出口王仁三郎 文献検索

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物語45-4-201922/12舎身活躍申 蛙行列王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 蛙行列〔一二一〇〕

 蠑螈別は前後も知らず、酒に酔ひつぶれて雷のやうな鼾をかいてゐる、其処へ裏口の戸をソツと開いて、震ひ震ひやつて来たのはお民であつた。お民は蠑螈別をゆすりおこし小声で、
お民『モシ先生、大変な事がおこりました。私は此処に居れませぬ。今晩限り此処を逃出しますから、一寸貴方に応へに参りました。どうぞ悪くは思つて下さいますな』
 蠑螈別は俄に酒の酔ひもさめ起上つて目をこすりながら、
蠑螈『お前はお民ぢやないか。大変とは何事だ。グヅグヅしてゐるとお寅に見つかつたら、俺もお前も大変だから、早く要件を云つて、此処を立去つてくれ』
お民『大変と申すのは外でもありませぬ、最前もお寅さまが私の居間へ出て来て、是非共魔我彦の女房になれとおつしやるのです。アタ好かぬたらしい、誰が、死んでも女房になりますものか。私が此処へ参つて来て居るのも貴方にお約束があるばつかりで、御つとめの時にチヨイチヨイお顔を見るのを楽しみに来て居るのでせう、それだから一寸貴方にこの事を申上げ、これから私は一足先へ帰りますから、御親切がありますなら後から追つかけて来て下さいな』
蠑螈『ソラ大変だ。お前は一先づ野口の森まで行つて待つとつてくれ。俺はこれからお寅の松姫館へ行つた留守を幸ひ、お寅の隠しとつた金の所在も略分つたから九千両の金子を腰に捲きつけ、後から追ひつくよ』
とせきたつればお民は莞爾と笑ひ、
お民『蠑螈別さま、キツトですよ、そんなら一歩お先へ行つて居りますから……』
と云ひながら、長居はおそれ、月の出ぬうちにと坂道をスタスタと息を喘ませ下り行く。蠑螈別は早速に衣類を着かへ、蓑笠の用意をなし、九千両の金を内懐にグツト締め込み、脚装束をして草鞋脚袢までも首尾よくつけ、金剛杖をひんにぎり、今や門口を飛び出さむとして、あわてて柱に額を打ちウンと一声その場に倒れてしまつた。こんな事が出来て居るとは神ならぬ身の知る由もなく、お寅は頻に蠑螈別、お民の密約成立の妨害運動に熱中し、松姫と膝を交へてヒソヒソ話に耽つてゐる。
お寅『コレお菊、モウお休みと云ふのに、夜更まで子供が起きてゐるものぢやないよ。この子はマア十七にもなつて一寸も親の言ふ事を聞かない子だ。本当に困つ了わ』
お菊『お母さま、何だか目がさえざえして、一寸も寝られないのよ。今晩は廿一夜だから、モウお月様が鎌のやうな光を地上に投げて小北山を御上り遊ばすから、月見でもした方が好いわ』
お寅『馬鹿な事お言ひでないよ。外は凩が吹いて吹雪がして居るよ。こんな夜さに月見したつて何が面白いか。また風に当つてインフルエンザにでも罹つたらどうするのだい』
お菊『お母さま、雪が降つとるの、ソレは尚結構ぢやありませぬか。空にはお月さま、下には雪、そこへ花の蕾のお菊の花が出るのですもの、月雪花を一時に眺めるやうなものぢやありませぬか。こんなよい機会は滅多に有りはしませぬわ』
お寅『コマシヤクレた子だな。早く休ましてお貰ひなさらぬか。モシ松姫さま、この通りお転婆娘で、本当に親も手こずつてゐますのよ』
松姫『さうですね、今時の女の子はどうして、これほどヤン茶になるのでせう。お千代だつてコマシヤクレた事ばかり云つて、私達に逆理屈をこね、仕方がありませぬわ』
お寅『さうですねー、こんな子は今の教育でもさした位なら、到底親の挺には合はぬようになりますぢやろ。モウ学校は尋常で止めるつもりですわ。高竹寺女学校へでも入れようものなら、男女同権だとか、女権拡張だとか、下らぬ屁理屈をいつて両親を困らせますからね』
松姫『あの高竹寺には女学校がありますか。さうすると坊さまの娘なんかが入学するのでせうね』
お寅『イエ坊さまの娘なんか一人も入学してゐやしませぬわ。みんな毘沙や、首陀の娘ばかり入学して毎日日日、球突きだとか、マラソン競走だとか、テニスだとか、ダンスだとか、せうもない事ばつかり教へられてゐますのよ』
松姫『ホヽヽヽヽ、ソラ高竹寺女学校ぢやありますまい、高等女学校でせう。等の字を竹と寺とに分けてお読みになつたのでせう』
お寅『時に松姫さま、魔我彦の結婚問題はどういたしませうかなア。是非共今晩の間にきめたいのですが』
松姫『サ、ともかくもこれから私が直接にお民さまに逢うて、トツクリと御意見も承はり、成るべく円満に話がまとまりますやうに骨を折つて見ませう』
お寅『ソレは済みませぬな、何卒貴女の雄弁と御神徳によつて成功するやうにお願ひ致します』
松姫『ソンならこれからお民さまのお居間へ伺ひませう』
と云ひながら細い二百段の階段を下つて行く。お寅もお菊も松姫の後からついて来る。松姫はスツと炊事場の隣室、お民の寝間を指して吹雪をぬひつつ行つてしまつた。お寅は蠑螈別の居間に帰つて見ると、豈図らむや、旅装束をしたまま打倒れてゐる。
