに相応する順序が儼然として立つて居りますから、この順序に逆らへば大変に苦しいものですよ。身霊相応の生涯をさへ送れば、世の中は実に安楽なものです。水に棲む魚は、陸に上れば直に生命がなくなるやうなものでござります』
『成程御尤もでございます。八衢に籍を置いて居る分際をも顧みず、神様のお言葉に甘え、慢心を起し、天国の巡覧などを思ひ立つたのは、吾々の不覚不調法の罪、何卒々々大神様にお詫を願ひ上げます』
『治国別殿、其方は媒介者によつて天国の巡覧に来られたのだから、決して身分不相応だとは申されますまい。貴方は宣伝使としての肝腎要の如意宝珠を道で落しましたから、それで苦しかつたのですよ。殆ど息が絶えさうに見えましたので、妾は急ぎ月の大神様の御殿に上り、霊丹を頂いて再び此処に現はれ、貴方等の御生命をつなぎ留める事を得たのでござりますよ。まア結構でございましたなア』
『ハイ、吾々が命の親の木花姫様、この御恩は決して忘れは致しませぬ』
『妾は貴方の命の親ではありませぬ。貴方の命の親は月の大神様ですよ。妾はただお取次をさして頂いたのみですよ。左様にお礼を申されては、何だか大神様の御神徳を妾が横領するやうに思はれて、何となく心苦しうございます。宇宙一切は月の大神様の御神格に包まれて居るのでございます。吾々には御神徳を伝達する事は出来ても、命をつないだり御神徳を授ける事は出来ませぬ。この後は何事がありても、仮令少しの善を行ひましても、愛を注ぎましても、決して礼を云うて貰つては迷惑に存じます。どうぞ神様に直接にお礼をおつしやつて下さい』
『ハイ、理義明白なる御教、頑迷なる治国別も貴神の御伝教によつて、豁然と眠りより醒めたるやうでございます。あゝ国治立大神様、月の大神様、最高天国にまします天照大御神様、唯今は木花姫様の御身を通して吾等に命と栄えと喜びを授け給ひし事を、有難く、ここに感謝致します』
『貴方は途中でお落しになつたものを未だ御記憶に浮かびませぬか、如意宝珠の玉ですよ』
『ハイ、私は高姫さまのやうに如意宝珠の玉などは一度も拝んだ事もない、手に触れさせて頂いた事もございませぬから、従つて落す理由もございませぬ。何かの謎ではございますまいかな。心愚なる治国別には、どうしてもこの謎が解けませぬ』
『高姫さまの執着心を起された如意宝珠は、あれは自然界の形態を具へた宝玉です。天界の事象事物は総て霊的事物より構成されて居りますれば、想念上より作り出す如意宝珠でございますよ。先づ御悠りとお考へなさいませ。妾が申上げるのはお易い事でございますけれど、これ位の事がお分りにならない位では、到底中間天国の天人に出会つて、一言も交へる事が出来ませぬ。神の愛と神の信に照され、神格の内流をお受け遊ばし、智慧と証覚を得れば、何でもない事でございます』
 治国別は、
『ハイ』
と答へたまま双手を組み、眼を閉ぢしばらく考へ込んで居る。遉鋭敏の頭脳の持主と聞えて居る治国別も、霊界へ来ては殆ど痴呆の如く、何程思索を廻らしても容易にこの謎が解けなかつた。竜公は傍より手を打ち嬉しさうな元気のよい声を出して、
『もし先生、霊界の如意宝珠と云ふのは善言美詞の言霊ですよ。中間天国へ上る途中において天津祝詞や神言の奏上を忘れたので、姫命様が、お気をつけて下さつたのですよ』
『成程、ヤ、ウツカリして居つた。木花姫様、有難うございます。ほんに竜公さま、お前は私の先生だ、ヤア実に感心々々』
『先生、そんな事云つて貰ふと大に迷惑を致します。決して竜公の智慧で言つたのではありませぬ。御神格の内流によつて、斯様に思ひ浮べて頂かせられたのです』
『現界におきましては、竜公さまは治国別さまのお弟子でありませう。しかしこの天国においては愛善と信真より来る智慧証覚の勝れたものが最も高き位置につくのでございます。神を信ずる事が厚ければ厚いほど、神格の内流が厚いのでございますから』
『いや実に恐れ入りました。天国に参りましても、やはり現界の虚偽的階級を固持して居つたのが重々の誤りでございます。あゝ月の大神様、日の大神様、木花姫様の肉の御宮を通し、また竜公さまの肉の宮を通して、愚鈍なる治国別に尊き智慧を与へて下さつた事を有難く感謝致します』
『サア皆さま、これより天津祝詞の言霊を奏上しながら、第二天国をお廻りなさいませ。左様ならば、これにてお別れ致します』
 治国別、竜公両人は、
『ハイ有難う』
と首を垂れ感謝を表する一刹那、嚠喨たる音楽につれて木花姫の御姿は、雲上高く消えさせ給ふのであつた。
 あゝ惟神霊幸倍坐世。

(大正一二・一・九 旧一一・一一・二三 加藤明子録)



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