出口王仁三郎 文献検索

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物語47-1-41923/01舎身活躍戌 乱痴将軍王仁三郎参照文献検索
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第四章 乱痴将軍〔一二三七〕

 馬は君の危急を知らず、鷹は悪人の頭上を飛ぶとかや、ランチ将軍、片彦将軍は、イソ館の攻撃戦の容易ならざるに頭を悩まし、反間苦肉の策を弄して漸く治国別を陣中に迎へ入れ、如何にもしてこの強敵を亡ぼさむかと煩悶苦悩の最中にも拘はらず、部下の木端武者共は、お祭り気分になつて気楽相に相撲をとり、さざめき合うて居る。
 陣屋の奥の間にはランチ将軍、片彦将軍を始め治国別の三人、和気靄々として酒酌み交し、和睦の宴に耽つてゐる。そこへ慌しくやつて来たのは力強の相撲好きのエキスであつた。
『エー、将軍様に申し上げます。只今竜公が三五教へ寝返りを打ち、そのスパイとなつて、吾陣中へ舞ひ込んで参りました。彼奴は御存じの通り中々の力強でござりますれば、到底一通りではとつ捉まへる訳には参りますまいから、どうぞ貴方の御秘蔵の曲輪をしばらくお貸し下さいますまいか。その曲輪によつて彼をフン縛り、一伍一什を白状させねば、駄目ですからな』
ランチ『何、竜公が……三五教のスパイになつたとな。アハヽヽヽ、決して案ずるには及ばぬ。現に三五教の御大将、治国別様はこの通り吾々と和睦を遊ばし、主客打ち解けて酒宴の最中だ。それよりも竜公を大切に致して、酒でもふれまつたらよからう』
『ヤー、これは失礼致しました。そこにござるのは、噂に高き治国別様でござりましたか。これはこれは存ぜぬ事とて御無礼を申しました』
『アー、竜公さまはどうしてゐられますかな』
『ハイ、大変な元気で相撲をとつてゐられます。実の処は、私も今一勝負して来たところです』
『貴方も随分立派な体格だが強いでせうな。竜公さまとの勝負は、どうなりましたか』
『ハイ、い……いや……もう、とんと……何でござります』
『ハヽア、何れ劣らぬ竜虎の争ひ、要するに行司の預りと云ふ処ですかな。まアまア分けをとつておけば互に恨みが残らいで結構ですよ。アハヽヽヽ』
『ヘー、その、……エー、……何でござります。つひ、馬に蹴られまして、マーケタと云ふのですな』
『うまく云ひますね。二番勝負でしたか、一番勝負でしたか』
『ハイ、一番と云へば一番、二番と云へば二番ですな。真中で水を入れたものですから、先の一番は拙者が負けました。後の一番は先方が勝ちましたよ』
 ランチ外二人は、
『アハヽヽヽ』
と大口を開けて笑ふ。
ランチ『おい、エキス、まア一杯やつたらどうだ』
『(都々逸)相撲にや負けても怪我さへなけりや
   ランチ将軍が酒飲ます
アハヽヽヽいや有難うござります。この頃は何と云つても政府が物価調節、下落の方針を採つてゐるのですから、まけさへすればいいのです。負けて勝取ると云ふ事がありますからな。吾々共から範を示さなくちや、どうしても不良商人が暴利を貪つて仕方がありませぬからな』
片彦『アハヽヽヽ、負惜みの……何処までも強い男だな』
『将軍さま、貴方だつて負けるのは上手でせう。治国別さまの言霊戦に向つた時はどうでしたな。エヘヽヽヽ』
『和睦の済んだ上は河鹿峠の事は云はないやうにしてくれ。勝敗は時の運だからな』
 かかる所へ竜公とタールは軍扇を持つたまま恐る恐る進み来り、
竜公『一寸将軍様に伺ひますが、治国別の宣伝使はお見えになつて居りますか』
と戸の外から尋ねて居る。