お寅『コレヤまあ何の事だいなア、コレ蠑さま、何こんな所に厳めしい装束をして倒れてゐるのだい。アーア魔我彦は何処へ行つたのだい。番犬を仰せつけておくのに雪の降るのに、のそのそと夜歩きをしてをると見える。困つた男だな、コレお菊、水を持つて来い』
お菊『水持つて来いといつたつて、下まで汲みに下りなくちや一滴もあれやしないわ。ソレよりも鼻をつまんでおやり、そしたら屹度気がつくわ』
 お寅は合点だと蠑螈別の鼻を例の如くグツと右の手で捻ぢ、左の手で背を三つ四つ喰はした。蠑螈別はハツと気がつき、
蠑螈『お民、ヨウ助けてくれた。到頭走る最中、蹴つまづいて、ひどい事だつた。もうスツテの事で幽冥旅行をやるところだつた。お寅の奴追ひかけて来やがつて………』
 お寅はグツと胸倉を握り、
『コラ蠑螈別、何を云ふとるのだい。お民がどうしたと云ふのだいなア』
 蠑螈別はこの声に驚いて目を見ひらけば、閻魔が駄羅助を舐つたやうな顔してブルブル震ひながらお寅が胸倉をとり、歯をくひしめて睨んでゐる。
蠑螈『ナニ一寸夢を見たのだ。ナヽヽヽヽナンでもない、そこ放してくれ、苦しい、苦しい哩』
お寅『たいさうな脚装束をして何処へ行くつもりだい』
蠑螈『ナニ一寸松姫さまに逢ひたいと思つて』
お寅『松姫さまとこへ行くのに旅装束をして………何の事だいなア。些怪しいぢやありませぬか』
蠑螈『ナニ一寸大広間まで御礼に行つて来るつもりだ』
お寅『この雪の降つて居るのに今日に限つて行く必要がありますか。アンマリ馬鹿にしなさるな、人を盲にして……』
蠑螈『ナニ雪が降つて居るから、下駄の歯に雪がつまつてこけると思つて、草鞋をはいたのだ』
お寅『五間や六間の距離よりない大広間へ行くのに大変な旅装束すると云ふ事がありますかい。しかも御叮嚀に蓑笠をかぶり、何の事だいなア。お前さまの行く処は外にあるのだらう』
蠑螈『ウン外にある、笠松の根元の御神木の傍まで一寸御礼に行くのだよ』
お寅『あまり馬鹿になさると、鼻を捩ますぜ』
蠑螈『イヤ鼻ばつかりは御免だ』
お寅『そんなら、つめつて上げようかい』
蠑螈『イヤアこの冷たいのに抓るのは御免だ。お寅、モウ怺へてくれ。もう何処へも行きはせぬから』
お寅『コレ兵六玉、このお寅を何と思つて居るのだ、これでも浮木の村の白浪女丑寅さまといつたら誰知らぬものもない姐さまだぞ。この姐さまの目を晦まさうと思つたつて、野郎の力でくらまさるるものか、サ綺麗薩張りと白状すればよし、白状せぬにおいては、可愛さあまつて憎さが百倍ひねりつぶしてやるぞ』
蠑螈『実はエーンその実は………実はやつぱり実だ。何を云へといつたつて、胸倉とつてゐては息が苦しくつて云へはせぬぢやないか。はなせ はなせ』
お寅『そんなら放すから、薩張り白状せ、お前はお民と今晩駆落ちするつもりぢやろ。お民は野口の森辺りに待合して居るのだろ』
といひながら、胸倉を握つた手をパツとはなした。蠑螈別はスツと立つた途端に懐の小判が、ガタツと音がして落ちた。お寅はこれを見るより怒り心頭に達し、狂気の如くなり、
お寅『この泥坊奴、金子を掻浚へてお民と駆落するつもりだつたのだなア、待て待て今に思ひ知らしてやらう』
とあわてて火鉢につまづき逆上て空ぶつた身体は忽ちスツテンドウと倒れて、柱の角に額をグワンと打ち「アイタ」と云つたきり、その場にしやがんでしまつた。蠑螈別は手早く小判を拾ひ上げ腰につけ直し、金剛杖を手に持ち、
蠑螈『お寅、俺は寸時修行に行て来るほどに留守を頼むぞや。人間は老少不定、会ふのは別れの初めとやら、御縁があつたらまた未来で御目にかかりませう。これがお寅さまと別れに際しての形見だ』
といひながら、金剛杖で頭をコツコツと打たたき「アリヨース」といひながら、雲を霞と駆け出した。柱に額を打つて気が遠くなつてゐたお寅は、頭を叩かれた途端に気がつき、面を上げ屋外を見れば、蠑螈別は下の坂を一丁ばかりも走つて居るのが、折柄上る鋭鎌の如き月に照らされ見えてゐる。お寅は狂気となり、
お寅『おのれ蠑螈別、このお寅を馬鹿にしをつたなア』
と怒りの声をはり上げながら裾もあらはに雪の路をこけつ転びつ追つかけて行く。
   ○
 偖て松彦は松姫を始め万公、五三公、アク、タク、テク等と相談の上、小北山に修祓を行ひ、国治立の大神を始め三五教を守ります天地八百万の神を一々鎮祭し、松姫、お千代、お菊並に受付の文助その他に真理を説きさとし、この聖場を清く正しく祭らしめおき、松彦、万公、五三公、アク、タク、テクの一行は、小北山を後に眺めて浮木の森を指して足を早めた。
 因に魔我彦はお民のこの館を逃去つた事を聞き何処迄も探しあてねばおくものかと、これまた尻ひつからげ、お寅の後を追うて三丁ばかり距離を保ちながら、トントントンと野口の森を目当にかけり行く。

(大正一一・一二・一三 旧一〇・二五 外山豊二録)



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