出口王仁三郎 文献検索

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物語45-4-181922/12舎身活躍申 玉則姫王仁三郎参照文献検索
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第一八章 玉則姫〔一二〇八〕

 蠑螈別は酒に酔ひつぶれ他愛もなく徳利と共に横たはつてしまつた。お寅はソツと上から夜具を着せ足音を忍ばせながら、四畳半の間に角火鉢を置いて坐り込み独言、
お寅『ほんとに蠑螈別さまも困つた男だなア、これほど親切にすればするほど、どことはなしに冷やかになつて来る男だ、もちつと温かい人だと思うて居たに、えらい買ひ被りをしたものだ。こんなに冷たいと知つたら、初めからああ逆上せ上るのぢやなかつた。折角貯めた財産は一文も残らずお宮の普請に入れてしまひ、それからまたシボクボとして蓄めた千両の金は熊公にしてやられ、これから先はどうしたらよいのだらうか、本当に気の揉める事だわ。お酒は朝から晩まで上げなくてはならないし、酒だつて矢張無代であるものぢやないし、一升の酒に二十五銭も税金が要るのだもの。これだけ間接国税を納めて居てはやりきれない、ぢやと云うても私も女の意地、今更捨ててはならず、捨てられては尚ならず、えらい羽目に陥つたものだ。沢山の迷信家は参つて来るが文助が馬鹿者だからこの神様は蕪や大根さへ上げればよいと思つて、些も金目のものを供へる信者はなし「竜神さまだ」と云つては黒蛇を北山の上に放しに来る位なものだ。こんな事でお宮の維持、いや商売が出来るものか、チヨツ、偉いヂレンマにかかつたものだわ』
 かく独り言を呟いて居る所へ、廊下の縁板をおどかしながら足音高くやつて来たのは魔我彦であつた。
魔我『お寅さま、まだ起きてゐらつしやるの』
お寅『寝ようと思つたつて寝られないぢやないか。お前が仕様もない事を云ふものだから、たうとう熊公の奴に千両ゆかれてしまつたぢやないか』
魔我『それでも命と千両とは比べものになりませぬよ、未だ御神前に九千両残つて居るのだから、さう悲観したものぢやありませぬわ、それよりもお寅さま、いつも貴女が、上義姫と義理天上と夫婦にしてやらうとおつしやつたが、末代日の王天の神の生宮がやつて来たので、サツパリ私は蛸の揚壺になつたぢやありませぬか、貴女の御託宣でも時々違ひますな』
お寅『どうせ、一つや二つや違つたて仕様が無いぢやないか、さう執念深くこの気の揉めてるのに理屈を云つておくれでないよ』
魔我『お寅さま、一つや二つ違つたて何ぢやとおつしやいましたが、上義姫と私との結婚問題が、一つ間違つたのは私に取つては大変な苦痛ですよ、否殆ど破滅も同様ですよ』
お寅『仕方がないぢやないか、神様は「その時の都合に致すぞよ」とおつしやるのだから、なんぼ義理天上日の出神が偉うても末代さまには叶ひますまい、それよりも、もつと若い綺麗な女に目をつけたらどうだい、あんな中古は、古手屋の店へだつて垂下しておいても誰も買やしないよ。人の着古したマントを買はうよりまだ一度も手を通した事のない、シツケの取れない衣物を買つた方が何程気持がよいか知れないよ』
魔我『実は私も、さう思つて思ひ切つたのです。チヨツ昨日も信者の中から物色しましたが、いつもよう参つて来るお民さまを私の女房にして見たいと思ひますが、世話をして貰ふ訳には往きませぬだらうかなア』
お寅『何、あのお民を女房にしたいと云ふのか、ウンそれやよい了見だ、一つ私が懸け合つて見よう、しかし旨く行くか知らぬがな』
魔我『そこは旨くお民の身魂を義理天上さまの女房の身魂玉則姫さまだと云ふやうに説きつけて下さいな、神様の命令とあれば、あれほど熱心の信者だから聞いてくれませう』
 お寅はニヤリと笑ひ、
お寅『これ魔我ヤン、お前は何処迄も自分の身魂を義理天上と思つて居るのか、お目出度いぢやないか、このお寅は馬鹿ぢやけれど、昨日五三公さまの歌によつて、スツカリ看破してしまつたのよ、蠑螈別さまは高姫仕込で精神が変だから「誰の身魂が何だの彼の身魂が何だの」と口から出放題の事を云つて居るのだ。しかしこれも商売だと思へば、勘弁が付かぬ事も無いが、本当にお前、義理天上さまと思うて居ては大当違ひだよ、お前の身魂は狸だからねえ』
