出口王仁三郎 文献検索

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物語47-2-101923/01舎身活躍戌 震士震商王仁三郎参照文献検索
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第一〇章 震士震商〔一二四三〕

 治国別、竜公両人は伊吹戸主の神の関所において優待され茶果を饗応せられ、少時休息してゐると、その前をスタスタと勢よく通りかかつたデツプリ肥えた六十男がある。
 赤顔の守衛はあわてて、その男を引きとめ、
『コラ待てツ』
と一喝した。男は後振返り、不機嫌な顔をして、
『何だ天下の大道を往来するのに、待てと云つて妨げる不道理な事があるか、エー、俺をどなたと心得て居る。傷死位窘死等死爵鬼族婬偽員欲野深蔵といふ紳士だ。邪魔を致すと、交番へ引渡さうか』
『オイ、その方はここをどこと心得て居る』
『言はいでもきまつた事だ。野蛮未開の北海道ぢやないか』
『その方はどうして此処へ来たのだ』
『空中視察のため、飛行機に乗つて居つた所、プロペラの加減が悪くて、風波でこんな方へやつて来たのだ。どうだ俺を本国へ案内してくれないか、さうすりや腐つた酒の一杯も呑ましてやらぬこともないワイ』
『コリヤコリヤ欲野深蔵、ここは冥途だぞ、天の八衢を知らぬか』
『鳴動も爆発もあつたものかい、そんなメードウな事を云ふない、俺こそはフサの国において遠近に名を知られた紳士だ……否紳士兼紳商だ。男のボーイに酒をつがす時には男酌閣下で、自分一人ついで呑む時には私酌閣下だ。エヽーン、そんなおどし文句を並べて、鳴動だの、破裂だのと云はずに、俺の案内でもしたらどうだ、貴様もこんな所で二銭銅貨のやうな顔をして、しやちこ張つて居つても、気が利かぬぢやないか。銅銭ロクな奴ぢやあろまいが、俺も大度量をオツ放り出して、椀給で門番にでも救うてやらう』
『コリヤ深蔵、貴様はチツとばかり酒に喰ひ酔うてゐるな、今紳士紳商だと吐したが欲にかけたら親子の間でも公事を致したり、また人の悪口を針小棒大に吹聴致し、自己の名利栄達を計り、身上を拵へた真極道だらう、チヤンとここな帳面についてゐるのだ、何程娑婆で羽振がよくても霊界へ来ては最早駄目だ。サ、ここの衡にかかれ、貴様の罪を測量してやらう』
『さうすると、此処はヤツパリ冥途でげすかなア』
『気がついたか、貴様は積悪の酬によりて、地震のために震死した震死代物だらう』
『成程、さう承はれば朧げに記憶に浮かむで来ますワイ。飛行機に乗つたと思つたのは……さうすると魂が宙に飛んだのかな』
 赤面の守衛は帳面をくりながら、
『その方は欲野深蔵と云つたな、幼名は渋柿泥右衛門と申さうがな』
『ハイ、ヨク、深い所まで御存じでございますなア、それに間違ひはございませぬ』
『その方は娑婆において、殺人鉄道嵐脈会社の社長兼取締役を致して居つたであらう』
『ハイその通りでございます』
『優先株だとか、幽霊株だとか申して、沢山な蕪や大根を、金も出さずに吾物に致しただらう』
『ハイそんな事もあつたでせう、しかしそれを致さねば現界においては、鬼族院偽員になる事も出来ず、紳士紳商といはれる事も出来ませぬから、娑婆の規則によつて止むを得ず優勝劣敗的行動を致しました、コリヤ決して私の罪ではありませぬ、社会の罪でございます、何分社会の組織制度が、さうせなくちやならないやうになつてゐるのですからなア』
『馬鹿申せ、そんな法律が何時発布されたか』
