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物語47-1-51923/01舎身活躍戌 逆襲王仁三郎参照文献検索
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第五章 逆襲〔一二三八〕

『見渡す限りの枯野原
 万木の梢は羽衣を脱ぎ
 肌をたち切るばかりの
 寒風に戦慄してゐる。
 独り松柏のみは蒼々たり
 ヒヨやツムギや百舌鳥雀などが
 悲しげな声調を搾つて
 浮世の無情を訴へてゐる。
 吾目に収容さるるものは
 生気の褪せた
 細氷の波を敷きつめた
 銀冷の世界のみだ。
 万有一切はあらゆる活動を休止し
 所謂
 冬籠りの最中である
 かかる冷酷無残の光景を眺めて
 貧しき人は何れも寒気と飢餓に泣く
 反対的に富めるものは
 雪見の宴を張り
 嬋妍たる美姫を招き
 青楼に酒盃をかたむけ
 体主霊従的歓楽に耽る
 社会は真に様々なものだ
 冬日積雪のために
 労働の機を得ず
 生命の糧を求めて泣くもあれば
 冷たき雪の景色をながめて
 酒類にひたり
 一宵千金を浪費濫用して
 猶も惜しまぬものあり
 顧みれば凡て社会の諸行は無常なり
 因果応報の神理に暗き
 現代人は科学的知識のみを漁りて
 永遠の天国を知らず
 また根底の国の何たるを解せず
 酔生夢死無意義なる
 生涯を送るあり
 世間の無情冷酷を歎きて
 厳寒の空に戦き慄ひつつ
 面白からぬ冬日を送るもあり
 人生の暗黒面は
 椿の花の梢を去る如く
 ぽたりぽたりと地上に降る
 悲喜交々の社会のおとづれ
 人の身の四辺を包む怪しさ。

   ○

 アヽされどされど
 愛善の火と信真の光りに
 自ら眼醒めたる吾人は
 光栄なり幸ひなり
 天地の主なる神の
 玉の如き神格の内流を
 全身に漲らしつつ
 智慧と証覚にひたりてより
 世人の怖るる針刺す如き厳冬も
 万物声を潜むる冷たき
 死んだやうな夜半の空気も
 吾人には暖かき春陽の思ひあり
 アヽ主の神よ主の神よ
 わが身魂を機関の一部分として
 いや永久に使はせ給へ
 無限絶対無始無終の神格者
 愛善の肉と
 神真の血を以て
 吾等の上に太陽の如く月の如く
 降らせたまへ
 惟神霊幸はへませ』

と歌つて郊外の散歩をして居るのはアークであつた。一人はタールのバラモン信者である。
『オイ大将、俄に悟つたらしいことを云ふぢやないか。俺は悪党だからアークと名をつけたのだ、それだからどこまでも徹底的に悪をやると主張して居たが、たうとう治国別の宣伝使とぶつつかつて俄に屁古垂れたぢやないか』
『俺があの宣伝使と出会つたお蔭で、今日の地位になつたのぢやないか、エーン、よく考へて見よ、ランチ将軍、片彦将軍の帷幕に参じ、重要会議に参列する身分となつたのは、矢張り治国別さまのお蔭ぢや、しかし治国別さまはどうなつたのだらうかなア。よもやあの人格者がオメオメとランチ将軍の陥穽に陥る筈はあるまいしなア………何だか俺は気がかりでならないのだ。何処迄も俺達は表面ランチ将軍に服従し、治国別さまの身辺を気を付けなければならない義務があるのだ。それにつけてもビルの奴、癪に触るぢやないか、ランチの従卒ぢやと思うて、無茶苦茶に威張り散らすのだからなア』
『威張りたい奴は威張らして置くさ。朝から晩まで馬のお世話ばかりさされて居るのだから、一寸は威張らしてやつたて好いぢやないか。誰だつて何かの特権がなければ勤まらぬからなア、彼奴だつてさう馬鹿にしたものぢやないよ。俺だつて貴様だつて二三日前までは随分惨めなものだつたからな。しかし人間は一旦ドン底に落ちて来ねば駄目だ。「人生の破調は神を輸入す」とか、どこやらの哲学者が吐いたぢやないか。一旦失脚せなくては、真の神に接し神の神力を受ける事は出来ないものだ』
『さうだなア。何でもエマーソンとか云ふ哲人の言葉だと聞いてゐるが、随分エラーソンに云つたものぢやなア。アハヽヽヽ』
『古今東西の偉人傑士と云ふ奴は、大抵孤児か貧児か、もしくは私生児或は極めて惨めな不仕合せ者であつた事を考へて見ると、人間と云ふものは、どうしても悲境の淵に沈んで、社会の辛酸を嘗めて来なくては到底駄目だよ。人間の父母の恩愛は、動もすれば舐犢の愛に流れ易きものだ。貴族の伜が鞭撻ない手に育てられ、人となつた所謂寵児は、往々にして放蕩遊惰の鈍物となるの事実は、世間には随分沢山あるものだからなア。世の諺にも、親はなくても子は育つと云ふぢやないか。人間はどうしても神様の保護を受けなくては、一力で存在する事は出来はしない、誠の神の愛に触れなくちや駄目だ。俺は神様の愛の呼吸と云ふ歌を作つて見たのだが、一つ謹んで拝聴する気はないか』
『どうせ、貴様の事だから碌な歌は詠めはしよまい。しかし後生のためだから、一つ辛抱して聞いてやらう』
 タールは、エヘンと咳払しながら、
『吾輩の詩歌は左の通りだ。