片彦『さう云ふ声は竜公ぢやないか。何処をうろついてゐたのだ。まア這入れ』
『はい、御免を蒙ります』
と云ひながら戸をガラリと開けて、タールと共につかつかと進み入り、
竜公『まだ新年に早うござりますが、皆さま、まけましてお目出度うござります』
片彦『馬鹿!』
『いえいえ、エー……誤解して貰つちや困ります。実は只今馬場において此処に居ますこのエキスの関取と格闘をやりました処、脆くもエキスが負けましたので、エキス君に対して御挨拶を申し上げたのでござります』
ランチ『アハヽヽヽ、片彦さま、何事も、もうこの上は水に流すのだな』
『仕方がありませぬ。常ならば許し難き代物ですが、今日は和睦の祝に忘れてやりませう。おい竜公、貴様は余程幸福者だ』
『本当にお察しの通り私は幸福者ですよ。到頭三五教の言霊を覚えちまつたものですから、最早今日となつてはバラモン教の百人や千人位は、とつて放る位は何でもありませぬからな。エツヘヽヽヽ』
ランチ『竜公、久し振りだ。一杯やらうかい』
『ハイ、有難う。例の○○酒ぢやありませぬかな』
『決して鴆毒は這入つて居ないよ。これこの通り俺が飲んでゐるのだから』
『成程、それなら恐れながら、将軍様のお飲りになつたのを頂きませう。余程剣呑ですからな』
『心の鬼が身を責めるのだ。その方は余程悪いことを企んでると見えるな。心に悪あれば人を恐るるとか、また心に企みあれば人を疑ふと云ふ事があるぢやないか。何か貴様は野心を包蔵してゐるのだらう』
『野心は貴方の方にあるのでせう。かうして治国別を此処へ導いて来たのは、うまく酒に酔はし、隙を狙つて○○しようと云ふ考へだと云ふ事はチヤーンとこの天眼通で調べてあるのですよ。この竜公だつて、最早今日となつては神の神力と智慧に充たされ、今迄のヒヨツトコ野郎とは聊か訳が違ふのですから、斯様な大胆な事を云つてゐられるのですよ。一つ言霊を発射して御覧に入れませうかな。エヘヽヽヽ』
『しようもない事を覚えて来たものだな』
片彦『何程、威張つた所で駄目だらうよ。そりや大方治国別様の事を云つてゐるのだらう。虎の威をかる狐とは貴様の事だらうよ。オホヽヽヽ』
と心中にやや恐れながら豪傑笑ひに紛らしてゐる。
治国『いや大変に頂戴を致し酩酊しました。エー何処かで休息さして貰ひたいものですな』
ランチ『アー、大変にお疲れでせう。では奥の間にユルリと御休息なさいませ。やア竜公、貴様も一緒にお供して奥の間で休んだらどうだ』
『ハイ、有難う、治国別様にグツスリと寝んで頂きまして、この竜公は万一に備ふるため、不寝番を致しませう』
『おい竜公、まだ疑つてゐるのかな』
『平生のやり方が、やり方ですから、何程和睦をなさつたと云つても、どうして油断が出来ませうか。おい、タール、貴様も俺について来い』
片彦『いや、タールには至急甲付けたい事があるから、竜公一人奥の間へ宿直を致したがよからう。さア治国別さま、案内を致しませう』
と先に立つて立派な一段高い俄造りの奥座敷に案内した。
 この居間は燕返しになつて居て、一つ針金を引張ると真暗な深い穴に落ち込むやうになつてゐる。さうして此処は水牢になつてゐる。治国別、竜公の両人はこの間へ足を踏み込むや否や、忽ち座敷はクレリと燕返しの芸当を演じ、真暗な谷底へ落ち込んでしまつた。水は一尺ばかりより溜つてゐないが、両人は岩窟にいささか頭を打ち、憐れや忽ち気絶してしまつた。ランチ将軍、片彦、エキスはこの場に走り来り、手を拍つて愉快気に笑ひ散らした。
片彦『ヤア、ランチ殿、河鹿峠の大物をかくの如く計略にかけて岩窟内へ落した以上は、最早天下に恐るべきものはありますまい。サアこれから一杯やりませう』
とまたもとの座へ引返し一生懸命に大乱痴気騒ぎを始め出した。