『表面から見れば、左様な事はありませぬが、その内容及精神から考へれば、法文の裏をくぐるべく仕組まれてあるものですから、これをうまく切抜ける者が、娑婆の有力者と云ふ者です、総理大臣や或は小爵や柄杓や疳癪などの高位に昇らうと思へば、真面目臭く、法文などを守つて居つちや、娑婆では犬に小便をかけられ猫にふみつぶされてしまひますワ。郷に入つては郷に従へですから、娑婆ではこれでも立派な公民、紳士中でも錚々たる人物でございます、ここへ来れば、凡ての行方が違ふでせうが、娑婆は娑婆の法律、霊界は霊界の法律があるでせう、まだ霊界へ来てから善もやつた事がない代りに、悪をやる暇もありませぬ、娑婆の事まで、死んだ子の年をくるやうに、こんな所でゴテゴテ云はれちや、やり切れませぬからなア。エヽ、何だか気がせく、斯様な所でヒマ取つては、第一タイムの損害だ、娑婆で金貸しをして居つた時にや、寝とつても起きとつても、時計の針がケチケチと鳴る内に、金の利息が、十円札で一枚づつ、輪転機で新聞を印刷するやうに、ポイポイと生れて来たものだが、最早ここへ来ては無一物だ、これから一つ冥途を開拓して、娑婆に居つた時よりもモ一つ勉強家となり、大地主となつて、冥途の一生を送りたい。どうぞ邪魔をして下さるな』
と云ひながら、大股にふん張つて、関所を突破せむとする。
この騒ぎに伊吹戸主の神は関所の窓をあけて、一寸覗かせ給うた。欲野深蔵は判神の霊光に打たれて、アツとその場に悶絶し、蟹のやうな泡を吹いて苦み出した。忽ち館の一方より数人の番卒現はれ来り、欲野深蔵の体を荷車に乗せ、ガラガラガラガラと厭らしき音をさせながら、何処ともなく運び去つた。これは地獄道の大門口内へ放り込みに行つたのである。深蔵は暗き門内へ放り込まれ、ハツと気がつき、ブツブツ小言を小声で囁きながら、トボトボと欲界地獄を指して進み行くのであつた。
 抑もこの八衢の関所は天国へ上り行く人間と地獄へ落ちる人間とを査べる二つの役人があつて、天国へ行くべき人間に対しては、色の白き優しき守衛がこれを査べ、地獄へ行くべき人間に対しては形相凄じい赤い顔した守衛がこれを査べる事になつてゐる。
 竜公はこの光景を見て、何とも云へぬ怖れを抱き治国別の袂を固く握り、不安の顔付にて少しばかり慄へながら、息をこらして数多の精霊の取査べらるるのを冷々しながら眺めて居る。しばらくすると錫杖をガチヤンガチヤンと言はせながらやつて来たのは、バラモン教の宣伝使であつた。宣伝使がこの赤門をくぐらうとするや白、赤二人の守衛は門口に立塞がり、
『しばらくお待ちなさい、取調ぶる事がある』
と呼びかけた。宣伝使は後振返り怪訝な顔をして、
『拙者は大自在天大国彦命の御仁慈と御神徳を天下に紹介致すバラモン教の宣伝使でござる。拙者をお呼止めになつたのは何用でござるかな』
赤『ここは霊界の八衢だ。その方が生前における善悪の行為を査べた上でなくては、この門を通行させることはなりませぬ。ここに御待ちなされ』
『ハテ心得ぬ、吾々は大黒主の命を奉じ、月の国を巡回致し、デカタン高原に向ふハリスと申す者、決して吾々は死んだ覚えはござらぬ。いい加減に戯談を云つておきなさるがよからう。大黒主の御命令、片時も猶予してゐる訳には参らぬ』
とまたもや行かむとする。赤は目を怒らし、大喝一声、
『偽宣伝使、しばらく待てツ』
と呶鳴りつけた。ハリスはこの声にハツと気が付き、あたりをキヨロキヨロ見廻しながら、
『ヤアどうやらこれは霊界のやうでござる、いつの間に斯様な所へ来たのかなア』
『その方は世界の人民に神の福音を宣べ伝へ天国へ案内すると申しながら、その実際において霊界の存在を信ぜず、神を認めず、半信半疑の状態に在つて、数多の人間を中有界または地獄へ幾人落したか知れない偽善者だ。今ここで浄玻璃の鏡にかけて、その方が霊肉共に犯したる罪悪を査べてやらう』
『イヤもう恐れ入りました。仰せの通り社会の人民に対し、勧善懲悪の道を説きまたは天国地獄の存在を朝から晩まで説き諭して参りましたが、実際において左様な所があるものか、人間はこの肉体を去らば、後は煙の如く消え失せるものだ、コーランに示されたる天国地獄の状態は、要するに、社会の人心を調節する方便に過ぎないものだと信じて居りました。それ故どうしてもハツキリとした事は申されず、自分も半信半疑ながら天国地獄の消息を説諭して来たのでございます。今となつて考へてみれば、死後の世界がかくも儼然として存在するとは、実に驚愕の至りでございます』
