出口王仁三郎 文献検索

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物語46-4-201922/12舎身活躍酉 金の力王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 金の力〔一二三〇〕

 コー、ワク、エムは一人のお民を相手に、投げられては起き、投げつけられては起き、武者振りついて挑み戦うてゐる。そこへ、枯草の野道を分けて「おーい おーい」と呼はりながら近寄つて来た一人の男、この態を見て、
『やあ、お前はお民か』
と云つたきり、ドスンと腰を抜かし倒れてしまつた。お民は、三人を相手にしながら、
『あゝ蠑螈別さま、よう来て下さつた。私、野中の森まで行つた処、あまり沢山の人声がするので、本街道へ出ようと思つて此処までやつて来た処、泥棒のやうな奴が出て無体な事を云つて通そまいとするのよ。それで此方も仕方がないから一つ思ひ知らしてやらうと思つて活劇をやつてゐる所だ。よい所へ来て下さつた。さあ、一つ貴方も手伝つて下さい』
 蠑螈別は腰を抜かして身体の自由が利かなくなつてゐる。しかし敵に弱身を見せては一大事と心を定め、
『アツハヽヽヽ、お民、それしきの蠅虫を俺が出るまでもないぢやないか。俺や此処でゆつくりと、煙草でも飲んで見物するから、一つお前の活動振りを見せて貰はう』
『最前から永らく揉み合つてゐるのだから、私息が絶れさうなのよ。さあ貴方、入れ替つて一つ此奴を懲してやつて下さい。何ゆつくりして居なさるの』
『さあ、さう急いだつて仕方がないぢやないか』
 お民は蠑螈別の吃驚腰が抜けた事を直覚した。
お民『こりや三人の男ども、大将軍のお出ましだから一つ此処で水を入れたらどうだ。いづれ勝敗はきまつてゐるが、お前も随分喉がひつついただらう』
コー『それなら一寸一服しようかな。おい、ワク、エム、もとから親の敵でもなし、怪我しちや互によい損恥だ。国には妻子もあるのだからな』
ワク『うん、そりや、さうだ。それならまあ、一寸休戦かな』
エム『俺は中立国となつて平和の調停に努むる事としよう』
お民『ホヽヽヽ、まあ皆さま、多少負傷をなさつた塩梅だから、此処を赤十字病院として敵味方の区別なく傷の癒えるまで休戦しようかな』
エム『至極妙案だ。そいつあ面白い、一、二、三』
と云ひながら三人は蠑螈別の一間ばかり隔たつた処に、単縦陣を張つて腰を下し休息しながら汗を拭いてゐる。
お民『もし、蠑螈別さま、貴方あまり冷淡ぢやありませぬか。女房がこれほど苦戦してるのに、高見から見物するとは不人情極まる、しかし大方、吃驚腰が抜けたのだらうね。敵の中だから、そんなに慌ててはなりませぬよ』
と耳の端で囁く。コーは早くもこの声を聞きとつた。
『ハヽヽヽヽ、何だ、俺達の武勇に恐縮して吃驚腰を抜かしよつたのだよ。おい、ワク、エム、最早大丈夫だ。恐るる事は少しもないぞ。糞落着きに落着いて居やがると思つたら、アハヽヽヽ抜かしよつたのだ』
 ワク、エム一度に、
『アツハヽヽヽ』
蠑螈『吾々は神の国の軍人だ。肉体の人間に対しては門外漢だ。これしきの敵に対して腰を抜かすやうな卑怯者が何処にあるか。見違ひするにもほどがあるぞ』
コー『ヘン、惚れた女の前だと思つて痩我慢を張つたつて、チヤンと見抜いてあるのだ。それがもし見違つて居るのなら立つて御覧』
蠑螈『いやその儀なら、たつてお断り申す。腰は立たないが腹は随分立つてゐる』
コー『俺も何だかナイスの顔を見ると立つて来たやうだワイ。立つて立つて立ち向ふと云ふ塩梅式だ。「武士のさちやた挟み立ち向ひ、いるまとかたは見るにさやけし」と云つて、まとかたと云つて気分のよい名所だな』