魔我『これや怪しからぬ、そんなら私が狸なら、お寅さまは虎猫でせう』
お寅『私の守護神は、そんな屁泥い者ぢやないよ。五三公さまの歌を聞いて、目が醒め、ソツと腹の中の守護神を調べて見たら、腹の中より云ふ事にや「私は斑狐ぢや、それを盤古と云うて居るのぢや。虎とも牛とも狐とも分らぬやうな怪物だが、やつぱり古狐の親分で、小北山界隈で羽振りを利かして居るのだ」とよ、本当に呆れてしまつたよ。これを思へばどれもこれも皆狐や狸ばかりだなア』
魔我『さうすると蠑螈別さまの守護神は何ですか』
お寅『大きな声では云はれぬが、大変大きな狸だよ、さう聞くと時々口を尖らしたり、目をギヨロリと剥いたりなさるだらう、しかし狸だつて斑狐だつて余り馬鹿にはならないよ、魔我ヤン、お前もその心算で狐擬ひになつて活動しなさい、狸と云はれるより狐はましだよ、狐は稲荷さまと云うて、皆が崇めてくれるからな』
魔我『狐狸の話はしばらくお預りとして私の結婚問題です、どうかしてお民さまを世話して下さいな、貴女グヅグヅして居ると蠑螈別さまが取つてしまひますよ』
お寅『ウンさうだなア、どうもお民の視線が蠑螈別さまに集注するやうで仕方がないと思つて居た処だ、ひよつとしたらあの阿魔ツチヨ、蠑螈別さまに秋波を送つて居るのかも知れない、憎いやつだ、どれどれ今に面の皮を引き剥いてやりませうかい』
魔我『そんな事をせずに私に世話して下さつたら、私が大事にして、蠑螈別さまの方へ目もくれないやうに保護するぢやありませぬか。さうすれや第一お寅さまも安全でせう』
お寅『さうだな、別に荒立てる必要も無いのだから否や応なしにお前の女房になるやうに一つ懸合つて見よう』
魔我『ヤアそいつは有難い、遉はお寅さまだ、よく取り上げて下さつた、それだから取上婆アさまと云ふのだ、ウフヽヽヽ』
お寅『そんな洒落所かいな、かう聞けば一時も早く何とか極めないと、蠑螈別さまが険難で仕方がない。お民は今日帰つたと云ふことぢやないか』
魔我『何帰りますものか、あの女は神様へ参るのは表むき、その実は蠑螈別さまに百度以上に逆上て居るのですよ』
とお寅婆アさまを焚きつけて自分の縁談を周旋させやうと巧んで居る。
 お寅はカツカとなり、
お寅『これ魔我サン、そのお民さまは何処に居るのだえ』
魔我『炊事場の隣に寝て居るのですが、実は私も今晩瀬踏をして見たのですがやられました。本当に本当に馬鹿らしい』
お寅『アハヽヽヽ気の利かぬ、エツパツパを喰はされて来たのだな、それでこのお寅さまに応援を頼みに来たのかな、しかし魔我ヤン、お前は大に気に入つた。さうしてチヨイチヨイ邪魔をしたり気をつけたりして貰はねば蠑螈別さまが険難で仕方がないからな。番犬には適当な男だ』
魔我『番犬とはちと甚いではありませぬか』
お寅『番犬でもいいぢやないか、今に立派な御主人にして上げるのだから、これ魔我ヤン、お前は前にチヨコナンとして蠑螈別さまに魔のささぬやうに番犬の御用をつとめて居るのだよ』
と立ち出でむとする時、其辺をうろついて居たお菊がやつて来た。
お寅『お前はお菊ぢやないか、娘が夜中にどこをうろついて居るのだ』
お菊『あの耕し大神の生宮に遇つたのよ、それで散々膏を取つてやつたの、本当に万公の奴、狸に誑かされよつて耕し大神だと自信して居るのだから可笑しくて仕様がない。このお菊だつて地上姫でも何でもあれやしないわ、こんな鼻の頭も分れて居ない処女に、痴情があつて耐るものですか』
お寅『何もかも好く知りぬいたお転婆ぢやなア、私は一寸そこまで行つて来るから、お前ここで魔我彦さまと待つて居るのですよ』
お菊『お母さま、女が夜分にのそのそ一人歩きするものぢやありませぬよ』
と即座に竹篦返しをやつて見た。
お寅『私は神界の御用があるのだよ、お前はここに神妙に魔我ヤンと待つて居るのだよ。そして眠くなつたら勝手におやすみよ』
お菊『お母さま、好かぬたらしい、魔我ヤンの顔見てる位なら、寝間へでも入つてやすみますわ』
お寅『エヽ勝手におしよ』
と云ひながら、プイと立ち出で、炊事場の隣の暗い部屋を指して足さぐりに進んでゆく。

(大正一一・一二・一三 旧一〇・二五 加藤明子録)



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