 天父の聖心にある
 大愛の鼓動は
 直に美しく
 しかも厳粛なる
 自然の情調として
 促々として吾身に迫り
 動もすれば私欲野念のために
 昂進し攪乱する
 吾心身の脈搏を鎮静し
 かくて従容として
 捨身無為の
 本然的活動に入らねば止まない。
 如何に安息を求めて
 涼しき山奥や
 静な海浜に遊ぶも
 もしそれ
 心霊の内分に
 神と倶に働き
 天界を蔵して
 天地と呼吸を斉ふべき
 霊覚を欠かむか
 安息も立命も
 ただ一場の好夢にも比すべき
 憐れなる欺幻に
 過ぎないであらう』

『成程ちぎる秋茄子、根つから面黒くないわい。しかしながら、治国別さまに感化されて俄詩人となつたぢやないか。もうこれだけ詩文が綴れるやうになりやタールも文壇の花として、持て囃されるかも知れないよ。アハヽヽヽ』
『しかし俺はどうしたものか、バラモン軍に籍を置くのが、きつう嫌ひとなつたのだが、それだと云つて外にする事もなし、仕方が無いから先づしばらくは腰掛だと思うて、ランチ将軍や片彦将軍のお髯の塵を心ならずも払ふ事としようかなア。これが処世法の最も優秀なる道だらうよ』
『さうだ、治国別さまが陣中にお出になつたのだから、何と云うても此処は辛抱せなくてはなるまい。ランチ、片彦両将軍も何れは帰順するだらうからなア。さうすれば吾々は三五教の宣伝使となつて天国を地上に移写する事になるのだ。これが人間として最も勝れたる行ひだ。否人間として最も嬉しき事業だ』
『時に何だか向ふの方から、甚い勢で鳴物入でアーク神がやつて来るではないか。ヨウヨウ棺が来るぞ、しかも二挺だ』
『如何にも章魚にも足八本だ。ヨウあいつはエキスぢやないか。また獲物を旨くチヨロまかして持ち込んだのだらう。彼奴はまた、ランチ将軍の御覚え目出度うなつて威張り出しちや、大変だぞ』
 エキスは意気揚々として、蠑螈別、お民を駕籠に乗せ、四五人の番卒と共に此方に向つて帰つて来るのであつた。エキスはアーク、タールの両人を見るより、さも得意気に、
『ヤアその方はアーク、タールの御両所、お出迎へ大儀でござる』
 アーク、タールの両人はエキスに「お出迎へ大儀」と云はれ、殆ど目下扱ひをせられたやうな気分になつて業が沸いて耐らないけれど、態と素知らぬ顔をして何気なう、
アーク『やあエキス殿、御苦労でござつた。嘸ランチ将軍が、お喜び遊ばす事だらう。さうしてその駕籠の中の客人は一体何人でござるかなア』
 エキスはさも横柄に、鬼の首を竹篦で切り取つたやうな誇り顔で、
『大切なるお客人、某の弁茶羅、アヽ否、器量によつてお迎へ申して来たのだ。御本人の誰人なるかは、ランチ、片彦両将軍にお目にかけるまで発表する事は出来ない。さア御両所、先に立つて御案内めされ』
タール『随分威張つたものだなア。エヽ仕方がない』
『エキスに随いて奥へ進む事にしようぢやないか。大分に最前から郊外散歩をやつたからなア』
 エキスは道々歌ひ出した。