蠑螈『こりやこりや三人の奴、こんな処にまとかたがあるか。そんな地名は自凝島の名所だ』
エム『何だか知らねえが、吾々は一つのまとかたがあつて活動を開始してるのだ』
蠑螈『そのまとと云ふのは一体何だ』
エム『云はいでも推量したがよからうぞ。軍人兼泥棒さまだ。おれさまの要求する所は決して石でも瓦でもない、また水でも茶でもないのだ』
蠑螈『アハヽヽヽ、貴様は金さへ与れば済むのだな。金で済むのなら安い事だ。此処にちつとだけれど九千持つてゐる。どうだ、これをちつとばかり貴様にやらうか』
コー『そんな目腐れ金に目をかける泥棒があると思つて居るか』
蠑螈『一千ばかり与らうか』
エム『三人の中へ一銭位貰つても三厘三毛よりならぬぢやないか。馬鹿にしやがるない。まだ此処に弱虫が二人も慄つて居るのだから、頭割りにすれば二厘にしかならない。饅頭の半分も買へないやうな目腐れ金を持ちやがつて、金だなんて、あまり人を馬鹿にするない』
蠑螈『ハヽヽヽヽ感違へしやがつたのだな。俺の九千と云ふのは九千円の事だ。それだからお前達に一千円やらうと云ふのだ』
コー『ヤア、そいつは結構だ。頂戴する事にしようかな。強奪すれば純然たる泥棒だが、向ふから与らうと云ふのに貰ふのは当然だ』
蠑螈『貰つても盗つても同じ事ぢやないか。名分のみ貰つたにした処で、実際は脅迫されて与るのだから盗られたやうなものだ。オイ泥棒、それなら千円此処にあるから受取れ』
エム『オイ、ワク、コー、貰つても泥棒同様だと云ふぢやないか。泥棒と云はれちや馬鹿らしい。一千円位貰つても、つまらぬぢやないか。九千円全部強奪してやらうかい。同じ泥棒と云はれるのなら太い方が得だからな』
蠑螈『実の処は、俺もお寅婆さまが貯へて居つたのを泥棒して来たのだ。このお民だつて共謀の上だ。さうすりや俺もお民もその一部分に加はるだけの資格が具備してるのだから、貴様等三人に三千円やらう。さうして、そこに居る人足には二人に千円やる事にしよう。残り五千円はまあ俺の所得にして置かうかい。俺はこれからまだまだ遠国へ行かなくちやならないからな』
コー『何と比較的欲のない腰抜けだな』
蠑螈『ウン、腰抜けだ。腰さへ立てば一文だつてやる気遣ひはないのだが、何れ貴様等に盗られてしまふ可能性があるのだから、俺の方から、くだけて出たのだ。一人に千円と云ふ銭儲けは、貴様が一生働いたつて出来やしないぞ。オイ、三人の奴、按摩賃だと思つて俺の腰を揉んでくれ。さうすりや。また三円ばかり改めて恵んでやらぬ事もないから』
ワク『イヤ、生れてから見た事もない千円の金を貰つて、またその上頂くやうな事をしちや冥加につきます。もう一厘も要りませぬから腰を揉まして下さいな』
蠑螈『ウン、差許す。さあ、しつかり揉め』
お民『千円がとこ、親切に揉むのですよ。しかし腰から下は揉んじやなりませぬよ』
エム『アハヽヽヽ、御心配なさいますな。仮令揉んだ所で吾々は女ぢやありませぬから、どうぞ御心配はなさいますな』
 五人は蠑螈別より四千両の小判を受取りホクホクものである。そこへやつて来たのは一人の大目附であつた。
『こりやこりや、コー、ワク、エム、何を致して居るか』
ワク『やあ、これはこれは大目附のエキスさまですか。今吾々この怪しの森の辻番を致して居ります所へ、向ふの方より「スタスタスタ」と勢ひ凄じくやつて来たのはこの女、なかなかの強者でこの関門に通らうとするので、この女の襟を取り無理に叩いてゐました所へ、またもやこの女の夫と見えて、矢を射る如く飛んで来るものがある。見ればウラナイ教の神力無双の蠑螈別、エム、コー他二人は倉皇ワクワクとして縮み上つてゐるにも拘らず、このワクは襟髪握りスツテンドウと投げやれば……流石の蠑螈別も、かくの如くクタばつて身動きもならぬこの浅間しさ、どうぞお褒め下さいませ』