『その方は宣伝使のレツテルをつけて世人を迷はした罪は大なりと雖も、また一方において朧げながら、神の存在を無信仰者に伝へた徳によつて、地獄行だけは許して遣はす、少時この中有界にあつて心を研き神の善と真は何如なるものなるかを了解し得るまで、修業を致したがよからう。ここ三十日の間、中有界に止まることを許してやるから、その間に智慧と証覚を得、愛の善と信の真を了得し得るならば、霊相応の天国へ昇り得るであらう。この期限内に万々一改過遷善の実をあげ得ざるにおいては、気の毒ながら地獄へ落さねばならない、サア早く東を指して進んだがよからう』
『ハイ、特別の御憐愍を以て地獄落の猶予期間をお与へ下さいまして有難うございます。左様なればこれから中有界を遍歴し、力一杯善のために善を行ひ、迷ひ来る精霊に対し、十分の努力を以て、私の悟り得たる所を伝へるでございませう』
『コリヤコリヤ、ハリス、その方が覚り得たと思つたら大変な間違であるぞ、皆神さまの御神格の内流によつて、知覚し、意識し、証覚を得るものだ。決して汝一力のものと思つたら、忽ち天の賊となつて地獄へ落ちねばならないぞ、ええか、分つたか』
『ハイ、分りましてございます、しからばこれより東を指して修業に参ります』
『期限内に必ずここへ帰つて来るのだぞ、その時改めて汝の改過遷善の度合を査べ、汝が所住を決定するであらう』
『どうも御手数をかけまして、真にすみませぬ、左様なれば御免下さいませ』
と云ひながら、始めの勢どこへやら、悄然として次第々々にその影はうすれつつ、靄の中に消えてしまつた。
 竜公は治国別の袖をひき、小声になつて、
『モシ先生、宣伝使も霊界へ来ては、カラキーシ駄目ですなア、現界では丸で救の神様のやうに言はれて居つても、茲へ来ると本当に見る影もないぢやありませぬか』
『ウン、さうぢや、俺達もまだ天国へは行けず、中有界に迷うて居るのだからなア、それだから吾々は八衢人足と、信者以外の連中から云はれても仕方がないのだ』
『どうしたら天国へ行けるでせうかな』
『さうだ、心のドン底より、神さまの神格を理解し、神の真愛を会得し、愛のために愛を行ひ、善のために善を行ひ、真のために真を行ふ真人間とならなくちや到底駄目だ。俺達も少しばかり言霊が利くやうになつて、自分が修行した結果神力が備はつたと思うて居つたが、大変な間違ひだつた、何れも皆瑞の御霊神素盞嗚尊様の御神格が吾精霊を充たし、吾肉体をお使ひになつて居つたのだつた。これを思へば人間はチツとも我を出すことは出来ない、何事も自分の智慧だ力だ器量だと思ふのは、所謂大神の御神徳を横領致す天の賊だ。斯様な考へで居つたならば、到底何時迄も中有界に迷ふか、遂には地獄道へ落ちねばならぬ、有難や尊や、神様の御恵によつて、ハツキリと霊界の様子を見せて頂き、実に感謝の至りである。これから吾々は、今迄の心を入れ替へて、何事も神様に御任せするのだなア、自分の力だと思へば、そこに慢心の雲が湧いて来る。謹んだ上にも謹むべきは心の持方である。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と合掌し感涙に咽ぶのであつた。竜公もまた無言のまま手を合せ、感謝の涙にくれてゐる。伊吹戸主神は二人に会釈し、スーツと座を立つて、館の奥深く入らせ給うた。二人は後を眺むれば、伊吹戸主神の姿は丸き玉の如く光り輝き、その神姿は判然と見えず、月の如き光が七つ八つ或は九つ円球の周囲を取巻き、次第々々に奥の間に隠れ給ふのであつた。
 凡て智慧と証覚のすぐれたる神人を、それより劣りし証覚者が拝する時は、光の如く見えて、目も眩くなるものである。神の神格は神善と神真であり、それより発する智慧証覚は即ち光なるが故である。二人は愕然としてものをも言はず、再び八衢の関所に目を放ちここに集まり来る精霊の様子を瞬きもせず窺つてゐた。

(大正一二・一・九 旧一一・一一・二三 松村真澄録)



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