『バラモン教の大教主  大黒主の部下となり
 産土山の高原に  館を建てて世の中を
 掻き乱し行く曲津神  神素盞嗚の牙城をば
 屠らむために進み往く  ランチ将軍、片彦の
 その陣中に名も高き  ヒーロー豪傑このエキス
 神変不思議の妙法を  縦横無尽に発揮して
 神素盞嗚の尊さへ  攻めあぐみたるウラナイの
 教の司とあれませる  蠑螈別の教主をば
 吾言霊に靡かせつ  軍用金を献納させ
 将軍様の片腕に  勧めむためとやうやうに
 お供をなして帰りけり  蠑螈別の勇将が
 もはや吾手に入るからは  神変不思議の妖術を
 使うて世人を苦しむる  三五教の宣伝使
 仮令幾万ありとても  如何でか恐るる事やある
 これも全くバラモンの  尊き神の引き合せ
 ランチ、片彦両将も  嘸や満足なさるだらう
 この陣中に俺のよな  功名手柄を現はした
 勇士がまたとあるものか  アーク、タールの両人よ
 これから俺は将軍の  帷幕に参じ汝等を
 それ相当の職掌に  使うてやらう楽しんで
 御沙汰をまつがよからうぞ  お前も何時まで番卒の
 小頭みたよな役をして  居つた所で詰らない
 世の諺に云ふ通り  立ち寄るならば大木の
 密葉の影ぞ親方と  箸は太いがよいと云ふ
 社会の真理を悟るなら  今日から俺の御家来と
 なつて神妙に仕へよや  今から注意を与へ置く
 あゝ惟神々々  バラモン教の大御神
 御霊幸はへましませよ』  

 アークは蠑螈別の乗つて居る棒端をグツと握り、
『オイ、この駕籠、一寸待つた』
エキス『待つたとはどうぢや、一時も早く将軍のお目にかけねばならぬ大切なお客様だ、邪魔ひろぐと容赦は致さぬぞ』
 アークは、
『こりやエキス、その方は今何と申した。吾々両人は両将軍の片腕となつて帷幕に参列する重役だ。貴様の不在中に任命式が行はれたのだから、知らぬのも無理はないが、余りの暴言ぢやないか。この方に対し「出迎へ大儀」などと部下扱ひをなすとは以ての外の汝の振舞ひ、吾々は上役の職権をもつてその方を放逐致さうか』
『ソヽそんな事ア俺は知らなかつたのだ。間違つて居れば許して貰はなくては仕方がない。しかし最も大切なる客人をお連れ申して来たのだから、さう頭ごなしに呶鳴りつけられちや、このエキスも引合はぬぢやありませぬか』
『知らなければ仕方がない、差許す、しかしながら、今約束をして置くが、エキス、その方は、将軍様のお見出しに預かつて、吾々と同役になつても決して威張つてはならないぞ。なあエキス、こりやエキスの野郎、よいかエキス』
タール『やい、エキス、今アーク重役さまの言葉をよく腹に入れたか。やいエキス、エー聞いただらうなあエキス、どうだいエキス、返答は』
『さう沢山さうにエキスエキスと云つて貰つちや、お客さまに対し外聞が悪いぢやありませぬか。一口おつしやつたら分つて居るぢやありませぬか』
アーク『今は俺が上役だから、今の中に沢山さうに呼びつけにして置かぬと、重役になつたら、もう呼ぶ事が出来ないからなア。エキス、さうだらうエキス、きつと羽張つてはいけないぞ。こりやエキス』
『アハヽヽヽ、何か旨い液吸うて来たと見えるな。それでエキスエキスとアークさまが云ふのだらう』
『旨い液を吸うて来よつたのだ。盗人の上前をはねて二千両、蠑螈別から五千両、都合七千両のエキス(液吸う)たから、これ位云うてもよいのぢや』
 エキスは、
『ウフヽヽヽヽ』
と私かに笑ふ。

(大正一二・一・八 旧一一・一一・二二 加藤明子録)



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