出口王仁三郎 文献検索

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物語46-4-191922/12舎身活躍酉 怪しの森王仁三郎参照文献検索
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第一九章 怪しの森〔一二二九〕

 小北の山を包みたる  醜の八重雲隈もなく
 吹き払ひたる時津風  斎苑の神風しとやかに
 世人の心に積りたる  塵や芥を払ひつつ
 平和の花園忽ちに  神の館に開けけり
 あゝ惟神々々  八十の曲津の醜魂に
 とらはれ苦しむ枉人も  漸く眠りの夢覚めて
 お寅婆さまを始めとし  魔我彦、文助その他の
 神の司や信徒は  誠の神の恩恵を
 心の底より摂受して  勇みの声は天に充ち
 地上も揺ぐばかりなり  三五教に仕へたる
 松彦司を始めとし  五三公、万公その他の
 清き司は身を清め  心を浄め天地の
 誠の神と祀り替へ  以前の神を一所へ
 斎ひをさめて一同に  嬉しき別れを告げながら
 館を後に宣伝歌  歌ひ歌ひて進み行く
 お寅婆さまは松彦の  後に従ひ吾は今
 誠の神に救はれぬ  悪魔の虜となり果てし
 蠑螈別やお民をば  誠の道に誘ひて
 眼を覚まし救はねば  天地の神に相対し
 何の弁解あるべきか  何処までもと追ひ行きて
 是非とも真理を伝へむと  松彦一行に従ひて
 老躯をひつさげスタスタと  進み行くこそ健気なれ。