ランチ『どうも陣中の事と云ひ、男ばかりが酒を飲んで居つてもはづまぬぢやないか。片彦殿、部下の奴共に少し渋皮の剥けた女を探さして此処へ貢がしたらどうでせう。もはや治国別を殺した以上は大黒主様へ対しても云ひ訳の立つと云ふもの、余り急ぐにも及びますまい。まづ此処で一年ばかり野営をして英気を養ひ、河鹿峠を乗り越えてイソ館へ乗り込む事に致しませう。どうせ三五教は此処を通らなくちや、ハルナの都へ行く事は出来ませぬから、一年間も女なくてはやりきれないでせう』
『成程、しからばエキス、その方御苦労ながら二三人の部下を引率れ怪しの森に陣取り、一は三五教の宣伝使の通過を取調べ、一は美人の通過するあらば有無を云はせず、ひつ捕らへて陣中へ連れ来るやう取計らへよ』
『ハイ、委細承知仕りました』
と此処にエキスはコー、ワク、エム外二人を率ゐ、怪しの森に守衛を命じおき、自分は陣中を彼方此方と看守りする事となつた。
 後にランチ、片彦両将軍はクビリクビリと酒を傾けながら雑談に耽つてゐる。
ランチ『アー、都合よくいつたものだな。鬼春別将軍、久米彦将軍が今日の吉報を聞いたら嘸喜ばれるだらう。しかし吾々は居ながらにして功名を樹てたのだから実に幸福だ。これと云ふのも、全く大自在天様の御神力だ』
『成程、全く大自在天の御神力に間違ひはありますまい。これについてアーク、タールの両人もこれから抜擢してやらねばなりますまい。一つ将軍から直接にお盃を与へておやりなされば、将来のため奨励となつていいでせう』
『成程、貴将軍の云はるる通りアーク、タールの両人を此処へ呼び出しませう』
 ランチは手を拍つて従卒を招いた。従卒ビルは恐る恐る進み出で、
『お呼びになりましたのは私でござりますか』
『ウン、只今アーク、タールの両人をこれへ呼び出して来い、否引き連れて参れ』
『ハイ、承知致しました』
とこの場を立出で、肩肱怒らし屋外に出でて行く。
 アーク、タールの両人は真裸体となつて治国別の遭難を知らず土俵で四股を踏んで居る。そこへビルは鼻高々と勅使気取りになつて現はれ来り、
『アイヤ、そこに居るアーク、タールの両人、申渡す仔細がある。某についてランチ将軍の御前まで罷りつん出よ』
と下知した。アーク、タールの両人はビルの怪しきスタイルに吹き出し、
アーク『アハヽヽヽ将軍の従卒だと思つていやに鯱子張つて居やがるな。何だ、鉛の福助人形見たやうなスタイルしやがつて「罷りつん出よ」もあつたものかい。貴様のスタイルこそ古物屋の店前へ日の丸の扇を持つて坐つてゐる大文字屋福助ソツクリだ、アハヽヽヽ笑はしやがるわい』
『こりやこりや両人、ビルの言葉でないぞよ。勿体なくもランチ将軍様の御仰せだ。ビルの言葉は即ちランチ将軍の御言葉だ。さあさあキリキリお立ち召され』
『エー、仕方がないなア。自分より五六段も低い奴に威張り散らされて、堪つたものぢやない。これだから宮仕へは嫌といふのだ。本当に木の角杭のやうな代物に威張り散らされて何処に男が立つものか。なあアーク』
『ウン、さうともさうとも、しかしながら主命はもだし難しだ。さア行かう』
 此処に二人はビルに導かれ、ランチ将軍の居間に進んだ。しかしながらこの両人は已に已に心機一転して、内心三五教の信者となつて居た。二人の心がかくも変つて居るとは神ならぬ身の知る由もなく、ランチ、片彦両将軍は二人を此上なきものと愛で慈しみ、一切万事の相談をなすべく幹部に抜擢してしまつたのである。

(大正一二・一・八 旧一一・一一・二二 北村隆光録)



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