エキス『アハヽヽヽ、うまく芝居を致すのう。内職はどうであつたか、随分懐が膨れただらうな』
エム『エー、大切な軍人の職にありながら、内職等とは思ひもよりませぬ。軍律厳しいこの陣中、どうして左様な内職なんか出来ませう』
エキス『それでも役徳と云ふものがあるだらう。オイ、コー、ワク、その方も役徳の収入があつた筈だ。各二分の一づつこの方に納めたらよからう』
コー『折角千円の金を手に入れたと思へば、二分の一出せなんて、あまりだ、五百円になつてしまふわ』
エキス『コーが五百円、ワクが五百円、エムが五百円、両人の名もなき供人どもは二百五十円づつこの大目附に献るのだ』
エム『もし、エキスさま、貴方は泥棒の上前をはねる大泥棒ですな。吾々は折角、骨折つて五百円の収入、貴方は手を濡らさずに、しめて二千円の収入があるぢやありませぬか。せめて十分の一位にして貰ひたいものですな』
エキス『それが上に立つものの役徳だ。人間は一段でも上の役人になるに限る。大臣なんかになつて見よ。知らぬ間に何十万円、何百万円の株券が一文もかけないのに降つて来る。山林田畑が何時の間にかチヤンと登記済になつてるやうなものだ。それだから大目附役の地位は棄てられないのだ』
蠑螈『エキスさまとやら、私は蠑螈別と云ふウラナイ教の教祖ですが、此処に五千円ばかり金を持つて居ます。この内千円ばかり献上致しませうかな。あまり沢山胴巻に巻いて居ると、重くて困つて居ます。ちと助けて貰ひたいものですな』
エキス『何、助けてほしいと申すか、よし五千円全部でも助けてやらう』
お民『オホヽヽヽ、あの蠑螈別さまの綺麗な事、あたい、それが好きで惚れたのよ』
蠑螈『それならエキスさま、お前エキス(益吸ふ)と云ふ名だから、綺麗薩張持つて去んで下さい。その代り一つお頼みがある。聞いて貰へるだらうかな』
エキス『頼みとは何でござるか』
蠑螈『外でもござらぬ。実はランチ将軍の家来にして欲しいのだ』
エキス『そりや大変都合の好い事だ。実の処、吾々の軍隊は三五教の言霊戦に、もちあぐんで居る所だ。お前さまはウラナイ教の教祖だと聞いて居る。ウラナイ教は人は少なくても大変な神徳があるさうだ。素盞嗚尊さまさへも如何ともする事が出来ないと聞いた上は末頼もしい。屹度ランチ将軍も二つ返事でお取り上げになるのは請合つて置きます。さあ蠑螈別さま、陣中へは最早何程もありませぬ。しからば賓客としてバラモン軍の参謀として御採用になるやうに私が努めます』
蠑螈『しかし生え腰が抜けて動けないのだ。あまり俄に走つたものだから、腰の蝶番がどうかなつたと見える。何分朝から晩まで坐り通しで、道を歩いた事がないのだから』
エキス『御心配なさいますな。今に駕籠を呼んで来て、従卒に担がせて御夫婦ともランチ将軍の陣営へ鄭重に送り届けます。そしてこのエキスも及ばずながらお伴致し、将軍様の許へ執りもち致す考へなれば御安心なさい』
蠑螈『ハイ、有難うござります。お民、もう安心せい。これだけの軍隊の中へ入つて居る以上は、お前も最早大丈夫だ』
お民『仮令どんな処へでも私をお見捨てなく連れて行つてさへ下さいますれば、どんな処へでもお伴を致します』

(大正一一・一二・一六 旧一〇・二八 北村隆光録)



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