 小北山には松姫、魔我彦、お菊、お千代が重なる神柱となり、文助は依然として受付を忠実につとめ、その他百の役員信者は喜んで三五の誠の教を遵奉し、天国の福音を詳さに説き諭され歓喜法悦の涙にくれて居た。
 一方松彦一行七人は小北山の神殿を伏拝み、河鹿川の橋を渡つて浮木の森をさして進み行く事となつた。
 話は後へ戻る。浮木の森の三里ばかり手前に一寸した小さき森がある。ここは河鹿峠の本街道と間道との別れ道である。治国別、松彦が通過したのは、山口の森から近道を選んで間道を来たものであつた。この森は怪しの森と云つて絶えず不思議があると伝へられてゐた。この森へ入つたものは到底無事で帰れないと云ふ噂が立つてゐる。それだから追手に出会つた時等は、必ずこの森へ隠れさへすれば追手も大抵の時は追及せないのが例となつてゐる。故に一名難除けの森とも称へられてゐた。この森の入口、河鹿峠の本道、間道と分れてゐる辻の角に四五人の荒男がバラモン教の目附と見えて車座となつて退屈ざましに雑談に耽つてゐた。
コー『おい、ワク、この寒いのに火も焚かず、昼となく夜となく、こんな道へ辻地蔵の代用を仰せ付けられて居つてもつまらぬものだな』
ワク『一体この戦はどうなるだらうかな』
『どうなるつて、勝敗の数は正に歴然たるものだ。衆寡敵せず、窮鼠猫を噛むと云ふ事があるだらう。衆は所謂寡に敵する事が出来ないのだ。愈となれば鼠が猫を噛むやうなものだ。愈真剣となつた時にや、どうしても小人数の方が心が一致して大勝利を得るものだよ』
『それだつて衆寡敵せずとは多勢と一人とは敵はぬと云ふ事だ。多勢と小人数とは数において益において、凡ての点において敵はないものだ。強いものが勝ち、弱いものは負けるのは天地の道理だ。それだから衆寡敵せずと云ふのだ。貴様の解釈は矛盾してるぢやないか』
『衆寡敵せずと云ふのは衆が寡に敵せずと云ふのだ。寡が衆に敵せぬ時は寡衆に敵せずと云ふのだ。しかしあまり寡衆に敵せずと云ふ事は聞いた事がない。その証拠には河鹿山の戦ひを考へても分るぢやないか。敵は僅に四人、しかも武器を持つて居ない敵に対し、数百の勇士が脆くも潰走したぢやないか。これが衆寡敵せずの実例だ』
エム『時に兄弟、小北山にはウラナイ教とか云つて大変な信者が集まつてゐると云ふ事だが、こんな衛兵の役さへなければ、一遍どんな事をやつてゐるか研究のため行つて見たいものだな』
コー『随分沢山の女がゐるさうだ。浮木の里の女と云ふ女は大方あの小北山とかへ避難してるさうだ。しかし、あこへ行つたものを奪つて来ると云ふ事は到底出来ないさうだ。何でも神変不思議の術を使ひ、素盞嗚尊でさへもどうする事も出来ないと云ふ勢だからな』
エム『さうすると、余程強い奴が居ると見えるな。吾々の大将は素盞嗚尊の弟子の奴等三四人に脆くも敗走したのだ。三五教は偉いと思つてゐたが、小北山はさうするとそれ以上だな。何と上には上があるものだな』
コー『きまつた事よ。無茶ほど強いものはないからな』
エム『だつて片彦将軍だつて、ランチ将軍だつて、無茶で行つたぢやないか。無茶が勝つのなら、あんなみつともない敗北はとりさうな筈がないぢやないか』
ワク『そこが人間の智慧で分らぬ所だ。勝敗は時の運と云ふからな。時に俺達もかう毎日単純な無意味な生活を続けて居つてもつまらぬぢやないか。女房はあつてもハルナの都に置いてあるなり、本当に陣中の無聊には閉口せざるを得ないな』
コー『誰か此処へナイスでもやつて来たら、面白いがな』
エム『さう誂向にいつたらいいが、こんな物騒な所へナイスが通る筈があるか』
ワク『それでも小北山には沢山の女が寄つて居るさうだから、ここを通らなくちや通る所がないぢやないか』
エム『この頃は吾々が浮木の森に張つてゐるから、どれもこれも恐れて、橋から此方へは来ないと云ふのだから、サツパリ駄目だよ。夜も大分に更けたし、寒うはあるし、火を焚けば軍律上敵に所在を知られるとか云つて八釜しいなり、本当に因果な商売だな』
 かく話して居る処へ、髪振り乱し息せき切つて走つて来る一人の女があつた。
コー『おい、向ふを見よ。誂向にやつて来たよ。どうやら月に透かして見れば、あの足許と云ひ女らしい。一つ俄に泥棒と化けて嚇かしてみようぢやないか』
両人『そりや面白からう』
 かかる処へスタスタやつて来たのは小北山を逃げ出したお民であつた。お民は野中の森をさして行くつもりだつたが、何とはなしに人声が森の中へ聞えて居るので、引返して道を此方へとり、本街道に出るつもりでやつて来たのであつた。
コー『そこなお女中、一寸待たつせい。ここを何処だと考へてゐる。女の身として妄りに通行は許さない処だ』
お民『ホヽヽヽヽ、天下の往来が何故通れないのですか。この道はお前さまが造つたのぢやありますまい。通るなとおつしやつても私の権利で通ります。構うて下さいますな』
コー『何と云つても通さないと云つたら金輪際通さないのだ。俺を誰様と心得てる』
お民『あた阿呆らしい。誰様も此方もあつたものか。お前さまは立派な男に生れながら、こんな道の辻の番をさされてゐるのぢやないか。技能と知識とあればランチ将軍の陣営にあつて帷幕に参じ重要な相談に与るのだが、何処も使ひ場のない屑人足だから、石地蔵のやうに、こんな辻番をさされてゐるのだ。そんな男が空威張をしたつて誰が恐れるものがありませうぞ。すつこんでゐなさい』
ワク『何と渋太い尼つちよだな』
お民『渋太い尼つちよだよ。何程女が弱いと云つても、お前さま等のやうな番犬の代理をつとめて居るやうなお方に弱るやうな女は、広い世界に一人だつてありやせないワ』
ワク『番犬とは何だ。あまり口が過ぎるぢやないか』
お民『過ぎたつて事実なれば仕方がないぢやないか。お前、そんな事云つて居れば、今に吠面かわかなくちやなりませぬぞや。小北山に時めき給ふウラナイ教の教祖蠑螈別が今直ぐお越しだから、神変不思議の術を以て、お前さま等の五十人や百人は一息に吹いて飛ばされるやうな目に遇ひますよ。そんな馬鹿な事を云はずに其処退きなさい。こんな夜の道に髯武者の狼面した男が居つては通る事が出来ぬぢやないか。往来妨害の罪でバラモン署へ訴へて上げませうか』
エム『おい、ワク、コー、何と押尻の強い代物だな。此奴アただの狸ぢやあるまいぞ。一つ非常手段をとつて何々しようぢやないか』
お民『ホヽヽヽ、お察しの通りただの狸ぢやありませぬぞえ。小北山の大神の眷属ですよ』
コー『何、狼の眷属、此奴アまた太う出よつたものだ』
お民『何も太くも細くも、ありやせないよ。お寅さまと喧嘩して此処まで来たのだ』
コー『何、大虎と喧嘩する。此奴ア、素敵な代物だな』
エム『此奴ア、さうすると狼が化けてゐやがるのだな。道理でお内儀さまの風になつてゐやがる』
ワク『何、狼ぢやない。大神さまの眷属と云つて居やがるのだ。さうしてお寅婆さまと云ふ、酢でも菎弱でも行かぬ悪垂婆が居るさうだから、そのお寅婆に苛められて逃げて来よつたに相違ない。何程強い女だと云つても多寡が女一人、此方は三人だ。まだその他にお添物として弱い奴が二匹慄うて居る。此奴、やつつけようぢやないか。これ女、貴様は、婆に悋気されて放り出されて来たのだらう。どうも慌てた様子だ。さア此処を通過するなら通過さしてやらぬ事もないが、身のまはり一切を俺様に渡して行け』
お民『オホヽヽヽヽ、甲斐性のない男だこと、大きな体を持ちながら、人の物を盗つて生活せなくてはこの世が渡れぬとは、憐れなものだな。衛兵になつたり泥棒になつたり、ようへぐれる代物だな』
コー『馬鹿な事を云ふない。軍人と云ふものは強盗強姦を天下御免でやるのが所得だ。所謂役徳だ。ある時は正義の軍人となり、ある時は財宝掠奪の公盗となり、ある時は猥褻公許者となるのだ。さうだから男と生れた甲斐にや、どうしてもバラモン教の軍人にならなくちや幅が利かないのだ』
お民『えー、八釜しい、耄碌、其処除け』
と無理に通り過ぎようとする。三人はお民に喰ひつき一歩も進ませじとあせる。お民は全身の力を籠めて荒男をヤスヤスと柔術の手で投げつける。かかる所へ「おーいおーい」と苦しげな声を出して此方へ向つて馳せ来る一人の男があつた。

(大正一一・一二・一六 旧一〇・二八 北村隆光録)



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